「御幸さんって、光のわがまま何でも聞いてくれそうだよね」

ドッキリ企画のオファーがきたとき、企画内容の会議中に私が発したその一言で、企画が決まった。

「さすがになんでもってわけじゃ…」

そこまで言って、光はそういえばいつも御幸さんにお願い事を断られたことがないと気づいたように、しばらく考え込んで沈黙した。

「御幸さん、光には甘いもんね〜!」
「牧瀬さんも相当じゃないですか?」
「あはは、確かに!!」

スタッフさんがそう突っ込んできて、私は手をたたいて笑った。

「でもこれなら面白そう。いつも光はドッキリしかけられる方だけどさ、今回は仕返しってことで!ね?」
「……。」

光はあまり気が進まなそうだったけど、仕事だから仕方ない、という様子で頷いた。



そして収録当日。
光たちが同棲しているマンションの部屋に何台か隠しカメラを仕掛け、光はいつものように夕食の用意をしながら御幸さんの帰宅を待った。しばらくすると、玄関の鍵が開く音がし、光は玄関へ向かった。

「ただいまー」
「おかえりなさい。」

自然な笑顔で御幸さんを出迎える光。さすが女優。

「もうすぐご飯できますよ。」
「あい」

御幸さんは軽い返事をし、着替えてきてキッチンにやってくると、光の手伝いをしてすぐに食卓に料理が並んだ。ほんと、いつ見ても仲がいいカップルだ。

「いただきます。」
「いただきまーす。」

煮物を一口食べた御幸さんが、うまい、と呟く。
そしてついに光が行動を起こした。

「一也さん、お醤油持ってきてくれる?」

まずレベル1。『物を持ってきてもらう。』

「醤油?うん。」

御幸さんは二つ返事で頷き、キッチンへ行ってしょうゆを持ってきた。

「ありがとう。」
「ん」

気にした様子もなく、御幸さんは席に戻って食事を続けた。
食事が進み、30分ほど経って、次の行動。

「一也さん、洗い物お願いしてもいい?」

レベル2、『普段やらない家事を頼む』。

「ん?いいよ。」

御幸さんはちょっと不思議そうにしながらも頷き、キッチンへ向かった。光が忙しいと思ったのか、洗い物をしながら光を見て、光が何もせずソファに座ると少し気になった様子で目を瞬いた。
しかし何も言わず洗い物を終えると、コーヒーを淹れて光の隣へ座った。

「はい」
「え…ありがとう。」
「具合でも悪いの?」

光が座っているのを、体調不良だと心配したらしく、御幸さんは優しい声で尋ねた。
優しいですねぇ、とスタッフの女の子が羨ましそうにつぶやいた。

「う、ううん。大丈夫」
「そう?」

ふうん、と呟き、ソファに寄りかかる御幸さん。
そこで光はまた次の行動を仕掛けた。

「一也さん…」
「ん?」

光は持って居たスマホの画面を見せた。

「これ…。可愛いと思わない…?」

急にぎこちなくそう言う光に、普段おねだりをしたことがほとんどないんだろうな、と簡単に伺い知れた。まあ、光はねだらなくても自分のお金で買えるし…ね。って、それを言っちゃ元も子もないか。

「何?…ネックレス?」

画面を見せられた御幸さんは珍しそうに光の顔を見た。
光が見せたネックレスは番組スタッフが用意した偽の宝石店のホームページ。高級ブランドの一点物のアクセサリーで、希少なダイヤモンドを使っており有名なデザイナーが携わった、1千万円以上する超高級品…という設定だ。年俸5千万の御幸さんといえど、安い買い物ではないはず…。

「珍しいじゃん、そういうこと言うの」
「そ、そうかな」
「欲しいの?」

「欲しいって答えてください!」

スタッフがマイクに向かって指示を出し、光は隠したイヤホンからその指示を聞いて、言い辛そうに御幸さんを見上げた。

「うん…」
「はっはっは」

御幸さんは笑い出して光の頭を撫でた。

「どーしたんだよ珍しい。全然買ってあげるよこのくらい。」

こ、このくらい…、とスタッフさんが苦笑いを浮かべて顔を見合わせた。

「どこで買えるの?店どこ?」
「え…。」
「あ、先に電話しといたほうがいいか?一点ものって書いてあるし」
「え!ちょ、ちょっと待って」

電話番号を探す御幸さんの手から、光は慌ててスマホを奪い取った。

「え?どうした?」
「や、やっぱりもうちょっと考える…」
「誰か買っちゃうかもよ?」
「それならそれでいいの」
「……?」
「着替えてくる」

ここで光は一旦、次の仕込みのために寝室へ入った。
御幸さんは光がいなくなるとすぐにスマホを弄り始めた。

「いや〜思ったよりあっさり進んじゃってますね…」
「本当になんでも言うこと聞いてくれそう…」

スタッフが口々に言う中、突然一人のスタッフの電話が鳴った。

「!!え!?」

スタッフは驚いた顔でスマホの画面をみんなに見せた。

「御幸さんから電話がかかってきました!」
「え!?」

モニターを見ると、確かにスマホを耳に当てている御幸さん。一瞬どういうことなのか混乱したが、なんてことはなかった。このスタッフの電話番号は、偽の宝石店の問い合わせ先として、偽のサイトに記載していたものだったのだ。
怪しまれる前に出て!と、別のスタッフが支持すると、スタッフは緊張した面持ちで応答ボタンを押した。

「…はい、〇〇宝石です。」

かしこまった口調で言って、スピーカーボタンを押す。

『あ…すみません、ホームページを見たものなんですが』

ええー!!まさか御幸さん、光に内緒でネックレスを…!?

「は…はい、ありがとうございます。」
『あの、最初のページに載ってる、1点もののネックレスありましたよね?』
「はい、ございます。」
『それを購入したいのですが、取り置きとかってしてもらえます?必ず購入するので』

私たちは皆目を真ん丸にして顔を見合わせた。み、御幸さん、光のためならなんでも買っちゃうんじゃないのこれ…。

「は…はい、大丈夫です。」
『どうしたらいいですか?名前と電話番号でいいですか?』
「あっ…は、はい。お願いします。」
『わかりました。名前は御幸です。電話番号は…』

御幸さんはネックレスを取り置きしてもらい、店の場所を聞いて、来週中には行きますと告げて電話を切った。

「カッコよすぎる…」

電話を切ったスタッフが半笑いで言い、みんな頷いた。

「一也さん。」

と、そこへ光がリビングに戻ってきた。

「ん?」

御幸さんはスマホを弄るのをやめて光を見た。ネックレスのことは言うつもりはないらしい。

「…明日どこかに遊びに行きたい。」

光が言うと、御幸さんは少しの間目を瞬いて、おう、と頷いた。

「誰と行くの?牧瀬?」
「…一也さん」
「え?俺?」

突然の誘いに御幸さんは目を丸くした。

「俺は明日…は…試合だなぁ」
「……。」

それはそうだ。今はシーズン中で毎日試合がある。光もそれは知っている。

「どこに行きたいの?」

少しの間なら付き合えると思ったのか、御幸さんは尋ねた。優しい。

「……ディズニーランド」
「……。」

どう考えても無理だ。だけどそれをあえて言うことで御幸さんの反応を見る企画なのだからしょうがない。
ぽかんとした御幸さんは、次第に笑い出して、そのうちお腹を抱えて笑い出した。

「はっはっはっは!今日どうしたの光?」
「……。」

光は恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむいた。

「何かあったのか?」
「何も…。遊びに行きたいだけ。」

拗ねたようにわがままを繰り返す光に、御幸さんは困った顔なんて全くしていなくて、むしろ嬉しそうだった。

「光おいで。」
「……。」
「ここ。ほらおいで。」

御幸さんは自分の隣をポンポン叩き、光がソファに戻ってくるのを待った。
光がソファに座ると、御幸さんは光の肩を抱き寄せた。

「ごめんな、シーズン中どこも行けなくて」
「……。」
「シーズン明けたら光の行きたいとこ行こう。ディズニー行く?」
「……。」

光は申し訳なさそうに黙り込んでしまった。でも私にはわかる。
光、御幸さんに抱き着きたくてうずうずしてる…。カメラが回ってることを知っているから我慢してるんだろうなー…。

「光?どうかした?」
「う…ううん…」
「?」

首をかしげる御幸さんを、光は思いつめたように見上げた。

「なんで?」
「え?」
「どうしてそんなに…わがまま聞いてくれるの?」

光からの思わぬ質問に、御幸さんは少しの間きょとんとした。

「どうしてって…光のわがままなんて可愛いもんだし。」
「……。」

光の顔が赤くなった。

「むしろ普段全然わがまま言わないじゃん。だから今日はちょっと嬉しい。」
「……。」

光の顔がますます赤くなった。

 


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