291
「先代の王には4人の妻がいたらしいな。」
俺たちが城を出て湖の離宮に戻ったのは夕暮れ時で、光臣たちも夕食の為に観光を切り上げて帰ってきていた。そして夕食の席に全員が揃うと、光臣はステーキを切りながらそう呟いた。
「ふーん…」
「現国王も二人の妃を娶っている。もう亡くなられているがな。」
「へー…」
「現国王の娘たちも、他国に嫁いだ姫以外は二人三人夫がいたようだ。」
「…で?なんでそんな話するわけ?」
「別に、今日教会でそんな話を聞いたから、言っただけだ。」
済ましてスープを飲む光臣。絶対面白がってるだろ…倉持のこと。
「倉持が期待するからそういう話やめろよ。」
「はあ…!?テメー何言って…!」
案の定倉持は顔を赤くして光をちらちら見た。
「……。」
しかし光は考え事でもしているかのようにスープをつつきながら黙り込んでいて無反応だ。
「おーい、光〜。」
「……。」
「ひ・か・り!」
「…えっ?何?」
牧瀬の呼びかけに光はやっと気が付いて目を瞬いた。やっぱり聞いてなかった。倉持は恥ずかしそうに赤い顔を背けた。
「倉持さん二番目の夫まんざらでもないみたいよ。」
「ちょっ…何言ってんだよ牧瀬!」
「……。…その前に王室に入るなんて言ってないけど」
あくまでもきょとんと悪意のない顔で光が答えると、倉持の顔が引きつった。こいつちょっと本気で期待してたな。
「そーだよ。それに万が一そうなってもお前と結婚するわけじゃないから。なっ、光。」
「……ん?」
隣の光に言うと、光はまたスープをぼーっと見つめていて、俺の声に気が付いて目を丸くした。
「さっきからぼーっとしてるけど、どーかした?」
牧瀬が訊ねると、光ははにかんで首を振る。
「ううん、ごめん…ちょっと疲れただけ…。」
すると牧瀬は大げさに目を丸くして驚いた顔をした。
「ええっ!光が疲れたって!大変!早く休んで!」
「…大げさ」
「だって光が疲れたとか言うの珍しいからさ〜。いつも我慢して倒れちゃう子だし」
「…いつもじゃないもん」
「そーだよ」
俺はプンと拗ねた光の肩を抱いた。
「疲れた時俺には甘えてくれるモン♪な〜光♪」
「……。」
「めちゃくちゃ嫌そうな顔してますけど?」
「はっはっはっこの恥ずかしがり屋さんめ」
「そうだな。」
それまで静かだった光臣が不意に口を開いた。
「光はお前の前では少女のように無邪気になるよな。」
「おっ光臣わかってるじゃん。そーなんだよツンデレなんだよ」
「水遊びとかな。」
水遊び…?……まさか……
「み、光臣…」
「お前まさか…」
「ん?」
光と俺が顔を赤くすると、光臣は面白そうにニヤニヤし始めた。
「ど…どこまで見たの!?」
「つーかどこから見てた!?」
「何の話だか分からない。」
「光臣!!」
「ちょ、ちょっと…何?水遊びがどうかした?」
「?」
牧瀬と倉持がぽかんとしているのを見てひとまずは安堵するも…光臣、マジで油断できねぇ…。
すると光が怖い顔をして光臣を睨んだ。
「…今後そのこと話したら光臣の事も言うからね」
「……わかった」
な、何の話だろう…。
「光、明日は何するの?王様に呼ばれてる?」
光と観光に行きたいのだろう、牧瀬が身を乗り出して尋ねてきた。
「明日は何も。観光できるかな。」
「そうだな。まだ何も見てないし…」
「やった〜行こう行こう!今日ね、すごかったよ!大聖堂に市場に…」
牧瀬の土産話を聞きながら夕食を食べ、明日行く場所を相談し、俺たちはそれぞれ部屋に戻った。
***
風呂を済ませてベッドに横になり、ドレッサーの前で髪を梳かしている光を見つめる。
毎晩見ている光景。光を見ていると幸せな気分になる。
そう言えば高校生の頃…あれは夏だったかな、…うん、夏だ。半袖の制服姿でポニーテールをしている光を廊下で見かけて…。綺麗な髪が、光が歩くたびにふわふわ揺れていて、俺は猫が動く物にじゃれ付くのってこんな気持ちなのかな、なんて思いながら、いつものお調子者の皮を被って、髪をぺろんと捲って…
光が髪を押さえて振り返って、そして…何て言ったんだっけ。
くるり。光が振り返って俺を見た。
「視線を感じる。」
「……。」
俺は図星を突かれて照れ笑いをした。光も可笑しそうに頬を緩ませ、ベッドにやって来た。
「今更気づいたの?」
「え?」
「視線。」
光に覆いかぶさって、髪を撫でた。さらさらで、ふわふわで…
「高校生の頃からずっと見てんだけど…」
「……ふふふ」
光も照れたように笑いだした。
「恥ずかしい事言うね。」
「…俺も今言ってから恥ずかしいと思った」
「あはは。」
光は弾けるように笑って、俺にキスをした。間接照明を消し、俺達は布団に入った。
「…光」
「ん?」
暗い部屋の中、ぼんやりと光がこちらを向いたのが見える。
「王室に戻ること、全く選択肢に無い?」
「……。」
今日、国王から本心を聞いて、母親の事も聞いて…それでも気持ちは揺らがないのか?
冷めている、と評される俺にだってわかる。玉城家のあの祖父と、この国の曽祖父や今は亡き母親…どちらが光にとって本当に家族と言えるのか。共に過ごした時間はなくても、国王と話している時の光は、緊張はしているけれど穏やかだ。あの、玉城家の祖父と話している時は…いつも怯えている。それに…あいつは光に酷い事を言った。何度も。つい、この間だって。あの発言は…俺も許せない。
「私…今の仕事には、未練はないの。」
光は横を向いて静かに話しはじめた。
「仕事は好きだけど、これ以上忙しくなりそうだったら、引退も考えてた。」
「え…そうなの?」
「だって…一也さんと過ごす時間が無くなっちゃうでしょ」
「そう…だけど」
「私にとって、いちばんはそれ…だから」
もぞもぞと、布団の中で光が寝返りを打って丸まった。
「…もしかして誘ってる?」
「…もー…そういうことしか考えてないの…」
「お年頃の男の子だからな」
「いい年して…」
「はっはっは…」
むっつり膨れる光の手を、手探りで布団の中で握った。柔らかい小さな手…
「…だから、私…ひとりだったら、力になりたいって…思ってたかもしれない…。」
「うん…」
…それって…
「…俺に遠慮してる?」
「遠慮とかじゃないよ。」
光は慌てて頭を振った。
「私が嫌なの。一也さんに野球を辞めさせて、あんな小さなお城に閉じ込めるなんて…絶対に嫌。」
小さなお城…。いや、比喩なのはわかってるけど、躊躇いなく言っちゃうあたり、やっぱ育ちが違うよなぁ〜。…なんて呑気に思ってる場合じゃなかった。
「まあでも俺は、野球かお前かって言われたら、迷わずお前を選ぶよ。」
「……。」
「野球選手としてやっていけるのは…長くてもせいぜい30代後半まで。あと10年続けられるかどうかってとこだな…。それに、お前がいなきゃここまでやってこれなかった。」
「……。」
「今辞めなきゃいけなくなったとしても、そういう運命だったと思えるよ。」
光は静かに起き上がって、俺の肩口に顔を埋めるように抱き着いてきた。
「やだ…。」
ぎゅう、と光はすがりつくように俺のシャツを握りしめる。
「そんなこと言わないで」
思いの外光が本当に悲しそうに言うものだから、俺は戸惑いながら光の背中を撫でた。
「俺は別に本当に…」
「やだ。そんな理由で辞めたら怒るからね」
「え……」
怒るの?そんなに嫌なの?時々読めないな、光って…。
「それに…。」
光は声を低くした。
「自分の子が国王に…その為に産む…なんて」
「……。」
「想像つかないし…その子に、大変な思いをさせることになる…。」
「…そーだよな…」
その気持ちはわかる…。想像なんてつかない。少なくとも、俺みたいに好きな野球ばっか…なんて生き方はできない。
「…じゃあさ」
この現実味の薄い状況で、俺は冗談に紛れて尋ねる。
「もし…万が一だけど、王室に戻ったとしたら」
光はそんなことしない、なんて水を差さずに、俺の冗談を静かに聞いている。その先の言葉も、予想がついているように。
「倉持を二番目の夫にする?」
「……。」
暗闇の中、光が苦笑したのがわかった。
「一番聞きたかったのソレでしょ。」
「まぁまぁそれは…」
「ふふ…」
光は苦笑交じりに呟いた。
「…しないよ。私には一也さんがいるでしょ」
「はっはっは…」
あー、俺…光にこう言ってもらって安心したかっただけかも…。なんかだせぇ…。
するよ、なんて言うわけないのに。
「心配?」
「え?いや…。」
心配、なんて言ったら光を疑ってることになる。そんなつもりはない。けど…。
「…倉持は、お前のこと…本気だと思うからさ」
「……。」
「もうずっと…これだけ長い間、想いつづけるなんて…並みじゃないし」
「……。」
光はしばらく黙っていて、それから、ぽつりとつぶやいた。
「…私のせいだね」
「え?」
「ごめん…。不安にさせて」
「……。」
「クリスマスの時のこととか…倉持さんが、入院したときのこととか…。」
…それも…確かにあるけど。でも、今俺が一番気になってるのは…
光がついこの間から、多分無意識なんだろうけど、倉持に敬語を使わなくなっていること…。
「いや、それはもう…気にするなよ。俺も悪かったんだから」
「一也さんは悪くない」
「こら。そうやって自分を責めるなって言ってるだろ」
「……。」
なんだか落ち込んでしまった光の髪を撫でて、抱き寄せた。柔らかくてあたたかくて…甘い香りに胸が膨らむ。
「倉持はなー…ほんともう勘弁してほしいぜ」
「……。」
「木崎さんと同棲はじめたときは、やっとか、って思ったのに…」
「……。」
「どーすりゃ諦めてくれんのかね」
あくまで冗談のように笑い飛ばすも、光は静かだ。
倉持は…そもそももう本人に諦める気が全くないしな…。
「……。」
光は黙ったまま、俺の胸に顔を埋めている。
もう寝たのかもしれない…。俺はそう思って、光の髪を撫でて、その心地良さに目を閉じて…眠りについた。
俺たちが城を出て湖の離宮に戻ったのは夕暮れ時で、光臣たちも夕食の為に観光を切り上げて帰ってきていた。そして夕食の席に全員が揃うと、光臣はステーキを切りながらそう呟いた。
「ふーん…」
「現国王も二人の妃を娶っている。もう亡くなられているがな。」
「へー…」
「現国王の娘たちも、他国に嫁いだ姫以外は二人三人夫がいたようだ。」
「…で?なんでそんな話するわけ?」
「別に、今日教会でそんな話を聞いたから、言っただけだ。」
済ましてスープを飲む光臣。絶対面白がってるだろ…倉持のこと。
「倉持が期待するからそういう話やめろよ。」
「はあ…!?テメー何言って…!」
案の定倉持は顔を赤くして光をちらちら見た。
「……。」
しかし光は考え事でもしているかのようにスープをつつきながら黙り込んでいて無反応だ。
「おーい、光〜。」
「……。」
「ひ・か・り!」
「…えっ?何?」
牧瀬の呼びかけに光はやっと気が付いて目を瞬いた。やっぱり聞いてなかった。倉持は恥ずかしそうに赤い顔を背けた。
「倉持さん二番目の夫まんざらでもないみたいよ。」
「ちょっ…何言ってんだよ牧瀬!」
「……。…その前に王室に入るなんて言ってないけど」
あくまでもきょとんと悪意のない顔で光が答えると、倉持の顔が引きつった。こいつちょっと本気で期待してたな。
「そーだよ。それに万が一そうなってもお前と結婚するわけじゃないから。なっ、光。」
「……ん?」
隣の光に言うと、光はまたスープをぼーっと見つめていて、俺の声に気が付いて目を丸くした。
「さっきからぼーっとしてるけど、どーかした?」
牧瀬が訊ねると、光ははにかんで首を振る。
「ううん、ごめん…ちょっと疲れただけ…。」
すると牧瀬は大げさに目を丸くして驚いた顔をした。
「ええっ!光が疲れたって!大変!早く休んで!」
「…大げさ」
「だって光が疲れたとか言うの珍しいからさ〜。いつも我慢して倒れちゃう子だし」
「…いつもじゃないもん」
「そーだよ」
俺はプンと拗ねた光の肩を抱いた。
「疲れた時俺には甘えてくれるモン♪な〜光♪」
「……。」
「めちゃくちゃ嫌そうな顔してますけど?」
「はっはっはっこの恥ずかしがり屋さんめ」
「そうだな。」
それまで静かだった光臣が不意に口を開いた。
「光はお前の前では少女のように無邪気になるよな。」
「おっ光臣わかってるじゃん。そーなんだよツンデレなんだよ」
「水遊びとかな。」
水遊び…?……まさか……
「み、光臣…」
「お前まさか…」
「ん?」
光と俺が顔を赤くすると、光臣は面白そうにニヤニヤし始めた。
「ど…どこまで見たの!?」
「つーかどこから見てた!?」
「何の話だか分からない。」
「光臣!!」
「ちょ、ちょっと…何?水遊びがどうかした?」
「?」
牧瀬と倉持がぽかんとしているのを見てひとまずは安堵するも…光臣、マジで油断できねぇ…。
すると光が怖い顔をして光臣を睨んだ。
「…今後そのこと話したら光臣の事も言うからね」
「……わかった」
な、何の話だろう…。
「光、明日は何するの?王様に呼ばれてる?」
光と観光に行きたいのだろう、牧瀬が身を乗り出して尋ねてきた。
「明日は何も。観光できるかな。」
「そうだな。まだ何も見てないし…」
「やった〜行こう行こう!今日ね、すごかったよ!大聖堂に市場に…」
牧瀬の土産話を聞きながら夕食を食べ、明日行く場所を相談し、俺たちはそれぞれ部屋に戻った。
***
風呂を済ませてベッドに横になり、ドレッサーの前で髪を梳かしている光を見つめる。
毎晩見ている光景。光を見ていると幸せな気分になる。
そう言えば高校生の頃…あれは夏だったかな、…うん、夏だ。半袖の制服姿でポニーテールをしている光を廊下で見かけて…。綺麗な髪が、光が歩くたびにふわふわ揺れていて、俺は猫が動く物にじゃれ付くのってこんな気持ちなのかな、なんて思いながら、いつものお調子者の皮を被って、髪をぺろんと捲って…
光が髪を押さえて振り返って、そして…何て言ったんだっけ。
くるり。光が振り返って俺を見た。
「視線を感じる。」
「……。」
俺は図星を突かれて照れ笑いをした。光も可笑しそうに頬を緩ませ、ベッドにやって来た。
「今更気づいたの?」
「え?」
「視線。」
光に覆いかぶさって、髪を撫でた。さらさらで、ふわふわで…
「高校生の頃からずっと見てんだけど…」
「……ふふふ」
光も照れたように笑いだした。
「恥ずかしい事言うね。」
「…俺も今言ってから恥ずかしいと思った」
「あはは。」
光は弾けるように笑って、俺にキスをした。間接照明を消し、俺達は布団に入った。
「…光」
「ん?」
暗い部屋の中、ぼんやりと光がこちらを向いたのが見える。
「王室に戻ること、全く選択肢に無い?」
「……。」
今日、国王から本心を聞いて、母親の事も聞いて…それでも気持ちは揺らがないのか?
冷めている、と評される俺にだってわかる。玉城家のあの祖父と、この国の曽祖父や今は亡き母親…どちらが光にとって本当に家族と言えるのか。共に過ごした時間はなくても、国王と話している時の光は、緊張はしているけれど穏やかだ。あの、玉城家の祖父と話している時は…いつも怯えている。それに…あいつは光に酷い事を言った。何度も。つい、この間だって。あの発言は…俺も許せない。
「私…今の仕事には、未練はないの。」
光は横を向いて静かに話しはじめた。
「仕事は好きだけど、これ以上忙しくなりそうだったら、引退も考えてた。」
「え…そうなの?」
「だって…一也さんと過ごす時間が無くなっちゃうでしょ」
「そう…だけど」
「私にとって、いちばんはそれ…だから」
もぞもぞと、布団の中で光が寝返りを打って丸まった。
「…もしかして誘ってる?」
「…もー…そういうことしか考えてないの…」
「お年頃の男の子だからな」
「いい年して…」
「はっはっは…」
むっつり膨れる光の手を、手探りで布団の中で握った。柔らかい小さな手…
「…だから、私…ひとりだったら、力になりたいって…思ってたかもしれない…。」
「うん…」
…それって…
「…俺に遠慮してる?」
「遠慮とかじゃないよ。」
光は慌てて頭を振った。
「私が嫌なの。一也さんに野球を辞めさせて、あんな小さなお城に閉じ込めるなんて…絶対に嫌。」
小さなお城…。いや、比喩なのはわかってるけど、躊躇いなく言っちゃうあたり、やっぱ育ちが違うよなぁ〜。…なんて呑気に思ってる場合じゃなかった。
「まあでも俺は、野球かお前かって言われたら、迷わずお前を選ぶよ。」
「……。」
「野球選手としてやっていけるのは…長くてもせいぜい30代後半まで。あと10年続けられるかどうかってとこだな…。それに、お前がいなきゃここまでやってこれなかった。」
「……。」
「今辞めなきゃいけなくなったとしても、そういう運命だったと思えるよ。」
光は静かに起き上がって、俺の肩口に顔を埋めるように抱き着いてきた。
「やだ…。」
ぎゅう、と光はすがりつくように俺のシャツを握りしめる。
「そんなこと言わないで」
思いの外光が本当に悲しそうに言うものだから、俺は戸惑いながら光の背中を撫でた。
「俺は別に本当に…」
「やだ。そんな理由で辞めたら怒るからね」
「え……」
怒るの?そんなに嫌なの?時々読めないな、光って…。
「それに…。」
光は声を低くした。
「自分の子が国王に…その為に産む…なんて」
「……。」
「想像つかないし…その子に、大変な思いをさせることになる…。」
「…そーだよな…」
その気持ちはわかる…。想像なんてつかない。少なくとも、俺みたいに好きな野球ばっか…なんて生き方はできない。
「…じゃあさ」
この現実味の薄い状況で、俺は冗談に紛れて尋ねる。
「もし…万が一だけど、王室に戻ったとしたら」
光はそんなことしない、なんて水を差さずに、俺の冗談を静かに聞いている。その先の言葉も、予想がついているように。
「倉持を二番目の夫にする?」
「……。」
暗闇の中、光が苦笑したのがわかった。
「一番聞きたかったのソレでしょ。」
「まぁまぁそれは…」
「ふふ…」
光は苦笑交じりに呟いた。
「…しないよ。私には一也さんがいるでしょ」
「はっはっは…」
あー、俺…光にこう言ってもらって安心したかっただけかも…。なんかだせぇ…。
するよ、なんて言うわけないのに。
「心配?」
「え?いや…。」
心配、なんて言ったら光を疑ってることになる。そんなつもりはない。けど…。
「…倉持は、お前のこと…本気だと思うからさ」
「……。」
「もうずっと…これだけ長い間、想いつづけるなんて…並みじゃないし」
「……。」
光はしばらく黙っていて、それから、ぽつりとつぶやいた。
「…私のせいだね」
「え?」
「ごめん…。不安にさせて」
「……。」
「クリスマスの時のこととか…倉持さんが、入院したときのこととか…。」
…それも…確かにあるけど。でも、今俺が一番気になってるのは…
光がついこの間から、多分無意識なんだろうけど、倉持に敬語を使わなくなっていること…。
「いや、それはもう…気にするなよ。俺も悪かったんだから」
「一也さんは悪くない」
「こら。そうやって自分を責めるなって言ってるだろ」
「……。」
なんだか落ち込んでしまった光の髪を撫でて、抱き寄せた。柔らかくてあたたかくて…甘い香りに胸が膨らむ。
「倉持はなー…ほんともう勘弁してほしいぜ」
「……。」
「木崎さんと同棲はじめたときは、やっとか、って思ったのに…」
「……。」
「どーすりゃ諦めてくれんのかね」
あくまで冗談のように笑い飛ばすも、光は静かだ。
倉持は…そもそももう本人に諦める気が全くないしな…。
「……。」
光は黙ったまま、俺の胸に顔を埋めている。
もう寝たのかもしれない…。俺はそう思って、光の髪を撫でて、その心地良さに目を閉じて…眠りについた。