341
「なぁ頼むよ玉城!この通り!」
光が転入してきて、少し秋めいてきたこの頃。光はその類まれなる美貌ですぐにクラス中の女子から羨望を集めて人気者になったけど、光自身は引っ込み思案で、あまり自分から話しかけに行くことはない。そして男子たちは光に興味があるものの、やっぱり光が可愛すぎるからか、遠巻きに見るばかりで気さくに声を掛けてくれるのは東条君と2年の御幸先輩くらい…なんだけど、最近はこの人も加わった。
C組の沢村君だ。
「頼むよ女神ィィ〜〜!!!」
「うるさいな〜…!変な呼び方しないでよ!」
…と言っても、沢村君は東条君や御幸先輩とは違って、光に下心があるわけじゃなく、あくまで自身の目的の為みたいだけど。
「頼む!俺の球受けろって玉城からも言ってくれよ!」
「…私関係ないし。」
「御幸の奴なぜか玉城には甘いんだって!!玉城が行ったら絶対聞いてくれると思うんだよ!!」
「……。」
光はちょっと顔を赤くして、まんざらでもない感じだったけど、つんと口を尖らせて意地を張ったようにそっぽを向いた。
「そ…、そもそも、そんなことして私に何のメリットがあるの?」
「御幸先輩と話せるじゃ〜ん」
「はぁ!?う…嬉しくないからそんなの!」
にやにやからかうと、光は顔を真っ赤にして怒った。可愛いなぁもう。
「ていうか…なんでそんなにあの人とキャッチボールしたいの?」
「キャッチボールじゃない!…御幸先輩は性格には難があるけどスゲェキャッチャーなんだよ!」
「ふーん…よくわかんないけど」
「ふたりとも何気に失礼だね?」
「あの人にボールを受けてもらうと…いつも何かに気付かせてくれる。自分が投手として成長できるのを感じるんだ」
「……。」
沢村君にしては珍しく真面目…。私は思わず光と目を見合わせた。
「だから頼む玉城〜〜!!」
「ちょっ…しつこいなぁもう…」
「お前ら何してんの?」
沢村君が光に食い下がった時、笑い交じりの声がして、通りかかった御幸先輩と倉持先輩に気づいた。
「うわ、出た」
「はっはっは!嫌そうなカオ(笑)」
「なんでいるんですか?」
「移動教室だからだよ」
そう言って御幸先輩は、持っていた科学の教科書一式を持ち上げて見せた。
「何言ってんだ、お前がわざわざこっちから行こうって言っ「あ〜〜〜!!ん〜〜〜〜!!?何かなぁ倉持君!?」
そしてズケズケと突っ込んだ倉持先輩に、御幸先輩は慌てて声を上げた。確かに2年生の教室から科学の実験室に行くには、反対側の通路を使ったほうが近い。御幸先輩、光に会えることを期待して来たのかな…?
「ホラっ!玉城今だ、行け!」
「えっ?ちょ、ちょっと…。」
沢村君が光の背中を押し、光が御幸先輩の前に一歩踏み出すと、御幸先輩は光を見た。
「御幸先輩!玉城からずっげえ重大な、大ッ事な話がありますんで!!聞いてくだせぇ!!」
「……。」
「え〜何何、ちょっとドキドキしちゃう♡」
「……。」
沢村君と御幸先輩をちょっと白けた目で睨んでから、光はため息交じりに仕方がなさそうに言った。
「……。沢村君がボール受けて欲しいんだそうですよ。」
「玉城っ!もうひと声!もっと説得するように頼む!!」
「……。」
なんだ、そう言う事か、と拍子抜けしたように呆れた目で沢村君を見た御幸先輩は、ふと思いついた顔で光に視線を移した。
「…それやったら玉城が俺に何かしてくれんの?」
「……。…はぁ!?何でですか?」
「だって俺も暇じゃないし、他にも受けてくれって来る奴いるし、沢村だけ特別扱いはちょっとな〜。メリットがあれば別だけど。」
にやにや、からかうように言う御幸先輩に、光の負けず嫌いが発動したのが分かった。
「…じゃあ、何すればいいんですか?」
「え〜?そうだな〜…。ほっぺにチュー…」
「す、するわけないでしょ!!」
光が御幸先輩の胸をべしんと叩き、いてぇよ、と御幸先輩は笑う。その光の反応が狙いだったのかもしれない。
「あ…アンタ最低だな!!後輩女子相手にセクハラかよ!!」
「あれ?沢村もそっち?」
「あたりめーだろ立派なセクハラだ」
「倉持まで〜。冗談じゃん」
「俺はこんなセクハラ野郎を追いかけてこんなところに来てしまったのかァァ〜〜!!」
「はっはっはっは!お前俺のこと追いかけてきたの?いやーモテて困っちゃうな〜♡」
「ウガアァァァ〜〜〜!!」
賑やかになる廊下で、光がぼそりと低い声でつぶやく。
「セクハラした罰として言うこと聞いてください。」
「そーきたか…」
***
「本当は御幸先輩のことどう思ってるの?」
カタン、カタン、カタン、と電車が揺れる音の中、光の綺麗な横顔がムッと歪む。それでも綺麗だけど。
今日は土曜日。私と光は最近オープンしたパンケーキのお店へ行って、一緒にプリクラを取ったりカラオケに行ったり一日中遊んだその帰路だった。電車の中はそこそこ混んでいて、私たちは座席に座っていたけれど、もう座席はいっぱいで、立っている人も少なくなかった。そしてこの人ごみの中でも、光を見て驚いたように振り返る人や、見惚れるような視線を送ってくる人も何人かいた。わかるなぁ…光のこの美貌、見惚れちゃうよね。
「別に、何とも思ってないもん。」
…ああもう…可愛いな〜…!!意地張っちゃって。何とも思ってないなんて言って、顔は耳まで赤いし。
「…ちょっと、何で笑うの?」
「いやいや別に笑ってないよ…んふっ」
「司!」
光は恥ずかしそうに怒った。電車が停車し、ドアが開いて、下りる人よりも多くの人が乗車してきた。立っている人たちもぎゅうぎゅう詰めになってきて、そんな中杖をついているおばあさんを見つけた光が、私が気付くよりも早くスッと立ち上がった。
「あの。ここ空いてますよ。」
「え?あ、あら、ありがとうねぇ、お姉さん。」
おばあさんと光を中心にして、周りの空気が和んだ。光ってやっぱり、こういうことスッとできるのがすごいなぁ。尊敬しちゃう…
「あれー、玉ちゃんじゃん。」
と、そこへなんと御幸先輩が乗車してきて、光も私も驚いた。
「うわ…、なんでいるの?」
「うわってなんだよ(笑)病院の帰りだよ。」
「病院?」
「今リハビリ通っててさ。」
そういえば、秋に野球の試合中に怪我したって聞いたような…。
「え!リハビリするような怪我?大丈夫なんですか?」
私もスポーツをしていたから、少し心配になった。怪我をして競技をあきらめるとか、ざらにある話だし…
だけど御幸先輩は軽い調子で笑って、平気平気、と言った。その様子を見る限り、大きな怪我ではなさそうで、ひとまず安堵する。
「お前らは?遊びにでも行ってたの?」
「はい!光とデートしてきました!」
「え〜いいなぁ〜なんつって(笑)」
「……。」
じろり、と御幸先輩を睨む光に、御幸先輩は飄々と笑う。なんだかんだ仲良いと思うんだけどなぁ…。
御幸先輩は光の隣に並んでつり革を持って立ち、電車が動き始めた。
「光座る?」
「ううん、平気。」
「えーでもぉ、光の方がか弱いわけだし、なんか悪いなぁ〜」
「別に普通だよ…。」
「あそっか!御幸先輩の隣がいいもんね?」
「え〜そうなの玉城?(笑)」
「そんなわけないでしょ。」
「そんな真顔で否定しなくても…」
「でもじゃあ司、荷物持って。」
「は〜い」
光の手荷物を自分のものと一緒に膝の上に抱えた。一駅、二駅、と通過し、電車の中はますます混んでいく。光が席を譲ったおばあさんは二駅目にお礼を言って降りて行ったけど、その席にはすかさずサラリーマン風のおじさんが座った。
「光ぃ、疲れてない?」
「だから大丈夫だってば。」
何度目かの同じ応答の時。急に御幸先輩が動いた。
「おい!何してんだよ」
御幸先輩はすごい勢いで光の後ろに立っていたおじさんの腕を掴んで怒鳴った。光も私もびっくりして固まってしまったけど、腕を掴まれたおじさんの手から携帯電話が落ちて、光が拾い上げた。私の位置からも、その画面が動画モードになっているのが分かった。
って…、え、と、盗撮!?
乗客全員の視線がおじさん、御幸先輩、そして光に降り注ぐ。光は赤い顔でうつむいてしまった。
「次で降りるぞ。一緒に来いよ、おっさん」
「な、何も撮ってないですよ!!」
「じゃあ何でカメラ起動してんだよ!」
「うるさい!!かっ、隠し撮りなんてするわけないだろう!こんなブ…」
ブ?
ブス?
おじさんを含むみんなの視線が光に集まった。…どう見ても、どう頑張って見ても、ブスは無理がある…。
「……。」
おじさんも口ごもってしまった。光の顔までは見ずに隠し撮りに及んだんだろうか。
「牧瀬、下りたら駅員呼びに行って。」
「あ…は、はい!」
「玉城はソレ持ってて。」
「……。」
ソレ、と差されたおじさんの携帯電話を持ったまま、光はうつむいている。こんなに注目を浴びて、さぞかし居心地が悪いだろう。可愛そうだ。
気まずい空気のまま電車が停車し、次の駅に着いた。と、次の瞬間…
「! オイ!!」
御幸先輩の手を振り切って、おじさんが車外に飛び出した。私は咄嗟に荷物を落とし、おじさんを追いかけた。
「その人痴漢です!!捕まえて!!」
すぐに何人かのサラリーマンが動き、おじさんに立ちはだかった。私もすぐに追いつき、3人がかりで取り押さえたところに、私が落として行った荷物を持った光と御幸先輩が追いつき、騒ぎに気づいた駅員も駆けつけた。
「悪ぃ…」
いてて、とわき腹を抑えながら、御幸先輩は苦笑した。
***
事情聴取やらなんやらで長い時間がかかったけど、おじさんは盗撮を認めて警察に連れて行かれた。
私たちは夜8時頃に開放され、
光が転入してきて、少し秋めいてきたこの頃。光はその類まれなる美貌ですぐにクラス中の女子から羨望を集めて人気者になったけど、光自身は引っ込み思案で、あまり自分から話しかけに行くことはない。そして男子たちは光に興味があるものの、やっぱり光が可愛すぎるからか、遠巻きに見るばかりで気さくに声を掛けてくれるのは東条君と2年の御幸先輩くらい…なんだけど、最近はこの人も加わった。
C組の沢村君だ。
「頼むよ女神ィィ〜〜!!!」
「うるさいな〜…!変な呼び方しないでよ!」
…と言っても、沢村君は東条君や御幸先輩とは違って、光に下心があるわけじゃなく、あくまで自身の目的の為みたいだけど。
「頼む!俺の球受けろって玉城からも言ってくれよ!」
「…私関係ないし。」
「御幸の奴なぜか玉城には甘いんだって!!玉城が行ったら絶対聞いてくれると思うんだよ!!」
「……。」
光はちょっと顔を赤くして、まんざらでもない感じだったけど、つんと口を尖らせて意地を張ったようにそっぽを向いた。
「そ…、そもそも、そんなことして私に何のメリットがあるの?」
「御幸先輩と話せるじゃ〜ん」
「はぁ!?う…嬉しくないからそんなの!」
にやにやからかうと、光は顔を真っ赤にして怒った。可愛いなぁもう。
「ていうか…なんでそんなにあの人とキャッチボールしたいの?」
「キャッチボールじゃない!…御幸先輩は性格には難があるけどスゲェキャッチャーなんだよ!」
「ふーん…よくわかんないけど」
「ふたりとも何気に失礼だね?」
「あの人にボールを受けてもらうと…いつも何かに気付かせてくれる。自分が投手として成長できるのを感じるんだ」
「……。」
沢村君にしては珍しく真面目…。私は思わず光と目を見合わせた。
「だから頼む玉城〜〜!!」
「ちょっ…しつこいなぁもう…」
「お前ら何してんの?」
沢村君が光に食い下がった時、笑い交じりの声がして、通りかかった御幸先輩と倉持先輩に気づいた。
「うわ、出た」
「はっはっは!嫌そうなカオ(笑)」
「なんでいるんですか?」
「移動教室だからだよ」
そう言って御幸先輩は、持っていた科学の教科書一式を持ち上げて見せた。
「何言ってんだ、お前がわざわざこっちから行こうって言っ「あ〜〜〜!!ん〜〜〜〜!!?何かなぁ倉持君!?」
そしてズケズケと突っ込んだ倉持先輩に、御幸先輩は慌てて声を上げた。確かに2年生の教室から科学の実験室に行くには、反対側の通路を使ったほうが近い。御幸先輩、光に会えることを期待して来たのかな…?
「ホラっ!玉城今だ、行け!」
「えっ?ちょ、ちょっと…。」
沢村君が光の背中を押し、光が御幸先輩の前に一歩踏み出すと、御幸先輩は光を見た。
「御幸先輩!玉城からずっげえ重大な、大ッ事な話がありますんで!!聞いてくだせぇ!!」
「……。」
「え〜何何、ちょっとドキドキしちゃう♡」
「……。」
沢村君と御幸先輩をちょっと白けた目で睨んでから、光はため息交じりに仕方がなさそうに言った。
「……。沢村君がボール受けて欲しいんだそうですよ。」
「玉城っ!もうひと声!もっと説得するように頼む!!」
「……。」
なんだ、そう言う事か、と拍子抜けしたように呆れた目で沢村君を見た御幸先輩は、ふと思いついた顔で光に視線を移した。
「…それやったら玉城が俺に何かしてくれんの?」
「……。…はぁ!?何でですか?」
「だって俺も暇じゃないし、他にも受けてくれって来る奴いるし、沢村だけ特別扱いはちょっとな〜。メリットがあれば別だけど。」
にやにや、からかうように言う御幸先輩に、光の負けず嫌いが発動したのが分かった。
「…じゃあ、何すればいいんですか?」
「え〜?そうだな〜…。ほっぺにチュー…」
「す、するわけないでしょ!!」
光が御幸先輩の胸をべしんと叩き、いてぇよ、と御幸先輩は笑う。その光の反応が狙いだったのかもしれない。
「あ…アンタ最低だな!!後輩女子相手にセクハラかよ!!」
「あれ?沢村もそっち?」
「あたりめーだろ立派なセクハラだ」
「倉持まで〜。冗談じゃん」
「俺はこんなセクハラ野郎を追いかけてこんなところに来てしまったのかァァ〜〜!!」
「はっはっはっは!お前俺のこと追いかけてきたの?いやーモテて困っちゃうな〜♡」
「ウガアァァァ〜〜〜!!」
賑やかになる廊下で、光がぼそりと低い声でつぶやく。
「セクハラした罰として言うこと聞いてください。」
「そーきたか…」
***
「本当は御幸先輩のことどう思ってるの?」
カタン、カタン、カタン、と電車が揺れる音の中、光の綺麗な横顔がムッと歪む。それでも綺麗だけど。
今日は土曜日。私と光は最近オープンしたパンケーキのお店へ行って、一緒にプリクラを取ったりカラオケに行ったり一日中遊んだその帰路だった。電車の中はそこそこ混んでいて、私たちは座席に座っていたけれど、もう座席はいっぱいで、立っている人も少なくなかった。そしてこの人ごみの中でも、光を見て驚いたように振り返る人や、見惚れるような視線を送ってくる人も何人かいた。わかるなぁ…光のこの美貌、見惚れちゃうよね。
「別に、何とも思ってないもん。」
…ああもう…可愛いな〜…!!意地張っちゃって。何とも思ってないなんて言って、顔は耳まで赤いし。
「…ちょっと、何で笑うの?」
「いやいや別に笑ってないよ…んふっ」
「司!」
光は恥ずかしそうに怒った。電車が停車し、ドアが開いて、下りる人よりも多くの人が乗車してきた。立っている人たちもぎゅうぎゅう詰めになってきて、そんな中杖をついているおばあさんを見つけた光が、私が気付くよりも早くスッと立ち上がった。
「あの。ここ空いてますよ。」
「え?あ、あら、ありがとうねぇ、お姉さん。」
おばあさんと光を中心にして、周りの空気が和んだ。光ってやっぱり、こういうことスッとできるのがすごいなぁ。尊敬しちゃう…
「あれー、玉ちゃんじゃん。」
と、そこへなんと御幸先輩が乗車してきて、光も私も驚いた。
「うわ…、なんでいるの?」
「うわってなんだよ(笑)病院の帰りだよ。」
「病院?」
「今リハビリ通っててさ。」
そういえば、秋に野球の試合中に怪我したって聞いたような…。
「え!リハビリするような怪我?大丈夫なんですか?」
私もスポーツをしていたから、少し心配になった。怪我をして競技をあきらめるとか、ざらにある話だし…
だけど御幸先輩は軽い調子で笑って、平気平気、と言った。その様子を見る限り、大きな怪我ではなさそうで、ひとまず安堵する。
「お前らは?遊びにでも行ってたの?」
「はい!光とデートしてきました!」
「え〜いいなぁ〜なんつって(笑)」
「……。」
じろり、と御幸先輩を睨む光に、御幸先輩は飄々と笑う。なんだかんだ仲良いと思うんだけどなぁ…。
御幸先輩は光の隣に並んでつり革を持って立ち、電車が動き始めた。
「光座る?」
「ううん、平気。」
「えーでもぉ、光の方がか弱いわけだし、なんか悪いなぁ〜」
「別に普通だよ…。」
「あそっか!御幸先輩の隣がいいもんね?」
「え〜そうなの玉城?(笑)」
「そんなわけないでしょ。」
「そんな真顔で否定しなくても…」
「でもじゃあ司、荷物持って。」
「は〜い」
光の手荷物を自分のものと一緒に膝の上に抱えた。一駅、二駅、と通過し、電車の中はますます混んでいく。光が席を譲ったおばあさんは二駅目にお礼を言って降りて行ったけど、その席にはすかさずサラリーマン風のおじさんが座った。
「光ぃ、疲れてない?」
「だから大丈夫だってば。」
何度目かの同じ応答の時。急に御幸先輩が動いた。
「おい!何してんだよ」
御幸先輩はすごい勢いで光の後ろに立っていたおじさんの腕を掴んで怒鳴った。光も私もびっくりして固まってしまったけど、腕を掴まれたおじさんの手から携帯電話が落ちて、光が拾い上げた。私の位置からも、その画面が動画モードになっているのが分かった。
って…、え、と、盗撮!?
乗客全員の視線がおじさん、御幸先輩、そして光に降り注ぐ。光は赤い顔でうつむいてしまった。
「次で降りるぞ。一緒に来いよ、おっさん」
「な、何も撮ってないですよ!!」
「じゃあ何でカメラ起動してんだよ!」
「うるさい!!かっ、隠し撮りなんてするわけないだろう!こんなブ…」
ブ?
ブス?
おじさんを含むみんなの視線が光に集まった。…どう見ても、どう頑張って見ても、ブスは無理がある…。
「……。」
おじさんも口ごもってしまった。光の顔までは見ずに隠し撮りに及んだんだろうか。
「牧瀬、下りたら駅員呼びに行って。」
「あ…は、はい!」
「玉城はソレ持ってて。」
「……。」
ソレ、と差されたおじさんの携帯電話を持ったまま、光はうつむいている。こんなに注目を浴びて、さぞかし居心地が悪いだろう。可愛そうだ。
気まずい空気のまま電車が停車し、次の駅に着いた。と、次の瞬間…
「! オイ!!」
御幸先輩の手を振り切って、おじさんが車外に飛び出した。私は咄嗟に荷物を落とし、おじさんを追いかけた。
「その人痴漢です!!捕まえて!!」
すぐに何人かのサラリーマンが動き、おじさんに立ちはだかった。私もすぐに追いつき、3人がかりで取り押さえたところに、私が落として行った荷物を持った光と御幸先輩が追いつき、騒ぎに気づいた駅員も駆けつけた。
「悪ぃ…」
いてて、とわき腹を抑えながら、御幸先輩は苦笑した。
***
事情聴取やらなんやらで長い時間がかかったけど、おじさんは盗撮を認めて警察に連れて行かれた。
私たちは夜8時頃に開放され、