最近光が冷たい…気がする。

「お…、おはよ。」

朝、キッチンに光がいて、声をかけると…

「おはようございます。」

一応笑顔で返してはくれる…、んだけど…。

「おはよー」
「おはよう!」

御幸がやってきて、パッと顔を上げて答える光。なんつーキラッキラした笑顔…。ついさっきまで同じ寝室で寝てたのに、御幸が起きてきたことがそんなに嬉しいというのか…。

「ねぇ一也さん今日オフだよね?」
「うん。どっか行く?」
「この前一也さんが言ってた日本の食品が売ってるスーパー、行ってみたい。」
「そういやまだ行ってなかったな。じゃあ行くか。」
「うん!」

うふふ、と嬉しそうに頬を綻ばせる光。つられてにやける御幸。

「今日朝だけ打ち合わせあるから、お昼前には帰るね。」
「オッケー。じゃあ俺も朝だけジム行ってくるけど…」

ちら、と御幸が俺を振り向いて、俺はなぜだかぎくりとした。

「倉持はどうする?」

行く、といつもなら即答していた。でも、こっちを見る光を見ると…そして昨日から急に冷たくなった光の態度を考えると…、なんとなく気が留めて…

「いや…、俺はいいわ」
「そ?」

めずらし、と御幸が呟いて、バスルームに入って行った。光は特に何も言わず、朝食の準備を進める。…やっぱなんかおかしい…よな?


***


「ただいまー」

光が帰ってきた。リビングにやって来た光は、俺を見つけて、きょろきょろ、と部屋の中を見渡した。

「御幸ならまだ出かけてるよ。」

そう言うと、光はまた俺を見た。

「そうですか。」

それだけ言って寝室へ向かう光…。やっぱなんかおかしいって!!
なんで?俺何かした?やっぱ…おかずにしてたこと?いや、でもそれはいいって言ってたし…。それとも御幸に先制布告する宣言したこと?迷惑だって…それを態度で示してんのか?

暫くすると寝室から光が戻ってきた。ラフなTシャツジーンズ姿から、シンプルなワンピース姿に着替えている。しきりに時計を見ながらバッグの中身を整理したりして出かける準備をする光に、俺は思い切って近づいた。

「光。」
「はい?」

…顔も上げない。まどろっこしいのは苦手だ…こんな風に距離を置かれたって、はいそうですかと引き下がるわけにはいかない。俺は…全てを失っても、光だけは…。そう思って、好きでいる決意をしたんだ。こんな終わり方、認めてたまるかよ。

「光。」

今度はもう少し強く、光の名を呼んだ。光はようやく俺を見上げた。
二つの宝石みたいな瞳が俺を移す。

「…俺、なんかしたか?」

自分の声は不思議なくらい部屋の中に響いた。

「…どうしてですか?」

そんな白々しいことを…。それで俺が引き下がると思ってるのか?光…。

「どうしてって…明らかに態度がおかしいからだよ。」
「……。」
「何か…気に障ったなら言ってくれ。頼むから…」
「……。」
「こんなふうに…お前にだけはこんな風に誤魔化されたくねえんだよ。」

光は俺を見つめて、真剣な顔になった。やっぱ…何か考えがあったんだ。

「私のこと…諦めないって言いましたよね。」
「…ああ。」
「迷惑なんです。」

じっと俺を睨んだまま、光が言った。ごくり、と俺の喉が鳴った。
迷惑…?今まで、あんなに思わせぶりだったくせに。今さら…?俺の気持ちはどうなるんだよ。

「えみちゃんと順調だと思ってたのに…」
「……。」
「アメリカにまで来て…、別れたとか言われても…」
「……。」
「私…もう倉持さんのこと、何とも思ってないんです。」
「……。」
「だから、迷惑なんです…」

最後には目を伏せて、光はそう言い切った。
俺は頭が真っ白になって、しばらく立ち尽くして――

「ただいまー」

御幸の声で我に返った。

「あ、おかえりなさい…」

光が踵を返して俺の傍から離れ、御幸に駆け寄っていく。

「ちょっと、シャワーだけ浴びてくる。」
「うん。」
「じゃ、倉持、俺らそろそろ出かけるけど…」

どうする、と訊かれる前に、俺は財布と携帯をポケットに突っ込んだ。

「俺は夕方まで出かける。」
「あ…そう?わかった。」

そのまま御幸の顔を見ずに、光の顔も見ずに、俺はマンションを出た。


***


『【朗報】倉持、御幸光を追いかけて渡米www』

「……。」

ネットの記事に言葉を失った。な…何でバレてんだ…オフを使ってアメリカに来てること…。


001:これは純愛

002:まーだ諦めてなかったのか

003:朗報?悲報だろ

008:倉持ってモデルの彼女いなかった?

010:>008 木崎えみとの密会撮られてたな

012:正直旦那に勝ち目無いからやめとけ

013:御幸もよく許したな倉持が来ること

014:>013眼中にないんじゃね?

017:そろそろストーカーで訴えられそう

018:さすがの盗塁王倉持でも御幸から嫁は盗めんだろ


隙かって書かれているネットの記事をつらつらと眺めていると、着信が鳴った。亮さんだ。

「もしもし…」
『はや。暇なの?』
「……。」

開口一番刺々しいな…。

「まあ…今は暇でした」
『今は?今ってそっち、ちょうど昼時くらいだよね?御幸のとこにいるのに今一人なの?』
「……。」

わかってて聞いてんだろこの人…!!

「御幸たちは…今出かけてんすよ。こっちにいる間世話にはなってるけど、毎日一緒に過ごしてるわけじゃないっすから。」
『ふーん。』

亮さんはあれだけズバズバとつっこんできたくせに、超どうでもよさそうに相槌を打った。

『っていうかさ、アレほんとなの?』
「アレ…って?」
『お前、光ちゃんのこと追いかけてアメリカ行ったの?』
「……。そんなわけないじゃないすか」
『何その妙な間。』
「いや…別に…」
『あのさあ、もういい加減諦めたら?』

亮さんの声ではっきりと告げられた言葉に、俺はギクリとした。

『正直あの子が御幸を捨ててお前を選ぶとは思えないよ。お前が御幸に負けてるってわけじゃなくてさ、あの二人はもう、結婚したことでそれなりの立場を確立してるわけじゃん。現実的な話になるけど…御幸はすごく現実的なところあるし、光ちゃんも似たようなところあるでしょ。だから一緒になったんだと思うし…それは近くにいたお前が一番わかってるだろ?』
「……。」
『さすがの俺も、かわいい後輩に不倫はおすすめできないよ。幸せになれるとは思えない。』
「……。」
『お前がどれだけ光ちゃんのこと好きなのか、少しはわかってるつもりだけどさ…まずは距離を置けよ。せっかくあっちがアメリカに行って、会うことも少なくなったのに、お前が追いかけていってどうするのさ。』

…これを言うために…亮さんは俺に電話をしてきたんだろうか。

『…って、誰かが言わなきゃいけないと思ってさ。お前ももうわかってる事だろうけど…無関係の他人に言われるとクるだろ?』
「……。」

図星で何も言えない。亮さんが俺の為にあえて言ってくれているのもわかるし…俺自身、蓋をして見ないようにしていたことだったから。

『で、お前いつこっちに帰ってくるの?』
「え?…キャンプ前…の予定ですけど」
『はあ?今すぐ帰ってこい。』
「えっ?」
『来週皆でバーベキュー行くから。お前も人数に入ってるし』
「え!?」
『お前肉係だからな。絶対肉持って来いよ?来なかったら…』
「い…行きます!行きます!」

ふふ、と小さく笑う声が聞こえた。

『じゃあ詳しいことはまた連絡するから。とりあえずこっち帰ってこい。国際電話高いんだよ』

ぶつん。亮さんらしい棘を残して電話は切れた。ほんと…あの人って面倒見良いよなぁ…やっぱ兄貴だからか?

 


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