「今日、一緒に撮影があるので、一緒に行こうと思って迎えに来たんですよ。」

御幸さんに淹れてもらったコーヒーを片手に私は説明した。ふーん、と倉持先輩…倉持さんは興味もなさそうに相槌を打つ。その澄ました横顔を見て、私はついついニヤついてしまう。

「倉持さん、格好良くなりましたね。」
「は?」

少し顔を赤くして顔を顰める倉持さん。からかわれたとでも思ったんだろう。まあ、そうなんだけど。

「光が、倉持さんのこと、紳士だって言ってましたよ。」
「……あっそ」

あーあ、動揺してる。澄ましてコーヒー飲んじゃって。本当は嬉しいくせに。

「倉持さんって…高校の時、光のこと好きでしたよね?」
「ぶっ…!!!ちょっ…オイッ…」

倉持さんはむせ返りながらキッチンにいる御幸さんを振り返る。会話が聞こえていなかった御幸さんは、大丈夫かよ?とあきれたように言って、べーグルを切り分けている。

「…なんなんだよそれ!?」
「いや、バレバレでしたよ。」
「……!!!!」

赤くなったり青くなったりして動揺が駄々洩れになっている倉持さんを見て、ピンと来てしまった。

「…もしかして…まだ好き、とか?」
「いやっ…!!!」

反射的に否定の声を上げた倉持さんだったが、それよりも早く、その顔は真っ赤になっていて。

「そんなんじゃ……」

その言葉には、もう説得力など皆無だった。

「……。」
「……。」

気まずい沈黙が降り、お互いコーヒーをすする。

「…モデル仲間、紹介しましょうか?」
「…余計なお世話だ」

はぐらかすように笑顔を作って言うと、眉を顰められた。


***


「…で、同棲は順調?」

撮影が無事終わり、光とふたりで遅い昼食をとる。光はアイスティーを飲み込んで微笑んだ。

「うん。」
「ほんと?どんな感じ?」
「どんなって…うーん…幸せだよ」

そんなセリフを素直に答えるようになった光に驚きながら、指摘するときっと怒るから、喜びを堪えた笑みでそうなんだと頷く。

「あと、ずっと気になってたんだけど」
「…なに?」
「御幸さんとどうやってよりを戻したの?」

連絡先もわからなかったはずなのに。身を乗り出した私に、光は苦笑いを浮かべた。

「倉持さんと会ったの。」
「…倉持さんと?」
「うん。倉持さんなら、一也さんの連絡先、知ってるかなって思って」
「…会ったって、ふたりで?」
「うん。そしたら…そこに、一也さんが来て」
「……え?」
「倉持さんが、遅いって言ってたから、呼んでくれてたんだと思う。それで…まぁ…いろいろあって、仲直りできたの」
「……。」

それって…。うわあ、倉持さん、辛い役回り。光は気づいてないみたいだけど…。

「…光…愛されてるなぁ…」

御幸さんだけじゃなく…倉持さんにも。そう胸の中で言いながら深く息を吐くと、光は目を瞬いて困ったように笑った。

 


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