273
「…ん……。」
目が覚めて、カーテン越しにぼんやりと部屋の中を照らす陽光を眺めた。…さみい…。ぶるりと身震いして、布団を手繰り寄せて寝返りを打って…
「……。」
そこにすやすやと眠る天使の寝顔を見て、俺の思考と呼吸は停止した。
「……えっ!?!?」
がばっと起き上がって、肌が一気に冷たい外気にさらされた。な、なんで光が俺の横で寝てんだ…!!?しかも俺、半裸だし…ひ、光も…キャミソール一枚…。…と、目が釘付けになっていると、光が身じろぎをして、うっすらと目を開けた。や、やばい…どうしよう!?つーかなんで俺、こんなことに…!?
「……。」
光の青い目が俺をじっと見つめ、ううん、と眠たげにその目を擦って、光が起き上がった。
「どうしたの…?」
「…え!?」
「…何?」
きょとんと、一緒に寝ているのが当たり前みたいに俺を訝しむ光。ど、どうなってんだ…!!?
光はベッドサイドの時計を見て、俺にしなだれかかった。その柔らかさと温もりと、そして鼻先をくすぐる甘い香りに、俺は頭がくらっとした。
「まだ早いよ…。もうちょっと寝ようよ…」
「ちょ、ちょ…っ、光…」
「んー…?」
俺に抱き着いたまま目を閉じる光。マジで何がどうなってんだ…!?これは夢か!?
「や、やばいって…!!」
こんなとこ、御幸に見られたら…!つーかその前に理性が!!
「…もう…」
光は眠たげにしつつも、ふふっと笑みをこぼして起き上がり、俺の上に跨ってきた…、…え?
「また朝からエッチなこと考えてるんだ。」
「……はっ?」
ど…どうしたんだ光…!?俺の理性を壊しに来てるって!!やばいって!!
俺の上に跨って、光は妖艶に微笑み、ふふふと笑いながら俺の首筋に甘えるようなキスをした。あー…もう…どうにでもして…。
「しょうがないなぁ…」
「ひ…光…。」
「でも…せっかくのお休みだもんね?一也さん。」
ちょん、と俺の唇を食んで、甘い微笑みを浮かべる光に、一瞬意識が遠のきかけて……あれ?と思った。
「…かずやさん?」
「うん?」
「……。…え?」
「どうしたの?」
まさかと思いつつ、自分の手のひらを見る。…何となく見慣れない形…大きさ…爪や指のシルエット…。
「ちょ、ちょっと、ごめん!」
「え?何…、」
光から離れてドレッサーの鏡の前に立って、愕然とした。み…御幸だ…。信じられないけど…俺、御幸の中に入ってる…!?!?嘘だろ!?
「どうしたの?」
光が背中から抱きついてきて訊ねる。くそ…御幸の奴、いつもこんなことされてんのか…!?
……。…つーか…もしかして…。今ベッドに光を押し倒したら…光を抱ける…!?…い、いや!けどそんな騙すみてぇな事…!!
「…しないの?」
「……ッッ!!」
…クソッ!なんだこの拷問…!!我慢できんのか俺…!?
「…なんちゃって。」
「え?」
フッと光が離れて、そのままベッドに座った。
「ごめんね、昨日の夜生理来ちゃった。」
「……。」
「ん?」
「…あ、いや。そ、そっか…。」
ざ…残念とか思ってねーし…!…いや、ちょっと思ってる…。
「それとも…」
「え…?」
「口でしてあげようか?」
ふに…、と赤い唇を人差し指で触れて、光が言った。
口で……。…口で!?!?はっ…、えっ…!?光がそんなこと…!!…えええ!!?
「…ふふっ。どうしたの?今日変だよ。」
「…えっ…あっ…」
「顔真っ赤。寝ぼけてるの?」
光は俺の手を引いてベッドに座らせ、床に膝をついて俺の足の間に座った。ま、まさか…。まさか……。
「おっきくなっちゃったね…。」
そう囁きながら、光の白い柔らかな手が、ズボンの膨らみを撫でた…。え…エロっ…。光、いつもこんななのか…!?御幸とするとき…!!
「いい?」
「え、え…っ、いや…、」
「ふふ。恥ずかしがるなんて珍しいなー。」
「……っ」
「でも可愛い…」
光はからかうように笑いながら、ズボンを下げて固くなった肉棒を取り出した。…なんか御幸のデカくて腹立つんだけど…。…いやいや、今はあいつのことは忘れて…。
「は……。」
「…光…」
「…ん…。」
光は躊躇いもなく肉棒を咥えた。丁寧に舐めながら、愛おし気に愛撫する。うそだろ、こんな…朝から…。こ、こんなこと…。
…つーかすっげえ気持ちいい…!!なにこれ!?
「……っ、…ぁ」
…こ、声出ちまう…!くっそはずい…!けど…き、気持ち良すぎ…。
「…ひもひいい?」
「…や、やばい…」
「んふふ…」
…だからその反応もヤバいって!エロすぎ…!!み、御幸といつもこんな…こんな…!!知りたくなかった…けど…、今は何も考えられないくらい気持ちいい…。
「ん…っ、…」
光はちょっと苦しそうに大きな肉棒を咥え、愛おしげに舐め続ける。光にこんな風にフェラしてもらってるとか…あー、やばい。やばすぎる…。
「…あ、でる…っ」
「んん…。」
「……っあ…!?」
絶頂の瞬間、柔らかな熱に包まれて、その快感を吊り上げるように吸い上げられ、情けない声が出た。こ…こんなフェラ上手いの!?光…。…御幸に仕込まれたのかなぁ…。それしかねーよなぁ…。あ…やべぇ、賢者タイムで余計凹む…。
「んふ…。」
光は肉棒を離し、口の中に液を含んだままはにかんで、バスルームに入って行った。うがいをする音が聞こえる。さすがにそーだよな、飲まねえよな…。
戻ってきた光と目が合うと、光はきょとんと眼を瞬いた。
「ちゃんとうがいしたよ。飲んでないよ。」
「…え?」
「飲むと怒るもんね、一也さん。」
ちょっとむっと拗ねて見せて、光は噴出すように笑った。
そ…そーなの!?なんでだ?普通、男って嫌がる奴いないと思うけど…。
「汚くないのに…。」
「……。」
…あー…なんとなくわかった…。御幸の奴、光にきたねぇことさせたくねーんだな…。相変わらず溺愛してんなー…。…で、光はどっちかっつうと飲みたいわけね…。…羨ましすぎて御幸に殺意湧くな。
「目、覚めちゃった。コーヒー淹れるね。」
光はそう微笑んで、寝室を出て行った。
……さて……。どうやら俺は御幸になってしまったらしいが…。これ、夢じゃない…んだよな。だってさっきの気持ちよさと言ったら…。…あ、やべ…思い出したらまた…。待て待て、鎮まれ。
つーか…それなら御幸はどこ行ったんだ?まさか俺の身体に?
「一也さーん。コーヒーできたよ。」
「あ…、おう!」
俺は慌ててリビングへ行った。光はコーヒーテーブルにマグカップを二つ置き、雑誌を開いていた。光の隣に座り、コーヒーに口をつけ…思わず噴き出しそうになった。ぶ、ブラックか…。そーか、御幸だもんな…。…クソ苦い。
「ねえ。」
「…え?」
くい、と光が俺の腕を引っ張った。
「これ、どっちがいい?」
「え?……!?」
何気なく光が見せてきたページには…女物の下着がでかでかと載っていた。ひとつは黒いレースのエロいやつ、もうひとつはピンク色のこれまたエロいやつ…。か、勘弁しろよ…!!
「一也さんって黒い下着好きだよね。」
「……。」
…へー…。そうなんだ…。超どうでもいいこと知ったわ…。
「フロントホックがいいんだっけ?」
「え…。」
「でもなー。フロントホックってアンダーが調整できなくてどうしてもちょっと緩いんだよね…」
「……。」
「あ、これ…ノンワイヤーかぁ。サイズあるかな…。」
「……。」
…いつも一緒に下着選んでんのか…?うそだろ…?
「…やめた。」
ぱたん、と光は雑誌を閉じた。
「やっぱりちゃんと試着してから買う。」
「…そ、そお…」
「でもお店にサイズあるかなぁ…。」
ぽそぽそ呟きながら、光はサイズを確かめるように両腕で胸を寄せ上げた。た…谷間…!
「…さ、サイズ…って…」
「え?」
…ヤベェ!何聞いてんだ俺!普通にセクハラじゃねーか!!
「H65だよ。」
「……。」
「知ってるでしょ?」
…エイチ……H!?マジ?そんなデケェの光!?うわ、マジか…はぁ〜…なんかもう…駄目だ…。
「何か今日の一也さん変。」
「…え!?」
ぎくり。
「全然喋んないし…」
「……。」
「胸も触ってこないし…」
「…えっ?」
…いつも光の胸ベタベタ触ってんのかあいつ!?
「何かあったの?」
「……っ、…いや…、別に……」
「……。」
光はじっと俺の目を見つめたあと、そう、と呟いた。
解放された…、と思った矢先、光は俺の膝に跨ってきて、両手で俺の頬を包んできた。
「嘘。」
「……へ?」
「何か隠してるでしょ。」
す…、鋭い……!やっぱいつも一緒にいるからか、御幸の変化には敏感だな…。そりゃそーか、中身別人なんだから…。
「相談してくれないの?」
「……えっと」
「……。」
悲しそうな目で俺を見つめる光…。だ、だめだ…これ以上悲しませたくない…っ!!
「…じ、実は…」
「うん?」
「…俺もちょっと信じらんねーんだけど…」
「…うん」
「…つーかまだよくわかってすらいないんだけどよ…、」
「……。」
ぱちくり、光が一瞬驚いたように目を瞬いて、考えるように目を逸らし、すとん、と力が抜けたように俺の膝の上に座り込んだ。
「光?」
「…え?」
「いや、今なんか…どうかしたか?」
「……。…ううん…。」
ふるふる頭を振って、だけど釈然としない顔のまま、光は首を傾げた。
「…それで、何?一也さんの話…」
「…あ、あぁ…。えーと…」
「……。」
「…変なこと…言うけど…」
「……。」
「……俺……、…御幸じゃない…んだけど…」
光の青い瞳が射抜くように俺の顔を見つめる…。
「……え?」
「いや、わかってる、頭おかしいよな。けどマジで俺…、御幸じゃなくて…」
「……。」
「け、今朝起きたら…こうなってて…」
「……。」
「俺…、…倉持…なんだけど……」
「……。」
光は黙ったまま、ゆっくりと俺の上から退いて、隣に座りなおした。…ちょっとショック…。
「……今日って4月……」
「いや12月。つーかエイプリルフールじゃなくて!マジなんだよ、…って信じられるわけねーよな…」
「……。」
「気持ちはわかる。俺も信じらんねーし…でも鏡見たら…どう見ても御幸だし…」
「……確かに…」
「え?」
「言葉遣いが変。」
「へ…、」
変って……。いつも通り喋ってるんだけど…。俺の喋り方って変なのか…!?
「あ…!ごめんなさい、変ってそういう意味じゃ…。」
「いや…、いいって…。」
光は慌てて謝って、それからしばらく考え込んで、思い出したように顔を真っ赤にした。…あ…。さっき、御幸だと思ってあんなことしたから…。今さら自覚したのかな…。…ってあの時点でちゃんと拒否ってない俺って、幻滅されてるんじゃ…。
「…本当に?倉持さん…なの?」
「お…おう」
「……。」
息を飲んだ光の膝元で、スマホが鳴った。御幸のだ。発信元は…倉持洋一。ってことは…。
あ、と息を飲んだ光と顔を見合わせて、俺は緊張しつつ応答ボタンを押した。
「…はい。」
『…もしもし。』
自分の声が聞こえた。変な感じだ。
「……。」
『あのさ…変なこと聞くけど、気にしないで答えてほしーんだけど…』
「…ああ」
『お前……倉持か?』
その質問を隣で聞いていた光は口に手を当てて目を丸くした。
「…ああ」
『……。…マジか……。なんでこんな…』
「俺も…まさかとは思ったけど…」
『…俺たち入れ替わった…ってこと?』
「…みたいだな」
電話の向こうから盛大なため息が聞こえた。
『光は?』
「隣にいるけど…」
『知ってんの?』
「今、ちょうど話してた」
『え…それで?』
「代わるよ」
ほい、とスマホを光に手渡した。光は息を飲んで、意を決したようにスマホを耳にあてた。
「……も…もしもし?」
『光?』
うん、と頷く光の表情は、まだ戸惑いばかりが滲んでいる。
『信じられないと思うけど、俺たち…』
「う…うん。なんとなく…わかるよ。」
『え?ほんと?』
「うん…声は倉持さんだけど…話してる感じが…一也さんだと思う…。」
御幸が安堵したような声で何かを答えた。光に信じてもらえたことでひとまずは落ち着いたようだった。
野球はオフシーズンだし、人と会う予定もないから、そこは俺も安心したけど…問題はいつ戻れるか…。
『そういえばこっち、木崎さんいないんだけど。倉持今同棲してるんじゃなかった?』
「え?」
『聞いてみて。』
光がスマホから耳を話し、俺を見た。
「…あー、えみは今、撮影で沖縄に…明後日?帰ってくるけど」
「だって。」
『ふーん…ならよかった』
今日は適当に一人で過ごすわ、とのんきな俺の声が聞こえた。
『光。』
「何?」
『誰か家に呼んで。』
「え?」
『あ、周防呼べ周防。倉持と二人っきりになるなよ。』
「人を犯罪者みてえに…」
「……。」
文句を言いかけたけど、さっきの事を思い出して熱くなる顔を背けた。…バレたらまずいよなぁ…。
「…ご ごめんなさい…。」
『え?』
「さっき私…。」
え、ちょ…まさか光、正直に言う気か…!?
『どした?』
「さ、さっき…。」
『ん?』
「……し、…しちゃった…」
『……。』
しばらく沈黙が流れた。やべぇ俺、殺されるかも。
『…な、何を?』
「……。…あの…、…口で…。」
『……えっ!?』
「か、一也さんだと思ってたから…!」
ごめんなさい、と泣き出しそうな声で謝る光に、御幸が怒れるわけもなく…
『…あ〜〜……えぇ〜〜〜…』
「……。」
『……いやでもそれは…倉持が悪い。』
「ハァ!?」
『だってお前わかってたのに、何で拒否しねぇんだよ。言えよ一也じゃないって』
「俺も何が何だかわかんなかったんだよ!夢かと思ったし!」
『本番はしてないよね?』
「してねーよ!」
『つか俺の体だから!倉持にしたわけじゃないから!』
「わかってるわんなこと!!」
『ああ〜〜俺がいつも朝からセクハラ仕掛けてたから…』
「な…っ生々しい事言うなよ!!」
「……。」
光は顔を真っ赤にして黙り込んだ。普段何してんだこいつら…。
『とにかく光、すぐ周防呼んで。今日家にいてもらって。』
「う…うん…聞いてみるね…。」
「てか、周防って?」
『光のマネージャー。牧瀬がいればよかったけどな〜…』
「先週日本に帰っちゃったから…。…あ、周防君出た。」
光は自分のスマホを耳に当てた。
「もしもし…。朝からごめん。今日予定開いてる?」
『どうかされたんですか。』
「ちょっと困ったことになって…もし大丈夫なら今日周防君に一緒にいてもらいたいんだけど…。」
…光に「一緒にいてもらいたい」なんて言われたら、大抵の男は勘違いして舞い上がるよなぁ…。マネージャー男なのに大丈夫なのか?
『では今から向かいます。10分ほどで着きます。』
「予定大丈夫?せっかくの休みでしょ?」
『お気になさらず。では運転するのでこれで失礼します。』
…なんかロボットみてえな奴だな。マネージャーは一度見たことあるけど、真面目そうな…結構イケメンだったような。
「周防君、来てくれるって。」
『ならよかった。信じるかわかんねーけど、とりあえず事情説明して…今日は家にいてもらえよ。』
「う、うん…。」
別に俺は光をどうこうするつもりはないし、光もそれはわかってるだろう。だけど御幸に従うのは、きっと、御幸を安心させたいからだ。
「じゃあね…。」
光はどこか寂しそうに言って、電話を切った。
「…あ。朝ごはん作る…、作ります。」
ぎこちない敬語ではにかんでキッチンに向かう光。その途中で、ガウンをキャミソールの上に羽織って肌を隠した。
「別にいいよ、タメ口で…」
一応気遣ったつもりでそう笑って見せたけど、光は困ったように笑うだけだった。
光が料理を始めて10分ほど経った頃、インターフォンが鳴った。
「俺、出るよ。」
料理を中断しようとした光にそう言って、俺は玄関に向かった。ドアを開けると、以前見たことのある男が立っていた。マネージャーの周防だろう。
「おはようございます。光さんから連絡があって来ました。」
周防は礼儀正しく不快お辞儀をして、じっと俺を見た。
「…あぁ、おう、どうぞ…」
「失礼します。」
もう一度お辞儀をして、周防は部屋に入って行った。
「おはようございます。」
「あ、おはよう。」
俺もあとから部屋に入って行き、挨拶を交わすふたりを見る。
「それで、どうされたんですか。」
「あ、うん…座って話す。周防君朝ごはんは?」
「……軽く。」
「じゃあ、一緒に食べよう。」
「え…ですが…」
「もう作っちゃってるから。」
周防はここへきて初めて動揺をにじませたが、光の言葉を受け入れて部屋の片隅に立った。座ってて、と光が言っても、大丈夫です、と首を振ったけど。
…なんか、御幸がこいつを呼べと言ったのも何となくわかるな。クソがつくほど真面目だ。光に手を出すとは思えない。
光はキッシュ、と呼ばれる卵のタルトみたいなものと、サラダとスープを作って食卓に並べた。朝からレストランの朝食みたいだ。やっぱすげえな、光って…。御幸は幸せモンだ…。
「…いただきます。」
「いただきます。」
「どうぞ。」
食事をはじめ、周防が遠慮がちにキッシュにナイフを入れるのを横目に、俺はスープを一口飲んだ。…うまっ。相変わらず料理上手だなぁ〜光…。
「…とても美味しいです。」
周防が本心か礼儀かわからないほど真面目な顔で呟いた。光は、よかった、とほほ笑んだ。
周防はどこか急いでプレートの上の料理をきれいに平らげ、光に頭を下げた。
「ごちそうさまでした。」
「え?もう?周防君食べるの早いね…。」
「…いえ。ご夫婦の食事にお邪魔してしまって…」
申し訳ありません、とばつがわるそうに言う周防に、光は目を瞬いて、ちらりと俺を見た。
「…そのことなんだけど…。」
「?」
疑問符を浮かべた周防に、光は事情を話しはじめた。
「……それで、一也さんと倉持さんが、その…。…入れ替わった?みたいなの…。」
「……。」
静かに光の話を聞いていた周防は、にわかに眉根を寄せ、俺の…いや、御幸の顔を観察し始めた。
「し、信じられないとは思うんだけど…。私も話してて、何か違和感あるし…。多分本当だと思う…。」
「……。」
「それに倉持さんのスマホから、朝、電話が来て…一也さんだって言うし…」
「……。」
「それで…一也さんが、誰かに…周防君にいてもらえって…。」
「……。…そう、ですか。わかりました。」
すっきりしない顔で、しかし周防は光に少しの反論もせず、素直に了承した。それでいいのかお前…。
「そ、そんな簡単に信じんの?」
「…光さんは、意味もなく嘘を吐くことはありませんから。」
「からかってるだけかもとか思わねーか普通?」
「それならそれで、楽しんでいただけるなら、それは意味のあることですから。」
「えぇ…?」
なんだこいつ。変な奴。
「…周防君って変わってるね…。」
さすがの光もどこか引き気味に呟いた。しかし周防は毅然とした表情で堂々と姿勢正しく座っている。
「それに今、確信しました。」
「え?」
「確かにあなたはご主人とは違う気がします。」
「へぇ…?どこが?」
「言葉づかいが特に、おかしいです。」
「……。」
くっと俯いて口元を抑える光。わ、笑いを堪えている…。
「……へ〜〜。そうかよ…。まーわかってくれりゃあ別に、それでいいけどよ…。」
「…お、お茶、淹れてきます…。」
光が噴き出してしまったことを誤魔化すように席を立ち、赤い顔を隠してキッチンに向かった。
目が覚めて、カーテン越しにぼんやりと部屋の中を照らす陽光を眺めた。…さみい…。ぶるりと身震いして、布団を手繰り寄せて寝返りを打って…
「……。」
そこにすやすやと眠る天使の寝顔を見て、俺の思考と呼吸は停止した。
「……えっ!?!?」
がばっと起き上がって、肌が一気に冷たい外気にさらされた。な、なんで光が俺の横で寝てんだ…!!?しかも俺、半裸だし…ひ、光も…キャミソール一枚…。…と、目が釘付けになっていると、光が身じろぎをして、うっすらと目を開けた。や、やばい…どうしよう!?つーかなんで俺、こんなことに…!?
「……。」
光の青い目が俺をじっと見つめ、ううん、と眠たげにその目を擦って、光が起き上がった。
「どうしたの…?」
「…え!?」
「…何?」
きょとんと、一緒に寝ているのが当たり前みたいに俺を訝しむ光。ど、どうなってんだ…!!?
光はベッドサイドの時計を見て、俺にしなだれかかった。その柔らかさと温もりと、そして鼻先をくすぐる甘い香りに、俺は頭がくらっとした。
「まだ早いよ…。もうちょっと寝ようよ…」
「ちょ、ちょ…っ、光…」
「んー…?」
俺に抱き着いたまま目を閉じる光。マジで何がどうなってんだ…!?これは夢か!?
「や、やばいって…!!」
こんなとこ、御幸に見られたら…!つーかその前に理性が!!
「…もう…」
光は眠たげにしつつも、ふふっと笑みをこぼして起き上がり、俺の上に跨ってきた…、…え?
「また朝からエッチなこと考えてるんだ。」
「……はっ?」
ど…どうしたんだ光…!?俺の理性を壊しに来てるって!!やばいって!!
俺の上に跨って、光は妖艶に微笑み、ふふふと笑いながら俺の首筋に甘えるようなキスをした。あー…もう…どうにでもして…。
「しょうがないなぁ…」
「ひ…光…。」
「でも…せっかくのお休みだもんね?一也さん。」
ちょん、と俺の唇を食んで、甘い微笑みを浮かべる光に、一瞬意識が遠のきかけて……あれ?と思った。
「…かずやさん?」
「うん?」
「……。…え?」
「どうしたの?」
まさかと思いつつ、自分の手のひらを見る。…何となく見慣れない形…大きさ…爪や指のシルエット…。
「ちょ、ちょっと、ごめん!」
「え?何…、」
光から離れてドレッサーの鏡の前に立って、愕然とした。み…御幸だ…。信じられないけど…俺、御幸の中に入ってる…!?!?嘘だろ!?
「どうしたの?」
光が背中から抱きついてきて訊ねる。くそ…御幸の奴、いつもこんなことされてんのか…!?
……。…つーか…もしかして…。今ベッドに光を押し倒したら…光を抱ける…!?…い、いや!けどそんな騙すみてぇな事…!!
「…しないの?」
「……ッッ!!」
…クソッ!なんだこの拷問…!!我慢できんのか俺…!?
「…なんちゃって。」
「え?」
フッと光が離れて、そのままベッドに座った。
「ごめんね、昨日の夜生理来ちゃった。」
「……。」
「ん?」
「…あ、いや。そ、そっか…。」
ざ…残念とか思ってねーし…!…いや、ちょっと思ってる…。
「それとも…」
「え…?」
「口でしてあげようか?」
ふに…、と赤い唇を人差し指で触れて、光が言った。
口で……。…口で!?!?はっ…、えっ…!?光がそんなこと…!!…えええ!!?
「…ふふっ。どうしたの?今日変だよ。」
「…えっ…あっ…」
「顔真っ赤。寝ぼけてるの?」
光は俺の手を引いてベッドに座らせ、床に膝をついて俺の足の間に座った。ま、まさか…。まさか……。
「おっきくなっちゃったね…。」
そう囁きながら、光の白い柔らかな手が、ズボンの膨らみを撫でた…。え…エロっ…。光、いつもこんななのか…!?御幸とするとき…!!
「いい?」
「え、え…っ、いや…、」
「ふふ。恥ずかしがるなんて珍しいなー。」
「……っ」
「でも可愛い…」
光はからかうように笑いながら、ズボンを下げて固くなった肉棒を取り出した。…なんか御幸のデカくて腹立つんだけど…。…いやいや、今はあいつのことは忘れて…。
「は……。」
「…光…」
「…ん…。」
光は躊躇いもなく肉棒を咥えた。丁寧に舐めながら、愛おし気に愛撫する。うそだろ、こんな…朝から…。こ、こんなこと…。
…つーかすっげえ気持ちいい…!!なにこれ!?
「……っ、…ぁ」
…こ、声出ちまう…!くっそはずい…!けど…き、気持ち良すぎ…。
「…ひもひいい?」
「…や、やばい…」
「んふふ…」
…だからその反応もヤバいって!エロすぎ…!!み、御幸といつもこんな…こんな…!!知りたくなかった…けど…、今は何も考えられないくらい気持ちいい…。
「ん…っ、…」
光はちょっと苦しそうに大きな肉棒を咥え、愛おしげに舐め続ける。光にこんな風にフェラしてもらってるとか…あー、やばい。やばすぎる…。
「…あ、でる…っ」
「んん…。」
「……っあ…!?」
絶頂の瞬間、柔らかな熱に包まれて、その快感を吊り上げるように吸い上げられ、情けない声が出た。こ…こんなフェラ上手いの!?光…。…御幸に仕込まれたのかなぁ…。それしかねーよなぁ…。あ…やべぇ、賢者タイムで余計凹む…。
「んふ…。」
光は肉棒を離し、口の中に液を含んだままはにかんで、バスルームに入って行った。うがいをする音が聞こえる。さすがにそーだよな、飲まねえよな…。
戻ってきた光と目が合うと、光はきょとんと眼を瞬いた。
「ちゃんとうがいしたよ。飲んでないよ。」
「…え?」
「飲むと怒るもんね、一也さん。」
ちょっとむっと拗ねて見せて、光は噴出すように笑った。
そ…そーなの!?なんでだ?普通、男って嫌がる奴いないと思うけど…。
「汚くないのに…。」
「……。」
…あー…なんとなくわかった…。御幸の奴、光にきたねぇことさせたくねーんだな…。相変わらず溺愛してんなー…。…で、光はどっちかっつうと飲みたいわけね…。…羨ましすぎて御幸に殺意湧くな。
「目、覚めちゃった。コーヒー淹れるね。」
光はそう微笑んで、寝室を出て行った。
……さて……。どうやら俺は御幸になってしまったらしいが…。これ、夢じゃない…んだよな。だってさっきの気持ちよさと言ったら…。…あ、やべ…思い出したらまた…。待て待て、鎮まれ。
つーか…それなら御幸はどこ行ったんだ?まさか俺の身体に?
「一也さーん。コーヒーできたよ。」
「あ…、おう!」
俺は慌ててリビングへ行った。光はコーヒーテーブルにマグカップを二つ置き、雑誌を開いていた。光の隣に座り、コーヒーに口をつけ…思わず噴き出しそうになった。ぶ、ブラックか…。そーか、御幸だもんな…。…クソ苦い。
「ねえ。」
「…え?」
くい、と光が俺の腕を引っ張った。
「これ、どっちがいい?」
「え?……!?」
何気なく光が見せてきたページには…女物の下着がでかでかと載っていた。ひとつは黒いレースのエロいやつ、もうひとつはピンク色のこれまたエロいやつ…。か、勘弁しろよ…!!
「一也さんって黒い下着好きだよね。」
「……。」
…へー…。そうなんだ…。超どうでもいいこと知ったわ…。
「フロントホックがいいんだっけ?」
「え…。」
「でもなー。フロントホックってアンダーが調整できなくてどうしてもちょっと緩いんだよね…」
「……。」
「あ、これ…ノンワイヤーかぁ。サイズあるかな…。」
「……。」
…いつも一緒に下着選んでんのか…?うそだろ…?
「…やめた。」
ぱたん、と光は雑誌を閉じた。
「やっぱりちゃんと試着してから買う。」
「…そ、そお…」
「でもお店にサイズあるかなぁ…。」
ぽそぽそ呟きながら、光はサイズを確かめるように両腕で胸を寄せ上げた。た…谷間…!
「…さ、サイズ…って…」
「え?」
…ヤベェ!何聞いてんだ俺!普通にセクハラじゃねーか!!
「H65だよ。」
「……。」
「知ってるでしょ?」
…エイチ……H!?マジ?そんなデケェの光!?うわ、マジか…はぁ〜…なんかもう…駄目だ…。
「何か今日の一也さん変。」
「…え!?」
ぎくり。
「全然喋んないし…」
「……。」
「胸も触ってこないし…」
「…えっ?」
…いつも光の胸ベタベタ触ってんのかあいつ!?
「何かあったの?」
「……っ、…いや…、別に……」
「……。」
光はじっと俺の目を見つめたあと、そう、と呟いた。
解放された…、と思った矢先、光は俺の膝に跨ってきて、両手で俺の頬を包んできた。
「嘘。」
「……へ?」
「何か隠してるでしょ。」
す…、鋭い……!やっぱいつも一緒にいるからか、御幸の変化には敏感だな…。そりゃそーか、中身別人なんだから…。
「相談してくれないの?」
「……えっと」
「……。」
悲しそうな目で俺を見つめる光…。だ、だめだ…これ以上悲しませたくない…っ!!
「…じ、実は…」
「うん?」
「…俺もちょっと信じらんねーんだけど…」
「…うん」
「…つーかまだよくわかってすらいないんだけどよ…、」
「……。」
ぱちくり、光が一瞬驚いたように目を瞬いて、考えるように目を逸らし、すとん、と力が抜けたように俺の膝の上に座り込んだ。
「光?」
「…え?」
「いや、今なんか…どうかしたか?」
「……。…ううん…。」
ふるふる頭を振って、だけど釈然としない顔のまま、光は首を傾げた。
「…それで、何?一也さんの話…」
「…あ、あぁ…。えーと…」
「……。」
「…変なこと…言うけど…」
「……。」
「……俺……、…御幸じゃない…んだけど…」
光の青い瞳が射抜くように俺の顔を見つめる…。
「……え?」
「いや、わかってる、頭おかしいよな。けどマジで俺…、御幸じゃなくて…」
「……。」
「け、今朝起きたら…こうなってて…」
「……。」
「俺…、…倉持…なんだけど……」
「……。」
光は黙ったまま、ゆっくりと俺の上から退いて、隣に座りなおした。…ちょっとショック…。
「……今日って4月……」
「いや12月。つーかエイプリルフールじゃなくて!マジなんだよ、…って信じられるわけねーよな…」
「……。」
「気持ちはわかる。俺も信じらんねーし…でも鏡見たら…どう見ても御幸だし…」
「……確かに…」
「え?」
「言葉遣いが変。」
「へ…、」
変って……。いつも通り喋ってるんだけど…。俺の喋り方って変なのか…!?
「あ…!ごめんなさい、変ってそういう意味じゃ…。」
「いや…、いいって…。」
光は慌てて謝って、それからしばらく考え込んで、思い出したように顔を真っ赤にした。…あ…。さっき、御幸だと思ってあんなことしたから…。今さら自覚したのかな…。…ってあの時点でちゃんと拒否ってない俺って、幻滅されてるんじゃ…。
「…本当に?倉持さん…なの?」
「お…おう」
「……。」
息を飲んだ光の膝元で、スマホが鳴った。御幸のだ。発信元は…倉持洋一。ってことは…。
あ、と息を飲んだ光と顔を見合わせて、俺は緊張しつつ応答ボタンを押した。
「…はい。」
『…もしもし。』
自分の声が聞こえた。変な感じだ。
「……。」
『あのさ…変なこと聞くけど、気にしないで答えてほしーんだけど…』
「…ああ」
『お前……倉持か?』
その質問を隣で聞いていた光は口に手を当てて目を丸くした。
「…ああ」
『……。…マジか……。なんでこんな…』
「俺も…まさかとは思ったけど…」
『…俺たち入れ替わった…ってこと?』
「…みたいだな」
電話の向こうから盛大なため息が聞こえた。
『光は?』
「隣にいるけど…」
『知ってんの?』
「今、ちょうど話してた」
『え…それで?』
「代わるよ」
ほい、とスマホを光に手渡した。光は息を飲んで、意を決したようにスマホを耳にあてた。
「……も…もしもし?」
『光?』
うん、と頷く光の表情は、まだ戸惑いばかりが滲んでいる。
『信じられないと思うけど、俺たち…』
「う…うん。なんとなく…わかるよ。」
『え?ほんと?』
「うん…声は倉持さんだけど…話してる感じが…一也さんだと思う…。」
御幸が安堵したような声で何かを答えた。光に信じてもらえたことでひとまずは落ち着いたようだった。
野球はオフシーズンだし、人と会う予定もないから、そこは俺も安心したけど…問題はいつ戻れるか…。
『そういえばこっち、木崎さんいないんだけど。倉持今同棲してるんじゃなかった?』
「え?」
『聞いてみて。』
光がスマホから耳を話し、俺を見た。
「…あー、えみは今、撮影で沖縄に…明後日?帰ってくるけど」
「だって。」
『ふーん…ならよかった』
今日は適当に一人で過ごすわ、とのんきな俺の声が聞こえた。
『光。』
「何?」
『誰か家に呼んで。』
「え?」
『あ、周防呼べ周防。倉持と二人っきりになるなよ。』
「人を犯罪者みてえに…」
「……。」
文句を言いかけたけど、さっきの事を思い出して熱くなる顔を背けた。…バレたらまずいよなぁ…。
「…ご ごめんなさい…。」
『え?』
「さっき私…。」
え、ちょ…まさか光、正直に言う気か…!?
『どした?』
「さ、さっき…。」
『ん?』
「……し、…しちゃった…」
『……。』
しばらく沈黙が流れた。やべぇ俺、殺されるかも。
『…な、何を?』
「……。…あの…、…口で…。」
『……えっ!?』
「か、一也さんだと思ってたから…!」
ごめんなさい、と泣き出しそうな声で謝る光に、御幸が怒れるわけもなく…
『…あ〜〜……えぇ〜〜〜…』
「……。」
『……いやでもそれは…倉持が悪い。』
「ハァ!?」
『だってお前わかってたのに、何で拒否しねぇんだよ。言えよ一也じゃないって』
「俺も何が何だかわかんなかったんだよ!夢かと思ったし!」
『本番はしてないよね?』
「してねーよ!」
『つか俺の体だから!倉持にしたわけじゃないから!』
「わかってるわんなこと!!」
『ああ〜〜俺がいつも朝からセクハラ仕掛けてたから…』
「な…っ生々しい事言うなよ!!」
「……。」
光は顔を真っ赤にして黙り込んだ。普段何してんだこいつら…。
『とにかく光、すぐ周防呼んで。今日家にいてもらって。』
「う…うん…聞いてみるね…。」
「てか、周防って?」
『光のマネージャー。牧瀬がいればよかったけどな〜…』
「先週日本に帰っちゃったから…。…あ、周防君出た。」
光は自分のスマホを耳に当てた。
「もしもし…。朝からごめん。今日予定開いてる?」
『どうかされたんですか。』
「ちょっと困ったことになって…もし大丈夫なら今日周防君に一緒にいてもらいたいんだけど…。」
…光に「一緒にいてもらいたい」なんて言われたら、大抵の男は勘違いして舞い上がるよなぁ…。マネージャー男なのに大丈夫なのか?
『では今から向かいます。10分ほどで着きます。』
「予定大丈夫?せっかくの休みでしょ?」
『お気になさらず。では運転するのでこれで失礼します。』
…なんかロボットみてえな奴だな。マネージャーは一度見たことあるけど、真面目そうな…結構イケメンだったような。
「周防君、来てくれるって。」
『ならよかった。信じるかわかんねーけど、とりあえず事情説明して…今日は家にいてもらえよ。』
「う、うん…。」
別に俺は光をどうこうするつもりはないし、光もそれはわかってるだろう。だけど御幸に従うのは、きっと、御幸を安心させたいからだ。
「じゃあね…。」
光はどこか寂しそうに言って、電話を切った。
「…あ。朝ごはん作る…、作ります。」
ぎこちない敬語ではにかんでキッチンに向かう光。その途中で、ガウンをキャミソールの上に羽織って肌を隠した。
「別にいいよ、タメ口で…」
一応気遣ったつもりでそう笑って見せたけど、光は困ったように笑うだけだった。
光が料理を始めて10分ほど経った頃、インターフォンが鳴った。
「俺、出るよ。」
料理を中断しようとした光にそう言って、俺は玄関に向かった。ドアを開けると、以前見たことのある男が立っていた。マネージャーの周防だろう。
「おはようございます。光さんから連絡があって来ました。」
周防は礼儀正しく不快お辞儀をして、じっと俺を見た。
「…あぁ、おう、どうぞ…」
「失礼します。」
もう一度お辞儀をして、周防は部屋に入って行った。
「おはようございます。」
「あ、おはよう。」
俺もあとから部屋に入って行き、挨拶を交わすふたりを見る。
「それで、どうされたんですか。」
「あ、うん…座って話す。周防君朝ごはんは?」
「……軽く。」
「じゃあ、一緒に食べよう。」
「え…ですが…」
「もう作っちゃってるから。」
周防はここへきて初めて動揺をにじませたが、光の言葉を受け入れて部屋の片隅に立った。座ってて、と光が言っても、大丈夫です、と首を振ったけど。
…なんか、御幸がこいつを呼べと言ったのも何となくわかるな。クソがつくほど真面目だ。光に手を出すとは思えない。
光はキッシュ、と呼ばれる卵のタルトみたいなものと、サラダとスープを作って食卓に並べた。朝からレストランの朝食みたいだ。やっぱすげえな、光って…。御幸は幸せモンだ…。
「…いただきます。」
「いただきます。」
「どうぞ。」
食事をはじめ、周防が遠慮がちにキッシュにナイフを入れるのを横目に、俺はスープを一口飲んだ。…うまっ。相変わらず料理上手だなぁ〜光…。
「…とても美味しいです。」
周防が本心か礼儀かわからないほど真面目な顔で呟いた。光は、よかった、とほほ笑んだ。
周防はどこか急いでプレートの上の料理をきれいに平らげ、光に頭を下げた。
「ごちそうさまでした。」
「え?もう?周防君食べるの早いね…。」
「…いえ。ご夫婦の食事にお邪魔してしまって…」
申し訳ありません、とばつがわるそうに言う周防に、光は目を瞬いて、ちらりと俺を見た。
「…そのことなんだけど…。」
「?」
疑問符を浮かべた周防に、光は事情を話しはじめた。
「……それで、一也さんと倉持さんが、その…。…入れ替わった?みたいなの…。」
「……。」
静かに光の話を聞いていた周防は、にわかに眉根を寄せ、俺の…いや、御幸の顔を観察し始めた。
「し、信じられないとは思うんだけど…。私も話してて、何か違和感あるし…。多分本当だと思う…。」
「……。」
「それに倉持さんのスマホから、朝、電話が来て…一也さんだって言うし…」
「……。」
「それで…一也さんが、誰かに…周防君にいてもらえって…。」
「……。…そう、ですか。わかりました。」
すっきりしない顔で、しかし周防は光に少しの反論もせず、素直に了承した。それでいいのかお前…。
「そ、そんな簡単に信じんの?」
「…光さんは、意味もなく嘘を吐くことはありませんから。」
「からかってるだけかもとか思わねーか普通?」
「それならそれで、楽しんでいただけるなら、それは意味のあることですから。」
「えぇ…?」
なんだこいつ。変な奴。
「…周防君って変わってるね…。」
さすがの光もどこか引き気味に呟いた。しかし周防は毅然とした表情で堂々と姿勢正しく座っている。
「それに今、確信しました。」
「え?」
「確かにあなたはご主人とは違う気がします。」
「へぇ…?どこが?」
「言葉づかいが特に、おかしいです。」
「……。」
くっと俯いて口元を抑える光。わ、笑いを堪えている…。
「……へ〜〜。そうかよ…。まーわかってくれりゃあ別に、それでいいけどよ…。」
「…お、お茶、淹れてきます…。」
光が噴き出してしまったことを誤魔化すように席を立ち、赤い顔を隠してキッチンに向かった。