つい最近、玉城…いや、光と付き合い始めた。
俺の彼女。光が…。なんだかまだ現実味がなくて、そもそも付き合うって何をしたらいいのかわからない。
なんだか光ってクールなところがあるし、あまりスキンシップを取ると嫌がられそう…。周りのカップルたちは、放課後出かけたり一緒に帰ったり、休日にデートしたりするんだろうけど、俺は野球部だからそうもいかないし。
野球部の奴らが彼女と長続きしない理由が分かった。そりゃ、せっかく付き合い始めても全然一緒に過ごせないんじゃ、女の子も嫌になるよな。
……俺はそうならないよう気を付けないと。

「今日スゲエ風だな」

倉持がガタガタなる窓を見てつぶやいた。

「ああ…今日は練習休みかもな。」
「やりぃ。ゲームしよーっと」

…ん?待てよ。部活が休みってことは…
帰りに光と会えるんじゃない!?

「? どこ行くんだよ。」
「監督のとこ。今日練習どうなるか聞いてくる」
「お前そんなにサボりてぇの?」
「違う」



***




願った通り部活が休みとなったため、俺は急いで1年の教室に行った。

「どうしたんですか?」

男の先輩が玉城を呼び出しに来て何事かと1年達が騒ぐ中、恥ずかしそうにする光を人気のないところまで連れていくと、光はつぶらな瞳で俺を見上げた。あ〜、早く気兼ねなくイチャイチャできる仲になりたい。

「いや今日…放課後暇?」
「今日…?」

光は少し考えて、うなずいた。

「…特に何も…ないですけど」
「ホント?今日さ、この風で部活休みになったんだよ。だから一緒にどっか…行かない?」
「……。」

じわ、と光の頬が赤くなった。だってこれって、つまり、デート。

「…い…いい、ですよ」

恥ずかしそうにそう頷く光が抱きしめたいくらい可愛い。

「よかった。じゃ、放課後校門で。」
「はい。」




***




待ちに待った放課後。俺はチャイムとともに立ち上がった。

「御幸ィ、帰ろーぜ…」
「わりぃ、今日予定ある」
「は?」

何の?と目を瞬く倉持を無視し、俺は教室を飛び出した。
光とデート。初めてのデート。今日手くらい繋いだっていいよな。だって両想いなんだから!
あ〜楽しみだ、可愛い彼女とデートできるなんて…。俺今高校生活で一番幸せかも。

浮かびそうなほど浮足立った足取りで校門へ行き、少し待っていると、光が歩いてきた。俺を見て少しはにかみ、軽い駆け足でやってくる光。強い風に髪がなぶられ、キラキラ輝いてる。綺麗だなぁー…

「すみません、おまたせしました…」
「全然。じゃ、行こう。」

並んで歩きだすと、周りの生徒たちの視線を感じた。
俺も光も学校じゃ結構有名だから、俺たちを見て「えっ、ウソ!?」と騒ぐ女子グループや、「あれって…」とぼそぼそ話し合う男子グループなんかがいた。その騒がしさを感じ取って、光が苦笑気味に俺を見上げた。

「早く行くか。」

そういうと光は頷いて、俺たちは足を速めて駅の方へ向かった。



***



「……。」
「……。」

俺たちは何となく無言で歩き続けた。隣から光の緊張が伝わってくる。俺も多少は緊張してるけど、それよりも光と一緒に出掛けられる喜びの方がデカくて、今日は何とか手くらいは繋ぎたいと思っていて…
だから、こんなに緊張されてしまうとこっちもやりづらい。

「なんか静かじゃん、今日」
「……。」

光の顔が赤くなった。
付き合う前はいつも、先輩ウザい、変態、バカ、眼鏡…と言いたい放題だったくせに。

「緊張してんの?」
「…べ、べつに」
「……。」
「……。」
「ぷっ…緊張しすぎ!どうしちゃったんだよ(笑)」

ぽん、と背中を手の平で小突くと、光は肩をすくめた。

「だ、だって、好きなんだもん……」
「……へ」

え…、え!?い、いまなんつった…?

「…ど、どうしちゃったのマジで…」
「う、うるさいな!言わなければよかった」
「いやいや超ウレシー♡もっと言って♡」
「ううぅ…うざい!」
「はっはっは!いつもの調子がでてきたじゃん(笑)」
「……。」

光はちょっとムッとしつつ、つられるようにしてはにかんだ。
いやーでもそうか、光ってガチガチに緊張しちゃうくらい俺のこと好きなんだ…。
…やべえ、嬉しすぎる。

「きゃ…!」

ビュオッ、とひときわ強い風が吹き、光が慌ててスカートを抑えた。

「……。」
「……。」

…チラ、と光が俺の顔を窺う。

「大丈夫、残念ながら見えなかった」
「……。」

ペシン、と無言で腕をたたかれた。



***



「え〜マジで?」

ジャカジャカ騒がしい音楽があふれるゲームセンター内。その一番奥にある、「男性のみの入場は禁止です」と看板が立てられた、男子高校生にとっては彼女がいる奴のみ立ち入ることを許される聖域、プリクラコーナー。
俺は今そこに、光に連れられて立っていた。

「だって皆撮ってるんだもん。1枚だけでいいから。」

お願い、と珍しくねだる光に、正直悪い気はしない。つーか、むしろ顔がにやける。すごいデートっぽいし。

「俺プリクラなんてとったことないんだけど」
「私もあんまり…でも彼氏がいるクラスの子が皆撮ってて…」

もごもご恥ずかしそうに言う光。あーもー可愛い。抱きしめたい。彼氏だって…。

「…まー別にいいけど。で、どれにすんの?」
「うーん…」

光はプリクラ機を見渡した。どこも数組並んでいて混んでいる。カップルも多く、皆腕を組んだり手をつないでいちゃついていた。

「光。」
「?」
「はい。」

手を差し出すと、光は意図を察した様子で俺の顔を見た。そして…そっと、腕につかまった。

「あ、そっち?繋ぐんじゃなく?」
「…いいじゃないですか別に」
「いいけどさ。」

むしろこっちの方が密着度が高くて…。

「あ、ここ空いてる。ここでいいですか?」
「うん」

俺たちは人が並んでいないプリクラ機に入った。

「どういうポーズで撮るの?」
「なんでもいいですよ。」
「ピースだけじゃつまらんだろ。なんかいいポーズない?」
「皆がやってたのは…」
「うん」
「…普通にピースとか…」
「うん」
「……。」
「キスとか?」
「!!!」

光は顔を真っ赤にしてぺちんと俺の胸元をたたいた。

「もーふざけるのやめてください!!!」
「はっはっは。ゴメりんこ♡」
「普通でいいです!普通で!」

チッ、ダメだった…。まー、プリクラで初めてのキスってのもなんだかな、ムードがないか。
俺たちはプリクラを撮って、近くのカフェチェーン店に入った。

「いらっしゃいませー!2名様ですか?」

はい、と頷くと、店員はニコニコ俺と光を見た。

「空いているお好きなお席へどうぞ―。」

なんだか男たちだけで店に入る時よりも店員の物腰が柔らかい気がする。それに、他の客の視線も…なんだかいつもより注目されているような気がする。
温かい紅茶を注文し、それをのみながら、俺たちはたわいもない会話を……。

「……。」
「……。」

しようと思ったけど、対面して座るとまた緊張がよみがえってきたのか、光はもじもじかたくなって黙り込んでしまった。居心地悪そうに照れている光を見ているのも悪くないけど、ちょっとかわいそうだ。俺ももっと打ち解けたいし。こういう時は俺がリードしてやらなきゃ。年上だし、男だし。

「今日叔母さん家にいるの?」
「え…?」
「……。」

…な、なんか…家に行きたい下心がある男みたいなこと聞いちまった…。

「…い、いませんけど…」

光はぎこちなくそういった。なんか余計に気まずくなったぞ…!!さすがに今日手を出すつもりはないのに!!

「そ、そっか」
「……。」

うわ〜なんか失言したな、俺…。

「…今日何時まで大丈夫?」
「あ、先輩の門限は…」
「俺は7時だけど、さすがに暗くなるし。その前に帰った方がいいだろ」
「…はい」
「…じゃあ、ちょっと暗くなってきたら送る。」
「……。はい…。」

光はうつむいて顔を赤くして頷いた。
なんか…恋人同士って感じ…。いやーまさか光とこんな関係になれる日が来るとは…。

俺たちはそのまま少し学校の話なんかをして、店を出た。
ビュウ、と強い風が吹きつける。光は少しスカートを抑えるようにして外に出た。

「光。」

俺はブレザーを脱いで、その下に着ていたセーターを脱ぎ、光に差し出した。

「これ腰に巻いとけよ」
「え、でも…」
「いいから」
「……。」

すみません、と呟いて、光は俺のセーターを腰に巻いた。これでひとまずはスカートがめくれない。

「つーかお前スカート短すぎ。」

俺は照れ隠しにそう言いながらブレザーを着た。

「…折ってないもん」
「でも短いじゃん。もっと長くしろ。足首くらいまで」
「嫌ですよそんなに長いの。変じゃないですか」

冗談だとわかった光がいつもの調子で言い返してきた。

「だってそんな短いスカートで、俺以外の奴に見られたら嫌だし」
「……。」

光が驚いた様子で窺うように俺の顔を見上げた。恥ずかしそうに赤面した顔で。

「まだ俺も見てないし」
「セクハラするなら先に帰ります」
「ちょっと待てって!ごめんって!ウソウソ!冗談!」

足を速めた光を引き留め、光の家の方向へ向かって並んで歩き始めた。
初めての彼女だから、どうやっていい雰囲気になればいいのかさっぱりわからない。ちょっと下ネタに触れると「セクハラ」と言われるし、怒るし。まー今日の目標は一応達成できたから良しとするか…手つなぎじゃなくて腕組みだけど。

「光、光。」
「?」
「どうだった?今日のデート♡」

光は目を瞬いて、恥ずかしそうにうつむいた。

「デート……。」
「うん。」
「……。」
「?」
「…楽し…かったです」
「そーかそーか、そりゃよかった」
「で、でも、よくわからないです。デートとか…付き合うって言っても、何なのか…」
「どういうこと?」
「……。付き合うって…どういうことなのか…。付き合ってどうするん…ですか?」

俺の顔を見上げて、光はバツが悪そうな顔になった。失言した、と顔に浮かんでいた。言葉にしてから、俺に失礼だった、と思った様子だった。

「うーん、まあ…」
「……。」
「俺は何でも。」
「え…?」
「だから、お前さえいいなら、俺はどこまででもしたっていいけど?ってこと。」
「……。」

光の顔がみるみる赤くなって、背けられた。

「はっはっは!お前すぐ赤くなるな〜」
「う、うるさい…バカ」
「はっはっはっは!まー気長に待つよ♡」
「……。」
「光。はい。」

手を差し出すと、光はちらりと俺を見上げ、軽く腕につかまった。

「あ、やっぱりそっち?(笑)」
「…寒いんだもん」

照れ臭そうに言う光の髪を、強い風が梳かしていく。

「一也先輩大好き♡って言えばあったまるよ。」
「絶対ウソ」
「いやいやホントホント。俺の心が♡」
「ふざけないでください。」
「はっはっは…つめてぇ〜」

 


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