356
気づけば俺は、学校の廊下を歩いていた。
なんだこれ…夢?
「あ、御幸!御幸も今日カラオケ行かね?」
ふと、中田たちと話していた倉持が声をかけてきた。今よりかなり若い。
「カラオケ?」
自身の意思に関係なく、俺はそう尋ね返した。
なんかこの光景、ぼんやりと覚えがある。昔の出来事を夢で思い出してるのか?
「おう、今日この雨じゃ練習中止だろ。麻生とか小野も行くぜ」
あ〜、こんな日もあったな。懐かしい。
「うーんカラオケか〜」
「ウッゼ、嫌なら来んなクソ眼鏡!」
「別に嫌とは言ってないじゃん?」
と、そこへ光が通りかかり、倉持たちが急におとなしくなった。
光、まだ少し幼い。うわ〜懐かしい。やっぱり可愛いな〜…高校時代の光も…
ちらり、と通りすがりに俺をにらんで、光はそのまま歩いていく。あ、まだ付き合う前か。
「何睨んでんだよ玉城〜?」
「邪魔だから。」
「はっはっはっは!」
あ、なんかこの光景見覚えがある。
「…おい御幸!」
そう思ったところに、突然倉持たちが小声で俺を取り囲んだ。
「やっぱお前カラオケ来いよ!」
「え?何急に」
「そんで玉城さんも誘え!」
「は〜?」
「ほら!早く!」
あ〜…あったあった、こんなこと。
苦笑いしながら、俺は懐かしい気持ちで成り行きを眺めた。
「玉城〜。お前今日暇?」
呼び止めると、光は一緒に歩いていた牧瀬と立ち止まり、顔を見合わせた。
「…何でですか」
「カラオケ行かね?俺らと」
「……。」
じんわり、光の顔が赤くなった時、光は口を閉ざしているのに、光の声が俺の頭の中に響いてきた。
「(え…?御幸先輩とカラオケ…?)」
…光の心の声?
そのまんざらでもない声色に、にわかに胸が熱くなる。
「なんで御幸先輩なんかと…」
そう顔をしかめて、光は顔をそむけた。
「え〜いいじゃん、行こうよ!」
牧瀬はそんな光の胸中もお見通しなのか、ぐいぐい光の背中を押した。さすが親友だ。
「え〜…」
「別に無理にとは言わないけど。」
「何言ってんだテメエ!もっとちゃんと頼め!」
しかしまだ素直になれずに渋る光に俺が言うと、倉持が俺の頭を後ろからぺしんとたたいた。
「つーかそもそも俺もまだ行くって言ってねーんだけど」
「は!?いやいや来るだろ御幸!?来いよ!な!?」
「うん…御幸もたまには遊ぼうぜ」
「お前らさっきと言ってること違くね?」
「(なんだ…御幸先輩来ないんだ…)」
光は少しがっかりしたような顔で口を尖らせた。え〜…光って本当に俺のこと好きだったんだ…。やべ、すげえうれしい。可愛い。
「御幸先輩も来るなら、私が責任をもって光を連れていきまーす!」
すると牧瀬が光の肩を捕まえてそう宣言し、光はえっと目を丸めた。
「ちょっと待ってよ司!何…」
「ハイハイハイ、それじゃあまた放課後〜!失礼しま〜す!」
抵抗する光を連行していく牧瀬。二人の姿が見えなくなると、倉持たちが俺を取り囲んだ。
「…な、何?」
「テメー絶対来いよ、御幸」
「絶対だぞ!!」
「こえーよ…」
***
ふっと意識が途切れ、次に気が付くとカラオケ店の光景に切り替わった。部屋の中には倉持たちが落ち着かない様子で集まっていて、俺の姿はない。そうだ、この日、俺は監督に呼ばれて遅れていったんだっけ。
「あっ、合ってた!お邪魔しまーす」
不意にドアが開いて、牧瀬と光が入ってくると、倉持たちはにわかに色めき立った。
「あれ?御幸先輩来ないんですか?」
「いや来る来る!ちょっと遅れるけど来るから」
「さあ座って座って」
牧瀬と光は倉持たちに迎えられ、騒がしい部屋の中に入り椅子に座った。
「(御幸先輩本当に来るのかな…。)」
少しつまらなそうにしている光。うわー、もー、そんなに俺のこと考えて…可愛すぎ…。
全然知らなかったなー…嫌われてるのかもとすら思ってたのに。
盛り上がらない光に気を使ったように曲を選び始める倉持たち。そして麻生がトップバッターで歌いだし、曲のサビに差し掛かったころ、部屋のドアが開いた。
「遅くなってゴメ〜ン♡」
「うわっ御幸来た」
「気持ちわり〜登場すんな!」
「来いって言ったのに酷くない?」
「(御幸先輩…!)」
顔を上げた光が俺を見つめてる。ドキドキが俺にまで伝わってくる。
「おっ、玉城たちも来てんじゃん」
俺と目が合うと、ドキン、と光の胸の心音が響いてきた。
「ちょっと、なんで隣に来るんですか(やだ、ドキドキする、どうしよう…)」
「ここしか空いてないから」
「……。」
「俺のコップどれー?」
光はうつむいて、倉持たちにお茶をもらう俺をちらりと横目で見つめた。
「(…かっこいい…)」
…えええマジ!?そんなこと思ってたの光…!?
「次、玉城さんたちもなんか歌ってよ!」
ほら、と麻生がニコニコ機械を差し出した。
「あ、じゃあ光なんか一緒に歌おうよ〜。」
「わ、私はいい」
「え〜なんでぇ?光歌うまいのに〜!」
結局牧瀬が一人で歌い始め、盛り上がる中、光はちらちらと俺を盗み見た。
「(先輩…。…かっこいいな…。)」
……。
「(…手…大きいなぁ…。)」
……。
「(……触ってみたい…。)」
……。…やべええドキドキする…!!
まさか光がこんな、こんなこと考えてたなんて…!俺の手くらい、光ならいくらでも触っていいのに!あー、当時光の気持ちを知ってたら…もっとぐいぐい行ってたのにな〜…。
「なぁってば倉持〜俺のコップどれ?」
「あーもーうるせえな!空いてるやつ勝手に使え!」
「じゃこれ使お〜」
俺がコップをもって立ち上がると、光の目が俺を追いかけた。その隣で、牧瀬が自分のジュースを一気に飲み干した。
「光!私のジュースおかわり入れてきて〜。」
「え?」
「御幸先輩待ってください!光も一緒に行きまーす!」
「え!?ちょっと司!」
「おねが〜い。光のオリジナルドリンク飲みた〜い。」
「何それ…。もう、全部混ぜちゃうからね!」
「あはは、いいよ!行ってらっしゃーい!」
少し拗ねながらも顔を少し赤くして俺についていく光。牧瀬って…本当に光のことよくわかってんだな〜…。やっぱすげえやあいつ。
「えーと…こっちか」
「……。」
案内板を見て歩く俺の後をついていきながら、光はちらちらと俺を見上げては顔を赤くしてうつむく。
「(先輩の背中…。)」
……。
「おとなしいな〜玉城。なんか喋れよ。」
「…いいじゃないですか別に。(先輩…うぅ、好き…)」
……。
「なに怒ってんの?」
「怒ってないし。(あぁもう…なんで普通に話せないの、私のバカ…!)」
……可愛すぎか!!!
「(先輩怒っちゃうかも…。ふつう怒るよね…こんな失礼な態度ばっかりとってたら…。)」
「へいへい。ごきげんななめのた〜まちゃん。」
「変な呼び方しないで。(なのにいつも…御幸先輩って優しい…。先輩…。)」
「何飲もっかな〜。」
「(…御幸先輩…。…大好き…)」
……やばい……光が可愛すぎて胸が苦しくなってきた…。
「(先輩…。私のことどう思ってるのかな…。)」
めちゃくちゃ好きだよ!!片思いだと思ってるよ当時の俺!!
「(何か話さなきゃ…。でも…う〜…つまんないって思われてないかな…。どうしよう…。)」
思ってねーよ!!お前と歩いてるだけで有頂天だよ俺は!!
「(御幸先輩…。…もし…今、私が抱き着いたり…したら…。どんな反応するのかな…。)」
…え!?光って意外と大胆…
「(…って何考えてるの私…。先輩困るよねきっと…。私こんなこと考えて…恥ずかしい…。)」
いや…まあ、別の意味で困るっつーか…。俺はもっと際どいこと考えてんですけどね…。
「ウーロン茶でいーや」
光がそんなことを考えているなんてつゆ知らず、当時の俺はドリンクサーバーからウーロン茶を注いだ。
その隣で光は牧瀬のコップにリンゴジュースを注いだ。
「(せっかく先輩と二人っきり…なのに…。)」
……。
「(まだ戻りたくないなぁ…。ジュース、もっとゆっくり出てくればいいのに…。)」
……いや……可愛すぎだって……。
「あれ、オリジナルドリンク作らねーの?(笑)」
ドキン、と光の心臓が高鳴った。
「つ、作らないし、そんなの」
「え〜全部混ぜるっつってたじゃん」
「うるさいな〜…。」
ぶつぶつ言いつつもリンゴジュースを注ぐのをやめる光。
「何入れればいいんですか。」
「え、俺が選ぶの?」
「先輩がやれっていうから」
「え〜、じゃあ…こっからここまで全部入れてやろーぜ(笑)」
「うわ、酷い…」
「なんだよ言わせといて!」
あ〜…楽しかったなあこの頃。付き合い始めてからは、もっと幸せだったけど…。
光に冷たい態度をとられながらもしつこく絡んでしまったのは、たぶん、嫌われているかもしれない不安もありながら、ふとした時に好意が垣間見えるような気がして…。気のせいじゃなかったんだな…。
「紅茶入れてアップルティーにしちゃお。」
「それじゃ普通じゃん。普通に美味いじゃん。」
「司にまずいものあげるわけないじゃないですか。」
「玉城やさし〜。」
「御幸先輩のだったら全部混ぜますけど。」
「はっはっはっは!」
「(御幸先輩…。御幸先輩……。)」
え、ちょ、うわ、光、ドキドキしすぎ…。俺の笑顔なんかで、こんなに…?
「玉城の愛が重いわ〜!」
笑って冗談で俺が言った言葉に、光は心臓が止まってしまったのかというほどに一瞬頭の中が真っ白になって、急にそっぽを向いた。
「何言って…ば バカじゃないですか!?もう本当ムカつく!」
「え、え〜?いやゴメンて…」
冗談じゃん、ウソウソ、となだめる俺から顔をそむけている光。この時は怒らせちゃったのかと思ってたけど…。
光…顔真っ赤なの隠してただけじゃん…!ウッソだろもう本当可愛すぎる…!
「玉城機嫌直せよ〜。ホラ砂糖あげる砂糖」
「いりません。バカじゃないんですか?」
「甘いもん好きじゃんお前」
「だからって砂糖そのまま食べるわけないでしょ。バカ。」
「バカバカ言うな。」
「バカ。」
「(う〜…。もう…御幸先輩…大好きなのに…。)」
あああ今すぐ過去の自分になって光を抱きしめたい…!!!
やいやい言い合いながら俺たちが部屋に戻ると、そこは結構盛り上がっていて、野球部員たちのノリに牧瀬は完全になじんでいた。こいつは本当にコミュニケーション能力が高くて感心する。
「司、はい」
「あ〜!ありがと…えっ!おいしい!!アップルティーだ!」
牧瀬は目を輝かせて光に抱き着いた。
「光ありがと〜〜!優しい〜〜!!」
「も〜…」
牧瀬にぎゅうぎゅう抱き着かれて、光はちょっと恥ずかしそうな顔で、迷惑そうに言った。
「おまえらイチャつきすぎ〜。」
「いや光ってすごい抱き心地いいんですよ!」
「はっはっは。反応に困る」
「えーじゃあ御幸先輩も抱きしめてみます〜?なんちゃって!」
「え!?や…やだ!絶対やだ!」
ケラケラ笑う牧瀬に、光は抵抗して赤い顔で俺をにらんだ。
「(御幸先輩に抱きしめられる…!?ど、どうしよう、顔赤くなっちゃう…!)」
「絶対やだってよ(笑)」
「照れてるんですよ〜!」
「違う!」
「(でも先輩に…抱きしめられちゃったら…。)」
「悲しいな〜!玉ちゃんに嫌われて〜!」
「ほらぁ先輩悲しんでるよ!光!」
「い、意味わかんないし…」
「(……。ううぅ…!ドキドキして無理…!)」
「よ〜し!じゃあ盛り上がってきたとこでアレやろうぜ〜!」
麻生がマイクを置いて声を上げ、イエーイ、と関たちも盛り上がった。
「アレって?」
俺は尋ね返し、光と牧瀬もきょとんと眼を瞬く。
「そりゃーアレといえば決まってんだろ!恒例の…」
「王様ゲーム!!」
「は?」
たしかにふざけて王様ゲームをすることはあるが、恒例というほどではない。それに王様ゲームつったら…。
嫌な予感がした俺は光たちを見た。
「王様ゲーム…?」
光はそれを知らないらしく牧瀬を見て、牧瀬は「あ〜…」と苦笑いを浮かべている。あきらかに気が進まない顔だ。あたりまえだけど。
「却下。」
割り箸を折り始めた麻生達に言うと、えっ、と一瞬空気が固まった。
「いや却下って…なんだよ御幸?」
「王様ゲームはダメ。」
「なんで?」
「玉城と牧瀬がいるから」
ぴしゃり、と言った俺に、麻生達は苦虫を噛み潰したような顔になる。ゲームに乗じてふざけた命令をしようとしていたことは明らかだ。
「え…な、何ですか?」
王様ゲームを知らない玉城が、緊張した空気に肩身を狭くした様子で俺を見上げた。
「王様ゲームっつーのは、クジで王様を引いたやつがなんでも一つ命令できるゲームなんだよ。」
「はあ…。」
「だから1番と2番がチューするとか言ったら、例えば、俺とお前が1番と2番を引いてたらチューしないといけないわけ。」
「……。えっ!?」
「嫌だろ?」
「……。(御幸先輩と…!?も、もしそんなことになったら…。あ…でも、違う人と当たるかもしれないし…それは嫌だな…。)」
「男だらけで冗談でやるのとは違うだろ。女の子巻き込んだらダメだろ」
顔を赤くしてうつむいた光、おお〜、と小さく拍手した牧瀬。
と、そこへ、トイレに行っていたらしい倉持が部屋に戻ってきた。
「…どしたの?」
ドアの前で静まり返った部屋を見渡す倉持。
「なんでもねーよ」
俺はそう言って、ソファに背を持たれた。
「…玉城?大丈夫?帰る?」
「え…。」
まだうつむいていた光に俺が声をかけた。ここにいるのが嫌になったかと思ったのだ。
「いえ、えっと…。」
「……?」
「……。(御幸先輩…。私のこと守ってくれたんだ…。…もう、本当に好き…!もっと一緒にいたい…。)」
「何?」
「…えっと…。(かっこいい…。御幸先輩…。)」
……っっ…。光がまさかこんなに俺を好きでいてくれたなんて…!
なんだこれ…夢?
「あ、御幸!御幸も今日カラオケ行かね?」
ふと、中田たちと話していた倉持が声をかけてきた。今よりかなり若い。
「カラオケ?」
自身の意思に関係なく、俺はそう尋ね返した。
なんかこの光景、ぼんやりと覚えがある。昔の出来事を夢で思い出してるのか?
「おう、今日この雨じゃ練習中止だろ。麻生とか小野も行くぜ」
あ〜、こんな日もあったな。懐かしい。
「うーんカラオケか〜」
「ウッゼ、嫌なら来んなクソ眼鏡!」
「別に嫌とは言ってないじゃん?」
と、そこへ光が通りかかり、倉持たちが急におとなしくなった。
光、まだ少し幼い。うわ〜懐かしい。やっぱり可愛いな〜…高校時代の光も…
ちらり、と通りすがりに俺をにらんで、光はそのまま歩いていく。あ、まだ付き合う前か。
「何睨んでんだよ玉城〜?」
「邪魔だから。」
「はっはっはっは!」
あ、なんかこの光景見覚えがある。
「…おい御幸!」
そう思ったところに、突然倉持たちが小声で俺を取り囲んだ。
「やっぱお前カラオケ来いよ!」
「え?何急に」
「そんで玉城さんも誘え!」
「は〜?」
「ほら!早く!」
あ〜…あったあった、こんなこと。
苦笑いしながら、俺は懐かしい気持ちで成り行きを眺めた。
「玉城〜。お前今日暇?」
呼び止めると、光は一緒に歩いていた牧瀬と立ち止まり、顔を見合わせた。
「…何でですか」
「カラオケ行かね?俺らと」
「……。」
じんわり、光の顔が赤くなった時、光は口を閉ざしているのに、光の声が俺の頭の中に響いてきた。
「(え…?御幸先輩とカラオケ…?)」
…光の心の声?
そのまんざらでもない声色に、にわかに胸が熱くなる。
「なんで御幸先輩なんかと…」
そう顔をしかめて、光は顔をそむけた。
「え〜いいじゃん、行こうよ!」
牧瀬はそんな光の胸中もお見通しなのか、ぐいぐい光の背中を押した。さすが親友だ。
「え〜…」
「別に無理にとは言わないけど。」
「何言ってんだテメエ!もっとちゃんと頼め!」
しかしまだ素直になれずに渋る光に俺が言うと、倉持が俺の頭を後ろからぺしんとたたいた。
「つーかそもそも俺もまだ行くって言ってねーんだけど」
「は!?いやいや来るだろ御幸!?来いよ!な!?」
「うん…御幸もたまには遊ぼうぜ」
「お前らさっきと言ってること違くね?」
「(なんだ…御幸先輩来ないんだ…)」
光は少しがっかりしたような顔で口を尖らせた。え〜…光って本当に俺のこと好きだったんだ…。やべ、すげえうれしい。可愛い。
「御幸先輩も来るなら、私が責任をもって光を連れていきまーす!」
すると牧瀬が光の肩を捕まえてそう宣言し、光はえっと目を丸めた。
「ちょっと待ってよ司!何…」
「ハイハイハイ、それじゃあまた放課後〜!失礼しま〜す!」
抵抗する光を連行していく牧瀬。二人の姿が見えなくなると、倉持たちが俺を取り囲んだ。
「…な、何?」
「テメー絶対来いよ、御幸」
「絶対だぞ!!」
「こえーよ…」
***
ふっと意識が途切れ、次に気が付くとカラオケ店の光景に切り替わった。部屋の中には倉持たちが落ち着かない様子で集まっていて、俺の姿はない。そうだ、この日、俺は監督に呼ばれて遅れていったんだっけ。
「あっ、合ってた!お邪魔しまーす」
不意にドアが開いて、牧瀬と光が入ってくると、倉持たちはにわかに色めき立った。
「あれ?御幸先輩来ないんですか?」
「いや来る来る!ちょっと遅れるけど来るから」
「さあ座って座って」
牧瀬と光は倉持たちに迎えられ、騒がしい部屋の中に入り椅子に座った。
「(御幸先輩本当に来るのかな…。)」
少しつまらなそうにしている光。うわー、もー、そんなに俺のこと考えて…可愛すぎ…。
全然知らなかったなー…嫌われてるのかもとすら思ってたのに。
盛り上がらない光に気を使ったように曲を選び始める倉持たち。そして麻生がトップバッターで歌いだし、曲のサビに差し掛かったころ、部屋のドアが開いた。
「遅くなってゴメ〜ン♡」
「うわっ御幸来た」
「気持ちわり〜登場すんな!」
「来いって言ったのに酷くない?」
「(御幸先輩…!)」
顔を上げた光が俺を見つめてる。ドキドキが俺にまで伝わってくる。
「おっ、玉城たちも来てんじゃん」
俺と目が合うと、ドキン、と光の胸の心音が響いてきた。
「ちょっと、なんで隣に来るんですか(やだ、ドキドキする、どうしよう…)」
「ここしか空いてないから」
「……。」
「俺のコップどれー?」
光はうつむいて、倉持たちにお茶をもらう俺をちらりと横目で見つめた。
「(…かっこいい…)」
…えええマジ!?そんなこと思ってたの光…!?
「次、玉城さんたちもなんか歌ってよ!」
ほら、と麻生がニコニコ機械を差し出した。
「あ、じゃあ光なんか一緒に歌おうよ〜。」
「わ、私はいい」
「え〜なんでぇ?光歌うまいのに〜!」
結局牧瀬が一人で歌い始め、盛り上がる中、光はちらちらと俺を盗み見た。
「(先輩…。…かっこいいな…。)」
……。
「(…手…大きいなぁ…。)」
……。
「(……触ってみたい…。)」
……。…やべええドキドキする…!!
まさか光がこんな、こんなこと考えてたなんて…!俺の手くらい、光ならいくらでも触っていいのに!あー、当時光の気持ちを知ってたら…もっとぐいぐい行ってたのにな〜…。
「なぁってば倉持〜俺のコップどれ?」
「あーもーうるせえな!空いてるやつ勝手に使え!」
「じゃこれ使お〜」
俺がコップをもって立ち上がると、光の目が俺を追いかけた。その隣で、牧瀬が自分のジュースを一気に飲み干した。
「光!私のジュースおかわり入れてきて〜。」
「え?」
「御幸先輩待ってください!光も一緒に行きまーす!」
「え!?ちょっと司!」
「おねが〜い。光のオリジナルドリンク飲みた〜い。」
「何それ…。もう、全部混ぜちゃうからね!」
「あはは、いいよ!行ってらっしゃーい!」
少し拗ねながらも顔を少し赤くして俺についていく光。牧瀬って…本当に光のことよくわかってんだな〜…。やっぱすげえやあいつ。
「えーと…こっちか」
「……。」
案内板を見て歩く俺の後をついていきながら、光はちらちらと俺を見上げては顔を赤くしてうつむく。
「(先輩の背中…。)」
……。
「おとなしいな〜玉城。なんか喋れよ。」
「…いいじゃないですか別に。(先輩…うぅ、好き…)」
……。
「なに怒ってんの?」
「怒ってないし。(あぁもう…なんで普通に話せないの、私のバカ…!)」
……可愛すぎか!!!
「(先輩怒っちゃうかも…。ふつう怒るよね…こんな失礼な態度ばっかりとってたら…。)」
「へいへい。ごきげんななめのた〜まちゃん。」
「変な呼び方しないで。(なのにいつも…御幸先輩って優しい…。先輩…。)」
「何飲もっかな〜。」
「(…御幸先輩…。…大好き…)」
……やばい……光が可愛すぎて胸が苦しくなってきた…。
「(先輩…。私のことどう思ってるのかな…。)」
めちゃくちゃ好きだよ!!片思いだと思ってるよ当時の俺!!
「(何か話さなきゃ…。でも…う〜…つまんないって思われてないかな…。どうしよう…。)」
思ってねーよ!!お前と歩いてるだけで有頂天だよ俺は!!
「(御幸先輩…。…もし…今、私が抱き着いたり…したら…。どんな反応するのかな…。)」
…え!?光って意外と大胆…
「(…って何考えてるの私…。先輩困るよねきっと…。私こんなこと考えて…恥ずかしい…。)」
いや…まあ、別の意味で困るっつーか…。俺はもっと際どいこと考えてんですけどね…。
「ウーロン茶でいーや」
光がそんなことを考えているなんてつゆ知らず、当時の俺はドリンクサーバーからウーロン茶を注いだ。
その隣で光は牧瀬のコップにリンゴジュースを注いだ。
「(せっかく先輩と二人っきり…なのに…。)」
……。
「(まだ戻りたくないなぁ…。ジュース、もっとゆっくり出てくればいいのに…。)」
……いや……可愛すぎだって……。
「あれ、オリジナルドリンク作らねーの?(笑)」
ドキン、と光の心臓が高鳴った。
「つ、作らないし、そんなの」
「え〜全部混ぜるっつってたじゃん」
「うるさいな〜…。」
ぶつぶつ言いつつもリンゴジュースを注ぐのをやめる光。
「何入れればいいんですか。」
「え、俺が選ぶの?」
「先輩がやれっていうから」
「え〜、じゃあ…こっからここまで全部入れてやろーぜ(笑)」
「うわ、酷い…」
「なんだよ言わせといて!」
あ〜…楽しかったなあこの頃。付き合い始めてからは、もっと幸せだったけど…。
光に冷たい態度をとられながらもしつこく絡んでしまったのは、たぶん、嫌われているかもしれない不安もありながら、ふとした時に好意が垣間見えるような気がして…。気のせいじゃなかったんだな…。
「紅茶入れてアップルティーにしちゃお。」
「それじゃ普通じゃん。普通に美味いじゃん。」
「司にまずいものあげるわけないじゃないですか。」
「玉城やさし〜。」
「御幸先輩のだったら全部混ぜますけど。」
「はっはっはっは!」
「(御幸先輩…。御幸先輩……。)」
え、ちょ、うわ、光、ドキドキしすぎ…。俺の笑顔なんかで、こんなに…?
「玉城の愛が重いわ〜!」
笑って冗談で俺が言った言葉に、光は心臓が止まってしまったのかというほどに一瞬頭の中が真っ白になって、急にそっぽを向いた。
「何言って…ば バカじゃないですか!?もう本当ムカつく!」
「え、え〜?いやゴメンて…」
冗談じゃん、ウソウソ、となだめる俺から顔をそむけている光。この時は怒らせちゃったのかと思ってたけど…。
光…顔真っ赤なの隠してただけじゃん…!ウッソだろもう本当可愛すぎる…!
「玉城機嫌直せよ〜。ホラ砂糖あげる砂糖」
「いりません。バカじゃないんですか?」
「甘いもん好きじゃんお前」
「だからって砂糖そのまま食べるわけないでしょ。バカ。」
「バカバカ言うな。」
「バカ。」
「(う〜…。もう…御幸先輩…大好きなのに…。)」
あああ今すぐ過去の自分になって光を抱きしめたい…!!!
やいやい言い合いながら俺たちが部屋に戻ると、そこは結構盛り上がっていて、野球部員たちのノリに牧瀬は完全になじんでいた。こいつは本当にコミュニケーション能力が高くて感心する。
「司、はい」
「あ〜!ありがと…えっ!おいしい!!アップルティーだ!」
牧瀬は目を輝かせて光に抱き着いた。
「光ありがと〜〜!優しい〜〜!!」
「も〜…」
牧瀬にぎゅうぎゅう抱き着かれて、光はちょっと恥ずかしそうな顔で、迷惑そうに言った。
「おまえらイチャつきすぎ〜。」
「いや光ってすごい抱き心地いいんですよ!」
「はっはっは。反応に困る」
「えーじゃあ御幸先輩も抱きしめてみます〜?なんちゃって!」
「え!?や…やだ!絶対やだ!」
ケラケラ笑う牧瀬に、光は抵抗して赤い顔で俺をにらんだ。
「(御幸先輩に抱きしめられる…!?ど、どうしよう、顔赤くなっちゃう…!)」
「絶対やだってよ(笑)」
「照れてるんですよ〜!」
「違う!」
「(でも先輩に…抱きしめられちゃったら…。)」
「悲しいな〜!玉ちゃんに嫌われて〜!」
「ほらぁ先輩悲しんでるよ!光!」
「い、意味わかんないし…」
「(……。ううぅ…!ドキドキして無理…!)」
「よ〜し!じゃあ盛り上がってきたとこでアレやろうぜ〜!」
麻生がマイクを置いて声を上げ、イエーイ、と関たちも盛り上がった。
「アレって?」
俺は尋ね返し、光と牧瀬もきょとんと眼を瞬く。
「そりゃーアレといえば決まってんだろ!恒例の…」
「王様ゲーム!!」
「は?」
たしかにふざけて王様ゲームをすることはあるが、恒例というほどではない。それに王様ゲームつったら…。
嫌な予感がした俺は光たちを見た。
「王様ゲーム…?」
光はそれを知らないらしく牧瀬を見て、牧瀬は「あ〜…」と苦笑いを浮かべている。あきらかに気が進まない顔だ。あたりまえだけど。
「却下。」
割り箸を折り始めた麻生達に言うと、えっ、と一瞬空気が固まった。
「いや却下って…なんだよ御幸?」
「王様ゲームはダメ。」
「なんで?」
「玉城と牧瀬がいるから」
ぴしゃり、と言った俺に、麻生達は苦虫を噛み潰したような顔になる。ゲームに乗じてふざけた命令をしようとしていたことは明らかだ。
「え…な、何ですか?」
王様ゲームを知らない玉城が、緊張した空気に肩身を狭くした様子で俺を見上げた。
「王様ゲームっつーのは、クジで王様を引いたやつがなんでも一つ命令できるゲームなんだよ。」
「はあ…。」
「だから1番と2番がチューするとか言ったら、例えば、俺とお前が1番と2番を引いてたらチューしないといけないわけ。」
「……。えっ!?」
「嫌だろ?」
「……。(御幸先輩と…!?も、もしそんなことになったら…。あ…でも、違う人と当たるかもしれないし…それは嫌だな…。)」
「男だらけで冗談でやるのとは違うだろ。女の子巻き込んだらダメだろ」
顔を赤くしてうつむいた光、おお〜、と小さく拍手した牧瀬。
と、そこへ、トイレに行っていたらしい倉持が部屋に戻ってきた。
「…どしたの?」
ドアの前で静まり返った部屋を見渡す倉持。
「なんでもねーよ」
俺はそう言って、ソファに背を持たれた。
「…玉城?大丈夫?帰る?」
「え…。」
まだうつむいていた光に俺が声をかけた。ここにいるのが嫌になったかと思ったのだ。
「いえ、えっと…。」
「……?」
「……。(御幸先輩…。私のこと守ってくれたんだ…。…もう、本当に好き…!もっと一緒にいたい…。)」
「何?」
「…えっと…。(かっこいい…。御幸先輩…。)」
……っっ…。光がまさかこんなに俺を好きでいてくれたなんて…!