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光也が12歳になり、中等部に進学した。
10歳になる星は、初等教育は家庭教師を雇うことにし、中等部からの寄宿学校入学が決まっている。
長期休暇に帰って来る以外では、光也と話ができるのは、光也が電話をしてきてくれた時だけだ。使用人から取次が来ると、光は急いで電話に駆け寄る。そして今日の昼も、約1か月ぶりに光也から電話がかかってきた。
「光也?ママだよ。元気?」
ソファでうきうきと電話に出る光。ジェスチャーで周防に、「星呼んであげて」と伝え、周防は静かに頷いて、ピアノの授業中の星を呼びに行った。
「うん、うん、そうなんだ〜。元気そうで良かった。」
光也から電話が来ると光が嬉しそうで俺も嬉しい。もちろん、光也からの連絡自体が嬉しいけど。
俺が高校で寮に入ったとき、親父もこんな気持ちだったのかな…。
「こっちもみんな元気だよ。今、もうすぐ星が来ると思うよ。…ん?」
…?何か一瞬、光が戸惑ったような。
「う…うん。い、いるよ。変わるね。」
光は受話器を押さえ、神妙な顔で俺に言った。
「一也さん…光也が…」
「…どうした?」
「…お父さんいる?って…」
「……。」
…お父さん。そうか、もうパパって呼ぶのが恥ずかしい年ごろか…。
「からかわないでやって。」
俺はそう笑って、受話器を受け取った。
「おう光也。パパだぞ〜」
「……。」
光がもの言いたげに俺を見た。
「……。うん。」
「なんだ、うんって。光也が呼んだんじゃないの?」
「別に、元気かと思って、聞いただけだよ」
なんだこいつ。昔の光そっくりか。
「今年の夏休みはいつから?」
「…20日からだよ。」
「お、あと1か月か。帰って来るだろ?もちろん。」
「そりゃ…。」
「じゃあどれくらい上達したか見てやろう。」
電話の向こうで息を飲んだのが分かった。今わくわくしてんだろうな〜…。
我が息子ながら、光也は野球大好き少年に育った。城にいる間はずっと、俺や洋一が出ていた試合のビデオを見ては感動し、日本の野球のビデオがもっと見たい、とネットでも見はじめ、俺や洋一にねだって野球の練習をしていた。
一番楽しいのはキャッチャーだというのだから、俺も楽しくてしょうがない。
「…お父さんもういい年なんだから、無理しないでよ。」
「はっはっは。俺の本気の投球を受けられるようになってから言うんだな〜。」
お父さん、と呼んだのを、今度は何も言わないでおいた。洋一じゃないけど、あんまりからかって、クソオヤジとか言われたらいやだし…。
「お兄ちゃんから電話が来たって本当!?」
と、そこへ、星が部屋に駆け込んできた。
「あ、星が来た。代わるぞ。」
「うん。」
はい、と星に受話器を渡すと、星は嬉しそうに話し出した。
「お兄ちゃん!星だよ!」
星はころころ笑い、嬉しそうに話をする。その様子を見るに、光也が強がってスカすのは星よりも俺や光に対してのものらしい。可愛い奴。
「お兄ちゃん早く帰ってきて!星お兄ちゃんがいないと寂しい…」
「さすが光の娘…」
「え?どういう意味?」
無自覚に人をたらすんだ、この美女母娘は…。俺も高校の時、光との電話でドキドキしたな〜…。
「ほんと?絶対だよ!約束だよ!…うん!じゃあ待ってるね。あっ…」
星は受話器を見て、俺と光をすまなそうに見上げた。
「切れちゃった…パパかママに代わる?って聞こうとしたのに。」
「パパたちもちゃんと話したから大丈夫だよ。」
俺が答えると、星はちょっと安心したように微笑んで、ピアノの授業に戻って行った。
「何約束したのかなぁ。」
光が頬杖をついて呟く。確かに、何か約束してたな…。
「…にしても、仲良く育ってよかったよな〜。俺と洋一の遺伝子なのに…」
「え?一也さんと洋一さんも仲良いじゃない。」
「…そうか?」
***
夏本番。
光也が夏休みに入り、列車に乗って帰ってきた。
「わざわざお父さんたちが来なくてもいいのに…」
車で俺と光と洋一と星とで迎えに行くと、光也は開口一番照れ臭そうにそう言った。
「光也おかえり。元気にしてた?お腹すいてない?」
「平気だよ…」
すっかり思春期だ。嬉しそうに声をかける光にそっけなく返すと、光也はキャリーバッグを俺に手渡した。
「お兄ちゃんここ!星の隣に乗って!」
「はいはい。」
「うふふ、お兄ちゃん〜」
星は大好きな兄が帰ってきて嬉しそうだ。光也も星には優しく、兄貴らしくほほ笑んだ。
「ねーお兄ちゃん、明日星と一緒に遊んでね。」
「明日?野球終わったらな。」
「えー!じゃあ星も見に行きたい!」
「危ないから女はダメだよ。」
「やだぁ〜!星もお兄ちゃんと一緒がいい!」
「明日は練習試合だから、一緒にいてやれないんだよ。家で待ってろよ」
「なんでー!司臣も行くのに!」
「アイツは男だから」
むすーっ、と星が不機嫌になって、光也はちょっと疲れた顔をした。
「星、ママと一緒にみんなのお弁当作って持って行ってあげよう?」
光がそう提案すると、星はぱあっと顔を輝かせた。
「うん!星お兄ちゃんのお弁当つくるー!」
「星が?作れるの?」
「星、お料理練習してるもんね。」
「してるもんね〜!」
ねー、と笑いあう母と妹を見て、ふうん、と光也は他人事のようにつぶやいた。
「よし、じゃあ出発するぞー。シートベルト閉めて。」
俺が運転席に座り、洋一が助手席に座り、全員が車に乗ったことを確認して、俺はエンジンをかけた。
10歳になる星は、初等教育は家庭教師を雇うことにし、中等部からの寄宿学校入学が決まっている。
長期休暇に帰って来る以外では、光也と話ができるのは、光也が電話をしてきてくれた時だけだ。使用人から取次が来ると、光は急いで電話に駆け寄る。そして今日の昼も、約1か月ぶりに光也から電話がかかってきた。
「光也?ママだよ。元気?」
ソファでうきうきと電話に出る光。ジェスチャーで周防に、「星呼んであげて」と伝え、周防は静かに頷いて、ピアノの授業中の星を呼びに行った。
「うん、うん、そうなんだ〜。元気そうで良かった。」
光也から電話が来ると光が嬉しそうで俺も嬉しい。もちろん、光也からの連絡自体が嬉しいけど。
俺が高校で寮に入ったとき、親父もこんな気持ちだったのかな…。
「こっちもみんな元気だよ。今、もうすぐ星が来ると思うよ。…ん?」
…?何か一瞬、光が戸惑ったような。
「う…うん。い、いるよ。変わるね。」
光は受話器を押さえ、神妙な顔で俺に言った。
「一也さん…光也が…」
「…どうした?」
「…お父さんいる?って…」
「……。」
…お父さん。そうか、もうパパって呼ぶのが恥ずかしい年ごろか…。
「からかわないでやって。」
俺はそう笑って、受話器を受け取った。
「おう光也。パパだぞ〜」
「……。」
光がもの言いたげに俺を見た。
「……。うん。」
「なんだ、うんって。光也が呼んだんじゃないの?」
「別に、元気かと思って、聞いただけだよ」
なんだこいつ。昔の光そっくりか。
「今年の夏休みはいつから?」
「…20日からだよ。」
「お、あと1か月か。帰って来るだろ?もちろん。」
「そりゃ…。」
「じゃあどれくらい上達したか見てやろう。」
電話の向こうで息を飲んだのが分かった。今わくわくしてんだろうな〜…。
我が息子ながら、光也は野球大好き少年に育った。城にいる間はずっと、俺や洋一が出ていた試合のビデオを見ては感動し、日本の野球のビデオがもっと見たい、とネットでも見はじめ、俺や洋一にねだって野球の練習をしていた。
一番楽しいのはキャッチャーだというのだから、俺も楽しくてしょうがない。
「…お父さんもういい年なんだから、無理しないでよ。」
「はっはっは。俺の本気の投球を受けられるようになってから言うんだな〜。」
お父さん、と呼んだのを、今度は何も言わないでおいた。洋一じゃないけど、あんまりからかって、クソオヤジとか言われたらいやだし…。
「お兄ちゃんから電話が来たって本当!?」
と、そこへ、星が部屋に駆け込んできた。
「あ、星が来た。代わるぞ。」
「うん。」
はい、と星に受話器を渡すと、星は嬉しそうに話し出した。
「お兄ちゃん!星だよ!」
星はころころ笑い、嬉しそうに話をする。その様子を見るに、光也が強がってスカすのは星よりも俺や光に対してのものらしい。可愛い奴。
「お兄ちゃん早く帰ってきて!星お兄ちゃんがいないと寂しい…」
「さすが光の娘…」
「え?どういう意味?」
無自覚に人をたらすんだ、この美女母娘は…。俺も高校の時、光との電話でドキドキしたな〜…。
「ほんと?絶対だよ!約束だよ!…うん!じゃあ待ってるね。あっ…」
星は受話器を見て、俺と光をすまなそうに見上げた。
「切れちゃった…パパかママに代わる?って聞こうとしたのに。」
「パパたちもちゃんと話したから大丈夫だよ。」
俺が答えると、星はちょっと安心したように微笑んで、ピアノの授業に戻って行った。
「何約束したのかなぁ。」
光が頬杖をついて呟く。確かに、何か約束してたな…。
「…にしても、仲良く育ってよかったよな〜。俺と洋一の遺伝子なのに…」
「え?一也さんと洋一さんも仲良いじゃない。」
「…そうか?」
***
夏本番。
光也が夏休みに入り、列車に乗って帰ってきた。
「わざわざお父さんたちが来なくてもいいのに…」
車で俺と光と洋一と星とで迎えに行くと、光也は開口一番照れ臭そうにそう言った。
「光也おかえり。元気にしてた?お腹すいてない?」
「平気だよ…」
すっかり思春期だ。嬉しそうに声をかける光にそっけなく返すと、光也はキャリーバッグを俺に手渡した。
「お兄ちゃんここ!星の隣に乗って!」
「はいはい。」
「うふふ、お兄ちゃん〜」
星は大好きな兄が帰ってきて嬉しそうだ。光也も星には優しく、兄貴らしくほほ笑んだ。
「ねーお兄ちゃん、明日星と一緒に遊んでね。」
「明日?野球終わったらな。」
「えー!じゃあ星も見に行きたい!」
「危ないから女はダメだよ。」
「やだぁ〜!星もお兄ちゃんと一緒がいい!」
「明日は練習試合だから、一緒にいてやれないんだよ。家で待ってろよ」
「なんでー!司臣も行くのに!」
「アイツは男だから」
むすーっ、と星が不機嫌になって、光也はちょっと疲れた顔をした。
「星、ママと一緒にみんなのお弁当作って持って行ってあげよう?」
光がそう提案すると、星はぱあっと顔を輝かせた。
「うん!星お兄ちゃんのお弁当つくるー!」
「星が?作れるの?」
「星、お料理練習してるもんね。」
「してるもんね〜!」
ねー、と笑いあう母と妹を見て、ふうん、と光也は他人事のようにつぶやいた。
「よし、じゃあ出発するぞー。シートベルト閉めて。」
俺が運転席に座り、洋一が助手席に座り、全員が車に乗ったことを確認して、俺はエンジンをかけた。