「気を付けて帰れよ〜マイハニー♡」
「もー先輩うざい」

校門をくぐって帰っていく玉城さんに手を振って冷たくあしらわれる御幸。それを見て笑っていた1年が、それでも羨ましそうに御幸を見る。

「御幸主将って玉城先輩と付き合ってるんだよな?」
「そーそー、去年からだって」
「クッソ羨ましい〜〜〜やっぱ美女はイケメンにとられるんだぁぁ」

だいたいいつも御幸が冷たくあしらわれている印象だから、学校では御幸が玉城さんにべた惚れで、玉城さんが御幸のアプローチに折れて付き合ってやってる、みたいなイメージが根付いている。
だけど俺は知っている。御幸と二人っきりの時の玉城さんを…。




***



夕方のコンビニ。ゾノ達とスナックを買いに来たところ、店の前に見慣れたカップルを見つけ、俺たちは顔を見合わせた。邪魔しに行く気満々で「行こうぜ」と目配せをする麻生を引き留め、まぁ見てろよ、と耳打ちした。
御幸はコーヒーを飲みながら、肉まんを食べる玉城さんを見つめている。

「光こっち向いて。」

と、御幸がポケットから携帯を取り出してカメラを向けると、玉城さんははにかんでピースを作った。パシャー、と機械音が鳴り、見せて、と玉城さんが御幸の隣にくっついて携帯の画面をのぞき込む。普通にイチャついてやがる。

「やっぱ邪魔しに行こうぜ」

麻生が舌打ちを打った。まぁまぁ、と俺はなだめて、もう少し見てようぜ、と言った。

「一也先輩。」
「ん?」

玉城さんが御幸を熱い視線で見上げ、御幸はにわかに顔を赤くした。

「え…何?」
「見てるだけ。」
「……。」

玉城さんがぐいぐい行って、御幸が照れてる…。珍しい光景だ。

「ちょっと…くっつきすぎ。」

御幸が照れて耐えかねた様子で玉城さんから少し離れた。

「ひどい。なんで離れるんですか?」
「ちょっ、だから…くっつきすぎだって」
「いいじゃないですか別に。」
「今はダメだって…」
「なんでですか。」
「照れちゃうから。」

ちょっと顔を赤くして言う御幸に、玉城さんはふふふふ、と嬉しそうにはにかんだ。

「先輩照れてるの?」
「もー、だからやめろって」
「うふふふ、顔あかーい」
「コラ…」

しつこく見つめる玉城さんに、御幸は一瞬意を決して、ふっと身をかがめて…
一瞬、本当に一瞬だけの、キスをした。

「……!!!!!!」

麻生たちが声を押し殺してゼイゼイ言いながら互いの体をどつきあった。

「……。」

玉城さんはすぐに顔を真っ赤にしておとなしくなり、御幸が「先輩をからかうから」と呟く。

「…先輩…」

玉城さんはうつむいて小さな声でつぶやく。一瞬、いつもみたいに、「変なことしないでください」とか、「セクハラやめてください」とか言って怒るかな、と思いきや…

「…もっとして…。」

…甘ーーーーーーー!!!!!!
顔を赤くして黙り込む二人。もじもじ、うじうじ、だけどお互いに、キスしたそうで…

「…今日叔母さんいるの?」

ぼそりと尋ねた御幸に対し、玉城さんは小さく頭を横に振る。そして…御幸のシャツの袖を少し引っ張った。
二人は言葉もなく、歩き出した。玉城さんの家の方向へと…。

「ま、ま、まさかヤるんじゃ…」

麻生がわなわなと震えだした。まさかもなにも、あの二人がすでにそういうことをしているのは俺は知っている。

「は!?アイツもう童貞やないってことか!?」
「彼女の家にフツーに行ってんだからそういうことだろ…」
「な!な!」
「ああああ許せねえええええ!!!」



***



「おつかれー。」

「……。」
「……。」
「……。」

その日、御幸が寮に帰って来たのはあれから約40分後のことだった。…妙にリアリティのある生々しい時間で帰ってきやがって…!

「何?」

御幸はまた何か突っかかられると察した面倒くさそうな苦笑顔で俺たちを見渡した。

「見たぞ。」
「何を?」
「お前が玉城さんとチューしてるトコ。」
「え……」

じわじわじわ、御幸の顔はみるみる赤くなっていった。

「え、は…?え?いつ?嘘だろ?」
「うわーもー嫌だぶっ殺してぇ」
「テメー玉城さんち行って何してきたんだよ!!」
「は!?なんでそんなことまで知ってんの?コワッ」
「コンビニで見かけたんだよ!!」

うわーもうやめろよマジ、と呟きながら頭をかき、御幸は鬱陶しそうに言った。

「ほっとけよ…」

その妙な余裕のある気だるさに、俺たちはますます悔しくなった。

「お前まさかヤッたのか…!?」
「……。」
「なんだよその沈黙!!!!答えろよ御幸!!!!!」
「お前玉城さんを誑かしやがって!!!」
「あの清楚で汚れを知らなそーな玉城さんを!!!」
「天使を弄んだお前の罪は重い!!」
「な!な!」
「…いや、なんだよそれ」

御幸は呆れた顔で俺たちを見渡した。

「弄ぶって…俺一生光と別れる気ないけど。」
「え」

ぽかん、と口を開けたまま固まった俺たちに、御幸はにやりと笑った。

「アイツ俺の未来のお嫁さんだから♡」

「……。」
「……。」
「……。」

御幸がそんなことを言うなんて…。いや、遊び人だとも思ってないけど、あの飄々として人をいつも小ばかにする御幸が、一人の女の子に、皆の前でこんな恥ずかしいことを公言するほど、本気で入れ込むなんて…。

「はっはっはっは」

その時の御幸に迷いなんて一切なくて、俺たちは言葉をなくしたけど、でも心のどこかで羨ましくも感じていた。
それに今なら心から頷ける…光以外の女を、光以上に愛せないだろうという確信。
だから俺は今も御幸がどこか羨ましくて、恨めしい。

 


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