「あっ!一也来た!」
「……。」
「おっせぇな〜も〜!俺もう3杯も飲んじゃったよ!?素面で話したかったのにさ〜!」
「…なんでこいつがいるんですか?」

俺の周りをうろちょろくっつきまわる鳴を指して、今日の主催者である亮さんに尋ねる。

「合同キャンプで会ってさ。お前と話したそうだったから誘った。」
「なんで誘うんすか…」
「一也早く座れよ!話があるんだから!」

話って…どうせろくでもない…

「光ちゃんからLIMEの返信ぜんっぜんこねえんだけど!」

…やっぱり光のことかよ。

「当たり前だろ」
「なんで!?」
「お前嫌われてるから」
「なんで!?」
「なんでなんでって…明らかに好かれてはいねえだろ」
「どこが!?」
「どこがって…逆に聞くけど、一度でも光がお前に気があるそぶりしたことある?」
「……。」

鳴はきょとんとして、悪気のない顔で言ってのけた。

「え?むしろ光ちゃんっていつも素っ気ないじゃん」
「だからそれが嫌われてるんだっつの」
「は!?あれが素でしょ?誰に対してもあんな感じじゃない?」
「俺には違うから。」
「はー!?じゃあ一也にはどんな感じだって言うのさ!」
「いつもニコニコくっついてきて、一也さん大好きって言ってくれるよ」
「嘘ついてんじゃねーよ!全く想像できないね!光ちゃんがそんなこと言うはずない!」
「ホントだし。じゃあなんで結婚したと思ってんだよ」
「……。」
「あっちも好きだって言ってくれなきゃそもそも付き合えないだろ。」

目からうろこが落ちたような顔の鳴を見て辟易する。こいつ全然堪えてねぇ…。

「…じゃあ一也は光ちゃんからLIMEの返信くるの!?」
「…こないわけねーだろ…夫婦だぞ…」
「じゃあ高校の時は?付き合う前。」
「……。」

確かに…付き合う前はメール、結局来なかったけど…。

「あ!来なかったんだろ!なんだ〜じゃあ俺にも可能性あるじゃん!」
「ねーよ、俺ともう結婚してんだよ」
「それを決めるのは光ちゃんだし!」
「会話も成立しないヤツが何言ってんだ…」
「な〜教えてよ、メールも返ってこない状況からどうやって仲良くなったの!?」
「俺は最初から両想いだったし」
「はぁ!?ふざけないで、どうやって落としたか教えろよ!」
「運命。」
「真面目に!!」
「真面目だけど?」

言い争う俺たちを、亮さんたちが酒のサカナとばかりに眺めている。完全に見世物だ。

「だって光ちゃん一也にも素っ気なかったんだろ?今の俺と同じじゃん!」
「どんだけポジティブだよ…全然違うから。」
「何が違うんだよ!」
「俺には素っ気なくても好意が伝わってきた。」
「…はぁ!?そんなの一也の思い込みじゃん!」
「誰から見ても明らかでした〜」
「うざ!なぁ洋一!嘘だよね!?」

突然巻き込まれた倉持が迷惑そうに眉を顰める。

「…あー、まぁな」
「なにそれ!?それってどっちの意味!?はっきり言ってよ!」
「光ちゃんが転入してきてから、結構すぐに噂になってたよな、お前たち。」

亮さんがわざとらしく興味無さげに口を出すと、鳴はぴたりと反応した。

「えっ、光ちゃんって転入生だったの?」
「そうそう、1年の2学期だっけ。」
「前はどこにいたの?」

全員が黙り、俺を見る。…誰も知らないんだろう。

「秘密。」

俺は一言そう言って、ジョッキを傾けた。

「なにそれ!光ちゃんのこと教えてよ!」
「やだね。」
「ケチ!」
「ケチで結構」

「あいつら、ガキかよ」
「見てる分には面白いけどね。」

先輩たちの見世物になりながら、腕時計をちらりと見る。まだこんな時間か…早く帰りてぇなー。

「おい!なにこっそり時間確認してんだよ!そんなに俺と飲むのが嫌なの!?」
「それもあるけど早く帰りてえ」
「ひど!!俺傷ついた!傷ついたからね!」
「あっそ」

鬱陶し〜。鳴はボウヤだからな、とよくカルロスが言っていたのを思い出す。その通りだよ、ほんと。

「お」

スマホにLIMEが届く。鳴が覗き込むのを避けながら確認すると、それは光からのメッセージだった。

『仕事が早く終わったから今夜帰るね。
今日の新聞に一也さんが載ってたよ。かっこよかったよ♪』

俺は返信は打たず、そのまま電話をかけた。またスマホを手に持っていたんだろう、2,3回のコールで光は電話に出た。

「もしもし、今LIME見たよ。」
『一也さん?今飲み会じゃないの?』
「そうだけど、俺ももう帰るわ」

えっ、と亮さんが俺を見たけど、構わない。

『え…大丈夫なの?』
「へーきへーき。今日お前いないから飯食おうと思って来ただけだし」

「俺たちの前でよくそこまではっきり言えるな…。」
「クソ眼鏡…」

「これから帰るから!」
『…ふふ、わかった。じゃあ、一也さんの方が早く家に着くかもね。私まだ事務所だから』
「待ってるよ。気を付けてな」
『うん。一也さんも。じゃあね』

電話を切り、荷物を持つ。

「うわ、マジで帰るのかよ」
「ちょっと待って一也!」

鳴が俺に縋りつく。

「今の本当に光ちゃんなの?」
「は?」
「今のLIME!光ちゃんが『かっこよかったよ♪』とか言う!?botじゃねえの?」
「botじゃねえよ」

思わず笑ってしまう。

「俺にはいつもあんな感じだから」
「…はあぁ〜〜??」

めちゃくちゃ疑わしそうな鳴。今までどんだけ素っ気なくされてきたんだか。

「…俺も一也んち行く!」
「なんでだよ、やだよ。来るな」
「光ちゃんとラブラブな証拠見せてよ!そしたら諦めるから!」
「もろしつこい男のセリフな」

「御幸。」

それまで静かだった倉持が立ち上がってやって来た。

「ちょうどいいじゃねーか、連れてけよ」
「はあ?やだよ」

こっそりと俺に耳打ちする倉持。

「光のお前の前での態度、結構ダメージくるんだぜ。成宮も諦めるかも」
「……。」
「光が成宮苦手なのは俺も知ってるけどよ、これで諦めてくれたら光のためにもいいだろ?」

「…え〜、でもなぁ、鳴にうちの場所知られたくない。」
「おい!人をストーカーみたいに」
「予備軍だろ。」

それに…ごねて居座るの、目に見えてるし。

「俺も一緒に行くからよ。成宮追い出し役で」
「なにそれ!?」
「……。…わかったよ」

いやだけど…まあ、それで成宮が光に執着しなくなるなら…。

「ほら行くぞ」
「マジ?やったー!」
「すぐ帰れよ。」

「…御幸もまた面倒くさい奴に目付けられたね。」
「悪運強いからなぁ」
「目付けられたのは玉城さんじゃね?」



***



「…すげえいいマンション住んでるじゃん!一也のくせに!」
「うるせえな…夜なんだから静かにしろよ」

タクシーから降り、鳴と倉持と三人でマンションに入る。中は暗い。光はまだ帰ってないようだ。

「うわ、なんかいいニオイするし」
「あちこち触んな」
「えっ!あれって防犯カメラ!?室内に!?」
「おー、悪さすんなよ。」

ちょこまか動き回る鳴をなんとかソファに座らせ、倉持もソファに座る。俺は上着を脱ぎ、荷物を置き、時計を見上げる。光、そろそろ帰って来るかな…。

「ちょっと、この家は客にお茶も出さないわけ?」
「どこの小姑だよ。つーか客じゃねえし」
「成宮、すぐ帰るんだから大人しくしてろよ」

倉持にまで窘められて、鳴は不服そうに口をとがらせる。
その時、ガチャン、と玄関の鍵が開く音がした。途端に嬉しそうに身を乗り出した鳴を、倉持がつかまえて黙らせる。ドアが開く音、閉まる音、施錠する音。靴を脱ぎ、揃えて、鍵を棚のケースに入れて、廊下を歩いてくる音。光が帰ってきた、嬉しくなる音。そして今、リビングのドアが開く。
笑顔の光が現れる。俺を見上げて、まず一番に俺の元に歩いて来て、抱き着いてくる。

「ただいま。」
「おかえり。」

ぎゅっと抱きしめ返して、まだコートを着たままの光を離すと、光はまだ俺を離さずに言う。

「もうちょっとぎゅってして。」
「はは、はいはい。」
「……。」
「……。」
「……。」
「…もういい?」
「うん。」

満足したようで手を離すと、今度は俺を見上げて肩に腕を回して抱き着き、強請るように背伸びする。少し屈んでやると、唇に軽くキスをして、ようやく俺から離れてコートを脱ぎだした。
コートをハンガーにかけて、振り向いて――心底驚いたように目を丸くして息を飲んだ。ソファにいる倉持と鳴に気が付いたのだ。それから、じわりと顔を赤くして、俺を見た。

「…い…、いるなら言ってよ!」
「はっはっは、いやー、鳴がラブラブの証拠を見せろとか言うからさ。おい鳴、ちゃんと見たかー?」
「……。」

鳴は真っ白になって固まっている。

「ヒャハハハ、こいつショックのあまり放心してる。」
「おい鳴、納得しただろ?もう帰れよ。」
「…光ちゃん…」

ゆらり、と鳴が立ち上がって、傷心に震えながら光を見る。

「は…、はい…」
「か、一也の…どこがそんなに好きなの!?」
「え…。」

ぽっ、と赤くなる光。

「えっと…。」
「……。」
「…優しいところとか…かっこいいところとか…」
「……。」
「…全部です」
「そんなの…俺も優しくてかっこいいよ!?」
「おい…。」

まだ食い下がるか、と叩き出そうとしたとき、光が恥ずかしそうに言葉をつづけた。

「一也さんの…ほうが」
「……。」
「…かっこいい」

真っ赤になってほかほかする頬を両手で包んで、ちょっと俯きながら呟く光。か…可愛い…。こいつらがいなきゃ抱きしめるのに…。

「う…、ちょ、ちょっと…。」

と思ったけど、気付けば抱きしめていた。まあいいや、こいつらが居たって関係ない。

「ほら成宮、帰るぞ。」
「……。」

放心する成宮を引っ張っていく倉持。奴らが出て行ったのを確認して、俺はまた、可愛くてたまらない光を抱きしめた。

 


ALICE+