『午後7時、玉城さんが帰宅してきました。』

部屋の電気をつけ、寝室に入って行く光。しばらくして、ラフなワンピース姿に髪を纏めてリビングに戻ってくる。

『部屋着に着替えたようですね。』
『キッチンに向かいました。夕食の用意でしょうか?』

エプロンを取って身につけながらキッチンに入り、冷蔵庫を開けていくつかのものを取り出す光。

『料理を始めましたね。』
『何を作っているんでしょうか?』
『あれは…かぼちゃですね。かぼちゃを茹でています』
『隣の野菜は何でしょうか?』
『いろいろ入っていますね。丁寧に下処理をしています。手馴れている感じがしますね。』
『いつも作っているんでしょうね。』

20分経過、というテロップが入る。光はボウルの中のものをかき混ぜている。すると、ガチャン、と音がして、光が顔を上げた。

『7時半。御幸選手が帰宅したようです。』

光は手を洗ってエプロンで拭きながらキッチンを出た。

『玉城さん、玄関までお出迎えするようです。』
『いつも玄関までお出迎えするんでしょうか?』
『ラブラブですね〜』

玄関に画面が切り替わり、靴を拭俺の姿が映る。そこへやって来た光が、おかえり、と声をかけた。ただいまと言いながらハグをして、ちゅ、と軽いキスをする。おお〜!?とどよめく歓声が響く。

『おかえりのキスです!』
『いつもしてるんでしょうかね。』

ふたりでリビングに入り、画面はまた切り替わった。俺はシャワーを浴びに脱衣所へ、光は料理を続けにキッチンへ。10分ほどすると、シャワーを浴び終えた俺がリビングに入ってくる。

「ご飯何〜?」
「生姜焼きだよ。」
「おっ、まじで。」

『御幸選手、嬉しそうですね。』
『生姜焼き好きなんでしょうか。』

「なー、今度アレ作ってくれない?先週作ってくれた、かぼちゃの…」
「白和え?」
「それそれ。超美味かった」
「ふふふ、今日作ったよ。」
「えっマジ!?やった〜」

『御幸選手、なんだかはしゃいでいますね。普段と印象とだいぶ違います』
『大きな子供みたいですね。』

しばらくソファでスマホを弄っていた俺が立ち上がり、キッチンへ入る。

『御幸選手がキッチンへ向かいました。』
『手伝うのでしょうか?』

「光〜」

光の背中に軽く抱き着き、後ろから覗きこむ俺。振り向いた光と軽くキスをした。

『ま、またキスをしましたね…。』
『アツアツですね〜』

そしてようやく離れると、俺もエプロンをつけて光の隣に立った。

「もうすぐできるから大丈夫だよ。」
「いーからいーから。これ混ぜんの?」
「うん、サラダ。ありがとう。」

『お手伝いするようです。』
『仲良いですね〜。メンバーからの情報に寄りますと、御幸選手もお料理は得意なようです。』

一緒に料理をして盛付を終えると、ダイニングに料理を運ぶ。俺が席につき、あとから光が飲み物を持ってやってきてテーブルに置くと、ちょっと身を乗り出してきて、俺も見上げて、また軽いキスをする。

『あ〜!またキスしました。』
『何回するんでしょうね。』

ようやく、いただきます、と手を合わせる。

「あ〜、美味い」
「ほんと?」
「ほんとほんと。」

『料理を褒めてもらえるのは嬉しいでしょうね。』
『本当に仲良いですね。』

「今日仕事どうだった?なんかあった?」
「今日はね…ファッション誌の夏服特集の撮影。」
「もう夏?ファッション業界は早いな。寒くなかった?」
「うん、室内だったから。」

『御幸選手、玉城さんの心配して優しいですね〜。』
『愛を感じますね。』

「一也さんは、今日は?」
「ああ…試合前で沢村が張り切っちゃってなー。しかも明日は降谷のとことだし。」

『沢村選手と降谷選手は高校時代御幸選手とバッテリーを組んでいたんですよね。』
『青道の黄金時代です。御幸選手は二人の1学年先輩になりますね。』
『ということは、沢村選手も降谷選手も、玉城さんとは同級生なんですね。』
『玉城さんのマネージャー、牧瀬さんの情報に寄りますと、時々同級生同士で集まることもあるらしいですよ。』

「あはは。沢村君らしい。」
「遠足前にはしゃぐ小学生かっつの。…あ、それで明日さ…」
「あ、お弁当ね。準備してるよ。」
「お〜!ありがとう!」
「応援も行くからね。」
「えっ、来てくれんの?」
「行くよ、撮影で開始には間に合わないけど…3回くらいには着けるかな。ふふ。」
「よし、じゃあそれまでに5点獲る。」
「あはは、ほんとに?降谷君から?」
「あいつのクセは熟知してるし。サヨナラ打ってやろ。」
「今の言葉、降谷君が聞いたら怒るよ。」
「だろうな!はっはっはっは」

『降谷選手、この番組見てますかね〜。』
『本人の耳には間違いなく入るでしょうね。』
『ちなみにこの試合はどうなったんですか?』
『なんと、この日3回表の時点で御幸選手側のチームが4点先取して、4−0でリードしています。』
『あ〜!あと1点だったんですね、惜しい!でもすごいですね。』
『そしてその後2点返されるもさらに3点返し、これで今シーズン3連勝となりました。』
『順調ですね〜』

「でも光が来てくれるんだから、絶対勝つよ。」
「……。」

『…おお〜!!聞いてる方が赤面しちゃいそうなセリフですね。』
『玉城さんもこれは嬉しそうですね。』
『ちなみにこのセリフはあながちウソではないんです。』
『と言いますと?』
『実はこんなデータがありまして…。こちらは御幸選手の年度別の成績表と、所属チームの試合結果になります。』
『…随分と変動が激しいですね?』
『そうなんです。実は赤くなっている時期は全て、御幸選手と玉城さんが破局している時期なんです。』
『え!?……全部ですか!?』
『全部です。』
『…じゃあ逆に…上手くいってる時期はほぼ負けなしじゃないですか!?』
『そうなんです。』
『御幸選手がすごいのか、玉城さんがすごいのか…』
『これはファンの間では有名な話で、玉城さんはファンの間で“勝利の女神”なんて呼ばれているそうですよ。』
『本当にそう思いますよ…。この二人の結婚、一番喜んだのはファンの皆さんかもしれませんね。』
『あ、食事が終わったようです。』

席を立ち、食器をキッチンへ運ぶ俺たち。俺が食器を洗い、光が拭いて仕舞っていく。

『洗い物も一緒にやるんですね〜。』
『仲良すぎでしょう。こんな夫婦いるんですね…。』

「あ、その鍋重いだろ。置いといて。」
「ありがとう。」

『御幸選手、優しいですね〜。』
『ちなみにチームメイトでバッテリーを組んでいる沢村選手に御幸選手の人柄を聞いたところ、人を弄ぶ人でなしの悪魔、との答えを頂いております。』
『えらい違いですね。外面が良いタイプはわかりますけど、御幸選手は逆なんでしょうかね。』
『あ、洗い物が終わりました。』
『ふたりでやると早いですよね。』

コーヒーを淹れはじめる俺、コーヒーカップを取り出してくる光。

『食後のコーヒーを淹れるようです。』
『何も言わなくてもお互い連携していますね。阿吽の呼吸です。』

コーヒーが入ると、2人でソファに並んで座り、テレビをつけた。

「オフ入ったらどっか行きたいな〜。」

GWの海外旅行特集を眺めながら俺が呟く。

「そうだね。どこ行きたい?」
「え〜そうだな…ベッド♪なんつって〜」
「…もう!バカ。」
「はっはっはっは!」

『御幸選手、セクハラですね〜』
『御幸一也になれば玉城光にセクハラできます。』
『ハハハ、なれませんけどね〜』

「そうだな…またイタリア行くのもいいし…でもせっかくなら海行きたいよな〜」
「ハワイ?」
「ハワイはな〜…いいんだけど…誰かに会いそうなのがな〜」
「そう?」
「オフ入ると皆ハワイ行くじゃん。絶対知り合いと会うぜ〜」
「一也さん顔広いもんね。」
「こっちは覚えてねーけどな。」

『御幸選手、コレの放送後大丈夫でしょうか?』
『かなり本音をぶちまけていますよね。』

「お風呂入ってくる。」
「うん。」

光が立ち上がり、俺に軽くキスをした。

『キス4回目です。』
『カウンター回しときましょうか。何回するのか気になるところです。』

「一緒に入る?」
「今日はダメ〜」

手を引きとめて冗談っぽく言う俺に笑い返して、光は脱衣所に入って行く。

『…結婚何年目でしたっけ?』
『えーと…そろそろ2年目ですね。』
『いや〜…付き合いたてのようなラブラブっぷりですね。』
『今日は、ってことは一緒に入る日もあるんでしょうか?』
『あるんでしょうね。』
『あ、御幸選手も立ち上がりましたね』

俺はソファから立ち上がり、テレビを消して、玄関の方からバットを取ってくると、ベランダへと向かった。

『素振りでもするんでしょうか。』
『さすが野球選手ですね。』

50分経過、というテロップ。光が脱衣所からシャツにハーフパンツ姿で現れる。

『イヤ〜スタイル良いですね〜』
『セクシーですね〜。これ事務所オーケーなんでしょうかね。』

それを見計らったかのようにリビングに戻ってくる俺。

『御幸選手も戻ってきました。』
『二人ともソファに座りましたね。』
『おっと…?』

二人並んでソファに座り、どちらからともなく手を繋ぐ。会話はなく、それぞれ雑誌を眺め始める。

『手を繋ぎながら雑誌を読んでいますね…』
『いつもこうなんでしょうか?』
『ここで御幸夫妻の高校生時代を知る、元青道生の方に聞いた、高校時代の夫妻のイメージについてのアンケート結果をご紹介したいと思います。』
『はいはい。』
『えー…「喧嘩ばっかりしていた。月に1度は喧嘩をして、そのたびに御幸選手が玉城さんの教室に通って許してもらえるまで謝っていた。」』
『すでに尻に敷かれていたんですね。』
『こんな回答もあります。「付き合う前から噂になっていた。いつも御幸選手が廊下等で玉城さんを見かけるたびにイタズラをしかけていた。」』
『好きな子を虐めちゃうタイプなんですね〜。』
『でも、これらの回答、今映像で見ている様子とかなりイメージが違いますよね?』
『いや〜、当時も二人っきりの時は甘々だったんじゃないですか〜?』
『その可能性はありますね。』

20分経過、とテロップが流れる。光が口元に手を当て、ふあ、と小さくあくびをした。俺はそれを見て、少し口元が緩む。

「眠い?寝る?」
「うん…」

こっくん、と頷いた光の頭を撫で、そのまま引き寄せてキスをした。そして雑誌を置き、繋いだままの光の手を引いて部屋の電気を消し、寝室に入った。


『…はい!というわけで、あのカップルのプライベートを覗き見!今回のターゲットは何かと話題の美男美女夫婦、御幸一也さんと玉城光さんでした〜!』
『合計キス回数は5回でした!アツアツですね〜!』
『いや〜俺もこんな結婚したい!』


「……。」
「御幸選手、どうされました?」

顔を覆って項垂れた俺に、わざとらしく尋ねる司会者。

「いや…なんすかこれ…」
「実は様々な方々から、『御幸選手がいつものろけ話を自慢してくるが、普段の二人を見ていると到底信じられないので真相を確かめてほしい』というご依頼がありまして、当番組で調査させていただきました。」
「勝手に家ん中…」
「もちろん、万が一放送できない内容がありましても、その、カットする予定でしたので。そこはご安心ください。」
「……。」
「というわけで、今の映像を見たところ…御幸選手は嘘を吐いていなかったという事でよろしいですよね!おめでとうございま〜す!」

ふ…ふざけやがって…

「普段の御幸選手をご存じの方々、どうですか?今の映像を見て。」
「この目で見ても信じがたいですね。」
「同一人物かどうか疑います。」
「猫被ってる。」
「俺にもこれくらい優しくしろ!」
「あ〜うるせーうるせー」

 


ALICE+