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「お邪魔します〜…あらっ!一也君今日はいるのね!」
「こんにちは。今ちょうどオフなんですよ。」
「あら〜じゃあ夫婦水入らずの所お邪魔しちゃったかしら!でも久しぶりに会えて嬉しいわ〜」
「ははは…」
今日は光の叔母さんがやって来た。光は、この人とは月に1度は会っているようだ。俺は休みが合わなくて、2,3回に1度しか会えないのだけど。
「あ、そうそうこれね、お土産。ふたりで食べてね」
「ありがとう叔母さん。今度はどこに行ってたの?」
「コンゴよ。前に出資した学校の運営の状態を見に行ってたの。ついでに英語と日本語の授業もしてきたり…」
光の叔母は仕事以外に発展途上国への寄付や援助活動をしているらしく、ときどきこうした話を聞く。本当にすごい人だ。昔はこのぐいぐい来る感じがちょっと苦手…と思っていたけど、最近では底なしに明るくて懐の広い人物なのだとわかってきた。
光は叔母とひととおりその話をした後、お茶を淹れて3人で席に着いた。
「それで…。」
叔母さんが俺たちを見る。今日来たのは、いつも通り顔を見る目的もあったのだろうけど、あの話を聞きに来たのだろう。
「…うん。叔母さんも聞いた?アンクレー王国のこと…。」
「光臣から連絡が来てね。うちに来た手紙は読ませてもらったけど…驚いたわぁ。」
「そうだよね…。」
「でも、光ちゃんたちの方が驚いてるわよね!まさか王女様だなんてね…。」
「……。」
「お父さんと兄さんのことは大丈夫だったの?」
「あ…うん。おじい様は、もう来ないと思う…。お父さんも、今は日本にいるし…」
「まったくうちの男たちはろくでもないわね。…あ、光臣に悪いわね。改心したんだもの。」
叔母さんがおどけて、光は少し笑った。
「それで…光ちゃんはどうしたいの?」
叔母さんはいつも、光の意思を聞く。
「私は…。」
光は俺に視線をやって、迷いながら答えた。
「やっぱり…仕事もあるし…。でも、そう言ったら王室から、国籍をあっちに移して王室に入ることに同意してくれれば、こっちの生活を続けててもいい、って言われて…。」
「…よっぽど困ってるのねぇ。」
「うん…私たちが行ったとき、ちょうど国王陛下が倒れられて…もう長くないみたいで…。ただ…子供ができて…もし男の子だったら、あっちに行かないといけないらしいの。異国で国王の跡継ぎを産むのは、国民の反感を招きかねないからって…」
「ううーん…」
「まあそれは、本当にもしもの話だけど。それに王室に入ること自体…まだ決断できないし…」
「そうなのね…」
ふうむ…、と叔母さんは難しそうに顔を顰めて唸った。
「もし断ったらどうなるの?」
「…アンクレー王国では20歳以上にならないと結婚が許されていないの。今、イリシア王女が16歳だから…。跡継ぎの子が生まれる前に、国王陛下が崩御されることになったら…王室が存続できなくなって、国自体がなくなってしまう。国民は皆国籍を失って…多分、スイスかイタリアかフランスに統合されることになる。だから、国王君主制に異を唱える国民もいるらしいの。」
「難しい話ね〜…」
「イリシア王女は、それも運命なのかもしれないって。もし、私が王室に入っても、すぐに男の子を産めるかはわからないし。でも、できれば国を守るためにできることはすべてやりたいって言ってた。強制することはできないけど、お願いしたいって…。」
「それで…どうするの?」
光は俺を見る。
「俺は行ってもいいんじゃないかと思ってます。」
「…そうなの?」
光は意外そうに目を丸くして俺を見た。
もし断って、アンクレー王国がなくなるとなれば…きっと光は自分のせいだと落ち込む。
「お前の家族なんだから、力になりたいに決まってるだろ。」
「……。」
光がはにかむように微笑んで、叔母さんも優しい目をして微笑んだ。なんか恥ずかしい…。
「…でも、野球…続けられなくなるんだよ?」
それよりお前が大事だって言っただろ、と言うように光を見つめ返すと、光は頬を赤くして俯いた。
叔母さんは頬杖をついて、嬉しそうに俺たちを見つめているのだった。
***
「とりあえず、籍だけあっちに移してさ。俺はちょうど、2年契約だし…来シーズンで引退すること、監督に話すよ。」
「……。」
夜、具体的な話を光としていてそう話すと、光はぽかんと俺を見つめた。
「何?」
「だって、そんな簡単に…。本当にいいの?」
「俺は別に、そんなに未練ないけど。」
「……。」
光はちょっとバツの悪そうな顔をするけど…本当なんだよなぁ。もともと野球選手になるために頑張って来たわけじゃなくて、目の前のことが楽しくて…いつの間にかここにいた、って感じ。それで今は…もっと大事なものができただけだ。
「光は仕事、どうすんの?」
「…映画の撮影が終われば…後は仕事を受けなければ、来年でめどがつくかな…。」
「じゃあ、ちょうどいい時期だったな。」
「…そうかもね…。」
本当にタイミングが良くて、光もようやく納得したように頷いた。
「…で…」
「……。」
「子供…作らないとな」
「…うん」
「…大丈夫?」
光は今も、俺たちの…生まれてこられなかった娘のために祈っている。供養をした後、仏壇まではできないけれど、小さな祭壇を作って、よく手を合わせている。
「大丈夫だよ。」
心配しすぎる俺をからかうように微笑んで光が言って、俺は気恥ずかしくてはにかんだ。
「…ま、こういう状況でもないと、決断できなかったかもしれないしな。忙しいし…」
「そうだね。」
「いや〜でも…俺たちの子が王様?なんか実感わかないよな…」
「…そうだね。」
「つか俺、イタリア語覚えないと…せめて日常会話くらいは…」
「そうだね。」
「…何か光、嬉しそうだな?」
光がにこにこしていることに気付いて、俺は突っ込んだ。
「だって、嬉しいんだもん。」
「…何が?王女様になること?」
「ちがうよ。」
光はころころ笑って、俺に抱き着いてきた。
「こうやって、二人のことを一緒に決めてるのが…一也さんと、夫婦だって思えるから」
そういえば…昔は何かあるたびに、光にどうしたいか、光の好きなようにって、光の顔色ばかり窺って、それがやさしさだと思って…それで喧嘩になったこともあった。
「…そうだな。」
俺はいつかの過ちに苦笑して、光を抱きしめ返した。
「こんにちは。今ちょうどオフなんですよ。」
「あら〜じゃあ夫婦水入らずの所お邪魔しちゃったかしら!でも久しぶりに会えて嬉しいわ〜」
「ははは…」
今日は光の叔母さんがやって来た。光は、この人とは月に1度は会っているようだ。俺は休みが合わなくて、2,3回に1度しか会えないのだけど。
「あ、そうそうこれね、お土産。ふたりで食べてね」
「ありがとう叔母さん。今度はどこに行ってたの?」
「コンゴよ。前に出資した学校の運営の状態を見に行ってたの。ついでに英語と日本語の授業もしてきたり…」
光の叔母は仕事以外に発展途上国への寄付や援助活動をしているらしく、ときどきこうした話を聞く。本当にすごい人だ。昔はこのぐいぐい来る感じがちょっと苦手…と思っていたけど、最近では底なしに明るくて懐の広い人物なのだとわかってきた。
光は叔母とひととおりその話をした後、お茶を淹れて3人で席に着いた。
「それで…。」
叔母さんが俺たちを見る。今日来たのは、いつも通り顔を見る目的もあったのだろうけど、あの話を聞きに来たのだろう。
「…うん。叔母さんも聞いた?アンクレー王国のこと…。」
「光臣から連絡が来てね。うちに来た手紙は読ませてもらったけど…驚いたわぁ。」
「そうだよね…。」
「でも、光ちゃんたちの方が驚いてるわよね!まさか王女様だなんてね…。」
「……。」
「お父さんと兄さんのことは大丈夫だったの?」
「あ…うん。おじい様は、もう来ないと思う…。お父さんも、今は日本にいるし…」
「まったくうちの男たちはろくでもないわね。…あ、光臣に悪いわね。改心したんだもの。」
叔母さんがおどけて、光は少し笑った。
「それで…光ちゃんはどうしたいの?」
叔母さんはいつも、光の意思を聞く。
「私は…。」
光は俺に視線をやって、迷いながら答えた。
「やっぱり…仕事もあるし…。でも、そう言ったら王室から、国籍をあっちに移して王室に入ることに同意してくれれば、こっちの生活を続けててもいい、って言われて…。」
「…よっぽど困ってるのねぇ。」
「うん…私たちが行ったとき、ちょうど国王陛下が倒れられて…もう長くないみたいで…。ただ…子供ができて…もし男の子だったら、あっちに行かないといけないらしいの。異国で国王の跡継ぎを産むのは、国民の反感を招きかねないからって…」
「ううーん…」
「まあそれは、本当にもしもの話だけど。それに王室に入ること自体…まだ決断できないし…」
「そうなのね…」
ふうむ…、と叔母さんは難しそうに顔を顰めて唸った。
「もし断ったらどうなるの?」
「…アンクレー王国では20歳以上にならないと結婚が許されていないの。今、イリシア王女が16歳だから…。跡継ぎの子が生まれる前に、国王陛下が崩御されることになったら…王室が存続できなくなって、国自体がなくなってしまう。国民は皆国籍を失って…多分、スイスかイタリアかフランスに統合されることになる。だから、国王君主制に異を唱える国民もいるらしいの。」
「難しい話ね〜…」
「イリシア王女は、それも運命なのかもしれないって。もし、私が王室に入っても、すぐに男の子を産めるかはわからないし。でも、できれば国を守るためにできることはすべてやりたいって言ってた。強制することはできないけど、お願いしたいって…。」
「それで…どうするの?」
光は俺を見る。
「俺は行ってもいいんじゃないかと思ってます。」
「…そうなの?」
光は意外そうに目を丸くして俺を見た。
もし断って、アンクレー王国がなくなるとなれば…きっと光は自分のせいだと落ち込む。
「お前の家族なんだから、力になりたいに決まってるだろ。」
「……。」
光がはにかむように微笑んで、叔母さんも優しい目をして微笑んだ。なんか恥ずかしい…。
「…でも、野球…続けられなくなるんだよ?」
それよりお前が大事だって言っただろ、と言うように光を見つめ返すと、光は頬を赤くして俯いた。
叔母さんは頬杖をついて、嬉しそうに俺たちを見つめているのだった。
***
「とりあえず、籍だけあっちに移してさ。俺はちょうど、2年契約だし…来シーズンで引退すること、監督に話すよ。」
「……。」
夜、具体的な話を光としていてそう話すと、光はぽかんと俺を見つめた。
「何?」
「だって、そんな簡単に…。本当にいいの?」
「俺は別に、そんなに未練ないけど。」
「……。」
光はちょっとバツの悪そうな顔をするけど…本当なんだよなぁ。もともと野球選手になるために頑張って来たわけじゃなくて、目の前のことが楽しくて…いつの間にかここにいた、って感じ。それで今は…もっと大事なものができただけだ。
「光は仕事、どうすんの?」
「…映画の撮影が終われば…後は仕事を受けなければ、来年でめどがつくかな…。」
「じゃあ、ちょうどいい時期だったな。」
「…そうかもね…。」
本当にタイミングが良くて、光もようやく納得したように頷いた。
「…で…」
「……。」
「子供…作らないとな」
「…うん」
「…大丈夫?」
光は今も、俺たちの…生まれてこられなかった娘のために祈っている。供養をした後、仏壇まではできないけれど、小さな祭壇を作って、よく手を合わせている。
「大丈夫だよ。」
心配しすぎる俺をからかうように微笑んで光が言って、俺は気恥ずかしくてはにかんだ。
「…ま、こういう状況でもないと、決断できなかったかもしれないしな。忙しいし…」
「そうだね。」
「いや〜でも…俺たちの子が王様?なんか実感わかないよな…」
「…そうだね。」
「つか俺、イタリア語覚えないと…せめて日常会話くらいは…」
「そうだね。」
「…何か光、嬉しそうだな?」
光がにこにこしていることに気付いて、俺は突っ込んだ。
「だって、嬉しいんだもん。」
「…何が?王女様になること?」
「ちがうよ。」
光はころころ笑って、俺に抱き着いてきた。
「こうやって、二人のことを一緒に決めてるのが…一也さんと、夫婦だって思えるから」
そういえば…昔は何かあるたびに、光にどうしたいか、光の好きなようにって、光の顔色ばかり窺って、それがやさしさだと思って…それで喧嘩になったこともあった。
「…そうだな。」
俺はいつかの過ちに苦笑して、光を抱きしめ返した。