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芸能人ドッキリ企画。
俺と光の夫婦は何かと注目を集めていて、よくドッキリを仕掛けられる。
「光と御幸さんの愛は本物ですから!何があっても大丈夫ですよ!」
今回のドッキリを引き受けた光のマネージャーの牧瀬は、番組スタッフとニコニコ楽しそうに喋っていた。
絶対お前が面白がってるだけだろ…。
「じゃ、御幸さん!準備いいですか?」
「ハイ…」
今回のドッキリは、俺が電話で光に「野球を辞めたい」と言うもの。
芸能人の妻は仕事を辞めたい夫に何と言うのか、という結構人気のコーナーらしい。悪趣味すぎる。
「ちなみに奥様の光さんはどういった反応をされると思いますか?」
スタッフが尋ね、マイクを向けてきた。もうカメラは回ってるらしい。
「いやー…気付くんじゃないですかね?嘘って。結構鋭いところあるんで」
「なるほど、気付かれてしまいますか?」
「そうですね。俺が嘘…嘘って言うか…まあ…隠し事とか、いつも気付きますし」
「なるほど、御幸選手は何か奥様に隠し事が?」
「ちょ、やめてくださいそういう言い方!やましいことじゃないですから!」
冒頭からとんだ藪蛇だ。だけどほんとうに後ろめたい隠し事なんてない。
「それでは早速お電話の方お願いいたします。」
「…はい。」
俺はスマホを開き、光に電話を掛けた。もちろんプライベートのスマホだ。
少し呼び出し音が続いたあと、光はすぐに電話に出た。
『もしもし、一也さん?』
声が弾んでいる。一也さんと呼んでるんですね、とスタッフが面白がるように囁く。
「あー、うん。俺。お疲れ」
『お疲れ様。』
「今大丈夫?」
『うん。どうしたの?』
なんだか機嫌がいい。よかった、機嫌が悪いと後で拗ねるかもしれないし…
「あのさ…相談があるんだけど…」
『相談?』
「うん……」
『何?』
俺は単純に言い辛い事と、含みを持たせるために少し間をおいてから、低い声で言った。
「俺……野球辞めようと思って…るんだけど」
『…え?』
光はしばらく沈黙し、静かな声で尋ねた。
『何かあったの?』
真剣みを帯びた声。良心が痛む…。
「何か…っていうか…」
『どこか怪我とか…』
「あ、いや、違うけど、なんていうか」
『……。』
「…続けるのが辛い…っていうか…」
理由は事前にスタッフと軽く打ち合わせた。言いながら、我ながら嘘くせえ、と思う。だって普段家でも野球を見たり野球情報誌を見たりトレーニングをしたり、野球漬けで。光もそれを見ている。突然辛いなんて言われても青天の霹靂だろう。
『え……。』
光はそう呟いて、しばらく黙った。…何言ってるの?とか、また罰ゲーム?とか、言われんのかな…。と、思っていた矢先。
『……っ』
「え、光?」
向こうで小さな嗚咽が聞こえた。な、泣いてる!?
『…っ、ごめんなさい』
「え…?いや、な、なんで謝んの?っていうかなんで泣いて…」
『う、…気付いてあげられなくて…ごめんね…』
…ええええ!?光…!そ、そんなに俺のことで胸を痛めて…!?
あああもう謝りたい!!嘘だよって言って土下座したい!!光ごめん…!!
「いや…!ひ、光のせいじゃない…」
『一也さんが悩んでるのに、私、昨日…無神経なこと言っちゃった』
「え?昨日?」
…なんだっけ…。……あ!!
そういや昨日、スポーツ栄養士の資格が取れたと光が報告してくれて、はりきって夕食も作ってくれて…。
『ごめんなさい…プレッシャーだったよね…』
「いや、それは!うれしいよ、本当に!マジでうれしかった」
『でも…』
「いや本当に。いつも感謝してる」
何の話?とスタッフと牧瀬が目を瞬いて説明を求めるように俺を見た。が、電話中なのでそうもいかない。
なんかもうすでに、胸が痛いんだけど…。光は本当に俺に尽くしてくれて、自分の仕事も忙しいのに、毎日美味い料理を作ってくれるし、栄養についても勉強してくれたり、野球について理解しようとしてくれる。俺を支えるために、自分の時間と労力をささげてくれている。本当に愛してくれてるんだと毎日感じる。毎日、光と結婚してよかったと思う。そして毎日…俺も光のことがどうしようもなくいとおしいと感じる。
それなのに…。こんなふざけた嘘をついて、ドッキリにはめようとして…!
『……。球団の方にはもう相談したの…?』
「え、いや、うーん…」
やべぇ。話が具体的になってきた。この辺のことはあまりスタッフと相談してない。どうしよう。
『契約…5年だから、えっと…来年までだよね。』
「あー…うん」
『……。』
「……。」
『……。一也さん。』
「え…?」
『あの…。…本当に?』
「え?」
『本当に…辞めていいの?』
「……はい」
『……。昨日まで…楽しそうに野球の話…してると思ってた』
「…う…ん…」
『高校生の時からずっと…変わらずに野球が好きだって…思ってたの…。』
「……うん…」
『無理…してたの?』
「……。」
もう……ダメだ…!
「…ごめんなさい。」
あっ、と牧瀬が目を丸くした。
『ううん私のほうが…』
「いやそうじゃなくて。」
『え?』
「嘘…です」
『……え?何が?』
「だから…。…野球辞めたいっての、嘘。」
『……。』
しばらく沈黙が流れた。
『なん……え?な、どういう…こと?』
めちゃくちゃ混乱してる…。ごめん光…。
「…ごめん!!」
『え、』
「これ、ドッキリ番組…!!」
『……。』
あーあ、言っちゃった、と牧瀬が笑い、スタッフはまあ面白いからオッケーでしょう、なんて無責任なことを言っている。
『……ばか。』
「いやごめんなさい。本当に申し訳ございません…」
『ほんとに…心配したのに!』
「ごめん!今日帰ったら何でもするから!」
『わかった。』
「え」
『何でもしてくれるんだ。』
「……あー…お、お手柔らかに…」
『何でもするって言った。』
「…言いました」
『じゃあ、もう切るからね。』
「はい…ごめん…」
ぷつん、と電話が切れ、はあーー…、と深いため息とともに俺は机に突っ伏した。
「御幸さんのマジでうれしかったって言ってたのって何のことなんですかぁ?」
…牧瀬…。本当にこいつはもう…。
「光が…スポーツ栄養士の資格が取れたって、昨日聞いたんだよ」
「え!!うわ〜光、さすが!!もう本当にいい子なんですよ光って!高校の時も私が…」
牧瀬はスタッフに向かって光のエピソードを嬉しそうに語り始めた。
俺と光の夫婦は何かと注目を集めていて、よくドッキリを仕掛けられる。
「光と御幸さんの愛は本物ですから!何があっても大丈夫ですよ!」
今回のドッキリを引き受けた光のマネージャーの牧瀬は、番組スタッフとニコニコ楽しそうに喋っていた。
絶対お前が面白がってるだけだろ…。
「じゃ、御幸さん!準備いいですか?」
「ハイ…」
今回のドッキリは、俺が電話で光に「野球を辞めたい」と言うもの。
芸能人の妻は仕事を辞めたい夫に何と言うのか、という結構人気のコーナーらしい。悪趣味すぎる。
「ちなみに奥様の光さんはどういった反応をされると思いますか?」
スタッフが尋ね、マイクを向けてきた。もうカメラは回ってるらしい。
「いやー…気付くんじゃないですかね?嘘って。結構鋭いところあるんで」
「なるほど、気付かれてしまいますか?」
「そうですね。俺が嘘…嘘って言うか…まあ…隠し事とか、いつも気付きますし」
「なるほど、御幸選手は何か奥様に隠し事が?」
「ちょ、やめてくださいそういう言い方!やましいことじゃないですから!」
冒頭からとんだ藪蛇だ。だけどほんとうに後ろめたい隠し事なんてない。
「それでは早速お電話の方お願いいたします。」
「…はい。」
俺はスマホを開き、光に電話を掛けた。もちろんプライベートのスマホだ。
少し呼び出し音が続いたあと、光はすぐに電話に出た。
『もしもし、一也さん?』
声が弾んでいる。一也さんと呼んでるんですね、とスタッフが面白がるように囁く。
「あー、うん。俺。お疲れ」
『お疲れ様。』
「今大丈夫?」
『うん。どうしたの?』
なんだか機嫌がいい。よかった、機嫌が悪いと後で拗ねるかもしれないし…
「あのさ…相談があるんだけど…」
『相談?』
「うん……」
『何?』
俺は単純に言い辛い事と、含みを持たせるために少し間をおいてから、低い声で言った。
「俺……野球辞めようと思って…るんだけど」
『…え?』
光はしばらく沈黙し、静かな声で尋ねた。
『何かあったの?』
真剣みを帯びた声。良心が痛む…。
「何か…っていうか…」
『どこか怪我とか…』
「あ、いや、違うけど、なんていうか」
『……。』
「…続けるのが辛い…っていうか…」
理由は事前にスタッフと軽く打ち合わせた。言いながら、我ながら嘘くせえ、と思う。だって普段家でも野球を見たり野球情報誌を見たりトレーニングをしたり、野球漬けで。光もそれを見ている。突然辛いなんて言われても青天の霹靂だろう。
『え……。』
光はそう呟いて、しばらく黙った。…何言ってるの?とか、また罰ゲーム?とか、言われんのかな…。と、思っていた矢先。
『……っ』
「え、光?」
向こうで小さな嗚咽が聞こえた。な、泣いてる!?
『…っ、ごめんなさい』
「え…?いや、な、なんで謝んの?っていうかなんで泣いて…」
『う、…気付いてあげられなくて…ごめんね…』
…ええええ!?光…!そ、そんなに俺のことで胸を痛めて…!?
あああもう謝りたい!!嘘だよって言って土下座したい!!光ごめん…!!
「いや…!ひ、光のせいじゃない…」
『一也さんが悩んでるのに、私、昨日…無神経なこと言っちゃった』
「え?昨日?」
…なんだっけ…。……あ!!
そういや昨日、スポーツ栄養士の資格が取れたと光が報告してくれて、はりきって夕食も作ってくれて…。
『ごめんなさい…プレッシャーだったよね…』
「いや、それは!うれしいよ、本当に!マジでうれしかった」
『でも…』
「いや本当に。いつも感謝してる」
何の話?とスタッフと牧瀬が目を瞬いて説明を求めるように俺を見た。が、電話中なのでそうもいかない。
なんかもうすでに、胸が痛いんだけど…。光は本当に俺に尽くしてくれて、自分の仕事も忙しいのに、毎日美味い料理を作ってくれるし、栄養についても勉強してくれたり、野球について理解しようとしてくれる。俺を支えるために、自分の時間と労力をささげてくれている。本当に愛してくれてるんだと毎日感じる。毎日、光と結婚してよかったと思う。そして毎日…俺も光のことがどうしようもなくいとおしいと感じる。
それなのに…。こんなふざけた嘘をついて、ドッキリにはめようとして…!
『……。球団の方にはもう相談したの…?』
「え、いや、うーん…」
やべぇ。話が具体的になってきた。この辺のことはあまりスタッフと相談してない。どうしよう。
『契約…5年だから、えっと…来年までだよね。』
「あー…うん」
『……。』
「……。」
『……。一也さん。』
「え…?」
『あの…。…本当に?』
「え?」
『本当に…辞めていいの?』
「……はい」
『……。昨日まで…楽しそうに野球の話…してると思ってた』
「…う…ん…」
『高校生の時からずっと…変わらずに野球が好きだって…思ってたの…。』
「……うん…」
『無理…してたの?』
「……。」
もう……ダメだ…!
「…ごめんなさい。」
あっ、と牧瀬が目を丸くした。
『ううん私のほうが…』
「いやそうじゃなくて。」
『え?』
「嘘…です」
『……え?何が?』
「だから…。…野球辞めたいっての、嘘。」
『……。』
しばらく沈黙が流れた。
『なん……え?な、どういう…こと?』
めちゃくちゃ混乱してる…。ごめん光…。
「…ごめん!!」
『え、』
「これ、ドッキリ番組…!!」
『……。』
あーあ、言っちゃった、と牧瀬が笑い、スタッフはまあ面白いからオッケーでしょう、なんて無責任なことを言っている。
『……ばか。』
「いやごめんなさい。本当に申し訳ございません…」
『ほんとに…心配したのに!』
「ごめん!今日帰ったら何でもするから!」
『わかった。』
「え」
『何でもしてくれるんだ。』
「……あー…お、お手柔らかに…」
『何でもするって言った。』
「…言いました」
『じゃあ、もう切るからね。』
「はい…ごめん…」
ぷつん、と電話が切れ、はあーー…、と深いため息とともに俺は机に突っ伏した。
「御幸さんのマジでうれしかったって言ってたのって何のことなんですかぁ?」
…牧瀬…。本当にこいつはもう…。
「光が…スポーツ栄養士の資格が取れたって、昨日聞いたんだよ」
「え!!うわ〜光、さすが!!もう本当にいい子なんですよ光って!高校の時も私が…」
牧瀬はスタッフに向かって光のエピソードを嬉しそうに語り始めた。