333
それから数か月過ぎて、光のつわりも落ち着き、季節は秋になった。
交通事故の犯人も、光の部屋を荒らした犯人も、何もわからないまま…
「光は座ってろよ。」
今まで俺に過保護すぎて鬱陶しいと文句を言っていた洋一も、さすがに予定日も間近の臨月の妊婦となった光を心配し、手や口を出すことが多くなった。洋一にティーポッドを奪われた光は、ちょっと苦笑しながらソファに座った。
「ほい。」
「ありがとう。」
洋一からハーブティーを受け取り、砂糖を入れて混ぜ、少し飲む光。今までお茶には砂糖を入れない派だったが、最近は時々入れているのを見る。近頃は甘いものが欲しくなるらしい。
光はティーカップを一度置くと、髪を邪魔そうにかき上げてまとめようとしたので、俺は立ち上がって後ろに回って光の柔らかな髪に指を通した。
「貸して。」
俺をちょっと振り返った光は、俺がそう言うと微笑んでされるがままになった。光の長い髪を緩く編んでまとめ、低い位置でお団子にする。すると洋一が感心したように見て、言った。
「お前器用だな〜…」
「まぁな。」
ドヤ顔で答えると洋一が鬱陶しそうに俺を睨んだから、素直にネタ晴らしをしてやった。
「しばらく光の身支度は俺がやってたからな。」
あ…、と洋一は思い出したようにはっとし、光は微笑んで俺を見上げた。俺が光の隣に戻って座ると、光は少し体を傾けて預けてきた。
あの頃は大変だったと思う。光の目が見えなくなってしまった時期。だけど、光の世話をするのはまったく苦ではなかった。つらかったのは…光が笑わないこと。つらそうにしていること。俺の世話になることを、申し訳なさそうにしていること。だから、洋一が来て光の目が明るさを感じられるようになり、視力回復に再び希望を取り戻してからは、光もよく笑うようになって…今となっては楽しかったとさえ思う。
今では光は、何か作業をするときにだけ眼鏡をかければ問題ない程度に視力が回復した。もともと、時々かなり度の低いコンタクトはつけることがあったから、もうほとんど視力を失う以前の視力に戻ってきている。
「あーあ…」
ふと、光が退屈そうに呟いた。
「お料理したいな…」
「「ダメ。」」
つい洋一とハモってしまった。俺たちに言われて、光は「わかってるもん」と拗ねたように口を尖らせた。
光は順調だが、医者からは絶対安静に、と口を酸っぱくして言われている。立ち仕事や運動はもってのほか。特に光は料理好きで凝ったものを作るから、数時間キッチンにこもりっきりというのもよくある。だから光が料理をするのは俺も洋一も止めている。そりゃ、光の手料理は大好きだし食べたいけど、光と赤ちゃんの為に今は我慢だ。
「あーあ。でも、もうずっとお料理してないから、今度した時失敗しちゃうかも。」
「じゃ、楽しみにしとく。」
光は可愛いやつあたりを始めて、笑い飛ばした俺をちらりと睨んだ。
「一也さんのだけ間違えてたくさんお砂糖入れちゃうかもなぁー」
「はっはっは!別にいいよ。光が作ってくれるなら」
むっとした光の頬が赤くなった。ほんと、いつまでも可愛い…。
…と思ったら、なぜか傍で聞いていた洋一まで顔を赤くして俺を睨んでいた。
「おっまえ…ほんっと恥ずかしい奴…」
「え?何で?」
ヘラヘラ笑うと、洋一は舌打ちをしてそっぽを向いた。こいつは甘いセリフとか苦手なタイプだから悔しいんだろう。
それから3人でお茶を飲み、おしゃべりをして、洋一とは明日の野球クラブの相談もして、夜が更けてきた。光は小さく欠伸をし、少しうとうとする。
「もう寝る?」
うん、と小さく返事が返ってくる。洋一は立ち上がり、伸びをして踵を返した。
「じゃ、おやすみー」
部屋を出て行く洋一。光がずっと俺の部屋で寝てること、本当は嫌だろうけど…光の精神的な問題も考え、何も言わず譲ってくれている。俺は光の手を引き、部屋に行って、ベッドに光を寝かせて自分も横になった。
枕もとのランプを消し、暗くなった天井を見上げる。
予定日は明日…。もう、いつ生まれてもおかしくない。やっと…俺の子供が。光との子が生まれる。
そのことを考えると、胸の奥がふわふわして宙に浮きそうになる。同時に、前の事件を思い出し、今度こそは何事も起こらないでくれと胸が痛くなる。
「一也さん…。」
光が布団の中で手を握ってきた。
「ん?」
光を見ると、光はどこか不安そうに見えた。だけど、目が合うと、ううん、と光は天井を向いた。
予定日がいよいよ明日に迫り、光も不安なのかも…。俺は光の手を握り返し、光が寝息を立てるまで、目を閉じてじっとしていた。
***
いつの間に眠ったのか…俺が目を覚ますと、まだ部屋の中は暗かった。
「…う…」
その暗闇の中で、苦しげな声が聞こえた。寝ぼけた頭がすぐに覚めた。…光?
「光!」
隣を見ると、光が額を汗で濡らし、苦しそうにお腹を押さえていた。
「ど…どうし…」
具合が悪いのか…!?まさかお腹の子に何か!?
混乱したが、次の瞬間、光の足元のシーツが濡れていることに気づいて息をのんだ。こ、これって…は…破水!?
「だ…誰か呼んで…!」
「あっ、わ、わかった!」
情けなくも息も絶え絶えの光に急かされ、俺は呼び出しのベルをかき鳴らして、ドアをあけ放ち廊下に向かって叫んだ。
「誰か来てくれ!!誰か!!」
俺が呼ぶよりも早く、ベルの音に気づいたのか、廊下の向こうから洋一が駆けつけてきた。
「どうしたんだよ!?」
「光が!」
「え!?」
「う…生まれるって」
「…は!?」
男二人、どうしたらよいかもわからず光に駆け寄る。使用人はまだ来ない。なにしてんだよ…!そうイラつくのを抑え、光の様子を見ることしかできない。
「お、俺たちでやるしか…」
洋一が真っ青な顔でつぶやいた。
「やるってお前、どうすればいいかわかるのかよ!?」
「わかんねーよ!!わかんねーけど、やるしかねーだろ!!」
「けど下手なことしたら…!!」
「そうだけど!!」
「…うるさい!!黙ってて!!」
光が怒鳴って、俺も洋一もびっくりして言葉を失った。母は強しというけど…それを目の当たりにしたような…
そのとき、バタン、とドアを破る勢いで、周防が飛び込んできた。
「!周防!医者は!?」
「今向かってます」
周防は言いながら、俺たちを押しのけるようにして、苦しんでいる光に駆け寄った。周防も俺たちと同じ、どうしようもなくそこに立ち尽くす…と思っていたら、何を思ったか、周防は光の足元に回って、布団を手繰り寄せて光の下腹部を隠すように被せた。
「お…おい」
「光さん、失礼します」
「ちょ…、な、何するんだよ!?」
「もう生まれます。俺が取り上げます」
「で…できんのか!?」
「経験はあります。」
周防がさらりと言った言葉に、俺も洋一も顔を見合わせた。気づくと、ドアのところにはメイド長やメイドが駆けつけており、手を握って事の成り行きを見守っていた。医者はまだ到着しないらしい。
「光さん、大丈夫です。落ち着いて」
「……。」
光は苦しそうに唸りながら小さく頷いた。
周防は洋一に、お湯とタオルを持ってくるよう言って、失礼します、と目を伏せながら言って、光の足から下着を抜き取った。
俺も傍に膝をついて、光の手を握った。光は強く握り返してきた。そこから光の苦しさや痛みが伝わってきて、泣きそうになった。
「いいですか?深く呼吸をして」
「う…ん」
「…いきんで!」
「っ…、ああ…っ!!」
「落ち着いて、大丈夫ですから」
「ああ!!う…うう…!」
「しっかり、もう一度!」
光は頷いて、叫びながらいきんだ。気が付くと、もう片方の手は周防の手を握っていた。周防は巧みに光を励ましながら声をかけ、戻ってきた洋一に光の手を託すと、光の足の間に手を伸ばした。
「…頭が出てきました」
周防が少し微笑んだ。そんな笑顔を見たのは初めてだった。光は微笑んで、汗まみれの苦しげな顔をほころばせた。
「もう少しです、頑張って」
「うん…、…っ」
「そう、いきんで!」
「…っ、う、うう…っ、…っああ…っ!」
「っ光…」
何もできない自分がもどかしい。目の前の光はこれ以上ないくらい苦しそうで、痛そうで、でも手を握ることしかできなくて…。周防がいなかったら俺は…何もできなかった。
「もう少しです、光さん」
周防の腕が動いたのが布団の向こうに見えた。何かを支えている腕。もうそこに、赤ん坊が…。
と、そこへ、ようやく医者が来た。メイド達をかき分けて部屋に入ってくると、医者は周防を見て隣に立ち、そのまま出産を見守った。周防のやり方を見て任せてもよいと思ったのだと気づき、ますます周防の有能さには脱帽する。
「っうう…!」
光がいきんで、はっ、と脱力したとき…
…おぎゃあ、おぎゃあ…
部屋の中に赤ん坊の声が響きわたった。
「…光さん。」
周防が、腕に抱いた赤ん坊を光の胸元へつれてきた。光は疲れただろうに、満面の笑みで赤ん坊を抱きとめる。元気良くなく赤ん坊を見て、視界が歪み、俺は泣いていることに気が付いた。光が俺の顔を見て笑ってる。医者がへその緒を切り、処置をして、周防ににこやかに声をかけている。
赤ん坊が生まれた。俺と光の子が…。…そして、この国の未来の王が…。
だけど今はまだ…俺と光の、可愛い赤ん坊だ。
「やはり元気な男の子でしたねぇ。」
医者が言って、はい、と光が頷く。その顔には安堵がにじんでるように見えた。この国に来た義務を果たして…無事に子供を産んで…肩の荷が下りたことだろう。
「光。」
俺は光の額を撫で、張り付いた髪をどかしてやった。
「…ありがとう。」
そう言うと、ぽたりと涙がこぼれて、光が笑って、少し恥ずかしくなった。
交通事故の犯人も、光の部屋を荒らした犯人も、何もわからないまま…
「光は座ってろよ。」
今まで俺に過保護すぎて鬱陶しいと文句を言っていた洋一も、さすがに予定日も間近の臨月の妊婦となった光を心配し、手や口を出すことが多くなった。洋一にティーポッドを奪われた光は、ちょっと苦笑しながらソファに座った。
「ほい。」
「ありがとう。」
洋一からハーブティーを受け取り、砂糖を入れて混ぜ、少し飲む光。今までお茶には砂糖を入れない派だったが、最近は時々入れているのを見る。近頃は甘いものが欲しくなるらしい。
光はティーカップを一度置くと、髪を邪魔そうにかき上げてまとめようとしたので、俺は立ち上がって後ろに回って光の柔らかな髪に指を通した。
「貸して。」
俺をちょっと振り返った光は、俺がそう言うと微笑んでされるがままになった。光の長い髪を緩く編んでまとめ、低い位置でお団子にする。すると洋一が感心したように見て、言った。
「お前器用だな〜…」
「まぁな。」
ドヤ顔で答えると洋一が鬱陶しそうに俺を睨んだから、素直にネタ晴らしをしてやった。
「しばらく光の身支度は俺がやってたからな。」
あ…、と洋一は思い出したようにはっとし、光は微笑んで俺を見上げた。俺が光の隣に戻って座ると、光は少し体を傾けて預けてきた。
あの頃は大変だったと思う。光の目が見えなくなってしまった時期。だけど、光の世話をするのはまったく苦ではなかった。つらかったのは…光が笑わないこと。つらそうにしていること。俺の世話になることを、申し訳なさそうにしていること。だから、洋一が来て光の目が明るさを感じられるようになり、視力回復に再び希望を取り戻してからは、光もよく笑うようになって…今となっては楽しかったとさえ思う。
今では光は、何か作業をするときにだけ眼鏡をかければ問題ない程度に視力が回復した。もともと、時々かなり度の低いコンタクトはつけることがあったから、もうほとんど視力を失う以前の視力に戻ってきている。
「あーあ…」
ふと、光が退屈そうに呟いた。
「お料理したいな…」
「「ダメ。」」
つい洋一とハモってしまった。俺たちに言われて、光は「わかってるもん」と拗ねたように口を尖らせた。
光は順調だが、医者からは絶対安静に、と口を酸っぱくして言われている。立ち仕事や運動はもってのほか。特に光は料理好きで凝ったものを作るから、数時間キッチンにこもりっきりというのもよくある。だから光が料理をするのは俺も洋一も止めている。そりゃ、光の手料理は大好きだし食べたいけど、光と赤ちゃんの為に今は我慢だ。
「あーあ。でも、もうずっとお料理してないから、今度した時失敗しちゃうかも。」
「じゃ、楽しみにしとく。」
光は可愛いやつあたりを始めて、笑い飛ばした俺をちらりと睨んだ。
「一也さんのだけ間違えてたくさんお砂糖入れちゃうかもなぁー」
「はっはっは!別にいいよ。光が作ってくれるなら」
むっとした光の頬が赤くなった。ほんと、いつまでも可愛い…。
…と思ったら、なぜか傍で聞いていた洋一まで顔を赤くして俺を睨んでいた。
「おっまえ…ほんっと恥ずかしい奴…」
「え?何で?」
ヘラヘラ笑うと、洋一は舌打ちをしてそっぽを向いた。こいつは甘いセリフとか苦手なタイプだから悔しいんだろう。
それから3人でお茶を飲み、おしゃべりをして、洋一とは明日の野球クラブの相談もして、夜が更けてきた。光は小さく欠伸をし、少しうとうとする。
「もう寝る?」
うん、と小さく返事が返ってくる。洋一は立ち上がり、伸びをして踵を返した。
「じゃ、おやすみー」
部屋を出て行く洋一。光がずっと俺の部屋で寝てること、本当は嫌だろうけど…光の精神的な問題も考え、何も言わず譲ってくれている。俺は光の手を引き、部屋に行って、ベッドに光を寝かせて自分も横になった。
枕もとのランプを消し、暗くなった天井を見上げる。
予定日は明日…。もう、いつ生まれてもおかしくない。やっと…俺の子供が。光との子が生まれる。
そのことを考えると、胸の奥がふわふわして宙に浮きそうになる。同時に、前の事件を思い出し、今度こそは何事も起こらないでくれと胸が痛くなる。
「一也さん…。」
光が布団の中で手を握ってきた。
「ん?」
光を見ると、光はどこか不安そうに見えた。だけど、目が合うと、ううん、と光は天井を向いた。
予定日がいよいよ明日に迫り、光も不安なのかも…。俺は光の手を握り返し、光が寝息を立てるまで、目を閉じてじっとしていた。
***
いつの間に眠ったのか…俺が目を覚ますと、まだ部屋の中は暗かった。
「…う…」
その暗闇の中で、苦しげな声が聞こえた。寝ぼけた頭がすぐに覚めた。…光?
「光!」
隣を見ると、光が額を汗で濡らし、苦しそうにお腹を押さえていた。
「ど…どうし…」
具合が悪いのか…!?まさかお腹の子に何か!?
混乱したが、次の瞬間、光の足元のシーツが濡れていることに気づいて息をのんだ。こ、これって…は…破水!?
「だ…誰か呼んで…!」
「あっ、わ、わかった!」
情けなくも息も絶え絶えの光に急かされ、俺は呼び出しのベルをかき鳴らして、ドアをあけ放ち廊下に向かって叫んだ。
「誰か来てくれ!!誰か!!」
俺が呼ぶよりも早く、ベルの音に気づいたのか、廊下の向こうから洋一が駆けつけてきた。
「どうしたんだよ!?」
「光が!」
「え!?」
「う…生まれるって」
「…は!?」
男二人、どうしたらよいかもわからず光に駆け寄る。使用人はまだ来ない。なにしてんだよ…!そうイラつくのを抑え、光の様子を見ることしかできない。
「お、俺たちでやるしか…」
洋一が真っ青な顔でつぶやいた。
「やるってお前、どうすればいいかわかるのかよ!?」
「わかんねーよ!!わかんねーけど、やるしかねーだろ!!」
「けど下手なことしたら…!!」
「そうだけど!!」
「…うるさい!!黙ってて!!」
光が怒鳴って、俺も洋一もびっくりして言葉を失った。母は強しというけど…それを目の当たりにしたような…
そのとき、バタン、とドアを破る勢いで、周防が飛び込んできた。
「!周防!医者は!?」
「今向かってます」
周防は言いながら、俺たちを押しのけるようにして、苦しんでいる光に駆け寄った。周防も俺たちと同じ、どうしようもなくそこに立ち尽くす…と思っていたら、何を思ったか、周防は光の足元に回って、布団を手繰り寄せて光の下腹部を隠すように被せた。
「お…おい」
「光さん、失礼します」
「ちょ…、な、何するんだよ!?」
「もう生まれます。俺が取り上げます」
「で…できんのか!?」
「経験はあります。」
周防がさらりと言った言葉に、俺も洋一も顔を見合わせた。気づくと、ドアのところにはメイド長やメイドが駆けつけており、手を握って事の成り行きを見守っていた。医者はまだ到着しないらしい。
「光さん、大丈夫です。落ち着いて」
「……。」
光は苦しそうに唸りながら小さく頷いた。
周防は洋一に、お湯とタオルを持ってくるよう言って、失礼します、と目を伏せながら言って、光の足から下着を抜き取った。
俺も傍に膝をついて、光の手を握った。光は強く握り返してきた。そこから光の苦しさや痛みが伝わってきて、泣きそうになった。
「いいですか?深く呼吸をして」
「う…ん」
「…いきんで!」
「っ…、ああ…っ!!」
「落ち着いて、大丈夫ですから」
「ああ!!う…うう…!」
「しっかり、もう一度!」
光は頷いて、叫びながらいきんだ。気が付くと、もう片方の手は周防の手を握っていた。周防は巧みに光を励ましながら声をかけ、戻ってきた洋一に光の手を託すと、光の足の間に手を伸ばした。
「…頭が出てきました」
周防が少し微笑んだ。そんな笑顔を見たのは初めてだった。光は微笑んで、汗まみれの苦しげな顔をほころばせた。
「もう少しです、頑張って」
「うん…、…っ」
「そう、いきんで!」
「…っ、う、うう…っ、…っああ…っ!」
「っ光…」
何もできない自分がもどかしい。目の前の光はこれ以上ないくらい苦しそうで、痛そうで、でも手を握ることしかできなくて…。周防がいなかったら俺は…何もできなかった。
「もう少しです、光さん」
周防の腕が動いたのが布団の向こうに見えた。何かを支えている腕。もうそこに、赤ん坊が…。
と、そこへ、ようやく医者が来た。メイド達をかき分けて部屋に入ってくると、医者は周防を見て隣に立ち、そのまま出産を見守った。周防のやり方を見て任せてもよいと思ったのだと気づき、ますます周防の有能さには脱帽する。
「っうう…!」
光がいきんで、はっ、と脱力したとき…
…おぎゃあ、おぎゃあ…
部屋の中に赤ん坊の声が響きわたった。
「…光さん。」
周防が、腕に抱いた赤ん坊を光の胸元へつれてきた。光は疲れただろうに、満面の笑みで赤ん坊を抱きとめる。元気良くなく赤ん坊を見て、視界が歪み、俺は泣いていることに気が付いた。光が俺の顔を見て笑ってる。医者がへその緒を切り、処置をして、周防ににこやかに声をかけている。
赤ん坊が生まれた。俺と光の子が…。…そして、この国の未来の王が…。
だけど今はまだ…俺と光の、可愛い赤ん坊だ。
「やはり元気な男の子でしたねぇ。」
医者が言って、はい、と光が頷く。その顔には安堵がにじんでるように見えた。この国に来た義務を果たして…無事に子供を産んで…肩の荷が下りたことだろう。
「光。」
俺は光の額を撫で、張り付いた髪をどかしてやった。
「…ありがとう。」
そう言うと、ぽたりと涙がこぼれて、光が笑って、少し恥ずかしくなった。