220
「玉城さん。」
収録が終わった光の控室に、真田と美馬がやって来た。
「…久しぶり。」
「お久しぶりです。」
照れ臭そうに頭を掻く真田、にこやかに笑顔で会釈する光。
「…初めまして。」
「初めまして。」
見ているこっちが恥ずかしくなるくらい挙動不審な美馬、変わらずにこやかに会釈する光。
「一気にライバルが増えたな?」
倉持は可笑しそうに笑っているけど、このふたりは害にはならないだろう。それよりも…。
「光ちゃーん!」
来た…。
「まさか本当に光ちゃんが来てくれるなんてびっくりだよ!めちゃ嬉しい!」
「ど、どうも…」
「…あいつが他に会いたかった人って誰なの?」
こっそりと牧瀬に尋ねると、牧瀬は何かの資料を捲った。
「ベーブルースさんと、スティーブジョブスさんです。」
「確信犯じゃねーか」
「光ちゃん、ホワイトデーは一緒にデート…」
「おい、何堂々と人の嫁ナンパしてるんだよ。」
「いいじゃん!光ちゃんの意見を尊重しなよ!」
鳴の肩を掴み、光から引きはがす。しかし鳴はすぐに俺から逃れ、光に駆け寄って、細い腕を掴んだ。びくり、と光の顔が強張ったような気がして、間に割り込んで光を抱き寄せる。
「ダメ。」
短くそう言うと、まだ何か言おうとした鳴に、美馬が詰め寄った。
「…おい、気安く触るな。」
「は?…何お前、コエーんだけど」
握手してもらっただけで感動で硬直してしまうような奴だから、鳴の振る舞いが気に入らなかったらしい。
「しつこい男は嫌われるぞ〜。」
「俊平になにが分かるのさ!」
「いや、お前よりは…。」
「ベタベタ触って強引すぎるんだよ。」
「なんだよ洋一まで!ベタベタ触ってんのは一也も同じじゃん!」
「あっちは旦那だろーが…」
「高校の時からベタベタ触ってたし!」
いつの話してんだよ。
「あーもう、うるせーなぁ。本人から言われたら納得するか?なぁ光、迷惑だよな?」
倉持が振り向いて尋ねる。光…仕事柄、うざい相手でも仕事仲間やファンにはいつもにこやかに接してるけど…、変な気を遣って「そんなことないです」とか言わない…よな?
「…そう…ですね」
少し、俺の腕にくっついて、光はうつ向いた。
「迷惑です…」
…成宮までもが静かになった。光がこんなに嫌悪感をあらわにするのは珍しい…。
「ヒャハハハハ、嫌われたな鳴。」
倉持がめちゃくちゃに鳴をからかって、こっそりと俺たちに先に行くよう促す。助かるぜ…。
「お?まさかこいつ泣いてる?」
「…自業自得だろ。」
「さすがにさっきのはまずかったよな〜。」
「うるさいな!…っていうか一也たちは!?」
「先に帰ったんじゃねーの?」
***
マンションに帰ってくると、光はすぐにキッチンに向かって夕食の準備を始めようとした。
「光、ちょっと座れよ。」
「でも、夕ご飯が…」
「いいから。」
その手を引いてソファに座らせると、不思議そうに俺を見上げる。
「さっき…腕、大丈夫だったか?」
「え…、う、うん…」
細い腕を見る。幸い、痕はなにも残っていない。
「成宮のこと…」
「……?」
「嫌いになった?」
光は言葉に迷って、戸惑った。
「…いいんだよ、嫌いで。」
「え…」
「無理して付き合う必要ないから。」
「……。」
「光をあんな乱暴に…腕掴んだりするような奴は、俺も嫌いだ」
細い腕を撫でて、小さな手をすくいとり、指を絡める。俺の大切な人。
「成宮さんが、悪い人じゃないのは…わかってるけど…」
「……。」
「…さっき、腕…掴まれたとき、」
「……。」
「…昔の…こと、思い出して…」
昔のこと…。…何度か、怖い目に遭ってるからな。
「…ちょっと…怖くて…だから…」
「そっか。」
体を抱き寄せ、大切に大切に抱きしめる。
「もう怖くない?」
背中を撫でて言うと、光は俺の背中に手を回し、胸に顔を埋めた。
「うん…。」
頷いたから、体を離そうとしたら、ぎゅう、と抱きしめて引き留められる。
「でも、もうちょっと…」
「はは、いいよ。」
光が俺を求めてくれるのが嬉しい。俺はまた彼女の身体をしっかりと抱きしめる。
「光…、無理しなくていいよ。」
「え…?」
体を離し、綺麗な瞳を見つめる。
「今日みたいな番組とかさ…、お前、ホントは苦手だろ。」
「……。」
そもそも、男嫌いの気があるんだから、よくバラエティなんかに呼ばれるたびにいろんな男に言い寄られたり、握手やハグを求められるのも嫌なはずだ。
「でも…。」
「……。」
「私の…デビューのきっかけは、テレビだし…事務所の方針もあるから…」
「でも俺は、作られたイメージのお前より、普段のお前の方が好きだ。」
「……。」
「…牧瀬を泣かした男のスマホを叩き割ったりして。」
「…そこ?」
「かっこよかったぜー。鳴にもそれくらいしてやればいいのに。」
光はちょっと困ったように笑う。半分本気なんだけどな。
「わからないのはさ、」
「…?」
「お前が嫌な仕事まで受けなきゃいけない理由って何?」
「…仕事だから。」
「それをしないと、仕事が続けられなくなるわけでもないだろ。」
「……。」
「女優にモデルにタレントに歌手…頑張りすぎなんだよ。」
「……。」
「この中で本当にお前がやりたいことは何なんだよ?」
「…モデル…は、楽しいけど…」
「うん」
「演技と…トークと歌は…ちょっと…」
「苦手?」
こくり、と頷く光。もともと、自己主張苦手なタイプだしな…。
「まあ、モデル一本に絞ってくれれば、俺としても嬉しいけど」
「どうして?」
「演技でも、お前に男がベタベタ触ってんのは嫌なの。」
「……。」
「それに…」
柔らかな頬を撫でる。
「もし、万が一の話だけど」
「…?うん」
「仕事断ったことで、もし困るようなことがあっても」
「……。」
「俺、結構甲斐性あるつもりだから。」
「……。」
きょとんと俺を見つめる光の髪を撫で、腕を撫でて、また手を絡ませる。
「だから…お前は何も心配しないで、いつも幸せでいてくれよ。」
「……。」
「それが…俺の原動力なんだから」
光は顔を赤くして、俯いた。
「下向かないで。」
「え…?」
「顔見せて。見たい」
「や…、今は…」
顔を背ける光を捕まえて、前を向かせる。柔らかな髪をくしゃくしゃに指に絡ませ、柔らかな小さい頬を包んで。
「俺がどんだけお前のこと大事か、少しはわかったか?」
「……。」
「おい?」
…こくり。と、小さく頷く光。
「それならいーけどさ。」
「……。」
「おい、だから顔隠すなって。」
「や…、もう、無理…」
「無理って何だよ?」
俺の胸を押し返して逃げようとする光。
「…す」
「ん?」
「…すき…すぎて……しんじゃいそう…」
「……。」
ぎゅう、と問答無用で抱きしめると、光は俺の胸で、うぅ、と震えた。
収録が終わった光の控室に、真田と美馬がやって来た。
「…久しぶり。」
「お久しぶりです。」
照れ臭そうに頭を掻く真田、にこやかに笑顔で会釈する光。
「…初めまして。」
「初めまして。」
見ているこっちが恥ずかしくなるくらい挙動不審な美馬、変わらずにこやかに会釈する光。
「一気にライバルが増えたな?」
倉持は可笑しそうに笑っているけど、このふたりは害にはならないだろう。それよりも…。
「光ちゃーん!」
来た…。
「まさか本当に光ちゃんが来てくれるなんてびっくりだよ!めちゃ嬉しい!」
「ど、どうも…」
「…あいつが他に会いたかった人って誰なの?」
こっそりと牧瀬に尋ねると、牧瀬は何かの資料を捲った。
「ベーブルースさんと、スティーブジョブスさんです。」
「確信犯じゃねーか」
「光ちゃん、ホワイトデーは一緒にデート…」
「おい、何堂々と人の嫁ナンパしてるんだよ。」
「いいじゃん!光ちゃんの意見を尊重しなよ!」
鳴の肩を掴み、光から引きはがす。しかし鳴はすぐに俺から逃れ、光に駆け寄って、細い腕を掴んだ。びくり、と光の顔が強張ったような気がして、間に割り込んで光を抱き寄せる。
「ダメ。」
短くそう言うと、まだ何か言おうとした鳴に、美馬が詰め寄った。
「…おい、気安く触るな。」
「は?…何お前、コエーんだけど」
握手してもらっただけで感動で硬直してしまうような奴だから、鳴の振る舞いが気に入らなかったらしい。
「しつこい男は嫌われるぞ〜。」
「俊平になにが分かるのさ!」
「いや、お前よりは…。」
「ベタベタ触って強引すぎるんだよ。」
「なんだよ洋一まで!ベタベタ触ってんのは一也も同じじゃん!」
「あっちは旦那だろーが…」
「高校の時からベタベタ触ってたし!」
いつの話してんだよ。
「あーもう、うるせーなぁ。本人から言われたら納得するか?なぁ光、迷惑だよな?」
倉持が振り向いて尋ねる。光…仕事柄、うざい相手でも仕事仲間やファンにはいつもにこやかに接してるけど…、変な気を遣って「そんなことないです」とか言わない…よな?
「…そう…ですね」
少し、俺の腕にくっついて、光はうつ向いた。
「迷惑です…」
…成宮までもが静かになった。光がこんなに嫌悪感をあらわにするのは珍しい…。
「ヒャハハハハ、嫌われたな鳴。」
倉持がめちゃくちゃに鳴をからかって、こっそりと俺たちに先に行くよう促す。助かるぜ…。
「お?まさかこいつ泣いてる?」
「…自業自得だろ。」
「さすがにさっきのはまずかったよな〜。」
「うるさいな!…っていうか一也たちは!?」
「先に帰ったんじゃねーの?」
***
マンションに帰ってくると、光はすぐにキッチンに向かって夕食の準備を始めようとした。
「光、ちょっと座れよ。」
「でも、夕ご飯が…」
「いいから。」
その手を引いてソファに座らせると、不思議そうに俺を見上げる。
「さっき…腕、大丈夫だったか?」
「え…、う、うん…」
細い腕を見る。幸い、痕はなにも残っていない。
「成宮のこと…」
「……?」
「嫌いになった?」
光は言葉に迷って、戸惑った。
「…いいんだよ、嫌いで。」
「え…」
「無理して付き合う必要ないから。」
「……。」
「光をあんな乱暴に…腕掴んだりするような奴は、俺も嫌いだ」
細い腕を撫でて、小さな手をすくいとり、指を絡める。俺の大切な人。
「成宮さんが、悪い人じゃないのは…わかってるけど…」
「……。」
「…さっき、腕…掴まれたとき、」
「……。」
「…昔の…こと、思い出して…」
昔のこと…。…何度か、怖い目に遭ってるからな。
「…ちょっと…怖くて…だから…」
「そっか。」
体を抱き寄せ、大切に大切に抱きしめる。
「もう怖くない?」
背中を撫でて言うと、光は俺の背中に手を回し、胸に顔を埋めた。
「うん…。」
頷いたから、体を離そうとしたら、ぎゅう、と抱きしめて引き留められる。
「でも、もうちょっと…」
「はは、いいよ。」
光が俺を求めてくれるのが嬉しい。俺はまた彼女の身体をしっかりと抱きしめる。
「光…、無理しなくていいよ。」
「え…?」
体を離し、綺麗な瞳を見つめる。
「今日みたいな番組とかさ…、お前、ホントは苦手だろ。」
「……。」
そもそも、男嫌いの気があるんだから、よくバラエティなんかに呼ばれるたびにいろんな男に言い寄られたり、握手やハグを求められるのも嫌なはずだ。
「でも…。」
「……。」
「私の…デビューのきっかけは、テレビだし…事務所の方針もあるから…」
「でも俺は、作られたイメージのお前より、普段のお前の方が好きだ。」
「……。」
「…牧瀬を泣かした男のスマホを叩き割ったりして。」
「…そこ?」
「かっこよかったぜー。鳴にもそれくらいしてやればいいのに。」
光はちょっと困ったように笑う。半分本気なんだけどな。
「わからないのはさ、」
「…?」
「お前が嫌な仕事まで受けなきゃいけない理由って何?」
「…仕事だから。」
「それをしないと、仕事が続けられなくなるわけでもないだろ。」
「……。」
「女優にモデルにタレントに歌手…頑張りすぎなんだよ。」
「……。」
「この中で本当にお前がやりたいことは何なんだよ?」
「…モデル…は、楽しいけど…」
「うん」
「演技と…トークと歌は…ちょっと…」
「苦手?」
こくり、と頷く光。もともと、自己主張苦手なタイプだしな…。
「まあ、モデル一本に絞ってくれれば、俺としても嬉しいけど」
「どうして?」
「演技でも、お前に男がベタベタ触ってんのは嫌なの。」
「……。」
「それに…」
柔らかな頬を撫でる。
「もし、万が一の話だけど」
「…?うん」
「仕事断ったことで、もし困るようなことがあっても」
「……。」
「俺、結構甲斐性あるつもりだから。」
「……。」
きょとんと俺を見つめる光の髪を撫で、腕を撫でて、また手を絡ませる。
「だから…お前は何も心配しないで、いつも幸せでいてくれよ。」
「……。」
「それが…俺の原動力なんだから」
光は顔を赤くして、俯いた。
「下向かないで。」
「え…?」
「顔見せて。見たい」
「や…、今は…」
顔を背ける光を捕まえて、前を向かせる。柔らかな髪をくしゃくしゃに指に絡ませ、柔らかな小さい頬を包んで。
「俺がどんだけお前のこと大事か、少しはわかったか?」
「……。」
「おい?」
…こくり。と、小さく頷く光。
「それならいーけどさ。」
「……。」
「おい、だから顔隠すなって。」
「や…、もう、無理…」
「無理って何だよ?」
俺の胸を押し返して逃げようとする光。
「…す」
「ん?」
「…すき…すぎて……しんじゃいそう…」
「……。」
ぎゅう、と問答無用で抱きしめると、光は俺の胸で、うぅ、と震えた。