043
白い朝日の中、ベッドの上に横たわっていた雪のように白くきれいな肢体が、ゆっくりと起き上がる。からだにまとわりつく布団を抱いたまま、光はしばらくぼーっと窓を眺め、だんだんと覚めてきたらしい目を瞬くと、部屋の中をきょろきょろと見渡した。
その一連の行動を、嬉しいようなくすぐったいような気持になりながら眺めていた俺は、コーヒーメーカーで保温していたコーヒーをマグカップに注ぎ、光に歩み寄る。
「おはよう。」
声をかけてコーヒーを差し出すと、光は恥ずかしそうにはにかんだ。
「…おはようございます。」
マグカップを受け取って、コーヒーを一口飲む。裸のまま寝てしまったから、光は布団を抱き寄せるようにして胸元を隠している。
俺はクローゼットから大きめのTシャツを出し、光に差し出した。
「とりあえず、これ着てて。」
「……。」
光はTシャツを広げ、俺をちらりと見た。
「…なんか、下心を感じます、この服」
ぎくり、とする。確かに、下心がないといえば嘘になる。Tシャツ1枚だけの姿の彼女、っていうのは、男のロマンなんだよ。つーか、他に適当な服がないのも本当なんだけど…。
「まあ…いいんですけど。」
光は小さく笑って、マグカップをサイドテーブルに置くと、Tシャツをかぶった。ぶかぶかのTシャツは光の白い鎖骨を丸出しにして、胸の谷間も少し見える。ベッドから降りて立ち上がると、なんとも絶妙な丈の裾から、きわどくも美しい脚がすらりと伸びた。
「どうですか?」
胸を張って俺の前でくるりと回って見せる光。その体も、小悪魔っぽい微笑も、何もかもが…
「…最高です」
俺が頷くと、光は無邪気に笑った。
こんな朝が、こいつとこんな風に笑いあえる日が、また来るなんて。こういうのを幸せっていうんだな。もう、絶対になくしたくない。
「パン、すぐ焼けるから、座ってて。」
ダイニングテーブルを指して言うと、光はおとなしく従う。朝簡単に作った玉ねぎのスープをあたため、林檎の皮を剥く。林檎を切り終えたところで、ちょうどトースターが軽やかな音を鳴らした。
スープと、林檎と、クロックムッシュ。テーブルに並んだそれを、光はぽかんと見つめる。
「…やっぱり先輩って、料理上手ですよね…」
「そんな難しいもんじゃねーし…普通だよ」
いただきます、と手を合わせて、光はスープを口に運び、幸せそうに顔をほころばせる。なんか、こういう表情懐かしいな。俺の知ってる光だ。
「今日仕事は?」
スープを飲みながら訊くと、クロックムッシュをつまみ上げた光が手を止めた。
「お休みです。明日の夕方、打ち合わせがあるけど…それまで何も予定はないです。」
「え、そうなの?…もっと忙しいと思った」
思わず本音をこぼすと、光は微笑んだ。
「ちょうど映画の撮影も終わったし、宣伝も一通り終わったし…次のお仕事が結構大きいので、また忙しくなるから、それまでできるだけ休めって、マネージャーが」
「ふうん…」
そういうもんなのか。まあ、ゆっくりできるならよかった。
「先輩は?」
すっかり学生時代に戻ったように、光は尋ねる。
「午前中、ちょっとだけ顔出さなきゃならないけど、昼前には帰るよ。」
「…そうですか。」
光は嬉しそうに微笑んだ。
暖かい気持ちと、少しの緊張をはらんで、俺は口を開く。
「…俺たち、」
少しだけ声が震えた。
「…元通りだよな?」
また、恋人になれたんだよな。それを確かめたくて、光を見る。光は頬を赤く染めて、はにかんだ。
「…はい。」
俺はそれに微笑みを返して、深く息を吐く。それから少し口ごもって、唇を噛みしめた。
「どうしたんですか?」
光はそんな俺を不思議そうに見つめる。俺は意を決して、席を立ち、棚からあるものを持ってきて、また椅子に座った。
「…これ。」
ゴトン、と重たい音を立てて、テーブルにそれを置く。光はそれを見つめて呟いた。
「…合鍵?」
「…俺、もしかしたら、勝手に先走ってるかもしれないけど」
「…?」
「でも、これは気の迷いなんかじゃなくて、ずっと…そうしたかったことで、だから、もし、お前がいいなら」
「……。」
「…一緒に、住まないか?」
ぱち、と光が目を瞬いた。少し遅れて、ころりと小さなしずくがその瞳からこぼれた。それをきっかけに、光はぽろぽろと涙を流して、唇を噛みしめ、小さく、何度も頷いた。
「うん…」
何度目かに頷いたとき、そう声をこぼした光に、俺は安堵して笑う。
「いろいろ…大変なことがあると思う。お互い、顔も名前も知られてるし…世間も騒ぐと思う」
「はい…」
「でも、もうそんなことであきらめたくねぇし…俺は、お前と一緒にいたい。」
「…私も…今度は、諦めたくないです。先輩のことも…自分の気持ちも」
そうつぶやいた光に、俺はずっと思っていたことを言った。
「もう、先輩じゃねーよ。」
お前の恋人だ。光は照れたように笑って、言った。
「そうですね。…一也さん。」
その一連の行動を、嬉しいようなくすぐったいような気持になりながら眺めていた俺は、コーヒーメーカーで保温していたコーヒーをマグカップに注ぎ、光に歩み寄る。
「おはよう。」
声をかけてコーヒーを差し出すと、光は恥ずかしそうにはにかんだ。
「…おはようございます。」
マグカップを受け取って、コーヒーを一口飲む。裸のまま寝てしまったから、光は布団を抱き寄せるようにして胸元を隠している。
俺はクローゼットから大きめのTシャツを出し、光に差し出した。
「とりあえず、これ着てて。」
「……。」
光はTシャツを広げ、俺をちらりと見た。
「…なんか、下心を感じます、この服」
ぎくり、とする。確かに、下心がないといえば嘘になる。Tシャツ1枚だけの姿の彼女、っていうのは、男のロマンなんだよ。つーか、他に適当な服がないのも本当なんだけど…。
「まあ…いいんですけど。」
光は小さく笑って、マグカップをサイドテーブルに置くと、Tシャツをかぶった。ぶかぶかのTシャツは光の白い鎖骨を丸出しにして、胸の谷間も少し見える。ベッドから降りて立ち上がると、なんとも絶妙な丈の裾から、きわどくも美しい脚がすらりと伸びた。
「どうですか?」
胸を張って俺の前でくるりと回って見せる光。その体も、小悪魔っぽい微笑も、何もかもが…
「…最高です」
俺が頷くと、光は無邪気に笑った。
こんな朝が、こいつとこんな風に笑いあえる日が、また来るなんて。こういうのを幸せっていうんだな。もう、絶対になくしたくない。
「パン、すぐ焼けるから、座ってて。」
ダイニングテーブルを指して言うと、光はおとなしく従う。朝簡単に作った玉ねぎのスープをあたため、林檎の皮を剥く。林檎を切り終えたところで、ちょうどトースターが軽やかな音を鳴らした。
スープと、林檎と、クロックムッシュ。テーブルに並んだそれを、光はぽかんと見つめる。
「…やっぱり先輩って、料理上手ですよね…」
「そんな難しいもんじゃねーし…普通だよ」
いただきます、と手を合わせて、光はスープを口に運び、幸せそうに顔をほころばせる。なんか、こういう表情懐かしいな。俺の知ってる光だ。
「今日仕事は?」
スープを飲みながら訊くと、クロックムッシュをつまみ上げた光が手を止めた。
「お休みです。明日の夕方、打ち合わせがあるけど…それまで何も予定はないです。」
「え、そうなの?…もっと忙しいと思った」
思わず本音をこぼすと、光は微笑んだ。
「ちょうど映画の撮影も終わったし、宣伝も一通り終わったし…次のお仕事が結構大きいので、また忙しくなるから、それまでできるだけ休めって、マネージャーが」
「ふうん…」
そういうもんなのか。まあ、ゆっくりできるならよかった。
「先輩は?」
すっかり学生時代に戻ったように、光は尋ねる。
「午前中、ちょっとだけ顔出さなきゃならないけど、昼前には帰るよ。」
「…そうですか。」
光は嬉しそうに微笑んだ。
暖かい気持ちと、少しの緊張をはらんで、俺は口を開く。
「…俺たち、」
少しだけ声が震えた。
「…元通りだよな?」
また、恋人になれたんだよな。それを確かめたくて、光を見る。光は頬を赤く染めて、はにかんだ。
「…はい。」
俺はそれに微笑みを返して、深く息を吐く。それから少し口ごもって、唇を噛みしめた。
「どうしたんですか?」
光はそんな俺を不思議そうに見つめる。俺は意を決して、席を立ち、棚からあるものを持ってきて、また椅子に座った。
「…これ。」
ゴトン、と重たい音を立てて、テーブルにそれを置く。光はそれを見つめて呟いた。
「…合鍵?」
「…俺、もしかしたら、勝手に先走ってるかもしれないけど」
「…?」
「でも、これは気の迷いなんかじゃなくて、ずっと…そうしたかったことで、だから、もし、お前がいいなら」
「……。」
「…一緒に、住まないか?」
ぱち、と光が目を瞬いた。少し遅れて、ころりと小さなしずくがその瞳からこぼれた。それをきっかけに、光はぽろぽろと涙を流して、唇を噛みしめ、小さく、何度も頷いた。
「うん…」
何度目かに頷いたとき、そう声をこぼした光に、俺は安堵して笑う。
「いろいろ…大変なことがあると思う。お互い、顔も名前も知られてるし…世間も騒ぐと思う」
「はい…」
「でも、もうそんなことであきらめたくねぇし…俺は、お前と一緒にいたい。」
「…私も…今度は、諦めたくないです。先輩のことも…自分の気持ちも」
そうつぶやいた光に、俺はずっと思っていたことを言った。
「もう、先輩じゃねーよ。」
お前の恋人だ。光は照れたように笑って、言った。
「そうですね。…一也さん。」