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「こんなの…気にするなよ。」
くしゃくしゃの紙を、またくしゃくしゃに丸める。
ブス、御幸先輩に近づくな、男好きのぶりっこ…まるで定規で引いた線のように直線的な字で書き殴られた文字。偶然下駄箱の前で玉城と会って、これが靴箱から出てきたところに居合わせたから、よかったけど…。きっとひとりだったら、玉城は誰にも言わず、抱え込んでいた。
「僻んでるんだよ。」
「……何に?」
「玉城…、…美人だから」
ものすごく緊張してその言葉を言った。だけど、玉城の表情は晴れず、今にも泣きだしそうで。
それに…御幸先輩に近づくな、って。もう、誰から見ても…その二人が親密だという証拠じゃんか。そんなの、認めたくない。
「おっ、逢引きか〜?」
空気をぶった切るような無遠慮な声。だけど、玉城は一気に空気が晴れたように顔を上げて、振り向いた。にやにやと俺たちをからかうように見ながら通りかかった御幸先輩。玉城はすぐに踵を返して、御幸先輩に駆け寄る。
「…違いますから!」
「あれ、お前セーター着ないなら貸せよ〜俺さみい」
「先輩に着れるわけないでしょ!伸びる!」
「おっタメ口!めっずらし〜」
「…あ〜もう!うざい!」
ふざけあう二人。玉城の腰に巻かれたセーターを、御幸先輩が引っ張ってほどいて…それを追いかける細い腕を、御幸先輩は普通に掴んで、笑っていて…。
そんなに簡単に、玉城に触れるなんて…。俺はいまだに、前の席のすっと伸びた姿勢のいい背中を、じりじりと見つめているだけで、プリントを回すとき、触れそうになった手も…授業で聞き逃したところを聞くとき、触れそうになった指先も…まだ、触れることができずにいるのに。
***
「こういう店は初めて入る。」
喫茶店の中をきょろきょろと見渡す光臣。いつもどんな店に行ってんだろ…。
「そ、そっか。」
「気取らない良い店だな。周りが騒がしいのも悪くない。」
「……。」
そ、それってほめてんのかな…。
コーヒーを注文し、光臣とカウンターに並ぶ。光臣…イケメンだし、堂々としていて…やっぱ目立つなぁ。
「それで、話って?」
「ああ…うん」
何て切り出すべきか。牧瀬の事を気にして、外に呼び出したけど…前好きだった子のことを聞くなんて、普通に失礼…だよな。しかも、今の彼女の親友…。
「言い辛いことか?」
「え…、えっと」
コーヒーが運ばれてきて、俺はようやく口を開いた。
「聞きたかったことが、あるんだけど…」
「なんだ?」
「光臣…、…前、さ、」
「ああ」
「好きだったの?…光のこと」
ざわざわざわ。周りの喧騒の中で、光臣が取り残されたような顔できょとんとしている。
「今も好きだが?」
「え…、!?そ、それってどういう意味で?」
「家族としても、友人としても、女性としても。光のためならなんだってする。」
「……。」
思わず口をあけたまま光臣を凝視する。だけど光臣は涼しい顔でブラックコーヒーを飲んだ。
「それにしても…お前も光の話か。」
「え…?」
「何をそんなに迷ってるんだか。」
「……。」
「俺が何を言ったところで、気持ちが変わるとでも?」
「……。」
な…なんか、お見通しって感じ…。確かに、光臣から光を諦めろなんて言われても、簡単に忘れられるわけじゃないし、突然この気持ちに整理がつくような、魔法の言葉があるなんて思えない。
「いや…、どうやって、諦めたのかなって」
「……。」
「それが、気になっただけだよ」
カチャ、とソーサーが鳴った。
「諦めというより…今の関係に落ち着いた、というべきかな。」
「……。」
「彼女が俺を信頼し、頼ってくれて…笑ってくれるようになった。それで十分だ。」
「……。」
そんなに、光のことが大事なら、どうして…
「…じゃあ、牧瀬は?どうして牧瀬と付き合ってるの?」
「好きだからだ。大切にしたいと思っている。」
「…光よりも?」
「そうだ。」
光臣は頷いた。
「光が御幸一也に守られている限りはな。」
「…え?じゃあ…もし光が、ひとりだったら?」
「その場合はきっと、司とはやっていけないだろうな。」
「な…」
「司自身がな。」
え?…い、意味が解らない。
「司は俺よりも光のことが大切だからな。俺なんて放っておいて、光の所に飛んでいくだろう。」
「……。」
「彼女のそういうところが好きだ。きっと司もそう言う。」
なんだよ…それ。皆、光、光って…
「…皆光に夢中だな。」
「…ほんと…、昔から、ずっとそうだよ」
「彼女は…ちょっと、残酷なくらい、美しいし…とても純粋だからな」
「……。」
「人を惹きつけてやまない。きっと、そういう運命の元に生まれてきたんだろうと…そう思ってしまうくらいに。」
運命…。
普段なら、なんて酔った言葉だと笑って流すけど…。
自分の中でいつまでも特別に光を放っている彼女の事を思うと、たしかに、それは解けない呪いみたいだと思った。
くしゃくしゃの紙を、またくしゃくしゃに丸める。
ブス、御幸先輩に近づくな、男好きのぶりっこ…まるで定規で引いた線のように直線的な字で書き殴られた文字。偶然下駄箱の前で玉城と会って、これが靴箱から出てきたところに居合わせたから、よかったけど…。きっとひとりだったら、玉城は誰にも言わず、抱え込んでいた。
「僻んでるんだよ。」
「……何に?」
「玉城…、…美人だから」
ものすごく緊張してその言葉を言った。だけど、玉城の表情は晴れず、今にも泣きだしそうで。
それに…御幸先輩に近づくな、って。もう、誰から見ても…その二人が親密だという証拠じゃんか。そんなの、認めたくない。
「おっ、逢引きか〜?」
空気をぶった切るような無遠慮な声。だけど、玉城は一気に空気が晴れたように顔を上げて、振り向いた。にやにやと俺たちをからかうように見ながら通りかかった御幸先輩。玉城はすぐに踵を返して、御幸先輩に駆け寄る。
「…違いますから!」
「あれ、お前セーター着ないなら貸せよ〜俺さみい」
「先輩に着れるわけないでしょ!伸びる!」
「おっタメ口!めっずらし〜」
「…あ〜もう!うざい!」
ふざけあう二人。玉城の腰に巻かれたセーターを、御幸先輩が引っ張ってほどいて…それを追いかける細い腕を、御幸先輩は普通に掴んで、笑っていて…。
そんなに簡単に、玉城に触れるなんて…。俺はいまだに、前の席のすっと伸びた姿勢のいい背中を、じりじりと見つめているだけで、プリントを回すとき、触れそうになった手も…授業で聞き逃したところを聞くとき、触れそうになった指先も…まだ、触れることができずにいるのに。
***
「こういう店は初めて入る。」
喫茶店の中をきょろきょろと見渡す光臣。いつもどんな店に行ってんだろ…。
「そ、そっか。」
「気取らない良い店だな。周りが騒がしいのも悪くない。」
「……。」
そ、それってほめてんのかな…。
コーヒーを注文し、光臣とカウンターに並ぶ。光臣…イケメンだし、堂々としていて…やっぱ目立つなぁ。
「それで、話って?」
「ああ…うん」
何て切り出すべきか。牧瀬の事を気にして、外に呼び出したけど…前好きだった子のことを聞くなんて、普通に失礼…だよな。しかも、今の彼女の親友…。
「言い辛いことか?」
「え…、えっと」
コーヒーが運ばれてきて、俺はようやく口を開いた。
「聞きたかったことが、あるんだけど…」
「なんだ?」
「光臣…、…前、さ、」
「ああ」
「好きだったの?…光のこと」
ざわざわざわ。周りの喧騒の中で、光臣が取り残されたような顔できょとんとしている。
「今も好きだが?」
「え…、!?そ、それってどういう意味で?」
「家族としても、友人としても、女性としても。光のためならなんだってする。」
「……。」
思わず口をあけたまま光臣を凝視する。だけど光臣は涼しい顔でブラックコーヒーを飲んだ。
「それにしても…お前も光の話か。」
「え…?」
「何をそんなに迷ってるんだか。」
「……。」
「俺が何を言ったところで、気持ちが変わるとでも?」
「……。」
な…なんか、お見通しって感じ…。確かに、光臣から光を諦めろなんて言われても、簡単に忘れられるわけじゃないし、突然この気持ちに整理がつくような、魔法の言葉があるなんて思えない。
「いや…、どうやって、諦めたのかなって」
「……。」
「それが、気になっただけだよ」
カチャ、とソーサーが鳴った。
「諦めというより…今の関係に落ち着いた、というべきかな。」
「……。」
「彼女が俺を信頼し、頼ってくれて…笑ってくれるようになった。それで十分だ。」
「……。」
そんなに、光のことが大事なら、どうして…
「…じゃあ、牧瀬は?どうして牧瀬と付き合ってるの?」
「好きだからだ。大切にしたいと思っている。」
「…光よりも?」
「そうだ。」
光臣は頷いた。
「光が御幸一也に守られている限りはな。」
「…え?じゃあ…もし光が、ひとりだったら?」
「その場合はきっと、司とはやっていけないだろうな。」
「な…」
「司自身がな。」
え?…い、意味が解らない。
「司は俺よりも光のことが大切だからな。俺なんて放っておいて、光の所に飛んでいくだろう。」
「……。」
「彼女のそういうところが好きだ。きっと司もそう言う。」
なんだよ…それ。皆、光、光って…
「…皆光に夢中だな。」
「…ほんと…、昔から、ずっとそうだよ」
「彼女は…ちょっと、残酷なくらい、美しいし…とても純粋だからな」
「……。」
「人を惹きつけてやまない。きっと、そういう運命の元に生まれてきたんだろうと…そう思ってしまうくらいに。」
運命…。
普段なら、なんて酔った言葉だと笑って流すけど…。
自分の中でいつまでも特別に光を放っている彼女の事を思うと、たしかに、それは解けない呪いみたいだと思った。