放課後。俺は鞄を引っ掴み、教室を出る。部活の時間だ。
階段を駆け下りていくと、帰宅する生徒たちの雑踏の中に東条の後姿を見つけて駆け寄った。

「よっ、東条。」
「あ、信二。」

いつも通り振り向いた東条の隣に、いつもと違う光景があって、俺は思わず表情を固めた。東条と一緒に振り向いた、すげぇ可愛いと今学校中で噂になっている転校生。玉城さん…。
どうして東条と一緒に?仲良いのか…?いろいろと混乱しながら言葉に迷っていると、東条はいつもの気さくな笑みを浮かべた。

「信二、部活行くんだろ?一緒に行こうぜ。」
「お…、おう。」

頷くしかないだろう。東条を挟んで向こう側にいる玉城さんは、俺の存在を気にしていないのか、また前を見て歩き始めた。気まずそうにしている俺を見かねてか、東条が気を使って口を挟む。

「あ…、同じクラスの玉城。」
「お、おう。ども、金丸ッス…」
「…どうも。」

愛想ねぇー。いや、愛想をふりまかれても、それはそれで困るけれど。
東条も玉城さんもあまり喋らず、俺が喋れるわけもなく、3人そろって玄関にたどり着く。
東条と並んで玉城さんが下駄箱を開けた時、パササッ、と音を立てて、数枚の紙が雪崩れてきた。無造作に折りたたまれたルーズリーフに、丁寧に便箋に入れられた手紙、小さなメモ用紙等々。これはあれか、ラブレターというやつなのか。

「うわあ、相変わらずすごいな。」

東条が他意のない声で言う。ほんとだよ、こんなマンガみたいな光景、初めて見たぞ俺は…。
玉城さんは動じていない様子で紙を拾い上げると、全て鞄に仕舞って、何事もなかったように靴を履きかえた。

「じゃあ東条、明日よろしくね。」

玄関を出ると、玉城さんは申し訳なさそうに言った。

「おー。また明日。」

東条が手を振ると、玉城さんは頷いて手を振り返し、俺にも会釈をして帰って行く。

「…明日って?」

東条と連れ立ってグラウンドに向かいながら尋ねると、東条はなんでもないことのように言った。

「あぁ、玉城、明日は家の用事で遅れてくるらしくて。授業のノート貸してほしいって言われてさ。」
「そ…」

それって、かなり仲良いんじゃねえの?
どうして。きっかけは。聞きたいことがあり過ぎる。そもそも東条は、玉城さんが学校中の男から思いを寄せられているといっても過言ではないほどモテていることを知っているのか。…そうだ、モテるといえば。

「…それにしても、さっきのすごかったな。あれ全部、ラブレターなんだろ?いつもああなのか?」

明るい話題を振ったつもりだったが、意に反して東条は神妙な顔をした。

「…どうかしたか?」

何かまずいことを言ってしまったか。慌てる俺に、東条はわざとらしいほど明るい声で言う。

「いや…あれさあ、まぁほとんどはラブレターなんだろうけど。あの通りモテるから、当然面白くない奴もいてさ…。時々、あるらしいよ。…いじめ、とまではいかないけど。嫌な手紙もさ。」
「え…。」

…失言だったか。俺は自分の浅慮さに心の中で毒づいた。

「だから、あいつはあんまり、男には愛想よくしないようにしてるんだって。それでも、その手紙のこととか、俺には愚痴ってくれるけど…」
「……。」
「……。」
「…東条、お前それ、自慢か?」
「えっ、…うわ、そう聞こえた?」

ははは…、と顔を赤らめて笑う東条はきっと、口が滑った、とでも内心思っているんだろう。確かに、羨ましくないと言えばうそになる…。いや、相当羨ましい…。

「…でも、なんかわかるわ。お前にだけは話やすいっつーか…そういうの。」
「え、そうかな?」
「あー、なんつーか…東条って、話してても下心を感じねえっつーか…他意がなさそうっつーか…えーと…そう、良い奴なんだよ。」
「ぶはっ、なんだそれ。それなら信二も良い奴だと思うけど?」
「…あー、いや上手く言えねえな…」

頭を抱える俺の隣で、東条はふっと低い声で呟く。

「それに…下心ならめちゃくちゃあるし。」
「…え、東条お前…」

…けっこう衝撃的な言葉を聞いた気がするぞ。かたまる俺の横で、東条がにこりと笑みを浮かべる。

「それに最近玉城、御幸先輩とも仲良いしなぁ。」
「え…御幸先輩と!?…なんで?」
「さあ?教えてくれなかった。…はあぁ、信二、どう思う?」
「いや…、知らねーけど…。」

東条のため息が思いのほか深くて、俺は動揺した。こいつもしかして、まじで…玉城さんのことが好きなのか?

「…東条、お前マジなの?」
「え…マジって何が?」
「だから…玉城さんのことだよ!す、好きなのか?」

東条は顔を赤くして、はぐらかすように笑った。

「なんだそれ。玉城のこと気にならない男なんているの?」
「お前、それは…その答えは何かずりぃだろ…」
「はは。…だって、信二はどうなのさ。」
「俺!?何でそこで俺なんだよ…。俺は全然…つか、さっき初めて喋ったくらいだし…俺はお前とは全然ちげぇだろ。」
「そうかな。」
「何言ってんだよ。お前は玉城さんと仲良いだろ?」

「…そうなのかな。」

東条はらしくない顔をして遠くを見た。俺はそんな東条を見慣れていなくて、動揺する。

「…今日さ、玉城、御幸先輩に…」
「…え、なに?」
「……。…いや、やっぱ…」
「はぁ!?お前、そこまで言っておいてそれはねぇだろ。」

東条はまたはぐらかすように笑った。きっと、こいつ、もういっぱいいっぱいなんだろうな。見た目以上に余裕がないんだ。

「……御幸先輩に、メアド聞かれたんだってさ。先輩は、クラスの人に頼まれたって言ってたらしいけど。」
「……それで?」
「…俺さぁ…知らないんだよね。」
「何が?」
「…玉城の…アドレス。」
「は……」

その東条のみたこともない顔――真っ赤で、余裕が無くて、悲しげで切なげで、でもそれを必死に押し隠している顔に、俺は面食らって言葉に詰まった。

「はあぁ!?お前……、どーしたんだよらしくねーな!そのくらい聞けばいいだろ?仲良いんだから!」
「……。」

東条が言葉に迷って、俺の誤魔化すような笑い声が寂しく響く。
うわー、こいつ、まじか。まじなんだな。まじで好きなんだ、玉城さんのこと。なんか…友達のこういう顔、むずがゆくて見てらんねぇ。

「…いや……ていうか…、俺は、思ってたよりもあの二人が仲良いっぽいのが、なんか、……。」
「…あー、そ、そういう感じか…!そうか、はは…」

…未だかつてこんなに東条と気まずくなったことはあっただろうか。グラウンドが遠く感じる。だが、この話に興味が無いわけでは…ない。

「…あー…ごめん、変な話して」
「え!?いや別に…なんでも聞くけど」
「…ありがとう。こんなこと、信二にしか話せないからなぁ。」

こう言われると悪い気はしない…。グラウンドが見えてきて、周りを歩く野球部員も増えてきて、俺たちの声のトーンは自然と低くなる。
自然と会話が途切れ、俺は東条の表情を横目で確かめる。あぁこいつ、喋り過ぎた…って顔してんな。心配しなくても、俺は誰かに言いふらしたりなんかしねえのに。

「……あ…、」

前を向いた東条が、気まずいような顔をした。何だと俺も東条の視線を追うと、のんびりと前を歩く御幸先輩が見えた。東条は意を決したように足を速める。俺も後を追う。

「…お疲れさまですっ!」
「…………さまです!」

「おっ…、おー、東条、金丸…、」

御幸先輩は思いのほか驚いた顔で振り返った。そのまま追い越して更衣室に向かおうとした東条を、俺も追いかけたとき。御幸先輩の手が伸びて、東条を捕まえた。

「わ!?な…なんですか?」
「東条、お前さ……、…玉城と仲良いの?」
「…えっ?」

東条の顔が戸惑ったように笑う。こいつは動揺すると変な笑顔になる奴だ。しかし東条はすぐに意を決したように顔を引き締めて、口を開いた。

「…はい!」

御幸先輩が一瞬、ぽかん、とした。強気の東条の顔が、だんだん、赤くなっていく…。
…見てるこっちが恥ずかしいぞ、おい。

「…あ、そー…なんだ、へぇ〜…。」

御幸先輩はへらりと笑って、東条から手を離した。じゃな、と先ほどまでよりも急ぐ足取りで更衣室に向かう御幸先輩を見送って、俺と東条は顔を見合わせた。

「…あっちも相当、気になってるみたいじゃねーか。」

…ライバルのこと。

東条は嬉しそうな恥ずかしそうな顔をして、かもね、と笑った。

 


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