320
光が視力を失って、2週間ほど経った。
「……。」
朝目が覚めて隣を見ると、光はまだ目を閉じて静かに寝息を立てていたけど、俺が身じろぎをするとその瞼が静かに開いた。
「あ…ごめん、起こした」
「…ううん」
宝石みたいな青い瞳には光がなく、ぼうっと枕もとを見つめている。
「おはよう…」
「…おはよ。待ってて、飯用意したら…」
「……!」
突然光が表情を硬めて起き上がった。
「ど…どした?」
「……。」
ちょっと青ざめた顔でしばらく固まった後、光は遠慮がちに呟く。
「…と、トイレ…連れてって」
「あ、うん…」
じゃあ掴まって、と光をベッドから立ち上がらせ、なんだか様子がおかしいなと思いながらバスルームへ連れて行き、トイレの前まで来ると、もう大丈夫、と言う光を置いてバスルームを出た。一応、何かあってもいいように、俺はベッドに座って光が俺を呼ぶのを待った。
すると数秒もせず、トントン、と壁だかドアが叩かれた。
「光?どうかした?」
随分早いなと思いながらドアに近づいて尋ねると、中から小さな声が返ってくる。
「ちょっと……来て」
「え…中に?いいの?」
「…うん」
「…じゃあ…入るぞ?」
何かあったのか…?ゆっくりドアを開くと、光は便座に座っていて、傍の洗面台には、白い下着が、赤い――赤い、血…?
「え…、」
一瞬気が動転したけど、ふっと考えがよぎって、かろうじて冷静さを保った。も、もしかして…これって生理?
「下着…血、ついてる…?」
「…あ、あぁ」
「……。」
やっぱり、というように、光は恥ずかしさと悲しさの混じったような顔でうつむいた。
「ごめん…生理、来ちゃったみたい…布団汚れてない…?」
「いや、それは大丈夫、だと思うけど…、…お、俺どうすればいい?」
「……。」
光はシャツの裾で下腹部を隠したまま、恥ずかしそうに呟いた。
「下着…と、ナプキン…持ってきてくれる?」
「あ…、あぁ」
「下着は専用のが…引き出しの左に入ってるやつがそうだから…」
「…わ、わかった」
「ナプキンは…クローゼットの一番下」
「わかった、持ってくる」
俺はすぐ寝室に引き返し、言われた通り引き出しの左に入っている黒い下着を手にした。これ…でいいんだよな?違いがよくわかんねーけど…。
そしてクローゼットを開け、その下の箱にナプキンの袋を見つけた。昼用と夜用…?昼用…でいいんだよな?昼だし。だけど気になったのは、ナプキンの袋はもう両方ともほとんど空で、2,3枚しか残っていないことだった。生理って…1週間くらい続くよな?これ、足り…ないよな、どう考えても…
どうするかな、と考えながらそれらを持ってバスルームに戻ると、光は物音に気付いて顔を上げた。
「下着、これでいいのかわかんないんだけど…」
「……。」
光は手探りで下着を確かめ、これで大丈夫、と頷いた。
「…でナプキン…は、昼用…っての持ってきたんだけど…これでいいの?」
「うん…ありがとう」
光はそれらを受け取り、顔を赤くした。
「…もう大丈夫だから…」
「あ…あぁ、じゃあ、出てる」
俺は速やかに退室し、ベッドに腰掛けた。
…風呂や着替えの手伝いにやっと慣れてきたとこだけど…そうか、女はこれがあった…。
***
「お邪魔します!」
光と相談し、牧瀬に連絡すると、牧瀬はその日の午後一番に駆けつけてくれた。
「これ、ナプキンです。」
「悪いな、ありがとう」
「こっちのだと質が悪くて肌に合わないから、とりあえずうちのストック持ってきました。日本製のやつです。光がいつも使ってるのもこれだと思うので」
「そ…そうなんだ、サンキュ」
「またなくなりそうだったら言ってください。取り寄せるので」
牧瀬はてきぱき言って、部屋の中に入っていった。
「光〜大丈夫?」
「大丈夫。」
ごめん、ありがとう、と光の声が聞こえる。俺はリビングを通り過ぎて寝室にナプキンを置き、キッチンに戻ってコーヒーを入れ始めた。
「あ、御幸さん!」
と、牧瀬が駆け寄ってきた。
「生理中はカフェインダメですよ、生理痛が酷くなるので」
「え…そうなの?」
「あとチョコレートとかも避けた方がいいです。冷たいものも。光はいつもホットミルクとかカフェインレスのハーブティーとかを飲んでます」
「あ…あぁ、わかった」
確かに…ちょいちょいハーブティーとか飲んでるかも…。あれってそういうことだったのか…
「あと、ナプキンは最初の3日間くらいは1〜2時間おきに代えてあげてくださいね。血の量が多いので」
「お…おう」
「4日目以降はそんなに出血はないけど、3〜4時間おきには代えてあげてください。代え方わかります?」
「え…、いや、たぶん、自分でやると思うけど」
「いや見えないと代えるの大変ですよ!血が付いたナプキン外すのだって、それを丸めるのだって、新しいナプキンを向きを間違えずにつけるのだって、御幸さん目ぇつぶったままできます?」
「……。」
「教えるのでこっち来てください。」
牧瀬はぴしゃりと言って、光を振り向いた。
「光、私がいるときは手伝えるけど、私がいないときのために御幸さんにも教えといたほうがいいと思う。」
「……。」
光は申し訳なさそうに俯いた。
「よし。じゃ、下着とナプキン持ってきてください。」
「え…」
「恥ずかしがってる場合じゃないですよ。早く持ってきてください。」
「は…はい」
***
結局、牧瀬から保健体育の授業さながら大真面目にナプキンの使い方を教えてもらい、俺は改めて…というか、ほとんど初めて、生理の大変さを痛感した。いや、もともと生理痛とか大変そうだなとは思っていたけど、こんなに面倒なことを毎月1週間も続けてるとか…しかも体調も悪くなるし、光はチョコレートもコーヒーも大好きなのに、それも我慢しなきゃならない中でこんな面倒なことをしているなんて…なんというか、頭が下がる。
牧瀬は夕方には帰っていったが、また何かあったらいつでも呼んでください、と頼もしい言葉を残していった。
「光、…大丈夫?」
ソファでひざ掛けをかけて字幕でテレビを眺めている光に声をかけると、光はこくんと頷いた。
「早めに痛み止め飲んだから…。」
「そっか…」
光は時々、生理痛が酷くて起きあがれないときもある。
けど…今朝は驚いた。あんなに出血するもんなのか…そりゃ体調悪くもなるよな…。今まで血が出ることは知っていたけど、ほんのちょっとだろうと思っていた。重いときを除いて、光は生理中でも普通に過ごしていたし、何なら言われなきゃわからないときもあった。生理中だからと行為を断られて、俺は気にしないから、ちょっとだけでも、なんて食い下がったこともあったっけ…うわあ思い出したくない。俺最低…。
「そろそろお風呂入る?」
「……。」
じわじわ、光の顔が赤くなった。
「…きょ 今日は…一人で入る」
「え?…大丈夫?」
「大丈夫」
大丈夫…とは思えなかったけど、光がそう言い張るから、俺は脱衣所まで光を連れて行って、服を脱がすのを手伝った。
「も、もう、大丈夫だから」
光は下着になると俺にそう言い、脱衣所から出るよう促した。普段も風呂の時は恥ずかしそうにするけど、たぶん今日は…生理、だからだろう。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫」
「シャンプーとリンスとボディソープの区別もつかないのに?」
「……。」
「遠慮すんなって。」
「え、遠慮とかじゃなくて…」
「じゃあ何?」
「……生理、だから…」
「だから?余計に大変だろ」
「だ、だって…汚い…」
「汚くないって。」
「汚いよ…」
「光。」
俺はなだめるように光の頬を撫で、髪を耳にかけてやった。
「俺たち、夫婦だろ。助け合うのが当たり前なんだよ。」
「…違う…」
「何が違う?」
「だって…私ばっかり…だもん……してもらってばかりで…」
「あのなー…そんなことないから。俺だってたくさん光に助けられてる。」
「……。」
「自己評価が低すぎる。もっと自分を大切にしろよ。俺の一番大事な人なんだから…」
「……。」
光の顔が赤く染まって、俺も急に恥ずかしくなった。
「…じゃ、いいよな?手伝うけど」
「……。」
「髪まとめるから、後ろ向いて。下着も脱いで」
「……。」
後ろを向いた光の長い髪に指を通す。ふわふわさらさらの、綺麗な綺麗な髪。その髪を束ねてヘアゴムでまとめていると、光が背中に手を伸ばし、ブラジャーのホックを外した。
ブラジャーを外すと光は、大人しく髪を結われ、最後にショーツが残った。
「あ…、待って」
ショーツに触れると、光は身を引いた。
「血が…垂れちゃうかもしれないから、中で脱ぐ…」
え?そんなに?
と思いつつ、わかった、と浴室のドアを開けて光を促した。
浴室に入ると光はショーツに手をかけ、ゆっくりと脱いだ。ほんの1時間ほど前につけたばかりのナプキンは、べったりとした赤い色に染まっていて、危険ではないとわかってはいても驚き、ゾクゾクした。朝もあんなに血が…下着が真っ赤になるくらい出てたのに、まだこんなに出血するのか…本当にこれって平常?光が見えてないから気づいてないだけで、普通より出血しすぎてるってことはないんだろうか。本当に大丈夫なのか?
「な、なんか…すげぇ血まみれだけど、大丈夫なの?」
「え?下着も汚れちゃってた…?」
「…あ、いや、ナプキン…だけだけど、すごい血まみれ…」
「…うん」
「え?本当に?こんなに血出てて大丈夫?」
「……。」
「あっ!おい、血が…!」
「え?」
そう言っている間に、光の白い太ももに真っ赤な血がつうっと伝って滴っていた。浴室の白い床にも赤い血がぽたぽたと垂れ、腿に伝う感覚に光も気づいたように、あぁ…、と呟いた。
「一日目は出血が多いから…」
「え…、あ、へぇ…そうなんだ…」
「……。シャワー…使っていい?」
「あ、あ、そうだな、ごめん」
出血に戸惑いすぎてしまった。俺はシャワーを光に手渡し、ナプキンをティッシュでくるみ、ショーツを洗濯籠に入れた。光は体を流して、太ももの血も洗い流していく。念入りに太ももを流していたが、まだ赤い色が残っているうちに、光はシャワーを止めた。
「待って、まだ血が…ついてる」
そう言ってシャワーをつかむと、光は黙って渡した。柔らかな太ももを撫で、血を洗い流す。だけどそうしている間にも血はどんどん流れてきて、キリがないと思ったら、そもそも秘部から出血し続けているのだった。
「……。」
そこにシャワーのお湯を充てると、光は少しぴくんと反応した。
…やばいって!もう、毎日風呂の時間は我慢の連続なのに、それでちょっとそういう雰囲気になることもあるけど…でも今は光、生理中だし…!
…でも…。
「……。」
シャワーの角度を変えて、秘部にもっとお湯が当たるようにすると、ん、と少し光が息をのんだ。さらに手を伸ばし、そこを撫で始める。光の顔が赤くなり、もじもじと足が動いた。
視力がなくなってから、ちゃんとそういうことしてねーし…光も欲求不満、なのかも…。
撫でても撫でても、お湯に混ざる赤い色はなくならない。だけど指先のぬるぬるした感触が、血によるものなのか蜜によるものなのか、もうよくわからなかった。
「…、ねえ…何…、…。」
光がふるふるっ、と震え、俺の手を少し抑えた。
「いや…、血が、なかなか流せないから…」
「……。」
そういわれては光も黙って、そのまま秘部を弄られ続けた。
多分、光ももう気づいてる…。俺の下心にも、さっきからずっと、俺の下半身が痛いくらい膨れているってことも…。
秘部の表面を軽く遠慮がちに撫でているだけで、光はもどかしそうに息を荒げ始めた。感じている…けど、まだ物足りないって顔。でも、生理中だし…血を流すって建前だし…。さすがに指、入れたりするのはダメだよな…。
でも、光ももう、辛そうで…。
「……、ん、」
気が緩んだ表紙に声が漏れた光が、はっと顔を赤くして俺の手を抑えた。
「や、もう、ちょっと、やめて…」
「いいから」
「や、やだ…」
「いいよ、光、イッて」
気が付けば俺はそう言って、秘部の溝に指を滑り込ませ、そのまま蕾を集中的に擦った。
「あ、あ…!やっ…。」
すると光は俺の肩につかまって、あっという間に達した。
光の乱れた息と、シャワーの湯が白い床に打ち付けられる音、そして自分の心臓の音で頭がいっぱいになり、俺は興奮を自覚した。入れられなくても、このまま、もう少し…そう思った矢先、俺の肩につかまっていた光の手に、ぎゅう、と力がこもった。その直後、ぼたぼたと赤い血の塊が、光のそこから真っ白な太ももを滑り落ち、とめどなく流れた。
「うわ!?だ、大丈夫か!?血が…」
「…大丈夫だってば!」
光は顔を真っ赤にして、俺につかまった手を離せないまま顔をそむけた。
「だってすごい血が…」
「だから、そういうものなの!もう変なことしないで!」
「いやでも…」
「もうバカ!」
光は恥ずかしさで泣き出しそうに怒っていて、俺は軽率な行為を後悔しつつも、本当に光の体が心配だった。だってこんな血の量、普通なら気を失ってる。
「いや、本当にごめん、でも、本当に血が…すごい出てて…」
「だからそういうものなんだってば!」
「本当に?こんなに出血してるのに?」
「うるさいなぁ…!もういい!もうお風呂出る!」
「え!ごめんって!わかったから!ホラ体洗うから座って…」
「いや!触らないで!変なことするでしょ!」
「し、しないから!もうほんとしないから」
「やめてって言ったのに…!」
「本当にごめん、本当…、頼むから、もうしないから座って」
「……。」
光は恥ずかしさと怒りをにじませたまま、しぶしぶ座った。俺はいつも通り泡で光の体を撫で、綺麗に洗ってやり、髪も洗ったあと、また丹念に血を流して風呂を出た。すっかり怒ってしまった光に謝り通しつつ髪を乾かしてやり、いつも通り梳かして三つ編みにしてまとめ、ソファに座らせてご機嫌を窺うためホットミルクを作った。
「光…はい、ホットミルク」
「……。…ありがとう」
光はまだ不機嫌ながらも、俺の世話になってるという負い目を感じている様子でしおらしくマグカップを受け取った。
思えば、今日久しぶりに喧嘩っぽくなったかもしれない。光は目が見えなくなってから、怒ることも…笑うこともなくなった。いつも俺に申し訳なさそうにして、悲しそうにして、塞ぎこんでいた。だから、そういうことをする雰囲気にもならなくて…欲求不満で暴走して、光が嫌がってるのに、無理やり弄って…
俺、最悪だ。
「光…ごめんな」
「…もういいってば」
もうその話はやめてというように、光はぽそりと言って、マグカップに口を付けた。
「洗い物してくる。なんかあったら声かけて」
「…うん…」
そのまま夜は更けていき、光がラジオを聴いている間に俺も風呂を済ませ、光をベッドへ連れて行った。
「……。」
俺の手を借りてベッドに横たわる光に布団をかける。…まだ怒ってるかな。いや今日はほんと、暴走してしまった…反省。でももうかなり限界だ…欲求不満で…
その上で光の入浴や着替えを手伝っているし…俺はよく耐えてる、と思う。
「寒くない?」
「…うん」
「そっか。じゃ…おやすみ。」
ぽん、と布団を軽く叩き、寝室を出ようとすると、布団が擦れる音がした。
「…一也さん」
「ん?」
振り向くと、せっかくかけた布団を捲り、光が起き上がっていた。
「まだ…寝ないの?」
「あー…や、ちょっと、まだやることがあるから」
家事はもう片付いてるけど…寝る前に一発抜いておきたい。
「……。」
だけど光は家事を全て俺に頼っている負い目を感じていて、今も申し訳なさそうに俯いた。
「大したことじゃないから。光は先に寝てて」
「…うん」
光はつぶやいて、また横になった。
俺はトイレで携帯を開き、とっておきのフォルダを開く。8桁のパスワードで頑丈にロックした俺の宝物たち。高校のとこから少しずつ貯めた、光のあられもない姿の写真…。
今日は…これにしよう、光と復縁して少し後に撮ったハメ撮り…
遠征に行くときにおかず用に特別に撮らせてもらったものだ。
『あっ、先輩』
『はっはっは、先輩?』
『あ…、ま、間違えたの!』
『はっはっはっは!かわいいな〜』
『もう…、あっ、あん、ちょ、ちょっと…。』
『いーよ、先輩って呼んでよ今日は…なんか昔みたいで興奮する』
『ば、ばか…、やっ、もうだめ…、』
……。
……ああぁぁぁぁ〜〜!!光とセックスしてえ…!!
この頃はこんなことになるなんて文字通り夢にも思ってなかった。光と愛し合って一緒にいられるのに、光が笑ってくれなくなる日が来るなんて…。
俺は速やかに事を済ませ、手を洗ってトイレを出た。
寝室に行くと、光が顔をこちらに向けた。
「あれ…起きてたの?」
「……。」
静かに瞬きをする光の隣に横になり、布団に潜る。
「おやすみ。」
「……。」
「どうしたー?」
電気を消して、やけに静かな光に話しかける。やっぱまだ怒ってんのかなー…
「光?」
「……。」
「眠れない?」
光は布団の中でそっと、俺の手を探り当てた。
「…手…つないでいい…?」
「え…?いいけど…」
…意外なおねだり。もう怒ってはない…のかな?
でもこんなこと言うの、珍しいな…。昔から生理の時は甘えん坊になるけど、今回もそれなのかな。可愛いから嬉しいけど。
「……。」
光の小さな手を握ると、甘えるように握り返された。可愛いな〜…もう…
「……。」
朝目が覚めて隣を見ると、光はまだ目を閉じて静かに寝息を立てていたけど、俺が身じろぎをするとその瞼が静かに開いた。
「あ…ごめん、起こした」
「…ううん」
宝石みたいな青い瞳には光がなく、ぼうっと枕もとを見つめている。
「おはよう…」
「…おはよ。待ってて、飯用意したら…」
「……!」
突然光が表情を硬めて起き上がった。
「ど…どした?」
「……。」
ちょっと青ざめた顔でしばらく固まった後、光は遠慮がちに呟く。
「…と、トイレ…連れてって」
「あ、うん…」
じゃあ掴まって、と光をベッドから立ち上がらせ、なんだか様子がおかしいなと思いながらバスルームへ連れて行き、トイレの前まで来ると、もう大丈夫、と言う光を置いてバスルームを出た。一応、何かあってもいいように、俺はベッドに座って光が俺を呼ぶのを待った。
すると数秒もせず、トントン、と壁だかドアが叩かれた。
「光?どうかした?」
随分早いなと思いながらドアに近づいて尋ねると、中から小さな声が返ってくる。
「ちょっと……来て」
「え…中に?いいの?」
「…うん」
「…じゃあ…入るぞ?」
何かあったのか…?ゆっくりドアを開くと、光は便座に座っていて、傍の洗面台には、白い下着が、赤い――赤い、血…?
「え…、」
一瞬気が動転したけど、ふっと考えがよぎって、かろうじて冷静さを保った。も、もしかして…これって生理?
「下着…血、ついてる…?」
「…あ、あぁ」
「……。」
やっぱり、というように、光は恥ずかしさと悲しさの混じったような顔でうつむいた。
「ごめん…生理、来ちゃったみたい…布団汚れてない…?」
「いや、それは大丈夫、だと思うけど…、…お、俺どうすればいい?」
「……。」
光はシャツの裾で下腹部を隠したまま、恥ずかしそうに呟いた。
「下着…と、ナプキン…持ってきてくれる?」
「あ…、あぁ」
「下着は専用のが…引き出しの左に入ってるやつがそうだから…」
「…わ、わかった」
「ナプキンは…クローゼットの一番下」
「わかった、持ってくる」
俺はすぐ寝室に引き返し、言われた通り引き出しの左に入っている黒い下着を手にした。これ…でいいんだよな?違いがよくわかんねーけど…。
そしてクローゼットを開け、その下の箱にナプキンの袋を見つけた。昼用と夜用…?昼用…でいいんだよな?昼だし。だけど気になったのは、ナプキンの袋はもう両方ともほとんど空で、2,3枚しか残っていないことだった。生理って…1週間くらい続くよな?これ、足り…ないよな、どう考えても…
どうするかな、と考えながらそれらを持ってバスルームに戻ると、光は物音に気付いて顔を上げた。
「下着、これでいいのかわかんないんだけど…」
「……。」
光は手探りで下着を確かめ、これで大丈夫、と頷いた。
「…でナプキン…は、昼用…っての持ってきたんだけど…これでいいの?」
「うん…ありがとう」
光はそれらを受け取り、顔を赤くした。
「…もう大丈夫だから…」
「あ…あぁ、じゃあ、出てる」
俺は速やかに退室し、ベッドに腰掛けた。
…風呂や着替えの手伝いにやっと慣れてきたとこだけど…そうか、女はこれがあった…。
***
「お邪魔します!」
光と相談し、牧瀬に連絡すると、牧瀬はその日の午後一番に駆けつけてくれた。
「これ、ナプキンです。」
「悪いな、ありがとう」
「こっちのだと質が悪くて肌に合わないから、とりあえずうちのストック持ってきました。日本製のやつです。光がいつも使ってるのもこれだと思うので」
「そ…そうなんだ、サンキュ」
「またなくなりそうだったら言ってください。取り寄せるので」
牧瀬はてきぱき言って、部屋の中に入っていった。
「光〜大丈夫?」
「大丈夫。」
ごめん、ありがとう、と光の声が聞こえる。俺はリビングを通り過ぎて寝室にナプキンを置き、キッチンに戻ってコーヒーを入れ始めた。
「あ、御幸さん!」
と、牧瀬が駆け寄ってきた。
「生理中はカフェインダメですよ、生理痛が酷くなるので」
「え…そうなの?」
「あとチョコレートとかも避けた方がいいです。冷たいものも。光はいつもホットミルクとかカフェインレスのハーブティーとかを飲んでます」
「あ…あぁ、わかった」
確かに…ちょいちょいハーブティーとか飲んでるかも…。あれってそういうことだったのか…
「あと、ナプキンは最初の3日間くらいは1〜2時間おきに代えてあげてくださいね。血の量が多いので」
「お…おう」
「4日目以降はそんなに出血はないけど、3〜4時間おきには代えてあげてください。代え方わかります?」
「え…、いや、たぶん、自分でやると思うけど」
「いや見えないと代えるの大変ですよ!血が付いたナプキン外すのだって、それを丸めるのだって、新しいナプキンを向きを間違えずにつけるのだって、御幸さん目ぇつぶったままできます?」
「……。」
「教えるのでこっち来てください。」
牧瀬はぴしゃりと言って、光を振り向いた。
「光、私がいるときは手伝えるけど、私がいないときのために御幸さんにも教えといたほうがいいと思う。」
「……。」
光は申し訳なさそうに俯いた。
「よし。じゃ、下着とナプキン持ってきてください。」
「え…」
「恥ずかしがってる場合じゃないですよ。早く持ってきてください。」
「は…はい」
***
結局、牧瀬から保健体育の授業さながら大真面目にナプキンの使い方を教えてもらい、俺は改めて…というか、ほとんど初めて、生理の大変さを痛感した。いや、もともと生理痛とか大変そうだなとは思っていたけど、こんなに面倒なことを毎月1週間も続けてるとか…しかも体調も悪くなるし、光はチョコレートもコーヒーも大好きなのに、それも我慢しなきゃならない中でこんな面倒なことをしているなんて…なんというか、頭が下がる。
牧瀬は夕方には帰っていったが、また何かあったらいつでも呼んでください、と頼もしい言葉を残していった。
「光、…大丈夫?」
ソファでひざ掛けをかけて字幕でテレビを眺めている光に声をかけると、光はこくんと頷いた。
「早めに痛み止め飲んだから…。」
「そっか…」
光は時々、生理痛が酷くて起きあがれないときもある。
けど…今朝は驚いた。あんなに出血するもんなのか…そりゃ体調悪くもなるよな…。今まで血が出ることは知っていたけど、ほんのちょっとだろうと思っていた。重いときを除いて、光は生理中でも普通に過ごしていたし、何なら言われなきゃわからないときもあった。生理中だからと行為を断られて、俺は気にしないから、ちょっとだけでも、なんて食い下がったこともあったっけ…うわあ思い出したくない。俺最低…。
「そろそろお風呂入る?」
「……。」
じわじわ、光の顔が赤くなった。
「…きょ 今日は…一人で入る」
「え?…大丈夫?」
「大丈夫」
大丈夫…とは思えなかったけど、光がそう言い張るから、俺は脱衣所まで光を連れて行って、服を脱がすのを手伝った。
「も、もう、大丈夫だから」
光は下着になると俺にそう言い、脱衣所から出るよう促した。普段も風呂の時は恥ずかしそうにするけど、たぶん今日は…生理、だからだろう。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫」
「シャンプーとリンスとボディソープの区別もつかないのに?」
「……。」
「遠慮すんなって。」
「え、遠慮とかじゃなくて…」
「じゃあ何?」
「……生理、だから…」
「だから?余計に大変だろ」
「だ、だって…汚い…」
「汚くないって。」
「汚いよ…」
「光。」
俺はなだめるように光の頬を撫で、髪を耳にかけてやった。
「俺たち、夫婦だろ。助け合うのが当たり前なんだよ。」
「…違う…」
「何が違う?」
「だって…私ばっかり…だもん……してもらってばかりで…」
「あのなー…そんなことないから。俺だってたくさん光に助けられてる。」
「……。」
「自己評価が低すぎる。もっと自分を大切にしろよ。俺の一番大事な人なんだから…」
「……。」
光の顔が赤く染まって、俺も急に恥ずかしくなった。
「…じゃ、いいよな?手伝うけど」
「……。」
「髪まとめるから、後ろ向いて。下着も脱いで」
「……。」
後ろを向いた光の長い髪に指を通す。ふわふわさらさらの、綺麗な綺麗な髪。その髪を束ねてヘアゴムでまとめていると、光が背中に手を伸ばし、ブラジャーのホックを外した。
ブラジャーを外すと光は、大人しく髪を結われ、最後にショーツが残った。
「あ…、待って」
ショーツに触れると、光は身を引いた。
「血が…垂れちゃうかもしれないから、中で脱ぐ…」
え?そんなに?
と思いつつ、わかった、と浴室のドアを開けて光を促した。
浴室に入ると光はショーツに手をかけ、ゆっくりと脱いだ。ほんの1時間ほど前につけたばかりのナプキンは、べったりとした赤い色に染まっていて、危険ではないとわかってはいても驚き、ゾクゾクした。朝もあんなに血が…下着が真っ赤になるくらい出てたのに、まだこんなに出血するのか…本当にこれって平常?光が見えてないから気づいてないだけで、普通より出血しすぎてるってことはないんだろうか。本当に大丈夫なのか?
「な、なんか…すげぇ血まみれだけど、大丈夫なの?」
「え?下着も汚れちゃってた…?」
「…あ、いや、ナプキン…だけだけど、すごい血まみれ…」
「…うん」
「え?本当に?こんなに血出てて大丈夫?」
「……。」
「あっ!おい、血が…!」
「え?」
そう言っている間に、光の白い太ももに真っ赤な血がつうっと伝って滴っていた。浴室の白い床にも赤い血がぽたぽたと垂れ、腿に伝う感覚に光も気づいたように、あぁ…、と呟いた。
「一日目は出血が多いから…」
「え…、あ、へぇ…そうなんだ…」
「……。シャワー…使っていい?」
「あ、あ、そうだな、ごめん」
出血に戸惑いすぎてしまった。俺はシャワーを光に手渡し、ナプキンをティッシュでくるみ、ショーツを洗濯籠に入れた。光は体を流して、太ももの血も洗い流していく。念入りに太ももを流していたが、まだ赤い色が残っているうちに、光はシャワーを止めた。
「待って、まだ血が…ついてる」
そう言ってシャワーをつかむと、光は黙って渡した。柔らかな太ももを撫で、血を洗い流す。だけどそうしている間にも血はどんどん流れてきて、キリがないと思ったら、そもそも秘部から出血し続けているのだった。
「……。」
そこにシャワーのお湯を充てると、光は少しぴくんと反応した。
…やばいって!もう、毎日風呂の時間は我慢の連続なのに、それでちょっとそういう雰囲気になることもあるけど…でも今は光、生理中だし…!
…でも…。
「……。」
シャワーの角度を変えて、秘部にもっとお湯が当たるようにすると、ん、と少し光が息をのんだ。さらに手を伸ばし、そこを撫で始める。光の顔が赤くなり、もじもじと足が動いた。
視力がなくなってから、ちゃんとそういうことしてねーし…光も欲求不満、なのかも…。
撫でても撫でても、お湯に混ざる赤い色はなくならない。だけど指先のぬるぬるした感触が、血によるものなのか蜜によるものなのか、もうよくわからなかった。
「…、ねえ…何…、…。」
光がふるふるっ、と震え、俺の手を少し抑えた。
「いや…、血が、なかなか流せないから…」
「……。」
そういわれては光も黙って、そのまま秘部を弄られ続けた。
多分、光ももう気づいてる…。俺の下心にも、さっきからずっと、俺の下半身が痛いくらい膨れているってことも…。
秘部の表面を軽く遠慮がちに撫でているだけで、光はもどかしそうに息を荒げ始めた。感じている…けど、まだ物足りないって顔。でも、生理中だし…血を流すって建前だし…。さすがに指、入れたりするのはダメだよな…。
でも、光ももう、辛そうで…。
「……、ん、」
気が緩んだ表紙に声が漏れた光が、はっと顔を赤くして俺の手を抑えた。
「や、もう、ちょっと、やめて…」
「いいから」
「や、やだ…」
「いいよ、光、イッて」
気が付けば俺はそう言って、秘部の溝に指を滑り込ませ、そのまま蕾を集中的に擦った。
「あ、あ…!やっ…。」
すると光は俺の肩につかまって、あっという間に達した。
光の乱れた息と、シャワーの湯が白い床に打ち付けられる音、そして自分の心臓の音で頭がいっぱいになり、俺は興奮を自覚した。入れられなくても、このまま、もう少し…そう思った矢先、俺の肩につかまっていた光の手に、ぎゅう、と力がこもった。その直後、ぼたぼたと赤い血の塊が、光のそこから真っ白な太ももを滑り落ち、とめどなく流れた。
「うわ!?だ、大丈夫か!?血が…」
「…大丈夫だってば!」
光は顔を真っ赤にして、俺につかまった手を離せないまま顔をそむけた。
「だってすごい血が…」
「だから、そういうものなの!もう変なことしないで!」
「いやでも…」
「もうバカ!」
光は恥ずかしさで泣き出しそうに怒っていて、俺は軽率な行為を後悔しつつも、本当に光の体が心配だった。だってこんな血の量、普通なら気を失ってる。
「いや、本当にごめん、でも、本当に血が…すごい出てて…」
「だからそういうものなんだってば!」
「本当に?こんなに出血してるのに?」
「うるさいなぁ…!もういい!もうお風呂出る!」
「え!ごめんって!わかったから!ホラ体洗うから座って…」
「いや!触らないで!変なことするでしょ!」
「し、しないから!もうほんとしないから」
「やめてって言ったのに…!」
「本当にごめん、本当…、頼むから、もうしないから座って」
「……。」
光は恥ずかしさと怒りをにじませたまま、しぶしぶ座った。俺はいつも通り泡で光の体を撫で、綺麗に洗ってやり、髪も洗ったあと、また丹念に血を流して風呂を出た。すっかり怒ってしまった光に謝り通しつつ髪を乾かしてやり、いつも通り梳かして三つ編みにしてまとめ、ソファに座らせてご機嫌を窺うためホットミルクを作った。
「光…はい、ホットミルク」
「……。…ありがとう」
光はまだ不機嫌ながらも、俺の世話になってるという負い目を感じている様子でしおらしくマグカップを受け取った。
思えば、今日久しぶりに喧嘩っぽくなったかもしれない。光は目が見えなくなってから、怒ることも…笑うこともなくなった。いつも俺に申し訳なさそうにして、悲しそうにして、塞ぎこんでいた。だから、そういうことをする雰囲気にもならなくて…欲求不満で暴走して、光が嫌がってるのに、無理やり弄って…
俺、最悪だ。
「光…ごめんな」
「…もういいってば」
もうその話はやめてというように、光はぽそりと言って、マグカップに口を付けた。
「洗い物してくる。なんかあったら声かけて」
「…うん…」
そのまま夜は更けていき、光がラジオを聴いている間に俺も風呂を済ませ、光をベッドへ連れて行った。
「……。」
俺の手を借りてベッドに横たわる光に布団をかける。…まだ怒ってるかな。いや今日はほんと、暴走してしまった…反省。でももうかなり限界だ…欲求不満で…
その上で光の入浴や着替えを手伝っているし…俺はよく耐えてる、と思う。
「寒くない?」
「…うん」
「そっか。じゃ…おやすみ。」
ぽん、と布団を軽く叩き、寝室を出ようとすると、布団が擦れる音がした。
「…一也さん」
「ん?」
振り向くと、せっかくかけた布団を捲り、光が起き上がっていた。
「まだ…寝ないの?」
「あー…や、ちょっと、まだやることがあるから」
家事はもう片付いてるけど…寝る前に一発抜いておきたい。
「……。」
だけど光は家事を全て俺に頼っている負い目を感じていて、今も申し訳なさそうに俯いた。
「大したことじゃないから。光は先に寝てて」
「…うん」
光はつぶやいて、また横になった。
俺はトイレで携帯を開き、とっておきのフォルダを開く。8桁のパスワードで頑丈にロックした俺の宝物たち。高校のとこから少しずつ貯めた、光のあられもない姿の写真…。
今日は…これにしよう、光と復縁して少し後に撮ったハメ撮り…
遠征に行くときにおかず用に特別に撮らせてもらったものだ。
『あっ、先輩』
『はっはっは、先輩?』
『あ…、ま、間違えたの!』
『はっはっはっは!かわいいな〜』
『もう…、あっ、あん、ちょ、ちょっと…。』
『いーよ、先輩って呼んでよ今日は…なんか昔みたいで興奮する』
『ば、ばか…、やっ、もうだめ…、』
……。
……ああぁぁぁぁ〜〜!!光とセックスしてえ…!!
この頃はこんなことになるなんて文字通り夢にも思ってなかった。光と愛し合って一緒にいられるのに、光が笑ってくれなくなる日が来るなんて…。
俺は速やかに事を済ませ、手を洗ってトイレを出た。
寝室に行くと、光が顔をこちらに向けた。
「あれ…起きてたの?」
「……。」
静かに瞬きをする光の隣に横になり、布団に潜る。
「おやすみ。」
「……。」
「どうしたー?」
電気を消して、やけに静かな光に話しかける。やっぱまだ怒ってんのかなー…
「光?」
「……。」
「眠れない?」
光は布団の中でそっと、俺の手を探り当てた。
「…手…つないでいい…?」
「え…?いいけど…」
…意外なおねだり。もう怒ってはない…のかな?
でもこんなこと言うの、珍しいな…。昔から生理の時は甘えん坊になるけど、今回もそれなのかな。可愛いから嬉しいけど。
「……。」
光の小さな手を握ると、甘えるように握り返された。可愛いな〜…もう…