221
「あっ!一也来た!」
「……。」
「おっせぇな〜も〜!俺もう3杯も飲んじゃったよ!?素面で話したかったのにさ〜!」
「…なんでこいつがいるんですか?」
俺の周りをうろちょろくっつきまわる鳴を指して、今日の主催者である亮さんに尋ねる。
「合同キャンプで会ってさ。お前と話したそうだったから誘った。」
「なんで誘うんすか…」
「一也早く座れよ!話があるんだから!」
話って…どうせろくでもない…
「光ちゃんからLIMEの返信ぜんっぜんこねえんだけど!」
…やっぱり光のことかよ。
「当たり前だろ」
「なんで!?」
「お前嫌われてるから」
「なんで!?」
「なんでなんでって…明らかに好かれてはいねえだろ」
「どこが!?」
「どこがって…逆に聞くけど、一度でも光がお前に気があるそぶりしたことある?」
「……。」
鳴はきょとんとして、悪気のない顔で言ってのけた。
「え?むしろ光ちゃんっていつも素っ気ないじゃん」
「だからそれが嫌われてるんだっつの」
「は!?あれが素でしょ?誰に対してもあんな感じじゃない?」
「俺には違うから。」
「はー!?じゃあ一也にはどんな感じだって言うのさ!」
「いつもニコニコくっついてきて、一也さん大好きって言ってくれるよ」
「嘘ついてんじゃねーよ!全く想像できないね!光ちゃんがそんなこと言うはずない!」
「ホントだし。じゃあなんで結婚したと思ってんだよ」
「……。」
「あっちも好きだって言ってくれなきゃそもそも付き合えないだろ。」
目からうろこが落ちたような顔の鳴を見て辟易する。こいつ全然堪えてねぇ…。
「…じゃあ一也は光ちゃんからLIMEの返信くるの!?」
「…こないわけねーだろ…夫婦だぞ…」
「じゃあ高校の時は?付き合う前。」
「……。」
確かに…付き合う前はメール、結局来なかったけど…。
「あ!来なかったんだろ!なんだ〜じゃあ俺にも可能性あるじゃん!」
「ねーよ、俺ともう結婚してんだよ」
「それを決めるのは光ちゃんだし!」
「会話も成立しないヤツが何言ってんだ…」
「な〜教えてよ、メールも返ってこない状況からどうやって仲良くなったの!?」
「俺は最初から両想いだったし」
「はぁ!?ふざけないで、どうやって落としたか教えろよ!」
「運命。」
「真面目に!!」
「真面目だけど?」
言い争う俺たちを、亮さんたちが酒のサカナとばかりに眺めている。完全に見世物だ。
「だって光ちゃん一也にも素っ気なかったんだろ?今の俺と同じじゃん!」
「どんだけポジティブだよ…全然違うから。」
「何が違うんだよ!」
「俺には素っ気なくても好意が伝わってきた。」
「…はぁ!?そんなの一也の思い込みじゃん!」
「誰から見ても明らかでした〜」
「うざ!なぁ洋一!嘘だよね!?」
突然巻き込まれた倉持が迷惑そうに眉を顰める。
「…あー、まぁな」
「なにそれ!?それってどっちの意味!?はっきり言ってよ!」
「光ちゃんが転入してきてから、結構すぐに噂になってたよな、お前たち。」
亮さんがわざとらしく興味無さげに口を出すと、鳴はぴたりと反応した。
「えっ、光ちゃんって転入生だったの?」
「そうそう、1年の2学期だっけ。」
「前はどこにいたの?」
全員が黙り、俺を見る。…誰も知らないんだろう。
「秘密。」
俺は一言そう言って、ジョッキを傾けた。
「なにそれ!光ちゃんのこと教えてよ!」
「やだね。」
「ケチ!」
「ケチで結構」
「あいつら、ガキかよ」
「見てる分には面白いけどね。」
先輩たちの見世物になりながら、腕時計をちらりと見る。まだこんな時間か…早く帰りてぇなー。
「おい!なにこっそり時間確認してんだよ!そんなに俺と飲むのが嫌なの!?」
「それもあるけど早く帰りてえ」
「ひど!!俺傷ついた!傷ついたからね!」
「あっそ」
鬱陶し〜。鳴はボウヤだからな、とよくカルロスが言っていたのを思い出す。その通りだよ、ほんと。
「お」
スマホにLIMEが届く。鳴が覗き込むのを避けながら確認すると、それは光からのメッセージだった。
『仕事が早く終わったから今夜帰るね。
今日の新聞に一也さんが載ってたよ。かっこよかったよ♪』
俺は返信は打たず、そのまま電話をかけた。またスマホを手に持っていたんだろう、2,3回のコールで光は電話に出た。
「もしもし、今LIME見たよ。」
『一也さん?今飲み会じゃないの?』
「そうだけど、俺ももう帰るわ」
えっ、と亮さんが俺を見たけど、構わない。
『え…大丈夫なの?』
「へーきへーき。今日お前いないから飯食おうと思って来ただけだし」
「俺たちの前でよくそこまではっきり言えるな…。」
「クソ眼鏡…」
「これから帰るから!」
『…ふふ、わかった。じゃあ、一也さんの方が早く家に着くかもね。私まだ事務所だから』
「待ってるよ。気を付けてな」
『うん。一也さんも。じゃあね』
電話を切り、荷物を持つ。
「うわ、マジで帰るのかよ」
「ちょっと待って一也!」
鳴が俺に縋りつく。
「今の本当に光ちゃんなの?」
「は?」
「今のLIME!光ちゃんが『かっこよかったよ♪』とか言う!?botじゃねえの?」
「botじゃねえよ」
思わず笑ってしまう。
「俺にはいつもあんな感じだから」
「…はあぁ〜〜??」
めちゃくちゃ疑わしそうな鳴。今までどんだけ素っ気なくされてきたんだか。
「…俺も一也んち行く!」
「なんでだよ、やだよ。来るな」
「光ちゃんとラブラブな証拠見せてよ!そしたら諦めるから!」
「もろしつこい男のセリフな」
「御幸。」
それまで静かだった倉持が立ち上がってやって来た。
「ちょうどいいじゃねーか、連れてけよ」
「はあ?やだよ」
こっそりと俺に耳打ちする倉持。
「光のお前の前での態度、結構ダメージくるんだぜ。成宮も諦めるかも」
「……。」
「光が成宮苦手なのは俺も知ってるけどよ、これで諦めてくれたら光のためにもいいだろ?」
「…え〜、でもなぁ、鳴にうちの場所知られたくない。」
「おい!人をストーカーみたいに」
「予備軍だろ。」
それに…ごねて居座るの、目に見えてるし。
「俺も一緒に行くからよ。成宮追い出し役で」
「なにそれ!?」
「……。…わかったよ」
いやだけど…まあ、それで成宮が光に執着しなくなるなら…。
「ほら行くぞ」
「マジ?やったー!」
「すぐ帰れよ。」
「…御幸もまた面倒くさい奴に目付けられたね。」
「悪運強いからなぁ」
「目付けられたのは玉城さんじゃね?」
***
「…すげえいいマンション住んでるじゃん!一也のくせに!」
「うるせえな…夜なんだから静かにしろよ」
タクシーから降り、鳴と倉持と三人でマンションに入る。中は暗い。光はまだ帰ってないようだ。
「うわ、なんかいいニオイするし」
「あちこち触んな」
「えっ!あれって防犯カメラ!?室内に!?」
「おー、悪さすんなよ。」
ちょこまか動き回る鳴をなんとかソファに座らせ、倉持もソファに座る。俺は上着を脱ぎ、荷物を置き、時計を見上げる。光、そろそろ帰って来るかな…。
「ちょっと、この家は客にお茶も出さないわけ?」
「どこの小姑だよ。つーか客じゃねえし」
「成宮、すぐ帰るんだから大人しくしてろよ」
倉持にまで窘められて、鳴は不服そうに口をとがらせる。
その時、ガチャン、と玄関の鍵が開く音がした。途端に嬉しそうに身を乗り出した鳴を、倉持がつかまえて黙らせる。ドアが開く音、閉まる音、施錠する音。靴を脱ぎ、揃えて、鍵を棚のケースに入れて、廊下を歩いてくる音。光が帰ってきた、嬉しくなる音。そして今、リビングのドアが開く。
笑顔の光が現れる。俺を見上げて、まず一番に俺の元に歩いて来て、抱き着いてくる。
「ただいま。」
「おかえり。」
ぎゅっと抱きしめ返して、まだコートを着たままの光を離すと、光はまだ俺を離さずに言う。
「もうちょっとぎゅってして。」
「はは、はいはい。」
「……。」
「……。」
「……。」
「…もういい?」
「うん。」
満足したようで手を離すと、今度は俺を見上げて肩に腕を回して抱き着き、強請るように背伸びする。少し屈んでやると、唇に軽くキスをして、ようやく俺から離れてコートを脱ぎだした。
コートをハンガーにかけて、振り向いて――心底驚いたように目を丸くして息を飲んだ。ソファにいる倉持と鳴に気が付いたのだ。それから、じわりと顔を赤くして、俺を見た。
「…い…、いるなら言ってよ!」
「はっはっは、いやー、鳴がラブラブの証拠を見せろとか言うからさ。おい鳴、ちゃんと見たかー?」
「……。」
鳴は真っ白になって固まっている。
「ヒャハハハ、こいつショックのあまり放心してる。」
「おい鳴、納得しただろ?もう帰れよ。」
「…光ちゃん…」
ゆらり、と鳴が立ち上がって、傷心に震えながら光を見る。
「は…、はい…」
「か、一也の…どこがそんなに好きなの!?」
「え…。」
ぽっ、と赤くなる光。
「えっと…。」
「……。」
「…優しいところとか…かっこいいところとか…」
「……。」
「…全部です」
「そんなの…俺も優しくてかっこいいよ!?」
「おい…。」
まだ食い下がるか、と叩き出そうとしたとき、光が恥ずかしそうに言葉をつづけた。
「一也さんの…ほうが」
「……。」
「…かっこいい」
真っ赤になってほかほかする頬を両手で包んで、ちょっと俯きながら呟く光。か…可愛い…。こいつらがいなきゃ抱きしめるのに…。
「う…、ちょ、ちょっと…。」
と思ったけど、気付けば抱きしめていた。まあいいや、こいつらが居たって関係ない。
「ほら成宮、帰るぞ。」
「……。」
放心する成宮を引っ張っていく倉持。奴らが出て行ったのを確認して、俺はまた、可愛くてたまらない光を抱きしめた。
「……。」
「おっせぇな〜も〜!俺もう3杯も飲んじゃったよ!?素面で話したかったのにさ〜!」
「…なんでこいつがいるんですか?」
俺の周りをうろちょろくっつきまわる鳴を指して、今日の主催者である亮さんに尋ねる。
「合同キャンプで会ってさ。お前と話したそうだったから誘った。」
「なんで誘うんすか…」
「一也早く座れよ!話があるんだから!」
話って…どうせろくでもない…
「光ちゃんからLIMEの返信ぜんっぜんこねえんだけど!」
…やっぱり光のことかよ。
「当たり前だろ」
「なんで!?」
「お前嫌われてるから」
「なんで!?」
「なんでなんでって…明らかに好かれてはいねえだろ」
「どこが!?」
「どこがって…逆に聞くけど、一度でも光がお前に気があるそぶりしたことある?」
「……。」
鳴はきょとんとして、悪気のない顔で言ってのけた。
「え?むしろ光ちゃんっていつも素っ気ないじゃん」
「だからそれが嫌われてるんだっつの」
「は!?あれが素でしょ?誰に対してもあんな感じじゃない?」
「俺には違うから。」
「はー!?じゃあ一也にはどんな感じだって言うのさ!」
「いつもニコニコくっついてきて、一也さん大好きって言ってくれるよ」
「嘘ついてんじゃねーよ!全く想像できないね!光ちゃんがそんなこと言うはずない!」
「ホントだし。じゃあなんで結婚したと思ってんだよ」
「……。」
「あっちも好きだって言ってくれなきゃそもそも付き合えないだろ。」
目からうろこが落ちたような顔の鳴を見て辟易する。こいつ全然堪えてねぇ…。
「…じゃあ一也は光ちゃんからLIMEの返信くるの!?」
「…こないわけねーだろ…夫婦だぞ…」
「じゃあ高校の時は?付き合う前。」
「……。」
確かに…付き合う前はメール、結局来なかったけど…。
「あ!来なかったんだろ!なんだ〜じゃあ俺にも可能性あるじゃん!」
「ねーよ、俺ともう結婚してんだよ」
「それを決めるのは光ちゃんだし!」
「会話も成立しないヤツが何言ってんだ…」
「な〜教えてよ、メールも返ってこない状況からどうやって仲良くなったの!?」
「俺は最初から両想いだったし」
「はぁ!?ふざけないで、どうやって落としたか教えろよ!」
「運命。」
「真面目に!!」
「真面目だけど?」
言い争う俺たちを、亮さんたちが酒のサカナとばかりに眺めている。完全に見世物だ。
「だって光ちゃん一也にも素っ気なかったんだろ?今の俺と同じじゃん!」
「どんだけポジティブだよ…全然違うから。」
「何が違うんだよ!」
「俺には素っ気なくても好意が伝わってきた。」
「…はぁ!?そんなの一也の思い込みじゃん!」
「誰から見ても明らかでした〜」
「うざ!なぁ洋一!嘘だよね!?」
突然巻き込まれた倉持が迷惑そうに眉を顰める。
「…あー、まぁな」
「なにそれ!?それってどっちの意味!?はっきり言ってよ!」
「光ちゃんが転入してきてから、結構すぐに噂になってたよな、お前たち。」
亮さんがわざとらしく興味無さげに口を出すと、鳴はぴたりと反応した。
「えっ、光ちゃんって転入生だったの?」
「そうそう、1年の2学期だっけ。」
「前はどこにいたの?」
全員が黙り、俺を見る。…誰も知らないんだろう。
「秘密。」
俺は一言そう言って、ジョッキを傾けた。
「なにそれ!光ちゃんのこと教えてよ!」
「やだね。」
「ケチ!」
「ケチで結構」
「あいつら、ガキかよ」
「見てる分には面白いけどね。」
先輩たちの見世物になりながら、腕時計をちらりと見る。まだこんな時間か…早く帰りてぇなー。
「おい!なにこっそり時間確認してんだよ!そんなに俺と飲むのが嫌なの!?」
「それもあるけど早く帰りてえ」
「ひど!!俺傷ついた!傷ついたからね!」
「あっそ」
鬱陶し〜。鳴はボウヤだからな、とよくカルロスが言っていたのを思い出す。その通りだよ、ほんと。
「お」
スマホにLIMEが届く。鳴が覗き込むのを避けながら確認すると、それは光からのメッセージだった。
『仕事が早く終わったから今夜帰るね。
今日の新聞に一也さんが載ってたよ。かっこよかったよ♪』
俺は返信は打たず、そのまま電話をかけた。またスマホを手に持っていたんだろう、2,3回のコールで光は電話に出た。
「もしもし、今LIME見たよ。」
『一也さん?今飲み会じゃないの?』
「そうだけど、俺ももう帰るわ」
えっ、と亮さんが俺を見たけど、構わない。
『え…大丈夫なの?』
「へーきへーき。今日お前いないから飯食おうと思って来ただけだし」
「俺たちの前でよくそこまではっきり言えるな…。」
「クソ眼鏡…」
「これから帰るから!」
『…ふふ、わかった。じゃあ、一也さんの方が早く家に着くかもね。私まだ事務所だから』
「待ってるよ。気を付けてな」
『うん。一也さんも。じゃあね』
電話を切り、荷物を持つ。
「うわ、マジで帰るのかよ」
「ちょっと待って一也!」
鳴が俺に縋りつく。
「今の本当に光ちゃんなの?」
「は?」
「今のLIME!光ちゃんが『かっこよかったよ♪』とか言う!?botじゃねえの?」
「botじゃねえよ」
思わず笑ってしまう。
「俺にはいつもあんな感じだから」
「…はあぁ〜〜??」
めちゃくちゃ疑わしそうな鳴。今までどんだけ素っ気なくされてきたんだか。
「…俺も一也んち行く!」
「なんでだよ、やだよ。来るな」
「光ちゃんとラブラブな証拠見せてよ!そしたら諦めるから!」
「もろしつこい男のセリフな」
「御幸。」
それまで静かだった倉持が立ち上がってやって来た。
「ちょうどいいじゃねーか、連れてけよ」
「はあ?やだよ」
こっそりと俺に耳打ちする倉持。
「光のお前の前での態度、結構ダメージくるんだぜ。成宮も諦めるかも」
「……。」
「光が成宮苦手なのは俺も知ってるけどよ、これで諦めてくれたら光のためにもいいだろ?」
「…え〜、でもなぁ、鳴にうちの場所知られたくない。」
「おい!人をストーカーみたいに」
「予備軍だろ。」
それに…ごねて居座るの、目に見えてるし。
「俺も一緒に行くからよ。成宮追い出し役で」
「なにそれ!?」
「……。…わかったよ」
いやだけど…まあ、それで成宮が光に執着しなくなるなら…。
「ほら行くぞ」
「マジ?やったー!」
「すぐ帰れよ。」
「…御幸もまた面倒くさい奴に目付けられたね。」
「悪運強いからなぁ」
「目付けられたのは玉城さんじゃね?」
***
「…すげえいいマンション住んでるじゃん!一也のくせに!」
「うるせえな…夜なんだから静かにしろよ」
タクシーから降り、鳴と倉持と三人でマンションに入る。中は暗い。光はまだ帰ってないようだ。
「うわ、なんかいいニオイするし」
「あちこち触んな」
「えっ!あれって防犯カメラ!?室内に!?」
「おー、悪さすんなよ。」
ちょこまか動き回る鳴をなんとかソファに座らせ、倉持もソファに座る。俺は上着を脱ぎ、荷物を置き、時計を見上げる。光、そろそろ帰って来るかな…。
「ちょっと、この家は客にお茶も出さないわけ?」
「どこの小姑だよ。つーか客じゃねえし」
「成宮、すぐ帰るんだから大人しくしてろよ」
倉持にまで窘められて、鳴は不服そうに口をとがらせる。
その時、ガチャン、と玄関の鍵が開く音がした。途端に嬉しそうに身を乗り出した鳴を、倉持がつかまえて黙らせる。ドアが開く音、閉まる音、施錠する音。靴を脱ぎ、揃えて、鍵を棚のケースに入れて、廊下を歩いてくる音。光が帰ってきた、嬉しくなる音。そして今、リビングのドアが開く。
笑顔の光が現れる。俺を見上げて、まず一番に俺の元に歩いて来て、抱き着いてくる。
「ただいま。」
「おかえり。」
ぎゅっと抱きしめ返して、まだコートを着たままの光を離すと、光はまだ俺を離さずに言う。
「もうちょっとぎゅってして。」
「はは、はいはい。」
「……。」
「……。」
「……。」
「…もういい?」
「うん。」
満足したようで手を離すと、今度は俺を見上げて肩に腕を回して抱き着き、強請るように背伸びする。少し屈んでやると、唇に軽くキスをして、ようやく俺から離れてコートを脱ぎだした。
コートをハンガーにかけて、振り向いて――心底驚いたように目を丸くして息を飲んだ。ソファにいる倉持と鳴に気が付いたのだ。それから、じわりと顔を赤くして、俺を見た。
「…い…、いるなら言ってよ!」
「はっはっは、いやー、鳴がラブラブの証拠を見せろとか言うからさ。おい鳴、ちゃんと見たかー?」
「……。」
鳴は真っ白になって固まっている。
「ヒャハハハ、こいつショックのあまり放心してる。」
「おい鳴、納得しただろ?もう帰れよ。」
「…光ちゃん…」
ゆらり、と鳴が立ち上がって、傷心に震えながら光を見る。
「は…、はい…」
「か、一也の…どこがそんなに好きなの!?」
「え…。」
ぽっ、と赤くなる光。
「えっと…。」
「……。」
「…優しいところとか…かっこいいところとか…」
「……。」
「…全部です」
「そんなの…俺も優しくてかっこいいよ!?」
「おい…。」
まだ食い下がるか、と叩き出そうとしたとき、光が恥ずかしそうに言葉をつづけた。
「一也さんの…ほうが」
「……。」
「…かっこいい」
真っ赤になってほかほかする頬を両手で包んで、ちょっと俯きながら呟く光。か…可愛い…。こいつらがいなきゃ抱きしめるのに…。
「う…、ちょ、ちょっと…。」
と思ったけど、気付けば抱きしめていた。まあいいや、こいつらが居たって関係ない。
「ほら成宮、帰るぞ。」
「……。」
放心する成宮を引っ張っていく倉持。奴らが出て行ったのを確認して、俺はまた、可愛くてたまらない光を抱きしめた。