夜、寝室奥のバスルームからバスローブ姿の光が出てきて、ベッドに腰掛ける。俺はベッドに横たわって雑誌を読んでいたけど、身を起こして、彼女を背中から抱きしめた。照れたような笑いがこぼれるのを聞きながら、曝け出されたうなじにキスをして、ゆっくりとバスローブの襟もとから手を侵入させる。そして大きな膨らみを手のひらにおさめると、光がその手を掴んだ。

「ま、待って。倉持さんが…」
「客室まで聞こえないって。平気だよ。」
「で、でも…」
「1か月も我慢できない。」

襟を肩からはだけさせ、現れたふたつの乳房を両手で包み、ゆっくりと揉む。そしてその蕾を指で刺激し始めると、光は甘い吐息を零した。

「んっ…」
「気持ちいい?」
「…はっ…。…あ…。」

答えないけど、体は正直だ。胸を突き出し、足をもじもじさせて、光は俺に身を委ねる。
蕾を刺激し続けて、その体がぴくりと跳ねると、今度はバスローブの紐を解いて、光を裸にした。俺もシャツを脱いで彼女を後ろから抱き込んだまま、足を開かせる。うなじにキスをしながら、もう濡れている花弁に指を滑らせた。少し表面を撫でて、その隙間に滑り込ませる。

「あ…ぁ…。」

俺の腕にしがみつく光。くちゅくちゅと音を立ててそこをほぐしながらキスをして、もう片方の手で胸の蕾を愛撫する。

「んっ…あっ、だめ…っ」

光がそう言った時、びくんと腰が跳ねて、俺の指はぎゅうっと締め付けられた。中をよく解すように撫でてから指を引き抜き、光の手を引いてベッドに横たわらせる。足を開かせ、その濡れた花弁に肉棒を擦りつけて――ゆっくりと沈みこませた。

「ん…。…んう…」

少し息苦しそうに眉を顰め、けど甘い吐息を漏らしながら、光は俺を迎え入れる。初めはゆっくり動かしながら、光が目を瞑ってもどかしげに腰を動かすのを待つ。それから動きを早くして、彼女の感じるところを責めるように。

「んっ……。…ん、っ」

声を抑える光の唇を舐める。倉持がいるからだろうな。けど…俺はいっそ、聞かせてやりたい。

「ん…、や…あっ…、んむ…」

声を漏らす唇を食むように口づけし、舌を絡ませる。

「はっ…、あっ…あっ」

光は声を抑えきれず、戸惑った顔で俺を見つめた。

「やっ…やだ、待って…っ、」
「…っ、待てない」
「な…なんで…っ、今日、どうしたの…?」

その言葉で、いつもより激しく彼女を抱いていることに初めて気づいた。いつもは光が無理していないか、痛みを感じていないか…そればかり気にして、優しく、優しくしているから。

「あっ…!もう…っ」

光が腰を浮かせて達したけど、俺はそのまま腰を動かし続けた。

「や…!あっ、一也さ…っ、や…やだぁ…っ」
「…っ、…なんで?」
「あっ!あ…っ、ゆ…ゆっくり、して…っ…あぁっ」

また達する光。俺も熱を吐き出し、奥に打ち付けるようにして動きを止める。互いに息が上がり、しばらく熱を冷ますように、繋がったまま息を整えた。

「…どうしたの…?」

光は心配そうに俺の頬を撫でる。その肩口に口付けをして、今更後悔した。

「…ごめん」

こんな…無理やりになんて、絶対にしたくなかったはずなのに。どうしちまったんだ、俺…。

「嫌がってたのに…抑えが利かなくて」
「…え?」

俺の髪を撫でていた手が止まった。するとその手は俺を抱きしめ、耳元で声がした。

「…嫌じゃ…ないよ」
「…え、でも」

あんなに、やだ、って…。顔を上げると、光は真っ赤な顔で俺を見上げた。

「つい…やだって言っちゃうけど…」
「……。」
「その…いっぱいいっぱいになっちゃうだけなの」
「……。」
「気持ち…よくて」

目を逸らして恥ずかしそうに呟いた光に、俺は震えるため息を吐き出して、そのまま彼女の胸に顔を埋めた。

「や…、な、なに…?」
「お前ほんと…的確に急所を突いてくるな」
「え…?」

胸に唇を近づける。

「続きしていい?」
「……。」

光は吐息を零し、俺の頭を抱き寄せるように撫でた。

「うん…。でも、次はゆっくりして。明日…仕事行けなくなっちゃう」
「…確かに」

それはまずい。倉持もいるし。俺はゆっくりと、優しく、腰を動かし始めた。


***


目が覚めると、光が俺の胸元ですやすやと眠っていた。ぎゅっと抱きしめたくなるのを堪えて寝顔を眺める。そんなことしたら起こしちゃうし。すう、すう、と静かな寝息を聞きながら、布団から覗く滑らかで細い肩や鎖骨、腕に押されて柔らかく寄せられている胸の谷間に目が移る。…だめだ、あんま見てると朝から…。

「……。」

ゆっくりと目を覚ました光が瞬きをして、目を擦りながら俺を見る。

「おはよ。」
「…ん…」

まだ眠そうにもぞもぞと身を寄せて俺に抱き着いてくる光。そのまままた目を閉じた彼女の髪をそっと撫でた。

「光、時間大丈夫?」
「…今日は10時…」
「そう。」
「…ん…。」
「光。」
「…んん…?」
「胸、当たってる」
「……。」

もぞ、と動いて、眠たそうに起き上がり、布団で胸元を隠しながら俺を睨む光。

「もうちょっと抱き着いてくれててもよかったのに。」
「……。」

ふん、と拗ねたようにそっぽを向くけど、その顔は赤い。

「シャワー先に浴びて来いよ。」
「うん…。」

ほい、と昨日脱ぎっぱなしだったバスローブを肩にかけてやると、光はそれを羽織ってバスルームに入って行った。俺は下着とズボンだけ履いて、そう言えば喉が渇いたとリビングへ向かった。
キッチンで水を飲んでいると、倉持が起きてきて俺を見てぎょっとした。

「テメ…朝から気色わり―もん見せんじゃねーよ!服着ろ!」
「うるせーな〜。お前朝から元気だな」

チッ、と舌打ちをぶつけ、倉持もグラスに水を汲んでソファにどっかと座った。
こいつのことだから、きっと深読みしてくれてるだろう。昨日の夜、何をしてたのか…とか。俺、結構必死なのかな。こんなこと、倉持に見せつけてやりたい、なんて…そんな風に思うなんて。
コーヒーを淹れていると、光がティーシャツにハーフパンツ姿でやって来た。すらりと伸びた綺麗な脚を、倉持がちらりと見るのを俺は見逃さなかった。

「光。」

キッチンに入ってきた彼女の腰を抱き寄せて、わざと見せつけるようにキスをした。

「ちょ…ちょっと、一也さん…」

戸惑う光の腰を撫で、マグカップを差し出す。

「はい、コーヒー」
「あ…ありがとう…」
「俺もシャワー浴びてくる。」
「う、うん…。」

さっきまで光がシャワーを浴びていたことを匂わせる言葉。必要以上にべたべたくっついて、去り際にまた、ちゅっ、と音を立ててキスをする。戸惑いながらも顔を赤くする光と、頑としてこっちを振り向かないで水を飲んでいる倉持。やっぱこいつ、相当光のこと意識してるじゃん。
俺が光を悲しませたら…、なんて口がもう利けないくらい、俺たちの間に入り込む隙なんてないってことを思い知ればいい。俺が光を手放すなんてありえない。離れた時、どれほど辛かったか…この身をもって知っているというのに。

シャワーを浴びてシャツを着てリビングに戻ると、光が朝食を作っていて、倉持が隣で何かをしていた。一緒にキッチンに立つなんて。にわかに胸の奥が熱く燃えるように炙られて、倉持の背後に近づく。

「何してんのお前?」
「…手伝いだけど」

手元にはビニール袋と麺棒。袋の中にはクルミやカシューナッツが入っている。これを砕けと言われたのか。倉持は軽くナッツを麺棒で叩きはじめる。

「あ、もうそのくらいでいいですよ。」

光が言って、ありがとうございます、とビニール袋を受け取って、砕けたナッツをドレッシングに入れた。

「次何すんの?」

なんだか楽しそうに光に手伝いを強請る倉持。光は包丁を取り出しながら微笑む。

「じゃあ、えっと…お鍋見ててもらえますか?」
「おう」
「沸騰したら教えてください。」
「おう」

鍋の前に待機した倉持に微笑んで、光は野菜を切りはじめる。倉持は普段料理なんてしないから、万が一でも手を怪我しないように気を使って簡単なことばかり頼んでるんだろう。どうせ倉持から手伝うとか何とか言ったんだ。これじゃ有難迷惑だ。

「光、これ焼くの?」
「あ、うん。」

とかれた卵を指すと、光は頷いた。

「何が良い?」
「私オムレツ。」
「了解。倉持は?」
「…何でも」
「じゃ、皆オムレツな」

フライパンを熱し、油をひいて、手を翳して温度を確かめてから、溶き卵の3分の1を流し込む。ジュウウ、と香ばしい音がして、軽く菜箸で卵をかき混ぜてから、慣れた動作でひとまとめにし、我ながら綺麗なオムレツを作った。それをさらに移し、また油をひいて卵を流し込む。あっという間にオムレツを三つ作った俺を、倉持はぽかんと眺めていた。

「倉持。沸騰してる」
「え?あ!」

フライパンを片付ける俺と入れ替わって、光がやってきて沸騰した鍋をかきまぜた。俺はキッチンを見渡して、さっき光が切っていた野菜を見つける。レタスにわかめ、トマトにパプリカ。サラダだな。食器を持って来て盛り付けていると、光はそれを見てありがとう、と言った。てきぱきと動き回る俺たちの中で倉持がおろおろと突っ立っていたので、俺は盛りつけたサラダをトレーに乗せて倉持に押し付けた。

「これ持ってって。座ってろよ、もうできるから。」

倉持はちょっとムッとして俺を睨んだが、自分の出る幕はないと悟ったらしく、大人しく席に着いた。
料理を並べ、食事をして、片づけも俺ち光が並んで済ませる。ガキっぽいけど、結局こういうのが一番効くんだ。倉持みたいに、こっそり狙ってる奴には特に。
光が着替えてきてリビングにやってくると、ちょうどインターフォンが鳴った。モニターを見た光が、あ、と呟く。周防が来たのだろう。

「行ってきます。」

俺たちを振り向いてそう言う光に近づき、腰を抱き寄せてキスをした。

「行ってらっしゃい。」
「…ど、どうしたの?なんか…昨日から、変だよ…」
「そう?」

恥ずかしそうに倉持の存在を気にする光。2人っきりの時は、キスするともっと強請るように抱き着いてくるのに。

「いつもしてるじゃん。」
「…そ…そう…だけど…。」

ふたりだけのときは、だけど。光は顔を赤くして、もう行く、と小さく呟いて出かけて行った。
さてと。俺は今日、オフだけど…

「あてつけかよ。」

ソファから不満げな声が投げつけられる。そこにはすっかりご立腹で不機嫌顔の倉持が出来上がっていた。

「まあな。」
「チッ…性悪クソ眼鏡」
「わかってるだろそんなこと。キツかったらホテル行っても良いんだぜ?」
「あっそ」

倉持は暇そうにスマホを弄りはじめる。俺は軽くジョギングでもしようかと思ったけど、ちょうど着信音が鳴り響いた。スマホをポケットから取り出すと、そこに表示されていた名前は武藤尚。尚ちゃんだ。どうしたんだろう。

「はい、もしもし」
『一也君?ごめんなさいね、オフなのに朝から』
「平気だよ。どうしたの?」

電話越しの尚ちゃんは少し遠慮がちに打ち明けた。

『昨日、一也君の家に傘を置いてきちゃったみたいなの。もし今日家にいるなら、取りに行っても良いかしら?』
「傘?」

訊ね返しながら玄関に見に行くと、確かに白い日傘が立てかけてあった。

「ああ、あった。白い日傘?」
『ええ。帰りは夜だったから、うっかりしちゃったわ。』
「珍しいな。尚ちゃんがうっかりなんて。」
『からかわないでよ。』
「ごめんごめん。それなら俺、今から持っていこうか?」
『え?いいわよわざわざ。』
「いや、今からジョギングでもしようと思ってたから、ついでに寄るよ。公園前のアパートだっけ?」
『ええ、赤い5階建ての…。なんだか悪いわね。ごめんなさい。』
「気にしないでよ。じゃあ、今から向かうから」
『わかったわ。ありがとう。』

電話が切れ、俺はタオルとドリンクボトルを取りにリビングに戻った。

「尚ちゃんと浮気かぁ?」

倉持が楽しそうに聞いてくる。

「忘れ物届けるだけだっつの。」
「ふ〜ん」

やけに上機嫌だ。

「期待しても無駄だぞ。俺は光一筋だから」
「はいはい。さっさと行っちまえ」

家主に向かってしっしっと追い払うように手を振る倉持。俺は光が作り置きしてくれている手作りのスポーツドリンクをボトルに移し、タオルと財布を持ってマンションを出た。



***



公園の前に差し掛かった時、俺のスマホにまた着信があった。ポケットから取り出すと、また尚ちゃんからの電話だった。

「もしもし?」
『一也君、公園の入り口。』
「え?」

振り返ると、ゲートの傍に立っている人物が俺に向かって手を振っていた。尚ちゃんだ。

「部屋に呼ぶのはいけない気がしたから、外で待ってたの。」

そうからかうように言って、ありがとう、と日傘を受け取る尚ちゃん。

「急いでる?」
「いや、今日はオフだから」
「奥さんと過ごさないの?」
「光は仕事だよ。」
「そっか…映画の撮影中だものね。私、スペースウォーシリーズ大好きなの。今度の映画も面白そうよね。」

尚ちゃんは無邪気に笑って、公園の方をちょっと振り返った。

「ねえ、暇なら少し話さない?ここの公園の屋台で売ってるミントティーおいしいのよ。」
「ああ、いいよ。」

俺たちは公園に入り、屋台でミントティーを買ってベンチに座った。

「光さんって料理も上手なのね。昨日の食事、どれもとっても美味しかったわ。」
「それならよかった。光、喜ぶよ。」
「ふふ。一也君は女性の理想が高いと思ってたけど、本当に高かったわね。」
「え…」
「お料理上手で美人で優しくて…完璧な奥さんじゃない。よくゲットしたわね。」
「はっはっは…」
「何照れてるのよ。顔赤いわよ。」
「やめてよ…尚ちゃん」

熱を冷ますために冷たいミントティーを少し飲んだ。スッと爽やかな爽快感が口の中に広がる。

「それより、尚ちゃんは?前、婚約したってのは親父から聞いたけど…旦那さんと一緒にアメリカに来たのか?」
「……。」

尚ちゃんは口元に微笑を浮かべ、目を伏せた。その悲しそうな表情に、反射的にしまった、と思った。

「…亡くなったの。」
「…え?」

そう呟いた尚ちゃんの左手の薬指には、何も嵌められていなかった。

「婚約してすぐにね。…交通事故だったわ」
「……。」

…そんなことがあったなんて。相手のことは知らないけど、親父が言うにはたいそう立派な男だったと聞く。

「ごめん…」
「やだ、気を使わないでよ。もう2年も前の話よ。」

尚ちゃんは朗らかに微笑んで、ミントティーを飲んだ。

「それに今は仕事も楽しいし…一也君にも久々に会えたし、幸せよ。」
「……。」

俺は微笑を返したけど、きっと尚ちゃんはまだ、婚約者の死から立ち直れていないんだろうと思った。

「…あら?」

尚ちゃんが空を見上げた。つられて空を見て、いつの間にか灰色の雲が空を覆っていることに気が付いた。耳を澄ますと、ゴロゴロゴロ…と不穏な轟きも響いてくる。

「夕立かしら…」
「降りだす前に帰るか。」
「そうね。」

俺たちは立ち上がって、空っぽになったプラスチックカップをゴミ箱に入れた。速足で公園のゲートまで向かうと、雨は突然降ってきた。それはたちまち目も開けていられないほどの豪雨になった。

「一也君!とりあえず私のアパートに行きましょう」
「え、でも…」
「この雨の中帰るのは危ないわよ。それにすぐに止むわ。」
「…うん」

胸の中で光のことが引っ掛かりながらも、俺は尚ちゃんの背中を追って走り出した。

 


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