「久しぶり〜!光〜!」
「司。」

今日は光臣たちが城にやって来た。3日ほど滞在して日本に帰るらしい。少し騒がしくなりそうだが、久しぶりに親友に会えた光さんの笑顔がまぶしくて、俺の胸の底まで日差しが差し込んだような気分になる。

「わぁ〜こっちのお城も素敵ぃ!あっ!はいこれお土産!妊娠中に良いものたくさん持ってきたんだよ〜。これは栄養たっぷりの食べ物でしょ、これはリラックスする香りのオイル、でこれはカフェインレスの美味しいコーヒーに、つわりが軽くなるって噂のハーブティーでしょ、それから…」
「あ、ありがとう…こんなにたくさん」

あれもこれもと手土産を並べる牧瀬に、光さんは苦笑いを浮かべた。
光臣は一也殿下、洋一殿下と話でもあるのかバルコニーへ出て行った。

「周防君、お茶淹れてくれる?」
「はい。」

光さんの言葉にすぐに頷き、いったん部屋を出て湯沸かし室に入る。客室のすぐ隣に備え付けられている、お茶を入れたりちょっとした茶菓子を提供するための小さな部屋だ。そこの棚にずらりと並ぶ様々なハーブティーの中から、カフェインレスでレモングラスベースの茶葉を取る。最近光さんが「お茶を」と言ったときにはこれのことを指す。
ふつふつと沸騰する湯がだんだんと琥珀色に染まっていくのを眺めながら、俺は懐から小袋を取り出した。
先日市場で買った、飴掛けのピーカンナッツ。最近光さんが好きだと聞いて、買い出しの途中で見かけたのをつい手に取ってしまったもの…。
光さんの好物を買ったところで、渡せるわけもないし…そんな必要もない。それ以前に、そんなことをするのはおこがましい限りで…

――コンコンコン。

「…?はい」
「周防君?」

扉を開けたのが光さんで驚いた。ぽかんとする俺に微笑んで、光さんは口を開く。

「お茶菓子、この間のお茶会でなくなっちゃったんじゃないかと思って…」

あれ、と光さんの目が俺の手元に留まった。

「なんだ、さすが周防君。用意してたんだね。」
「え、あ、…は、はい。」
「さすがだね。あ…それ、ピーカンナッツ?」
「はい。」

まあ、いいか…。そう思いながら頷くと、光さんはふわりとほほ笑んで俺を見つめた。

「それ、私大好き。」
「……。そ…、れは、よかったです。」
「じゃ、よろしくね。」

光さんは部屋を出て行った。……ドクン、ドクン、と心音がうるさく感じ、胸が痛いくらいに動いている。誰かの笑顔でこんな気分になるなんて…いや、どうかしてる。きっと気のせい…一時の気の迷いだ。

「あ…」

…しまった。紅茶を煮出しすぎた。これじゃ苦くて飲めたものじゃない…。
くそ、と呟くのを飲み込んで、鍋の中を流しに捨て、また茶葉の分量を量り、水と一緒に鍋に入れ、火にかけた。

 


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