『立て続けに嬉しいニュースです!なんと、元女優で現在玉城光さんのマネージャーを務めている牧瀬司さんが、あの超有名財閥玉城グループの日本代表を務める玉城光臣さんと婚約したことが分かりました!』
『二人の出会いは、玉城光さんを介しての紹介で2年程前。交際は約半年とのことです!この報道について、お二人は事実ですと認めているとの…』

「おーおー、すげーニュースで騒がれてんじゃん。」
「……。」

マスコミにおわれたのだろう、牧瀬は珍しく疲れた様子で項垂れている。

「私もう引退して一般人なのに…なんでこんなに騒がれるの?」
「有名人だからな、お前ら二人とも。」
「勘弁してくださいよ〜…」

騒がしい奴なのに、自分が騒がれるのは嫌らしい。まあ、誰だって嬉しくはないよな。

「はっはっは!まあまあ、おめでたいことじゃん。オメデト〜」
「どうも…」
「司、式はいつ頃なの?」

にこにこ、嬉しそうな光を相手にすると、牧瀬もついつい笑顔を浮かべる。

「え〜…まだ決まってないんだよね。でも今年中は無理かなぁ。」
「そっか。まあ、呼ぶ人も多いしね。」
「そうなんだよね、光臣の仕事関係の人とか、呼ばないわけにいかないし…それだけでもう何百人規模で…」
「すげー式になりそうだな」
「私は身内婚が理想だったんですけどね〜…」
「へー、意外」
「自分のために来てもらうのってなんか申し訳ないじゃないですか。自分が行くのは好きだけど…」
「ふーん?そんなもん?」
「私は何かわかるな、それ」

だよねー、と意気投合する二人。やっぱり親友なだけあって、違うタイプに見えても根は似ているのだろうか。

「でもそれより、まだ重大な問題が残ってて…」
「重大な問題?」

にわかに心配そうに眉を下げる光。

「まだ光臣のお父さんたちに挨拶できてないんだよね…。」
「え…どうして?」
「今アメリカにいるらしいの。で、光臣は『結婚したい人がいるから紹介したい』としか言ってないんだって。それで、来週、お父さんと父方の祖父母がこっちに来るらしくて。その時に初対面するの…。」

さすがの牧瀬も不安げにため息をついた。あの祖父母に会うのか…。

「司…、光臣から、私と家のことは聞いてる?」
「え?」

きょとん、と牧瀬は光を見る。

「何のこと?」
「…私、実家と縁を切ってるの。」
「え…。」

息を飲んだ牧瀬に、光はバツが悪そうに続けた。

「司は知らなきゃいけないと思うから、全部話すけど…」
「……。」
「私、実家から、光臣と結婚するように言われたことがあったでしょ。」
「ああ…うちに来た時だよね。」
「うん。それで…そうしないかわりに、祖父と絶縁したの。」
「……。」
「あの時、あの家の中で、味方は叔母と、こうちゃんだけで…。光臣のことも嫌いだった。そのあと、光臣は変わってくれたけど…正直、あの祖父が変わってくれるとは思えない。」
「……。」
「それに…光臣の父親は、私の父より厳しいの。」
「……。」
「私は司のこと大好きだし、尊敬してるし、大丈夫だよって言ってあげたい。だけど…あの人たちはもしかしたら、司のことを傷つけるかもしれない。」

少し目を潤ませる光を見て、俺はいつか、ふたりであの別宅を出て行った日のことを思い出していた。あの日から、光は明るく過ごしていたけど…本当に一度も後悔することはなかったのだろうか。

「…私は光臣みたいに、ものすごい家で育ったわけでもないし、親も普通に共働きで、私も普通に高校を出て、大学へ行って…本当に普通の家で育ったから、光臣の家の人たちの期待には応えられないってわかってるんだ。光臣自身、与えられたことだけじゃなくて、並み外れた努力をして今の地位にいる人だし、きっと、もっとお似合いの人は他にいると思う。」
「……。」
「ハリウッド女優とかね。」

冗談を言った牧瀬に、光は小さく笑った。

「でも、私は一生懸命やって来たって胸を張って言えるし、両親にも感謝してるし、光臣が選んでくれたことにも誇りを持ってる。だから、何か言われても、はいはいって聞き流せるよ。」
「……。」
「私のこと何にも知らない人に何言われたって、痛くもかゆくもない。私のこと、本当にわかってくれてる…光や光臣が認めてくれてるから、それで十分だから。」

光ははにかんで、立ち上がって、牧瀬を抱擁した。牧瀬も嬉しそうにそれに応じる。ほんと…いい友達だな。見ている方は、ちょっと気恥ずかしいけど。

「うわ、やっぱ光って巨乳…」
「……。」

牧瀬がおどけたように呟いて、光はムッと口をとがらせて体を離した。

「抱き着くんじゃなかった。」
「待って光!つい口が滑ったの!」
「牧瀬ー、それ俺のだから」
「一也さん!!」



***


「先に送る荷物ってこれだけ?」
「うん。明日引き取りに来てもらう。」

夜、光と荷造りを進めながら、いよいよだな、としんみり思う。引っ越しは来週だ。光は牧瀬の心配をしていたけど、こればかりはどうにもならない。俺たちがちょうどアメリカに着いた頃に、牧瀬たちは光臣の祖父母や父親と会う時間だ。

「一也さん…」
「ん?」

光がコーヒーを手渡しながら遠慮がちに話しかけてきた。何か大切な話だろうか。ありがとうとカップを受け取って、俺も立ち上がって彼女に向き直る。

「向こうに着いたら、私…叔母に、会いに行きたくて」

そう俯きながら打ち明ける光に、俺は嬉しくなった。叔母さんとは光が入院中に気まずく別れてからそれっきりだ。光のことだからきっと連絡も取れなくて、直接会って謝りたいんじゃないだろうか。あの人は光にとって母親みたいな存在で、実家の数少ない味方のひとり。仲直りできるなら俺も嬉しい。

「ああ、そうだな。」
「……。」
「俺も一緒に行くか?」
「…ううん、大丈夫」
「そっか。でも、送迎は俺がするからな。」
「え…でも、忙しいでしょ?」
「お前の安全より大事なことなんてある?」
「……。」

光は呆れたように笑って、それでもわかったというように頷いた。あのことがあってから、しつこいくらい過保護になってしまったことは自覚しているけど、でも、後悔するときにはもう遅い。できることは全部やって、光を守りたい。

「…大きい家具と家電は向こうで買うとして。処分する家具はこの本だなと…あとはソファ?」
「あ、そういや真田がいらない家具あったらくれって言ってたな」
「真田さんって…」
「真田俊平。でもあいつが使うんじゃなくて、轟が欲しいんだってさ。」
「轟…雷市選手?」
「そうそう。あいつら高校時代からの知り合いだから。真田が色々面倒見てやってんだよ。」

ふうん…、と不思議そうに呟いて、光は素朴な疑問を口にした。

「轟さん…貰い物の家具でいいの?」

その疑問はもっともだ。轟はそれこそメジャーもささやかれる有名な選手だし、家具くらいいくらでも買えるはずだ。

「俺もそう思ったんだけど、あいつ変わっててさ。贅沢がこえーんだと。」
「……?」

疑問符を浮かべる光。まあ、あの別宅に何の疑問も抱かない人生を歩んできた光にはわからない感情だろう。俺はどっちもわかんねーけど。

「明日見に来てもらってもいい?」
「うん。もちろん。」

光が頷いたので、俺は早速真田にメールを打った。



***



「お邪魔しま〜す…」
「お…お邪魔…します…」

翌日の昼。少し緊張した面持ちの真田と、ガチガチに緊張した面持ちの轟がやって来て、俺は苦笑した。

「悪いな、荷造り中で散らかってるけど」
「いや、雷市の部屋より綺麗だぜ。な!」
「カ…カハハ…」

…どんな部屋に住んでんだよ。

「あ…こんにちは。」

キッチンからエプロン姿の光が現れて、二人はガチッと固まった。

「あ、こ…こんちは」
「カハ…カハハ…」
「こ…こら雷市、ちゃんと挨拶しろ」
「はっはっはっは、お前ら親子かよ」

俺の突っ込みに反論もせず、真田は紙袋を取り出す。

「あ…あの、ハリウッドデビュー、おめでとうございます!」
「え?そんな…気を遣わないでください。」
「い、いえ!あ…でも引っ越し前なのに荷物増えちまいますよね、スイマセン!捨てちゃってもいいんで!」
「いえ、そんなこと…いただきます。ありがとうございます。」

微笑んだ光に、真田は照れ笑い。その肩に、ずっしりと体重をかけて手を置いた。

「おーい、俺もメジャーデビューなんだけど?祝ってくれねーのかよ。」
「え、ああ、おめでとう」
「適当だな、オイ」
「ふたりとも、もうお昼は済まされたんですか?」
「い、いえ、まだ…」
「じゃあ、食べていってください。もうすぐできるので」

にこり。笑顔を残してキッチンに戻る光。ぽーっと見惚れる男二人の襟首を俺は引っ掴む。

「何人の嫁に見惚れてんだよ。ほれ、処分する家具はこっちだぞ」
「いてて…わ、わかったって」

ふたりをリビングに連れていき、家具を見せた。本棚にソファ、スツール、キャビネット、タンス、コーヒーテーブルに椅子…。気に入っているものとあまりかさばらないもの以外は処分してしまうから、引き取ってもらえるとこちらもありがたい。

「お〜いっぱいあるな。雷市、気になるもんあるか?」
「え…えと…」

きょどきょど、家具を見渡しては真田を窺うように見る轟。…試合中はあんなに堂々としてんのに、変な奴…。

「洗濯機は必要なんじゃねーか?今のやつはもう壊れそうだろ。」
「う…うん…」
「それから…お、このタンスいいじゃん。押し入れだけじゃ収納足りなかっただろ。このサイズなら居間の窓のあたりに置けるし」
「う…うん…」

結局真田が選んでんじゃねーか。こいつらほんとおもしれーな。

「ご飯できましたよ。」

ひょこ、と顔を出した光に、真田と轟はまた硬直した。轟はともかく、真田ってこんなに女に免疫なかったっけ?面白いけど。
ぎくしゃく歩くふたりをダイニングテーブルに促して、光が作ってくれた料理を囲んだ。鶏肉と蓮根の炊き込みご飯、人参と高野豆腐の味噌汁、和風だしのロールキャベツ、大根の紫蘇和え、ほうれん草と柚子のお浸し、マグロのしょうゆ漬け。ずらりと並んだ料理を前に、真田も轟も息を…いや、唾を飲む。

「すげーごちそうっすね…」
「あはは、冷蔵庫にあるものを使い切っちゃおうと思ったら、すごい量になっちゃって…。お口に合えばいいんですけど」
「いや、すげえ美味そう…いいんですか?こんなに…こいつすげー食いますよ。」

こいつ、と差された轟は、まるで待てをされた犬のように料理にくぎ付けだ。

「ふふふ。たくさん食べてもらえたら助かります。ね。」

小首をかしげて俺を見た光に、そうだなと頷く。
いただきます、と手を合わせて、二人は待ちかねたように料理に箸を伸ばした。

「!美味い…」
「本当ですか?よかった。」

微笑む光にほうっと見惚れる真田。おいおい…俺の存在忘れてねーだろうな。

「いや〜、こんな美人で優しくて、料理もうまいなんて…」
「俺が羨ましいだろ?」
「…まあ、そうだけど…なんか腹立つな〜お前」
「はっはっはっは」

轟は夢中で料理を掻き込んでいる。それに気づいた真田が、呆れ交じりの微笑を浮かべて、まるで父親のように肩を叩いた。

「おい雷市、そんなに慌てて詰め込むな。」

轟ははっとして、こくこく、と頷き、落ち着いて食べ始める。…本当に親子じゃねーか。その様子を見ていた光は、微笑まし気に轟を見つめた。

「たくさん食べてくださいね。」
「…カ…カハハ…」

顔を赤くして目を泳がせ、挙動不審になる轟。

「お前、照れすぎだろ。いつもの勢いはどうした?」
「カ…カハ…」
「悪いな…こいつ人見知りなんだよ。」
「人見知り…?」

光がきょとんと呟いて、じっと轟を見つめた。轟は誤魔化すように笑いながら目を泳がせ、視線から逃れるように体の向きを変え、真田の方に顔を背けた。

「こら、雷市。ちゃんと前向いて食えよ。」
「う…うん…カハ」
「おいおい…大丈夫か?」
「いやー、野郎相手だとわりとすぐ慣れてくれるんだけど…」

真田はちらり、と光を見て、自身も頬を少し染めながら苦笑した。

「こんな綺麗な女の人、普段見ないから…なっ、雷市。」
「カハハ…」
「あはは、真田さん、またそんなこと言って…」

全然本気にせず笑って流した光に、真田は「マジなんすけどね…」と頬をかいて小さな声で呟いた。

 


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