「光舟、そっちのクラスはどうだ?」

昼休みになって、中庭で光舟とパンを食べながら訊くと、光舟はきょとんとした。…この様子じゃ、友達できてないな、こいつ…。

「気が合う奴とかいた?」
「……。」
「あっ…じゃあ、可愛い女子は?」
「……。」

だめだこりゃ。
悪い奴じゃないんだけど、どうも、不器用なんだよな…。本人は気にしてないようだけど。

「クラス離れちゃって残念だったなー。」
「……あぁ。」

お、そこは素直なのか。
光舟はカツサンドを黙々と食べている。俺も焼きそば間の袋を破った。

「…ん?」

焼きそばパンをほおばりながら、ふと向かい側のベンチにいる女の先輩が目に留まる。すらりと伸びる白い長い足、小さくて整った顔、綺麗な金色の髪…女優かモデルみたいだ。

「…なあ!光舟、あそこにいる先輩、めっちゃ可愛くね?」
「?」

光舟は興味もなさそうに俺が指した方を見た。

「あの上靴の色、2年かな?なんか、ゲーノー人で似た人いなかった?たしか、橋本…」
「……!」

突然光舟が立ち上がって、ペットボトルを倒した。蓋閉まっててよかった…。俺はペットボトルを拾いながら光舟を見上げる。

「どうしたんだよ、急に…?あっ、おい…!」

光舟はずんずんその先輩に向かって歩いていく。な、なんだ…!?
先輩は友達と喋っていたが、すごい勢いで近づいてくる光舟に気が付いて振り向いた。その顔はぽかんとしていたが、すぐに、あっ、と声を上げた。

「……もしかして、こうちゃん?」

…こうちゃん!!?
俺は光舟に駆け寄った。

「し、知り合いか?」

そう尋ねると、光舟はわなわなとして呟いた。

「……光?」
「やっぱり!こうちゃん、久しぶり…」

先輩の顔がほころんで、光舟の表情もなんだか穏やかになる。誰?と、先輩の隣に座っていた背の高い女の先輩が尋ねた。

「親戚の、奥村光舟君。久しぶりだね、3年ぶりくらい?」
「……うん」
「まさか青道に来てたなんて…あ!もしかして、野球続けてるの?」
「…うん。」
「そうなんだ…。」

先輩は嬉しそうに光舟を見つめると、思い出したように携帯を取り出した。

「そうだ!連絡先教えてよ。色々話したいし…」
「……。」
「こうちゃん?」

光舟の様子がおかしい。なんか、先輩を見てすごく、感極まっているような…。

「……元気…だった?」

絞り出すように、光舟が言った。その一言には、いろんな意味が込められているようで、俺も先輩の隣の友達も、押し黙っていた。先輩は、少し瞳を潤ませて微笑んだ。

「うん…」


***



「…あ、光舟あそこ、光先輩じゃね?」
「……。」

それからというもの。
光舟は光先輩を見かけるたび、物憂げな視線を送るようになった。二人の間に何があったか知らないけど、光舟がこんな調子になるのは珍しい…。もしかして、光先輩のこと好きなのか?

「いつも追っかけに囲まれてるから、あーいう風に一人でいるの、珍しいな。」
「…あぁ。」

光先輩は物陰に隠れるように、渡り廊下の影になっている中庭の隅に立っていた。…あんなとこで何してんだろ?

「声かけてくか?」
「……。」

光舟はしばらく光先輩を見ていたが、やがて、首を横に振った。

「…いや、いい…」

そう言って踵を返そうとしたとき、意外な人物が現れた。

「…あれ?御幸先輩…」
「!!!」

渡り廊下を駆け足でやって来た御幸先輩を見つけ、俺は挨拶せねばと身構え、光舟は敵意をむき出しにする。…挨拶せずに逃げた方がいいかな?
しかし御幸先輩はこちらの校舎に入らずに、人目を気にするように周りを見渡しながら、中庭に入っていった。そして花壇の影になっている、光先輩がいる方へと迷わず進んでいく…。
…え?まさか…

「…!?」

光舟が窓に張り付いた。
御幸先輩が向かったのは、光先輩の所。光先輩は嬉しそうに笑って、御幸先輩と何かを話している。
人目を阻んであんな風に会うって…あの二人、付き合ってるのか!?

「…って、えっ!?ちょっ…光舟!?」

光舟が校舎を飛び出して行ってしまい、俺は慌てて追いかけながら、逃げればよかったかな…、と考える。でもまあ、面白そうではあるけど…。

「光!」

光舟は光先輩と御幸先輩の間に割って入り、御幸先輩を威嚇し始めた。

「…こうちゃん!?…何してるの?」

光先輩は困惑している。しかし御幸先輩は驚きもせず、おもしろそうに笑みを浮かべていた。

「やっぱりあの親戚の子って、奥村だったのか。」
「…!?なぜ…」
「光の家で写真を見たんだよ。」
「家だと…!!?」

光舟が疑問符を飛び交わせながら光先輩を振り返ると、光先輩は徐々に顔を赤くした。それを見て光舟は顔を青くする。

「…あ、そっか。」

突然、光先輩が手を叩いた。

「ふたりとも野球部だから、知り合いなんだ?」
「つーか、俺、こいつと寮で同部屋なんだよ」
「え!そうだったんですか」

「…それより!!」

暢気な先輩二人に、光舟は苛立ちをあらわにする。…いや、御幸先輩にだけだ。

「どうして家になんか…」

光舟は御幸先輩を睨みつける。御幸先輩はへらりと笑う。

「え…どうしてって、そりゃ…」
「……。」

そわそわと目を合わせる光先輩と御幸先輩。これはもう確定だろう…。

「…付き合ってるから。」
「……!!!」

ガーン。光舟の表情を見ると、そんな音が鳴り響いた気がした。

「な……なぜ…」
「なぜって…両思いだから?」
「……!!!」

こ…光舟、もうやめろ。それ以上はダメージを食らうだけだ…。

「……認めません」
「え?」

ふらり、と光舟は一歩進み出る。

「…あなたは光に相応しくない。光も…正捕手の座も、俺が奪ってみせる。」
「え…」

御幸先輩はぽかんとしていたが、小さく噴出した。

「…何がおかしい?」
「いや…、ププッ、お前、ほんとおもしれーな。いいぜ、まぁ頑張れよ。」

ぽん、と肩に置かれた御幸先輩の手を、光舟は振り払う。

「俺は本気です。油断していたら…足元を掬われますよ。」

そう言い残し、光舟は校舎に戻っていく。俺は先輩たちにぺこりと一礼し、光舟を追いかけた。
まったく…何考えてんだよ!まあ…ちょっと面白かったけど…。

「…光舟!」

光舟に追いついて、俺は呼び止める。

「お前、光先輩のこと…好きだったのか?」

そう訊くと光舟は、曇りひとつない眼で言った。

「…違う。」
「え?」

じゃあ、どうしてあんなことを?

「あんな奴と付き合うなんて…光が汚れる。光は…もっと特別で、綺麗で、月みたいな存在なんだ」
「……は…?」

…よくわかんねーけど、光先輩にただならぬ幻想を抱いているのはわかった。

「俺が…助けないと」
「……。」

迷走してんなー。まあ、面白いからいっか。
よくわからない闘志に燃える光舟を、俺はどこか他人事のように眺めた。

 


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