「……。」
「……。」

か…会話がねえ…!!気まずすぎる…。
思えば俺、周りにちょっと変わった女しかいないしな…。牧瀬は言わずもがな、男友達のノリで付き合って来たし…。光とは、こんなふうにデートしたことはないし…。そう考えると…御幸の奴、どうやって光と付き合うに至るまでこぎつけたんだ?あの野球まみれの多忙な日々の中で…。休み時間に会ったり、たまのオフにはデートに行ったりしてたのは知ってるけど…。具体的に、女と会って何を話せばいいのか…。あいつ、器用な奴だな。

「あの…。」
「え…あ、な、何?」

木崎さんがちょっと追いついて、横に並んで話しかけてきた。なんか…気遣わせちまってるな。俺の方が3つも年上なのに…。

「…お返事…考えて、もらえましたか…?」
「…あ…あー、えっと…」

返事…。返事って言われてもなぁ…。
俺は言いよどんで頭を掻く。

「…付き合う…とかは、まだちょっと…わかんねーかな…」
「…そ…そうですよね…。まだ、会ったばかりだし…」
「お、おう…」

…つーか、会話も気まずい相手と付き合うとか考えらんねえ…。

「…光先輩のこと…」

…また光か。

「まだ…好き、なんですか…?」
「……。」

木崎さん、おっとりしてるように見えて、さっきから意外と鋭く痛いとこをついてくる。

「…俺が、一方的にな。」
「……。」
「でも、御幸たちのことは祝福してるし…別に付き合ってほしいとか、そういうのじゃねーから。」
「……。」

俯く木崎さん。ちょっと悲しそうに、眉をさげて。な…なんでだよ。

「…木崎さんって…」
「は…はい。」
「なんで…その…、…俺のこと…」
「……。」
「…その、ファンって言われても。野球とか好きそうには見えねーけど…」
「……。」

ぽそぽそ、と小さな口が動く。

「…私…、水泳、やってたんです…。小さい頃から…。」
「…お、おう。」
「だから…高校生の頃は…肌は真っ黒で…髪も、ぼさぼさで…。男の子と、間違われる、くらいで…。」
「へ…へー…。」

全然想像つかない。今は女子力の塊みたいな外見なのに。

「だから…。光先輩に、すごく、憧れてて…。私もいつか、あんなふうに…綺麗な女の子に、なりたいなって…。」
「……。」

で…俺を好きな理由は?

「でも…。私、なんかが…モデルになりたい…なんて言ったら…」
「……。」
「…なれるわけ、ないって…友達には、笑われちゃって…。」
「……。」
「でも……。」

もじもじ、うじうじ、言葉を詰まらせながら、木崎さんは小さな声で話し続ける。

「…や、野球部の…グラウンドの前を、通りかかったときに…。」
「……。」
「…ボールが、飛んできたんです…。」
「…へぇ」
「それで…。私、立ち竦んじゃって…。」
「……。」
「…そしたら…近くに、いた人が…すごい速さで、走ってきて…。」
「……。」
「…ボールを、取ってくれて…。」
「……。」

…なんか話が読めた…。

「…それが俺だった?」
「…は…はい…。」

そういや…OBとして様子見に行ったとき、そんなことあったかも…。

「でもそれって…偶然俺だっただけで、別に、他の奴でも同じこと…」

したと思うけど…。
と言いかけたところで、木崎さんはフルフルと首を横に振った。

「…そのあと…倉持さんが…。」
「……?」
「わ…私の、こと…。」
「……。」
「…お…女の子って…言ってくれたから…。」
「……ん!?」

待て。ちょっと意味が分からない。

「え…俺そんなこと言った!?」
「…女の子にぶつかったら、どうすんだよって…。」
「……。」

…言った…か?…言った…かも。…多分。覚えてねえけど。でも…

「…そ、そんだけ?」
「え…。」

何か拍子抜けだ…。俺覚えてねえし。

「わ…私にとっては…すごく…嬉しかったんです…。」
「…そ、そお」

ええ〜…でも俺そんなつもりじゃ…。

「…ヒーローみたいだなって…。」

…ヒーロー…か。
俺はその言葉に胸が苦しくなった。

――倉持さんは、ずっと、私のヒーローです。

…光。本当にお前、俺がこの子と付き合っても…何とも思わねえのか?お前の傍からいなくなっても…いいって言うのかよ…。

「…倉持さん…?」
「え…、あ…。」

気が付けば、もう通りの終着点である橋の手前まで来ていた。俺は踵を返し、マンションの方へと足を向けた。

「…戻るか。」
「はい…。」



***



「おっ、おかえり〜」

暢気にソファで出迎えた御幸に腹が立つ。

「光先輩…。コート、ありがとうございました…」
「あ、うん。そこ置いといていいよ。」


光はキッチンで何かを作っている。…昼飯か?

「先輩、お手伝いさせてください…。」
「あ。ありがとう。じゃあこれ切ってもらおうかな。エプロンはそこの使って。」
「はい…。」

キッチンに入る女二人。俺は優雅にソファでくつろぐ御幸の横に腰掛ける。

「よお、どうだった?デート。」
「……。」
「なにキレてんだよ。」

…こいつに俺の苦労がわかるもんか。

「別に。」
「なんだよ別にって。お茶くらいしてきたんだろ?」
「お茶ぁ?」
「桜通りならお店いっぱいあるじゃん。カフェも喫茶店も。」
「……。」
「えっ、歩いただけ!?マジ?」

くそウゼェ…。なにがウザいかって御幸のデートし慣れてる感がウゼェ。

「それでよく会話続いたな。」
「……。」
「あぁ続かなかったのか。」
「お前な…!こっちはほぼ初対面なんだぞ!お前の時と一緒にすんな!」
「はっはっは!ムキになるなよ。助言してやろうか?ん?」
「いらねーよ!」

…とは言ったものの、光との初デートとか…ちょっと気になる…。

「……で?」
「え?」
「…どんなだったんだよ、お前の時は」

ニヤ〜、とからかうように笑みを浮かべる御幸の顔を見て、早くも後悔の念が浮かぶ。

「…やっぱいい!」
「そう言うなって!教えてやるから!」
「……。」
「そうだな〜。光との初デートは…初詣だったな〜。」
「もう付き合ってんじゃねーかそれ…」
「いいから聞けよ。デートはな、まず当日の朝、必ずしなきゃならないことがある。」
「…なんだよ?」
「一発ヌ…」

スパン!といい音がした。丸めた雑誌が御幸の脳天を打った音だ。驚くべきは俺の素晴らしき反射神経。3年間青道で磨き上げただけはある。

「…ってえな〜。二遊間は雑誌で人を殴れって教わるのか?」
「テメーがふざけてるからだ!」
「いや真面目な話だって。肝心な時にアレが反応したらまずいだろ?」
「…なんだよ、肝心なときって…初デートでんなことあるかよ」
「こっちにその予定がなくてもさ、相手が突然キスしてきたり、脱ぎ始めたらどうすんだよ」
「余計にねーわ!何想像してんだアホ…、…待て。まさかお前それ光に…」
「そこはノーコメントで」
「……。」

いや…まさか。…コイツの冗談だろ、うん…。

「…そんなことより、会話を続けるコツとか…もっと実用的なことを教えろよ」
「あ〜ハイハイ初級編ね!」
「……。」
「雑誌は置いてください」

雑誌を机の上に放り投げると、御幸は仕切りなおした。

「会話を続けるコツっていってもな〜。俺、光との会話で困ったことねーしなぁ」
「んだよ…結局役に立たねーじゃん」
「まあ最後まで聞けって。会話って、お互いに興味のあるもんじゃないと続かないだろ。」
「…あぁ」
「つまり、共通の話題があればいいんだよ。せっかく同じ青道出身なんだから、高校の話とか…教師の話とか。とっつきやすいんじゃねえの?」
「…ん〜…」
「会話をする中で、また新しい共通点が見つかることもあるし。お互いを知っていけば、相手の興味があることもだんだんわかって来るし。ようはさ、自分が相手にどれだけ興味があるかってことなんじゃねーの?」
「……。」

なんか…なんとなく納得できるからムカつく。

「おまたせ。」

そのとき光が料理を運んできて、俺たちは話を切り上げた。光の後に続いてサラダを運んできた木崎さんをちらりと見上げる。…まあ…、結構…可愛いし。うじうじもじもじするのはちょっと難点だけど、男勝りな女よりは…いいかも。
…帰ったら、この間貰った連絡先に…連絡してみるかな。

光を見ると、御幸に微笑んでいて、幸せそうに見えて。俺も…踏み出す時かもしれない、と思った。

 


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