「…じゃあな」
「うん…おやすみなさい」

バルコニーから戻ってきた二人は視線を交わして、御幸……一也は俺から目を逸らすようにして自室の方へ去っていった。それは感じが悪いというよりもむしろ、痛々しいような…辛そうな姿で、俺は黙ってその態度を受け入れた。

「洋一さん」

光が近寄ってきて、柔らかな声で俺の名を呼ぶ。聞いただけで胸がいっぱいになるような優しい声だ。
光は俺の返事を待たずに、赤い顔でうつむいて、恥ずかしさをごまかすように少し強引に俺の手を取り、手に何か握らせてきた。

「?何…」
「…今夜…。……。」

…今夜?
ドキリとしながら手の中の固いものを見ると、それは小さな鍵だった。

「…来て、くれる?」

俺を見上げては恥ずかしそうに伏せられる青い瞳。心臓がどきどきうるさくて、自分の声がうまく出せない。
こ、こんなふうに、光に誘われる…なんて。
…夢みたいだ。

「…あ…、…ああ…。」

もちろん、よろこんで、なんておどける余裕もなくしどろもどろに頷くと、光はやっぱり恥ずかしそうに赤い顔で俺の胸元を小突いて、横を通り抜けた。

「…じゃあ…またね」

…またね。
その言い方がなんだかおかしくて、光の緊張が伝わってきて、かわいくて…。
俺はごくりと唾を飲み込んだ。



***



夜、皆が寝静まった頃。
急いでいくのもカッコわるいと思い、俺はそんな時間を見計らって部屋を出た。
静まり返った廊下の階段を上がり、光の部屋の前まで来る。
ノックをしかけてーー思い出したように鍵を取り出した。
光が…この部屋の中で俺を待ってる…。

鍵をカギ穴に差し込んで回すと、カチャン、と思い音を立てて鍵が開いた。
ドアノブをひねると…音もなくドアが開いた。

部屋の中は薄明るくて、それは部屋の窓から差し込む月明かりだと、すぐに分かった。
その窓辺に、光が立っていたから…。

「……。」

光はワンピースのような白いレースの寝具を纏い、月明かりにぼんやりと照らされていて、女神様のようだった。
俺も光も歩み寄り、二人はベッドの前で立ち止まった。
キスをしようーーそう思ったとき、俺が動くよりも先に、光が俺に抱き着いてきて、あっという間にキスをされた。そしてなだれ込むように、ベッドに押し倒されて、またキスを…何度も、何度も。
こんなに光に求められるとは思っておらず、少し混乱してされるがままになって、ようやく顔を上げて俺を見下ろした光の瞳に見惚れた。

「…俺が襲われんの?」

襲うつもりで来たんだけど、なんて強がりを言うと、光は小さく笑って、俺のシャツを捲り始めた。

「どっちでもいいよ…洋一さんの好きなほうで」

そう妖艶に微笑みながら、自ら胸元を開ける光。白く輝くような肌と、放漫な胸のふくらみがあらわになる。

「できるなら…。」

そうささやくと、挑発するように俺の首元を舐めた。
言うじゃねーか。俺は光の細い腕をつかみ、寝返りを打つように押し倒して、今度は俺が上になった。

「じゃあ…ずっとお前にしたかったこと、全部してやるよ。」

そう言うと、光は微笑みながら、せつなげな眼で俺を見上げた。
光にキスをしながら、開けた胸元を手で探り、膨らみを揉んだ。そうだ、この感触…。この香り…。そしてこの、甘い光の味。ずっと欲しかったもの…欲しくてたまらなかったもの…。
光の息が荒くなり、瞳が潤んで熱を孕む。そんな目で俺を…見つめるなんて。本当に愛してるんだ、俺を…。
昔抱いた時とは違う。本当に、心から俺を…受け入れてくれてる。

布越しに胸を揉み、はだけた襟口から胸元の肌にキスをして弄っていると、光がちょっと口元に笑みを浮かべ、肩ひもを自ら下した。

「いいよ…脱がせて」

まだ踏み込み切れない俺の臆病さを見通された気がして、俺は苦笑しながら…そして緊張しながら、意を決して光の服を脱がした。露わになった白い肌には息を飲んだ。そうだ…こんなに綺麗だったんだ。思い出が美化されてるだろうとばかり思っていたけど、本物の方が、ずっと…俺の胸を焦がす。
確か光は、胸が感じるはず…そう考えながら、胸の蕾を転がし、片方を口に含む。

「っ……はあ…。」

光がうっとりとしたため息を吐く。そのたびに上下する胸を、俺は愛おしい気持ちの勢いのままに愛撫した。

「ん…。」

だんだんと甘い声も漏れ、俺は今、夢でも見てるんじゃないかと考えてしまうほど、この時間が幸せだった。ずっと思い焦がれていた…こんな風に光と触れ合うことを。

「ここ…弱いよな、光。」
「……。」

光は恥ずかしそうに眉を寄せて目を逸らした。

「図星?」
「……。一也さんにも言われる…それ」

少しムッとしたように呟いた光に、無理やりキスをした。

「今はあいつの名前、言うなよ。」
「……。」

ごめんなさい、と声にならない気持ちが光の悲しげな顔から伝わってきて、俺は慌てた。ちょっとからかったつもりで、責める気なんてなかった。

「光…俺はちゃんと、わかってるから」
「え…?」
「お前の一番がアイツだってこと…」
「……。」
「俺は二番目でもいい。だからお前の傍に居るんだ」
「……。」
「今だって…夢みたいなんだよ、俺は」

光が起き上がって、俺を正面から見つめた。

「一番とか…二番とか……。…決められないよ」
「光…」
「そんな風に言わないで。…洋一さんも大切な人なの」

そう言って光は身をかがめ、俺の肉棒を撫でた。

「えっ…、なにす…」

る…、と言い終わる前に、光はすでに硬い肉棒を取り出し、直接手で撫で始めた。俺を見つめ、見ていろとでも言うように…ゆっくりと顔をそこに近づけ、肉棒にキスをした。

「ひ…光」

そのまま丁寧に舐め始め、ついに肉棒を咥えてしゃぶり始める光に俺は大混乱した。

「そ…、っな、なにして…!そんなこと、しなくて…いいって…」

興奮と背徳感がせめぎ合い、このまま快楽と興奮に身を任せてしまいたい気持ちと、でも光にこんな汚いもんを舐めさせるなんてと咎める気持ちとのせいで煮え切らない抵抗の言葉を呟くと、光は肉棒から口を離し、俺をまた見つめた。

「…してあげたい。」

そしてまたフェラを始める光。愛おしそうに、丁寧に…。まるで今まで、我慢でもしていたみたいに…。
限界はすぐに来て、俺は光の口の中に熱を吐き出した。

「……。」

光はティッシュに白濁液を出し、口元をぐいと拭う。俺はその肩を押し倒し、足を開かせた。

「えっ…、よ、洋一さ…」

戸惑う光の密に塗れた花弁を指で広げ、よく見た。綺麗だ…。うっすらと桃色に色づく花弁みたいに。その隙間はヒクヒクと動いて蜜を垂れ流し、甘い香りで俺をさそう。

「そ…そんなに見ないで…」
「嫌だ。…もっと見せろ」
「だめ…。…あっ」

花弁に舌を這わせた。貪るように舐めつくした。ずっと…しつこく、何分も。光が抵抗を諦めて、されるがままに腰を浮かせるまで…。

「はぁ…。ぁ…。」

真っ白な肌を薄く赤くしてしっとりと汗ばませる光。その柔らかな太腿を抱き込むように抱え、俺はその奥で甘い蜜を垂れ流す花弁を一心不乱に舐め続ける。もっと光を感じたい。もっとひとつになりたい…。

「んっ…。…ねぇ…もう舐めるの、やめて…」

光が恥ずかしがるように手を伸ばしてきて、俺はやっと起き上がって光に覆いかぶさった。

「何恥ずかしがってんだよ?俺のも舐めたくせに…」
「それとこれとは、別…。」

光が言い終わらないうちに花弁の間に指を滑り込ませると、光はピクリと肩を跳ねた。

「……。」

俺の顔をちらりと見つめ、指で弄ばれるそこを見つめ、光は呼吸を乱す。俺に弄られて興奮してる…その事実で胸が熱くなった。
中をよく解し、指を引き抜いて、肉棒をあてがう…。

「…いいよな?」

このまま、入れても…。
光は唇を舐め、迷うように俺を見上げた。
今は一刻も早く、子供を作らないといけない…身も蓋もないけど、それが実情。一也は多分…いや、絶対に、せめて最初は自分の子を…って思ってるだろうけど…。

「……。」
「挿れるぞ…」
「…っ、ま、待って…」

光の手が俺の胸を押し返した。

「…つけて…。」

そこにあるから…、と光はサイドチェストの引き出しを指さした。俺は少し光を見つめ、そのバツの悪そうな顔から目を逸らし、わかったと呟いた。
光も…同じ気持ちなんだ。アイツと…。
最初はアイツの子が良いって…。
やっぱり俺…ずっと二番目なんだろうな。それでもいいって、ここに来たけど…。
俺はゴムをつけ、光に覆いかぶさった。少し強く肉棒を押し込み、光が顔を一瞬顰めたのを見てすぐに後悔が滲んだ。だけど…どうしようもなく泣きそうになった。

「…ぁ…。…んっ」

肉棒に突かれて感じ、赤い顔で息を乱す光は可愛い。胸が苦しくなるほど可愛い。すべてが俺のものだったらいいのに…。そう願ってしまうほどに…可愛い。

「……。」

光は薄く目を開け、俺を見つめ、強請るように抱き着いてきた。

「…っ光…」

それがどうしようもなく嬉しくて…光に求められることが、これ以上なく嬉しくて、俺は腰の動きを速めた。光の中は、キツくて、だけど柔らかくて、熱くて…他の全てのことがどうでもよくなるくらいに気持ちいい。昔ヤッたときは、情けなくも光を…多分、イかせられなかった。俺はすぐに達しちまって…恥ずかしい。
だけど今日は…今日こそは…。俺の肉棒で、光を…

「光…。気持ち…いいか?」

光の顔を覗き込むと、光も俺を見つめ返し、腕の力を強めて俺を抱き寄せた。お互いに首元に顔を埋める形になり、肌がより密着して、柔らかな胸が押し付けられた。気持ちいいんだ…もっと欲しいって、そう言われてる気がして、俺はさらに興奮した。

「光っ…」

光が俺の首筋に柔らかな唇を摺り寄せ、小さな舌でぺろりと舐め、キスをしてきた。首筋の甘いくすぐったさに眩暈がした瞬間――…ガブリ、と突然痛みが走った。

「いって!!」

はずみで起き上がり、光にかみつかれたのだと理解した。首筋を撫でながら、俺の頭は混乱でいっぱいになった。

「え…?な、なんで……今噛んだ?」

俺を見上げる光は悪戯っぽい笑みをその宝石のような目元に浮かべ、赤い唇を舐めた。ど…どういうこと?俺…遊ばれてる?それともふたりはいつも、こういうプレイを…ってんなわけない…よな?

「見せて。」

光は首筋を抑える俺の手を解かせ、痛む場所を優しく撫でた。

「ちょっと赤くなってる。」
「……。」

自分で噛んだんだろ…。っていうかなんで噛まれたんだ、俺…。

「ねぇ、続き…」
「あ…、あぁ…」

よくわからないまま突っ込むこともできず、俺はまた腰を動かし始めた。快楽はすぐに蘇ってきて、光も顔を横に傾けて息を荒げ、快楽に浸っているようだった。その横顔はやっぱり可愛くて、さっき噛まれたことなんて忘れて、俺は光の頬を撫でてこっちを向かせ、唇にキスをして、その赤い唇を親指で撫でた。しっとりと濡れた、赤い柔らかな唇。これからはいつも、この唇にキスできる――…。

「…いっ…」

その柔らかな唇が突然牙をむき、俺の手のひらにかぶりついた。俺は手を引っ込め、うっすらと小さな歯型が付いた手のひらを見た。

「…いてぇんだけど…噛むのやめて…」
「…ふふふ」

光は悪びれずニコニコして俺の噛み痕を撫でる。その笑顔は可愛い…可愛いんだけど…。
ああだめだ、やっぱ俺、光には弱い…。
ならばよがらせてやろう、と律動を再開し、動きを速める。光は俺を見つめ、息を荒げて潤んだ瞳を瞬く。
…色っぽい…。…けど、なんか違う。光…ちゃんと気持ちよくなってんのかな…?
つーかもう…俺が限界…。

「…あっ、そこ…。」

か…かわいい…!!ぴくん、と跳ねて感じる光にぎゅっと胸が苦しくなる。

「ここか…?」
「んっ…もっと…。」
「光…。」

かわいい、かわいすぎる…!光が俺でよがってる…!!
俺をかき抱いてしがみついてくる光を抱きしめ、熱がこみあげてきてーー

「…やべぇ、もう…っ」
「…洋一さん…。」
「光っ…」

ーーがぶり。

「いってえ!!…光!!」

 


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