324
……。……天井……
「――!!」
俺は飛び上がるように起き上がった。ここは…城の俺の自室。どうして…さっきの事故は夢だったのか?
一瞬混乱したが、ぽとりと膝に落ちたぬるい濡れタオルと、ベッドにうつ伏せている少女…同僚のメイドの少女を見つけて、大体の状況を察した。
あの時雨に濡れて…濡れた服のままでいたから、熱でも出して倒れたんだろうか。俺がここにいるということは、光さんももう城に戻れたんだろうけど……俺はなんて情けない……
「あ…。ま、マモル。」
目を覚ましたメイドがぽっと頬を赤らめて起きあがった。
「ごめんなさい、私、寝ちゃったみたい…。」
「いや…。ありがとう。」
「……。あ…。熱、測ってみて。」
「あぁ…」
「王女殿下もとても心配しておられたのよ。元気になったら顔を見せてあげてね。」
「王女殿下は…」
「ご無事よ。昨日戻られたときはお元気だったけど、今朝になって少し熱が出たとかで、今お医者様がいらしてるわ。」
「……そうか…」
光さんも無事…だったか。よかった…
「……。」
「マモル?」
「……熱は下がった。執事長と話してくる」
「え…?でも、もう少し休まないと…」
「今回のこと…俺の責任だ。ここから出て行くことになるかもしれない。なら、この部屋を使わせてもらう権利はない。」
「え…!?そ、そんなの…。そんなことないわよ、大丈夫よ、きっと…マモルは悪くないわ。」
「……。」
俺は部屋を出て、執事長の部屋に向かった。だけどその途中で、廊下の角を曲がったところで、危うくぶつかりそうになった相手が執事長だった。おっと、と目を丸めておどけた彼は、俺の体を確かめるように見た。
「もう具合は大丈夫なのか?マモル。」
「…はい。今回のこと…俺の責任です。大変申し訳なく…」
「何を言ってるんだ、王女殿下の話では、何者かが後ろから追突してきたって言うじゃないか。」
「……。」
「今国中で犯人を捜してる。車は損傷しているだろうし、国民の所有車の管理は城で行っているから、すぐに見つかるだろう。場合によっては民主主義の過激派じゃないかなんて噂もある。」
「え…?」
「とにかく…嵐の中、よく王女殿下を一晩守ってくれた。今日は部屋で休んでいなさい。仕事のことはまたあとでな。」
「……。」
執事長は、言葉を失って佇む俺の肩を叩き、忙しそうに階段を上がっていった。
***
「玉城さん可愛いよな〜…」
高校2年の春、体力測定のため男女合同の体育の時間。
普段見慣れない体操服姿の女子たちに、男子たちは皆そわそわしていた。
中でも玉城さん…転入から間もなく、瞬く間に有名になるほどの美貌の持ち主であるクラスメイトの玉城さんは、特に注目を浴びていた。
「おっなんだよ、お前玉城さんのこと好きなの?」
「おいそういうのやめろって!そうじゃなくて、可愛いじゃん普通に!」
「ははは顔赤いぞ〜」
「玉城さーん!こいつが…」
「おい!やめろって!」
名前を呼ばれた玉城さんは、きょとんとこっちを振り向いたけど、ヤジを飛ばされるのには慣れているのか、すぐに興味を失ったように仲のいい牧瀬さんとのおしゃべりを再開した。
「ホントモテるよね〜」
すると、今度は近くの女子グループの話声が聞こえてきた。
「まー男が好きそうな感じじゃん?」
「おしとやか〜って感じだもんね〜」
「箱入りのお嬢様って感じ〜」
「わかる、守ってあげたくなるって言うかー」
一見褒めているようで嫌味を含んだその言葉が誰を指しているのか、考えずともわかった。
玉城さんを僻んでいるのだ。けど、それも仕方ないと思う。あれだけ目立つ人だからな…
だけど俺はそういう騒動からは生来無縁の人間だ。誰が誰を好きとか、誰が美人だとか、そういうことに興味はない。玉城さんが美人なのは事実だと思うが、男子が思い描いているような子なのか、女子が噂しているような子なのか、俺にとってはどっちでもいいことだった。
「次!玉城さん!」
「はい」
ボール投げの順番が回ってきて、玉城さんは立ち位置に立ち、男子も女子も注目した。
その表情は違っていたが、男子も女子も、きっと彼女に思い描く姿は一緒だったと思う。
おしとやかで、つつましい彼女は、きっと数メートルも投げられない…。
体つきも華奢だし、色白だし、とてもボールを力強く投げるイメージなど湧かないからだ。
だけど次の瞬間ボールを投げる姿勢を取った玉城さんは、思わず息を止めて見入ってしまうほど、美しかった。
「――!!」
「……16メートル!」
うわあ、すげえ、と歓声が上がった。さっき、牧瀬さんが30メートル近く投げた時とそう変わらない大歓声だった。
「キャー!光すごーい!!さすがぁ!!」
「30メートル投げた人が良く言う…」
「光ぃ〜こっち来て!ハグしよハグ!!」
「なんで?」
きゃっきゃと玉城さんに抱き着く牧瀬さん。その様子を、男子も女子も…俺も、ぽかんと眺めていた。
玉城さんがあんなにきれいに遠投するなんて…。
想像通り、綺麗で可愛らしい…だけど、想像以上に…格好いい人…なのかもしれない。
「――!!」
俺は飛び上がるように起き上がった。ここは…城の俺の自室。どうして…さっきの事故は夢だったのか?
一瞬混乱したが、ぽとりと膝に落ちたぬるい濡れタオルと、ベッドにうつ伏せている少女…同僚のメイドの少女を見つけて、大体の状況を察した。
あの時雨に濡れて…濡れた服のままでいたから、熱でも出して倒れたんだろうか。俺がここにいるということは、光さんももう城に戻れたんだろうけど……俺はなんて情けない……
「あ…。ま、マモル。」
目を覚ましたメイドがぽっと頬を赤らめて起きあがった。
「ごめんなさい、私、寝ちゃったみたい…。」
「いや…。ありがとう。」
「……。あ…。熱、測ってみて。」
「あぁ…」
「王女殿下もとても心配しておられたのよ。元気になったら顔を見せてあげてね。」
「王女殿下は…」
「ご無事よ。昨日戻られたときはお元気だったけど、今朝になって少し熱が出たとかで、今お医者様がいらしてるわ。」
「……そうか…」
光さんも無事…だったか。よかった…
「……。」
「マモル?」
「……熱は下がった。執事長と話してくる」
「え…?でも、もう少し休まないと…」
「今回のこと…俺の責任だ。ここから出て行くことになるかもしれない。なら、この部屋を使わせてもらう権利はない。」
「え…!?そ、そんなの…。そんなことないわよ、大丈夫よ、きっと…マモルは悪くないわ。」
「……。」
俺は部屋を出て、執事長の部屋に向かった。だけどその途中で、廊下の角を曲がったところで、危うくぶつかりそうになった相手が執事長だった。おっと、と目を丸めておどけた彼は、俺の体を確かめるように見た。
「もう具合は大丈夫なのか?マモル。」
「…はい。今回のこと…俺の責任です。大変申し訳なく…」
「何を言ってるんだ、王女殿下の話では、何者かが後ろから追突してきたって言うじゃないか。」
「……。」
「今国中で犯人を捜してる。車は損傷しているだろうし、国民の所有車の管理は城で行っているから、すぐに見つかるだろう。場合によっては民主主義の過激派じゃないかなんて噂もある。」
「え…?」
「とにかく…嵐の中、よく王女殿下を一晩守ってくれた。今日は部屋で休んでいなさい。仕事のことはまたあとでな。」
「……。」
執事長は、言葉を失って佇む俺の肩を叩き、忙しそうに階段を上がっていった。
***
「玉城さん可愛いよな〜…」
高校2年の春、体力測定のため男女合同の体育の時間。
普段見慣れない体操服姿の女子たちに、男子たちは皆そわそわしていた。
中でも玉城さん…転入から間もなく、瞬く間に有名になるほどの美貌の持ち主であるクラスメイトの玉城さんは、特に注目を浴びていた。
「おっなんだよ、お前玉城さんのこと好きなの?」
「おいそういうのやめろって!そうじゃなくて、可愛いじゃん普通に!」
「ははは顔赤いぞ〜」
「玉城さーん!こいつが…」
「おい!やめろって!」
名前を呼ばれた玉城さんは、きょとんとこっちを振り向いたけど、ヤジを飛ばされるのには慣れているのか、すぐに興味を失ったように仲のいい牧瀬さんとのおしゃべりを再開した。
「ホントモテるよね〜」
すると、今度は近くの女子グループの話声が聞こえてきた。
「まー男が好きそうな感じじゃん?」
「おしとやか〜って感じだもんね〜」
「箱入りのお嬢様って感じ〜」
「わかる、守ってあげたくなるって言うかー」
一見褒めているようで嫌味を含んだその言葉が誰を指しているのか、考えずともわかった。
玉城さんを僻んでいるのだ。けど、それも仕方ないと思う。あれだけ目立つ人だからな…
だけど俺はそういう騒動からは生来無縁の人間だ。誰が誰を好きとか、誰が美人だとか、そういうことに興味はない。玉城さんが美人なのは事実だと思うが、男子が思い描いているような子なのか、女子が噂しているような子なのか、俺にとってはどっちでもいいことだった。
「次!玉城さん!」
「はい」
ボール投げの順番が回ってきて、玉城さんは立ち位置に立ち、男子も女子も注目した。
その表情は違っていたが、男子も女子も、きっと彼女に思い描く姿は一緒だったと思う。
おしとやかで、つつましい彼女は、きっと数メートルも投げられない…。
体つきも華奢だし、色白だし、とてもボールを力強く投げるイメージなど湧かないからだ。
だけど次の瞬間ボールを投げる姿勢を取った玉城さんは、思わず息を止めて見入ってしまうほど、美しかった。
「――!!」
「……16メートル!」
うわあ、すげえ、と歓声が上がった。さっき、牧瀬さんが30メートル近く投げた時とそう変わらない大歓声だった。
「キャー!光すごーい!!さすがぁ!!」
「30メートル投げた人が良く言う…」
「光ぃ〜こっち来て!ハグしよハグ!!」
「なんで?」
きゃっきゃと玉城さんに抱き着く牧瀬さん。その様子を、男子も女子も…俺も、ぽかんと眺めていた。
玉城さんがあんなにきれいに遠投するなんて…。
想像通り、綺麗で可愛らしい…だけど、想像以上に…格好いい人…なのかもしれない。