325
「一日安静にしていれば大丈夫でしょう。」
医者はカルテを書きながらそう微笑んだ。
「…だから大げさって言ったでしょ」
ぽつり、と光は不満げに俺を睨んだ。医者嫌いのため熱が出たというのに寝てれば治るとか言い出したため、俺が無理やり医者を呼んだからだ。
「結果的にはな。大事なくてよかった、って言うんだよ、こういう時は。」
「……。」
「普通の風邪だって拗らせたらヤベェんだぞ。」
洋一も今ばかりはそうだそうだと頷いて俺の側に回った。
「薬は出せませんので、今日はベッドでお過ごしになってくださいね。」
「……。」
「え?…薬が出せないって…どうして?」
あ、と焦ったような顔になる光。疑問符を浮かべて医者を見る俺と洋一。
医者は微笑みを深くして、俺と洋一、そして光を見た。
「おめでたですよ。」
「……。」
「……え!?」
「……!!」
驚いて光を見ると、なぜが苦々しい顔をしていた。
「…光もしかして…知ってたのか?」
「……うん。一昨日…検査した」
「…どうして言ってくれなかったんだよ」
そんな大事なこと…。知っていれば、昨日だってあんな山の方まで連れて行かなかったのに。
「だって…。何があるか、わからないから…」
「……。」
「万が一のことが…あったらと思うと…。…安定期に入ってから…話そうと、思って」
一度流産を経験している光は、また妊娠は望めるけど、流れやすくなるかもしれない、とも医者に言われていた。俺は唇が震えるのを感じつつ、光の手を握った。
「それで…万が一のことってのが起きたら…一人で悲しむ気だったのかよ」
「……。」
「そんなの…俺は絶対許さないって、わかってるよな。」
「おい…、一也」
「俺の子でもあるんだぞ。」
ぽろっ、と光の目から涙がこぼれた。
「……。…ごめんなさい」
俺は握っている小さな手を撫でた。光は俺の手を握り返し、涙を拭った。
***
「光!」
階段を降りようとしている光を見つけて駆け寄ると、光は苦笑いを浮かべた。
「危ないからちゃんと掴まれよ。」
「大丈夫だよ…」
「ダメ!ちゃんと手すりか俺に掴まりなさい。」
「……また始まった…」
光は苦笑顔のまま呟き、はいはい、と俺の腕に掴まった。
「またって?」
洋一が目を丸くすると、光はため息交じりに笑う。
「前に妊娠してた時も、一也さん、過保護に拍車がかかって…」
「なるほど、鬱陶しいなそれは」
「だって心配じゃん!!」
「そりゃわかるけど…」
「あ、待って光。ここ段差あるから気をつけろよ」
「…まだお腹も大きくないし、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「確かにここまでされるとうぜぇな」
う、うざいわけじゃ…。と光はちょっと笑い、首をかしげる。
「ちょっと洋一クン。汚い言葉使うとお腹の子の教育に悪いからやめてくれる?」
「うぜえー」
「あ!光一人で先に行くなよ」
「冷蔵庫開けるの!ずっと一也さんに掴まってられるわけないでしょ」
光に怒られた…。ガーン、と立ち尽くす俺を、洋一はニヤニヤ見て光に歩み寄る。
「それ何?プリン?」
「レモンムース。」
「4つ?」
「周防君、今日からお仕事復帰するみたいだから。朝食の時一緒に食べようかと思って」
「ふうん…」
周防か…仕事中に誘っても固辞しそうだけど。まあ、また世話になったしな…あいつがいて本当に良かった。
「いやしかしビビったよなー周防がぶっ倒れててよ」
「周防君、寒いのに私に上着かしてくれたから…」
「!」
キッチンからリビングに入ると、入り口に佇んでいた周防が、俺たちを見るなり青ざめた顔で姿勢を正し、土下座でもするのかという勢いで屈み…床に膝をついた。
「王女殿下、王配殿下、この度は私の不注意で王女殿下を危険な目に遭わせてしまい…」
「ちょ、ちょっと、立ってよ。そんなに気にしないで…」
「いえ!だめです。俺…私の責任です。償わせてください」
く…クソ真面目…!!いや、まあ、この国はこの国で、かなり緩いとは思うけど…。人口が少なく、裕福で生活にゆとりがある人ばかりだから、この国は何かとおおらかだ。だけど、周防は周防で自分に厳しすぎると思う。
「償うって言われても…。」
光は困ったように俺と洋一を見た。
「今なら光の言う事なんでも聞いてくれるってよ。」
「え…?」
「……。」
洋一が茶化すと、光は苦笑し、周防は無言のまま少しひるんだように洋一を見上げた。
「何言ってんだよ洋一。」
「なんだよ冗談じゃねーか」
「そんなのいつものことだろ」
「ヒャハハ!確かに」
「……。」
「……。」
俺が口をはさむと、洋一は笑いだし、光はちょっと呆れたように、周防は閉口して俺を見た。
医者はカルテを書きながらそう微笑んだ。
「…だから大げさって言ったでしょ」
ぽつり、と光は不満げに俺を睨んだ。医者嫌いのため熱が出たというのに寝てれば治るとか言い出したため、俺が無理やり医者を呼んだからだ。
「結果的にはな。大事なくてよかった、って言うんだよ、こういう時は。」
「……。」
「普通の風邪だって拗らせたらヤベェんだぞ。」
洋一も今ばかりはそうだそうだと頷いて俺の側に回った。
「薬は出せませんので、今日はベッドでお過ごしになってくださいね。」
「……。」
「え?…薬が出せないって…どうして?」
あ、と焦ったような顔になる光。疑問符を浮かべて医者を見る俺と洋一。
医者は微笑みを深くして、俺と洋一、そして光を見た。
「おめでたですよ。」
「……。」
「……え!?」
「……!!」
驚いて光を見ると、なぜが苦々しい顔をしていた。
「…光もしかして…知ってたのか?」
「……うん。一昨日…検査した」
「…どうして言ってくれなかったんだよ」
そんな大事なこと…。知っていれば、昨日だってあんな山の方まで連れて行かなかったのに。
「だって…。何があるか、わからないから…」
「……。」
「万が一のことが…あったらと思うと…。…安定期に入ってから…話そうと、思って」
一度流産を経験している光は、また妊娠は望めるけど、流れやすくなるかもしれない、とも医者に言われていた。俺は唇が震えるのを感じつつ、光の手を握った。
「それで…万が一のことってのが起きたら…一人で悲しむ気だったのかよ」
「……。」
「そんなの…俺は絶対許さないって、わかってるよな。」
「おい…、一也」
「俺の子でもあるんだぞ。」
ぽろっ、と光の目から涙がこぼれた。
「……。…ごめんなさい」
俺は握っている小さな手を撫でた。光は俺の手を握り返し、涙を拭った。
***
「光!」
階段を降りようとしている光を見つけて駆け寄ると、光は苦笑いを浮かべた。
「危ないからちゃんと掴まれよ。」
「大丈夫だよ…」
「ダメ!ちゃんと手すりか俺に掴まりなさい。」
「……また始まった…」
光は苦笑顔のまま呟き、はいはい、と俺の腕に掴まった。
「またって?」
洋一が目を丸くすると、光はため息交じりに笑う。
「前に妊娠してた時も、一也さん、過保護に拍車がかかって…」
「なるほど、鬱陶しいなそれは」
「だって心配じゃん!!」
「そりゃわかるけど…」
「あ、待って光。ここ段差あるから気をつけろよ」
「…まだお腹も大きくないし、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「確かにここまでされるとうぜぇな」
う、うざいわけじゃ…。と光はちょっと笑い、首をかしげる。
「ちょっと洋一クン。汚い言葉使うとお腹の子の教育に悪いからやめてくれる?」
「うぜえー」
「あ!光一人で先に行くなよ」
「冷蔵庫開けるの!ずっと一也さんに掴まってられるわけないでしょ」
光に怒られた…。ガーン、と立ち尽くす俺を、洋一はニヤニヤ見て光に歩み寄る。
「それ何?プリン?」
「レモンムース。」
「4つ?」
「周防君、今日からお仕事復帰するみたいだから。朝食の時一緒に食べようかと思って」
「ふうん…」
周防か…仕事中に誘っても固辞しそうだけど。まあ、また世話になったしな…あいつがいて本当に良かった。
「いやしかしビビったよなー周防がぶっ倒れててよ」
「周防君、寒いのに私に上着かしてくれたから…」
「!」
キッチンからリビングに入ると、入り口に佇んでいた周防が、俺たちを見るなり青ざめた顔で姿勢を正し、土下座でもするのかという勢いで屈み…床に膝をついた。
「王女殿下、王配殿下、この度は私の不注意で王女殿下を危険な目に遭わせてしまい…」
「ちょ、ちょっと、立ってよ。そんなに気にしないで…」
「いえ!だめです。俺…私の責任です。償わせてください」
く…クソ真面目…!!いや、まあ、この国はこの国で、かなり緩いとは思うけど…。人口が少なく、裕福で生活にゆとりがある人ばかりだから、この国は何かとおおらかだ。だけど、周防は周防で自分に厳しすぎると思う。
「償うって言われても…。」
光は困ったように俺と洋一を見た。
「今なら光の言う事なんでも聞いてくれるってよ。」
「え…?」
「……。」
洋一が茶化すと、光は苦笑し、周防は無言のまま少しひるんだように洋一を見上げた。
「何言ってんだよ洋一。」
「なんだよ冗談じゃねーか」
「そんなのいつものことだろ」
「ヒャハハ!確かに」
「……。」
「……。」
俺が口をはさむと、洋一は笑いだし、光はちょっと呆れたように、周防は閉口して俺を見た。