326
「光、もう休んでなよ。あとは俺がやるから」
バルコニーのハーブに水やりをしていた光の手からじょうろを取り、背中を促す一也。えー、と渋い顔をする光。
「そのくらいいいだろ。」
ほっとけよ、と一也を手で払うしぐさをすると、一也はムッとして俺を見たものの、過保護すぎる自覚はあるのか、しぶしぶじょうろを光に返した。
一也が心配でたまらないのはわかる。一度子供を失っているし…ただでさえ一也は光至上主義。何よりも光が大事だから…いや、それは俺も同じだけどな!
「これだけ終わったら部屋に戻るよ。」
光も一也を気遣ってそう微笑むと、またじょうろを傾けて鉢植えの土を濡らした。
日差しを受けてキラキラ輝く光の髪…。真っ白な肌。白いブラウスに淡いブルーのワンピースを重ね着している光は、お姫様みたいで…本当にお姫様だけど…とにかく、この世の何よりも綺麗。
それに…豊かな胸、キュッとしまったウエスト…まだお腹は膨らんでいない。キュッと上がったお尻に、スカート越しにもわかるすらりとした美脚…。
…最近シてねーなぁ…光妊娠中だから当たり前だけど…。
「もー、何、くっついて…」
「支えてんの。」
「大丈夫だってば、まだお腹も全然大きくないんだから。」
「だめですー」
「も〜…ふふ」
一也が光を後ろから抱きすくめ、イチャイチャし始める。こいつら…いつまでこんな新婚並みにラブラブなんだ。俺は本当の新婚なのに。クソッ…俺だって光に触りたいのに…!
「やべっ、洋一に殺されそう」
「え?」
「わかってんなら離れろや」
「やだねー。あ〜光やわらけぇ〜…」
「太ったって言いたいの?」
「ちげーよ!なんか光ってやわらけぇんだよ、どこ触っても」
「えぇ?」
「このふわふわ感、俺すげー好きなんだよね…」
そのまま光のうなじに顔を埋め、眠たげにつぶやく一也。すげえムカつくけど、言ってることは同意だ。光ってなんか、すごく、触り心地がいいっていうか…
あ、やべ、なんかムラムラしてきた。
「どした?」
おもむろに立ち上がると、一也が俺に気づいてそう言った。
「別に?ちょっと部屋にいるわ」
「? ふーん?」
訝しみながらも光と二人っきりに慣れることの方が大事らしく、一也はそう呟くとすぐにまた光に夢中になった。
***
「…はあ」
部屋で自家発電を済ませようと思ったものの、いいおかずが見つからない。つーか光が最高すぎるんだ…もう適当なAVや本じゃその気にならなくなっちまった。だけどこっちに来てやっと光をまた抱いてから、2回しか光とはしておらず、割と早く光が妊娠したためあと1年はお預け…。いや、めでたいことだし、そもそもそのためにこの国に来たんだけど…。
一也の子供を妊娠した光は幸せそうで、胸がちっとも痛まないと言えばうそになる。でも、前に子供を亡くした時の光の憔悴ぶりを知っているから…よかった、という気持ちもある。俺がこんなに誰かの幸せを願うような人間だったとはな…。光と出会ってから、自分はずいぶん丸くなったと思う。
……。
…なんか今度はじーんとしてきて、そういう気分じゃなくなっちまった。昼寝でもするかな…
――コンコンコン。
と、ドアがノックされ、俺は立ち上がった?
「はい?」
と…ついまた日本語で返事しちまった…と思いつつドアを開けると、そこにはぼんやりと見覚えのあるメイドの女の子が立っていた。
意表を突かれて目を丸くする俺に、その子はニコリと笑顔を向けた。
『すみません。お掃除のために入室してもよろしいでしょうか?』
「え?あ、掃除?ああ、どうぞ…」
放棄と塵取りとバケツを持ち上げて見せた彼女に頷いて、俺は道を開けた。
彼女は部屋の中に入ると、手際よく掃除を始めた。床を掃き、窓や家具を拭き、カーテンをすべて綺麗に整えて、ベッドも整えて、ソファに座っている俺の方にやってくる。何か言われるかと身構えたが、彼女はソファのクッションと毛布を整え始めた。そこで少し安堵した矢先、あっ、と彼女が何かに躓いた。
「……!」
危うくソファに手をついたものの、俺の方によろめいた華奢な体を抱きとめた。柔らかな細い腰の感触にドキリとする。彼女は顔を赤くし、だけど、なぜかじっと俺の顔を見つめた。
「……。」
「……。」
どこか…期待するような目。俺の目から目を逸らさず、見つめてくる彼女。
もしかして…誘われてる?いや、だけど…。
脳裏に浮かぶ光の笑顔。やめろ、と自分の声が頭の中で響き、だけど、彼女から体を離すのに、一瞬躊躇いがあった。
『も、申し訳ございません…。』
彼女は起き上がり、赤い顔のまま部屋を出て行った。
……いくら欲求不満だからって…何迷ってんだ、俺…!
***
むしゃくしゃする思いのまま中庭に散歩に出た。
光たちはまだバルコニーでいちゃついてんのかな…、と悶々としていたが、目の前の柱の陰に一也の姿を見つけた。隣には…何度かパーティーや食事会で見かけた、金持ちのおっさんの娘もいる。黄色いワンピースで黄金の髪を束ね、妖精みたいな可愛らしい子だ。確か、20歳くらいの…。やっぱこの国は美人が多いんだなと、一也とこっそり噂した。まあ、俺は光一筋だけど。
だけどどうも様子がおかしい。女の子は一也にしなだれかかるようにして、何を言ってるかはわからないが、女の子の声は甘えているように鼻にかかっている。
一也の顔はここからは見えないが、女の子の手をほどき、素っ気ない声で何かを言って、踵を返す。
…なんか、女の子に誘われて、それを断ったような感じに見える。あいつ、顔がいいから、今までもこの国に来てから誘われたりしてたのかな…。
「ん」
考えているうちに一也が俺に気づき、呟いた。追いかけようとしていた女の子も俺に気づき、苦い顔をして庭園から出て行った。
「…何浮気してんだよ。」
「してねーよ。断ったの見ただろ。」
冗談で言った俺に、一也は不愛想に面倒くさそうに返す。
「前から誘われてたのかよ?」
「いや…あの子は初めて」
「あの子はってことはお前…」
「まー何度か…、…あ!言っとくけど何もしてねーからな?」
「わかってるっつの」
今までも何度か浮気疑惑はあったが、すべて濡れ衣だった。それにこいつの光への溺愛具合は嫌というほど知ってる。
「光に余計なこと言うなよ。特に今は大事な時期なんだし」
「言わねーよ別に」
本当に浮気してるならまだしも。…つーか、光が妊娠中で溜まってるのはこいつも一緒のはず…なのに、そんなに誘いがあってもちゃんと断ってんだな…。当たり前だけど、さっき一瞬本能的に迷ってしまった身としては…なんか悔しい。
けど思えば、こいつは前に光が妊娠した時も1年お預け食らって、それも乗り越えたわけで…
「どした?やけに静かだな」
「別に。」
なんとなく一也と歩きながら、3階のリビングまでやって来た。光の姿はない…部屋で休んでるんだろうか。
部屋に入ると一也は水差しから水をグラスに注いで飲み、俺はソファに深く腰を下ろして長いため息を吐いた。
「なげぇため息だな〜」
はっはっは、と茶化すように一也が言う。やっぱ何かあったんだろ、と言外に言われている気分になった。
「光不足…」
「はぁ?」
遠い目をして呟く俺に、一也は眉を寄せた。
「毎日一緒にいるじゃん」
「そうだけどそうじゃなくて…わかるだろ!?お前も…」
「何?」
「…だから……夜のことだよ」
「……。」
ほー…、と一也はまじまじと俺を見て相槌を打った。
「何だよその反応!?俺だけとは言わせねぇぞ、この万年発情期が!」
「いや…つーか何、お前禁欲生活でもしてんの?」
「は!?だって…できるわけねーだろ、光妊娠中なんだからよ!」
「俺に遠慮してるってこと?」
「なんでそーなるんだよ!物理的にできねぇんだろが!」
きょとん…と一也の目が瞬いた。
「いや…できるだろ」
「…え!?え、だって妊娠中…」
「はぁ〜やっぱお前まだ半分童貞だな!はっはっは」
「んだとテメェ殺すぞ」
「はっはっはっは!いやいや、まぁでもそこで我慢してくれる奴でよかったよ!知識がないままやられたら俺お前のこと殺してたかも」
「は…」
さらりと、しかもニコニコと言い放った一也に、俺は顔が引きつった。こいつは俺と違って、死ねだの殺すだのはめったに…というか全く言わない奴だ。冗談でも。ということは冗談ではない…。今も、目が笑ってなかったような…。
「それで洋一クンは欲求不満なわけか〜へぇ〜」
「な…なんだよ!つーかじゃあお前は光とやってたってことかよ!?」
「いや、無理させたくないし最後まではしてねーけど…前に妊娠してた時は、1回だけな。」
「……。」
「ちょっとこっち来いよ。」
ちょいちょい、と一也は部屋の中で一番大きなソファに俺を手招きした。
「なんだよ。」
「良いからちょっとここに横になって。」
「は?なんでだよ」
「だから、妊娠中のヤリかたを伝授してやろうと思って」
「…ハァ!?やだよ気持ちわりー」
「お前なー、一歩間違えたら光もおなかの赤ちゃんも危険にさらすことなんだぞ。知識くらいはもっといてもらわないと俺も困るんだよ。」
「……。」
チッ、と舌打ちし、俺はソファに横になった。
「で?」
「そうだなー、まずは正常位…こうやって、お腹に負担がかからないように。あんまふかく挿入すんなよ?」
「わーってるよ」
「ま、お前のサイズじゃ心配ねーか…」
「殺されてーのかテメェ!!」
「どうしたの?」
ガチャ、と前置きなく部屋のドアが開き、俺と一也は硬直した。
「あっ…。」
ドアを開けた光はソファの上で絡んだまま固まっている俺たちを見て呟き、顔を赤くした。
「ご、ごめん…」
「……え!?」
「そうだったんだ…。」
「い…いやちょっと待て光!めちゃくちゃ誤解してるって!!」
慌てて一也と一緒になって光を引き留め、ふざけてただけだと言い聞かせて、何とかソファに座ってもらった。
「何してたの?」
「いやだから、ふざけてただけだって…。」
苦笑いでごまかす一也をからかうように笑いながら見つめる光。その白い手が、テーブルの上の水差しを取って、グラスに透明な水を注ぎ、赤い唇にグラスをつける…。
あー…だめだ、光を見てると変な気分に…
――コンコンコン。
「どうぞ。」
ドアがノックされ、光が答えると、執事長が恭しく入室してきた。
「失礼いたします。一也殿下、お時間でございます。」
「あ、そうだった」
行ってくるよ、と一也は光の額にキスをして、ジャケットを羽織って出かけて行った。仕事らしい。
光が妊娠中で仕事を減らしていて、さらに俺よりもイタリア語が分かる分、人前に出る公務は大体一也がやってくれている。
一也と執事長が部屋を出て行くと、リビングには俺と光のふたりきりになった。仕事に行った一也には悪いけど、正直ラッキー…
「……。…何?」
不意に、光がにこにこしながら俺の顔を見ていることに気づいて、にわかに顔が熱くなった。
「見てたの。」
光ははにかんでそう言うと、俺の隣に座りなおした。
こんなふうに光からくっついてきてくれるなんて…幸せ。去年までは、一也と光がそうしているのを見て、こっそり涙を呑んでいた…。
「…ねぇ洋一さん。」
「ん?」
「…あの…。」
光はなんだかほんのり頬を染め、恥ずかしそうにした。…なんだ?
「…大丈夫?」
「…え?何が?」
「…ここでの生活とか…仕事とか」
「あー…まあ、大変は大変だけど、楽しいぜ。野球教えたりできるし…それに、お前がいるから。」
「……。」
光は不意を突かれたように目を丸くして、微笑んだ。
「…それなら、よかった」
光はそう呟き、だけどまだ、聞きたいことがあるようにそわそわした。
「…じゃあ、あの…」
「?」
「洋一さんって、あんまり…、……。」
「え…何?」
「……。…やっぱりいいや。気にしないで」
「え!?なんだよそれ。気になるだろ、言えよ。」
「いいの。」
「よくないって!俺があんまり…なんだよ?」
「……。」
「え、俺…なんかした!?」
「え、あ、ち、違うの。そうじゃなくて」
光はちょっと慌てて、ぎこちなく言った。
「…あんまり…その…。…す、きじゃない…のかなって…」
「…何が?」
「……。…え…っち」
「……。」
…え!?何を言って…つーかなんでそうなった!?
「いやめちゃくちゃ好きだけど!?」
「えっ…。」
「あ、いや…!ふ、普通にそりゃ…男だし」
「……。でも…一也さんと違って、あんまり、したがらないから…。…あ、わ、私だから…?」
「いやいやいや!つーか待て!アイツそんなに誘ってくんの!?」
「……。」
も、もしかして最近光が俺のとここないのって…妊娠したからとかじゃなくて…先にアイツに誘われてたから!?
「…我慢してたのがバカバカしいぜ…」
「え…我慢?」
「俺は光が、妊娠してるからできないと思って…」
「……。そうだったの?」
光は微笑んで、俺の腕に自分の腕を絡ませた。
「やっぱり優しいんだね、洋一さんって」
「……あいつムカつく」
「あはは。…じゃあ、今、ちょっとだけする?」
「え…」
光を見ると、澄み切った瞳で俺を見つめて微笑んだ。え…、え…!こ、こんなあっさり誘われちゃうの…!?
「嫌?」
「…い、いや!じゃない!」
勢いあまって声を上げ、目を丸くした光に笑われた。くっ、恥ずかしい…けど、もう、なりふり構っていられない。俺はもうずっと欲求不満なんだ。
「…する。」
俺は呟き、微笑んだ光に、がっつくようにキスをした。久々の深いキス…。そして、久々の…光の豊満な胸…。
「んん…。」
服の上から蕾の場所に目星をつけて指先で擦ると、光は甘い声をこぼす。あ〜…可愛い…。
ボタンを外していくと、露わになった胸を覆うブラジャーも外して、蕾を口に含んだ。
「っ…。」
蕾を舐めながら胸を揉みしだくと、光はやんわりと身をよじって起き上がった。あれ、いつもなら胸弄られんの、結構良さそうにするのに…
しかしそんな違和感もすぐに吹っ飛んだ。光が俺の脚の間に来て、肉棒を取り出し、それを自ら胸で挟んだからだ。
な…、こ、これは、パイズリというやつでは…!?光どこでこんなこと…!!…って、アイツしかいねぇ…
アイツ光にこんなこと…!!…いや…でも…してほしい…
「…よく…すんの?こういうこと…あいつに」
「え?」
光はちょっと困ったように俺を見上げ、少し考えた。
「嫌だった?」
一也さんは喜んでくれるのに…、という困惑がにじみ出ている。
いや、嬉しいけど…あいつに教わったことだと思うと…複雑…。
「い、嫌じゃないけど…」
「気持ち良くない?」
「いや、いい、けど…」
「…?」
…そうだ、俺も光に何か教えちゃえばいいんじゃね?俺と光だけの、何か…。
バルコニーのハーブに水やりをしていた光の手からじょうろを取り、背中を促す一也。えー、と渋い顔をする光。
「そのくらいいいだろ。」
ほっとけよ、と一也を手で払うしぐさをすると、一也はムッとして俺を見たものの、過保護すぎる自覚はあるのか、しぶしぶじょうろを光に返した。
一也が心配でたまらないのはわかる。一度子供を失っているし…ただでさえ一也は光至上主義。何よりも光が大事だから…いや、それは俺も同じだけどな!
「これだけ終わったら部屋に戻るよ。」
光も一也を気遣ってそう微笑むと、またじょうろを傾けて鉢植えの土を濡らした。
日差しを受けてキラキラ輝く光の髪…。真っ白な肌。白いブラウスに淡いブルーのワンピースを重ね着している光は、お姫様みたいで…本当にお姫様だけど…とにかく、この世の何よりも綺麗。
それに…豊かな胸、キュッとしまったウエスト…まだお腹は膨らんでいない。キュッと上がったお尻に、スカート越しにもわかるすらりとした美脚…。
…最近シてねーなぁ…光妊娠中だから当たり前だけど…。
「もー、何、くっついて…」
「支えてんの。」
「大丈夫だってば、まだお腹も全然大きくないんだから。」
「だめですー」
「も〜…ふふ」
一也が光を後ろから抱きすくめ、イチャイチャし始める。こいつら…いつまでこんな新婚並みにラブラブなんだ。俺は本当の新婚なのに。クソッ…俺だって光に触りたいのに…!
「やべっ、洋一に殺されそう」
「え?」
「わかってんなら離れろや」
「やだねー。あ〜光やわらけぇ〜…」
「太ったって言いたいの?」
「ちげーよ!なんか光ってやわらけぇんだよ、どこ触っても」
「えぇ?」
「このふわふわ感、俺すげー好きなんだよね…」
そのまま光のうなじに顔を埋め、眠たげにつぶやく一也。すげえムカつくけど、言ってることは同意だ。光ってなんか、すごく、触り心地がいいっていうか…
あ、やべ、なんかムラムラしてきた。
「どした?」
おもむろに立ち上がると、一也が俺に気づいてそう言った。
「別に?ちょっと部屋にいるわ」
「? ふーん?」
訝しみながらも光と二人っきりに慣れることの方が大事らしく、一也はそう呟くとすぐにまた光に夢中になった。
***
「…はあ」
部屋で自家発電を済ませようと思ったものの、いいおかずが見つからない。つーか光が最高すぎるんだ…もう適当なAVや本じゃその気にならなくなっちまった。だけどこっちに来てやっと光をまた抱いてから、2回しか光とはしておらず、割と早く光が妊娠したためあと1年はお預け…。いや、めでたいことだし、そもそもそのためにこの国に来たんだけど…。
一也の子供を妊娠した光は幸せそうで、胸がちっとも痛まないと言えばうそになる。でも、前に子供を亡くした時の光の憔悴ぶりを知っているから…よかった、という気持ちもある。俺がこんなに誰かの幸せを願うような人間だったとはな…。光と出会ってから、自分はずいぶん丸くなったと思う。
……。
…なんか今度はじーんとしてきて、そういう気分じゃなくなっちまった。昼寝でもするかな…
――コンコンコン。
と、ドアがノックされ、俺は立ち上がった?
「はい?」
と…ついまた日本語で返事しちまった…と思いつつドアを開けると、そこにはぼんやりと見覚えのあるメイドの女の子が立っていた。
意表を突かれて目を丸くする俺に、その子はニコリと笑顔を向けた。
『すみません。お掃除のために入室してもよろしいでしょうか?』
「え?あ、掃除?ああ、どうぞ…」
放棄と塵取りとバケツを持ち上げて見せた彼女に頷いて、俺は道を開けた。
彼女は部屋の中に入ると、手際よく掃除を始めた。床を掃き、窓や家具を拭き、カーテンをすべて綺麗に整えて、ベッドも整えて、ソファに座っている俺の方にやってくる。何か言われるかと身構えたが、彼女はソファのクッションと毛布を整え始めた。そこで少し安堵した矢先、あっ、と彼女が何かに躓いた。
「……!」
危うくソファに手をついたものの、俺の方によろめいた華奢な体を抱きとめた。柔らかな細い腰の感触にドキリとする。彼女は顔を赤くし、だけど、なぜかじっと俺の顔を見つめた。
「……。」
「……。」
どこか…期待するような目。俺の目から目を逸らさず、見つめてくる彼女。
もしかして…誘われてる?いや、だけど…。
脳裏に浮かぶ光の笑顔。やめろ、と自分の声が頭の中で響き、だけど、彼女から体を離すのに、一瞬躊躇いがあった。
『も、申し訳ございません…。』
彼女は起き上がり、赤い顔のまま部屋を出て行った。
……いくら欲求不満だからって…何迷ってんだ、俺…!
***
むしゃくしゃする思いのまま中庭に散歩に出た。
光たちはまだバルコニーでいちゃついてんのかな…、と悶々としていたが、目の前の柱の陰に一也の姿を見つけた。隣には…何度かパーティーや食事会で見かけた、金持ちのおっさんの娘もいる。黄色いワンピースで黄金の髪を束ね、妖精みたいな可愛らしい子だ。確か、20歳くらいの…。やっぱこの国は美人が多いんだなと、一也とこっそり噂した。まあ、俺は光一筋だけど。
だけどどうも様子がおかしい。女の子は一也にしなだれかかるようにして、何を言ってるかはわからないが、女の子の声は甘えているように鼻にかかっている。
一也の顔はここからは見えないが、女の子の手をほどき、素っ気ない声で何かを言って、踵を返す。
…なんか、女の子に誘われて、それを断ったような感じに見える。あいつ、顔がいいから、今までもこの国に来てから誘われたりしてたのかな…。
「ん」
考えているうちに一也が俺に気づき、呟いた。追いかけようとしていた女の子も俺に気づき、苦い顔をして庭園から出て行った。
「…何浮気してんだよ。」
「してねーよ。断ったの見ただろ。」
冗談で言った俺に、一也は不愛想に面倒くさそうに返す。
「前から誘われてたのかよ?」
「いや…あの子は初めて」
「あの子はってことはお前…」
「まー何度か…、…あ!言っとくけど何もしてねーからな?」
「わかってるっつの」
今までも何度か浮気疑惑はあったが、すべて濡れ衣だった。それにこいつの光への溺愛具合は嫌というほど知ってる。
「光に余計なこと言うなよ。特に今は大事な時期なんだし」
「言わねーよ別に」
本当に浮気してるならまだしも。…つーか、光が妊娠中で溜まってるのはこいつも一緒のはず…なのに、そんなに誘いがあってもちゃんと断ってんだな…。当たり前だけど、さっき一瞬本能的に迷ってしまった身としては…なんか悔しい。
けど思えば、こいつは前に光が妊娠した時も1年お預け食らって、それも乗り越えたわけで…
「どした?やけに静かだな」
「別に。」
なんとなく一也と歩きながら、3階のリビングまでやって来た。光の姿はない…部屋で休んでるんだろうか。
部屋に入ると一也は水差しから水をグラスに注いで飲み、俺はソファに深く腰を下ろして長いため息を吐いた。
「なげぇため息だな〜」
はっはっは、と茶化すように一也が言う。やっぱ何かあったんだろ、と言外に言われている気分になった。
「光不足…」
「はぁ?」
遠い目をして呟く俺に、一也は眉を寄せた。
「毎日一緒にいるじゃん」
「そうだけどそうじゃなくて…わかるだろ!?お前も…」
「何?」
「…だから……夜のことだよ」
「……。」
ほー…、と一也はまじまじと俺を見て相槌を打った。
「何だよその反応!?俺だけとは言わせねぇぞ、この万年発情期が!」
「いや…つーか何、お前禁欲生活でもしてんの?」
「は!?だって…できるわけねーだろ、光妊娠中なんだからよ!」
「俺に遠慮してるってこと?」
「なんでそーなるんだよ!物理的にできねぇんだろが!」
きょとん…と一也の目が瞬いた。
「いや…できるだろ」
「…え!?え、だって妊娠中…」
「はぁ〜やっぱお前まだ半分童貞だな!はっはっは」
「んだとテメェ殺すぞ」
「はっはっはっは!いやいや、まぁでもそこで我慢してくれる奴でよかったよ!知識がないままやられたら俺お前のこと殺してたかも」
「は…」
さらりと、しかもニコニコと言い放った一也に、俺は顔が引きつった。こいつは俺と違って、死ねだの殺すだのはめったに…というか全く言わない奴だ。冗談でも。ということは冗談ではない…。今も、目が笑ってなかったような…。
「それで洋一クンは欲求不満なわけか〜へぇ〜」
「な…なんだよ!つーかじゃあお前は光とやってたってことかよ!?」
「いや、無理させたくないし最後まではしてねーけど…前に妊娠してた時は、1回だけな。」
「……。」
「ちょっとこっち来いよ。」
ちょいちょい、と一也は部屋の中で一番大きなソファに俺を手招きした。
「なんだよ。」
「良いからちょっとここに横になって。」
「は?なんでだよ」
「だから、妊娠中のヤリかたを伝授してやろうと思って」
「…ハァ!?やだよ気持ちわりー」
「お前なー、一歩間違えたら光もおなかの赤ちゃんも危険にさらすことなんだぞ。知識くらいはもっといてもらわないと俺も困るんだよ。」
「……。」
チッ、と舌打ちし、俺はソファに横になった。
「で?」
「そうだなー、まずは正常位…こうやって、お腹に負担がかからないように。あんまふかく挿入すんなよ?」
「わーってるよ」
「ま、お前のサイズじゃ心配ねーか…」
「殺されてーのかテメェ!!」
「どうしたの?」
ガチャ、と前置きなく部屋のドアが開き、俺と一也は硬直した。
「あっ…。」
ドアを開けた光はソファの上で絡んだまま固まっている俺たちを見て呟き、顔を赤くした。
「ご、ごめん…」
「……え!?」
「そうだったんだ…。」
「い…いやちょっと待て光!めちゃくちゃ誤解してるって!!」
慌てて一也と一緒になって光を引き留め、ふざけてただけだと言い聞かせて、何とかソファに座ってもらった。
「何してたの?」
「いやだから、ふざけてただけだって…。」
苦笑いでごまかす一也をからかうように笑いながら見つめる光。その白い手が、テーブルの上の水差しを取って、グラスに透明な水を注ぎ、赤い唇にグラスをつける…。
あー…だめだ、光を見てると変な気分に…
――コンコンコン。
「どうぞ。」
ドアがノックされ、光が答えると、執事長が恭しく入室してきた。
「失礼いたします。一也殿下、お時間でございます。」
「あ、そうだった」
行ってくるよ、と一也は光の額にキスをして、ジャケットを羽織って出かけて行った。仕事らしい。
光が妊娠中で仕事を減らしていて、さらに俺よりもイタリア語が分かる分、人前に出る公務は大体一也がやってくれている。
一也と執事長が部屋を出て行くと、リビングには俺と光のふたりきりになった。仕事に行った一也には悪いけど、正直ラッキー…
「……。…何?」
不意に、光がにこにこしながら俺の顔を見ていることに気づいて、にわかに顔が熱くなった。
「見てたの。」
光ははにかんでそう言うと、俺の隣に座りなおした。
こんなふうに光からくっついてきてくれるなんて…幸せ。去年までは、一也と光がそうしているのを見て、こっそり涙を呑んでいた…。
「…ねぇ洋一さん。」
「ん?」
「…あの…。」
光はなんだかほんのり頬を染め、恥ずかしそうにした。…なんだ?
「…大丈夫?」
「…え?何が?」
「…ここでの生活とか…仕事とか」
「あー…まあ、大変は大変だけど、楽しいぜ。野球教えたりできるし…それに、お前がいるから。」
「……。」
光は不意を突かれたように目を丸くして、微笑んだ。
「…それなら、よかった」
光はそう呟き、だけどまだ、聞きたいことがあるようにそわそわした。
「…じゃあ、あの…」
「?」
「洋一さんって、あんまり…、……。」
「え…何?」
「……。…やっぱりいいや。気にしないで」
「え!?なんだよそれ。気になるだろ、言えよ。」
「いいの。」
「よくないって!俺があんまり…なんだよ?」
「……。」
「え、俺…なんかした!?」
「え、あ、ち、違うの。そうじゃなくて」
光はちょっと慌てて、ぎこちなく言った。
「…あんまり…その…。…す、きじゃない…のかなって…」
「…何が?」
「……。…え…っち」
「……。」
…え!?何を言って…つーかなんでそうなった!?
「いやめちゃくちゃ好きだけど!?」
「えっ…。」
「あ、いや…!ふ、普通にそりゃ…男だし」
「……。でも…一也さんと違って、あんまり、したがらないから…。…あ、わ、私だから…?」
「いやいやいや!つーか待て!アイツそんなに誘ってくんの!?」
「……。」
も、もしかして最近光が俺のとここないのって…妊娠したからとかじゃなくて…先にアイツに誘われてたから!?
「…我慢してたのがバカバカしいぜ…」
「え…我慢?」
「俺は光が、妊娠してるからできないと思って…」
「……。そうだったの?」
光は微笑んで、俺の腕に自分の腕を絡ませた。
「やっぱり優しいんだね、洋一さんって」
「……あいつムカつく」
「あはは。…じゃあ、今、ちょっとだけする?」
「え…」
光を見ると、澄み切った瞳で俺を見つめて微笑んだ。え…、え…!こ、こんなあっさり誘われちゃうの…!?
「嫌?」
「…い、いや!じゃない!」
勢いあまって声を上げ、目を丸くした光に笑われた。くっ、恥ずかしい…けど、もう、なりふり構っていられない。俺はもうずっと欲求不満なんだ。
「…する。」
俺は呟き、微笑んだ光に、がっつくようにキスをした。久々の深いキス…。そして、久々の…光の豊満な胸…。
「んん…。」
服の上から蕾の場所に目星をつけて指先で擦ると、光は甘い声をこぼす。あ〜…可愛い…。
ボタンを外していくと、露わになった胸を覆うブラジャーも外して、蕾を口に含んだ。
「っ…。」
蕾を舐めながら胸を揉みしだくと、光はやんわりと身をよじって起き上がった。あれ、いつもなら胸弄られんの、結構良さそうにするのに…
しかしそんな違和感もすぐに吹っ飛んだ。光が俺の脚の間に来て、肉棒を取り出し、それを自ら胸で挟んだからだ。
な…、こ、これは、パイズリというやつでは…!?光どこでこんなこと…!!…って、アイツしかいねぇ…
アイツ光にこんなこと…!!…いや…でも…してほしい…
「…よく…すんの?こういうこと…あいつに」
「え?」
光はちょっと困ったように俺を見上げ、少し考えた。
「嫌だった?」
一也さんは喜んでくれるのに…、という困惑がにじみ出ている。
いや、嬉しいけど…あいつに教わったことだと思うと…複雑…。
「い、嫌じゃないけど…」
「気持ち良くない?」
「いや、いい、けど…」
「…?」
…そうだ、俺も光に何か教えちゃえばいいんじゃね?俺と光だけの、何か…。