私がアメリカに来てしばらくした頃。
倉持さんとよりを戻したらしいえみちゃんから相談があるという事で、私は光のマンションへ行って、一緒にテレビ通話に参加した。

「で、えみちゃん同棲はどお?」
「順調?」
『……。』

画面の向こうのえみちゃんは何となく落ち込んで見えた。

「なんかあったの?」
『いえ…。』

えみちゃんはちいさく頭を振って、ぽつりと言った。

『なんか…私…』
「ん?」
『…どうしたらいいのか…わからなくて…。』

私は光と顔を見合わせた。

「何が?」
『…洋一さん、あまり…嬉しそうじゃないから…』
「なになに、どういうこと?」
『うまく…言えないんですけど…』

ようするに、倉持さんに何となく覇気がないらしい。同棲を始めて、嬉しく思ったのもつかの間。倉持さんは最近元気がなく、料理を作っても反応がいまいちで、デートをすることも減ったのだとか。

「なにそれ。私がガツンと言おうか?」
『い、いえ…。よ、洋一さんは悪くないんです…』

えみちゃんが慌てて手を振って、光も私を宥めるように見つめた。

『あの…。それで…』
「うん?」
『おふたり…とも、同棲…されてるじゃないですか。光先輩も、結婚前に…。』
「あ、うん。」
『だから…他の人は、どうなのかなって…』
「あ〜なるほど。」

それを相談したかったのか。私は納得がいって、光を見た。

「光の時はどんな感じだった?」
「どうって言われても…特に何も…」

…まー光たちは長年離れ離れになった末にようやく、って感じだったからなぁ…。

「同棲してからのデートは減りがちだと思うけどね。家で会うからあえてどこか二人で出かける必要がないって言うか。」
「……。」
「光、今首傾げたわね?」
「え…、う…。」
「同棲中もよくデートしたの?」
「デートっていうか…ご飯食べに行ったり、散歩したり…」
「デートじゃん」
『……。』

えみちゃんが羨ましそうに光を見つめる。光たちを目標にするのはなかなかつらいと思うけど…奇特なカップルだし。

「じゃー料理は?御幸さんに教わったって言ってたけど」
「うん。私同棲始めた頃は料理なんて全然できなくて」
『え…!?』

えみちゃんが目を丸くして息を飲んだ。うん、そーだよね。光って今ではレシピ本出すほど料理上手の芸能人として周知されてるし…。

「恥ずかしいんだけど、お米の炊き方も知らなかったの…」
「あ〜光んち、お手伝いさんいるもんね…」
『へぇ〜…』
「一也さんは小さい頃から家のことしてて、家事が一通りできたの。だからほんと、最初は頼りきりで…」
「それでそれで?」
「まずは料理教室に通ったの。一也さんには内緒で…。」
「あ〜何か通ってる時期あったね!あれって内緒だったんだ。サプライズ?」
「サプライズって言うか…恥ずかしいじゃん…。」

顔を赤くしてはにかんで、ぱたぱたと顔を仰ぐ光。

「…光かわいい〜〜」
「ちょ、ちょっと…」

つい愛おしさがこみあげて、横から抱き着いてしまった。

「えみちゃん、これだよ。光が愛されるのはこのいじらしい健気さだよ。」
『な、なるほど…!』
「なにそれ…。」

「光〜」

寝室から出てきた御幸さんが光を呼びながらリビングにやってきて、光が立ち上がった。

「あ…ごめん話し中?」
「うん、でも…」

「どうぞどうぞごゆっくり〜」

私が手を振って光の背を押すと、光は笑いながら御幸さんの元へ行った。

「あのさ、あれ…」
「あ!ここにあるよ。」

あれ、とジェスチャーで言う御幸さんに、光はすぐに心得てバスルームへ行って、ポーチを持って戻ってきた。

「おー、ありがとう。」
「行ってらっしゃい。怪我気をつけてね。」
「うん。」

御幸さんは軽く光を抱きしめ、出かけようとした。

『仲良しですね…。』
「えみちゃん、こんなの序の口。二人っきりの時は行ってきますのチューしてんだから。」

「……。」
「……。」

顔を赤くして黙り込む二人。図星かい。

「い…行ってきます」
「い、行ってらっしゃい」

二人がそそくさと逃げるように玄関に姿を消すと、えみちゃんがぽつりと呟いた。

『……いいなぁ…』

そしてすぐに、はっとして赤面し、俯いた。

「えみちゃん…」
『えっ…は、はい?』
「あの二人はかなり奇特だから参考にしない方がいいよ?」
『え…。』

えみちゃんはちょっと困ったように笑って、それでも羨ましそうに口を噤んで俯いた。

 


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