050
『玉城光・御幸一也 初恋相手と3年越し再会愛!高級マンションで同棲も』
品のない大文字が並ぶ週刊誌のページを眺める。添えられた2枚のモノクロ写真には、マンションから出てくる玉城光と御幸一也の微笑み合う姿が写っている。
「先方も乗り気だったんじゃなかったんですか!?」
スタッフたちは声を荒げ、もう何度も開いてよれよれになった週刊誌のページを指した。
「あの映画だって、高校の夏に出会った二人が悲しくも別れ、大人になって再会して再び結ばれる、っていう清純系ラブストーリーなんですよ!?」
「今回の報道と似すぎてるよなぁ…」
「完全に御幸一也とのイメージに塗り替えられちゃってますよ!」
「こっちはフィクション、あっちはリアルの話だから…ファンはより刺激のある方に傾くからな。」
「だから噂があった時点で、こっちが先手を打って熱愛報道を出す予定だったのに…」
「向こうの事務所はなんて言ってんだ!?」
「何も。向こうは大手だし、今回のことでさらに影響力が増しましたからね。偉そうなもんですよ。」
…要するに。
俺は利用されて、すっかり影が薄くなってしまったという事だ。
「…あの歌、」
俺が口を開くと、スタッフはシンと口をつぐんだ。
「御幸一也へのメッセージのつもりだった、っていうのは本当なの?」
スタッフたちは苦い顔を見合わせ合う。図星か。
「ふーん…」
俺が立ち上がると、マネージャーが顔に緊張をにじませる。
「蒼井さん…、どこへ?」
「別にいいだろ、どこだって。時間までには戻るし。」
そう言い捨てて、俺は控室を出た。
廊下ではスタッフたちがあわただしく今日の収録の準備をしている。今日は、映画のヒットを祝うトーク番組で主演二人へのインタビューを特集するらしく、そのための収録がある。
…玉城光。
初めて会う前、俺は、どうせただの高校生だろうと思っていた。町で見つけた一般人美女、だなんて、視聴者の食いつきそうなテーマだし。正直言って期待なんて全くなかった。でも、古い商店街をひとり歩いていく彼女の後姿を見た時――声をかけて、彼女が振り向いた瞬間――特別だ、と思った。キラキラ光って見えた。美しく整った顔と、吸い込まれそうなほどの透明感。ブラウスから伸びる、細く華奢な腕。芸能界には他にも美人なんて山ほどいるのに、どうして――彼女は普通に高校に通い、誰の目にも触れず、こんなところで生きているんだろう、と不満さえ覚えるほどの美しさを、彼女は持っていた。
まるで刺すような。それでいて甘く、柔らかく、どこまでも優しい。
俺を見ても動じない強い瞳。甘いセリフを言われても赤面ひとつしない表情。まるでベール越しに話しかけているような、手の届かない感覚。初めてだった。俺に話しかけられて、微笑まない女なんていなかったのに。
だから…この子だ、と思った。俺を理解できる女。俺と同じ人間。きっと今までたくさんの男に言い寄られて、あしらってきたんだろう。俺が女にそうしてきたように。
玉城光様と書かれたプレートが入ったドアを見つける。ノックをすると、少しして扉が開き、隙間から玉城光が顔をのぞかせ、ゆっくりと俺を見上げた。
「こんにちは。」
にっこりと笑ってそう言うと、玉城光は一瞬引きつった微笑みを浮かべ、会釈をし、ドアを引く。しかし俺が滑り込ませた足にドアは阻まれ、ゴン、と鈍い音を響かせて止まった。
玉城光は冷たい表情になって俺を見上げた。
「…何か用ですか?…あっ、ちょっと!」
ドアを力づくでこじ開け、中に押し入る。玉城光は後ずさって、メイク台を背に俺を睨みつけた。煽情的な赤いオフショルダーのブラウス。背中の大きく開いたリボンのレースアップのデザインが鏡に映っている。
「…今マネージャーさんいないんです。大声を出されたくないなら出て行ってくれませんか。」
「何その冗談、キツすぎ。熱愛の噂も出た共演者なのに、どうして大声出すわけ?」
「そんな噂、そっちが勝手に流しただけでしょ。」
「まあね。それで映画が売れたんだからいいじゃん。それともなにか困ることでもあった?」
「……。」
玉城光は俺を睨んだままメイク台から離れ、ソファの裏に回る。大きな皮のソファを挟んで俺たちは向かい合った。
「…私、あなたのこと嫌い。」
「傷つくなー。俺は君のこと好きだけど。でも映画でもキスシーンは拒むわ、水着撮影は拒むわ、正直女優としての自覚が足りないよね。本気で女優やる気があるなら、嫌いな奴が相手でも真剣にやるべきじゃない?」
「私がオファーを受けた時、そんなシーンはなかった。あとからあなたがねじこもうとしたんでしょ。あなたこそ真剣に…」
「あのさあ、自分の立場わかってる?」
ぐっと口をつぐむ玉城光を見て、俺は気分が高揚するのを感じた。
「お前みたいに顔で売ってる女は、熱愛報道が出たら終わりなんだよ。しかも同棲までしてさ…」
俺はわざと乱暴に足音を立てて距離を詰め、ソファに上って、逃げようとした玉城光の腕をつかんだ。
「お前もう処女じゃないんだろ」
耳元でささやくと、頬に鋭い衝撃が走った。玉城光に平手で打たれたらしかった。
「…あーあ、顔殴っちゃって。これから収録なのに」
「…離して」
玉城光は腕に力を入れて振り払おうとする。俺はそれを力ずくで引っ張り、大きなガラス玉みたいな瞳を睨みつけ、無理やり唇を近づけた。玉城光は唇を引き結んで顔を背け、精一杯抵抗する。あー楽しい。俺に翻弄されちゃって。
「何もったいぶってんの?処女でもねーのに」
「離さないと…大声出す」
「出せば?そうやって純情ぶって、いろんな男をたぶらかしてきたんだろ。」
「…はぁ?」
「知らないふりしてんじゃねーよ。本当はわかってるくせに」
「……。」
「自分に気のある奴の必死な姿って、見てて愉快だよな。ちょっと色目使えばすぐ浮かれちゃってさ。」
「…馬鹿じゃないの?」
「馬鹿だよ。お前もな。」
「…一緒にしないで。」
「一緒だろ。お前は自分に気のある男を弄んで、相手が本気になったら捨てて、悲劇のヒロインに酔って…周りの女も見下してるんだろ?あの牧瀬司だって、親友とか言ってるけど、結局お前の腰巾着じゃん。お前の名前がなければあいつ、今みたいに有名になれてた?なあ。本当は見下してるくせに。いい子ぶってんじゃねーよ。」
「…満足した?もう離して。」
「やだね。なあ、ファンももう気付いてるよ、お前の本性。性悪で、尻軽で、高慢。でも…」
「……?」
「俺を選べば、それも隠せる。だって…ファンが望んでるカップルなんだから。」
腰に手を滑らせ、服を捲り上げる。白い腰が鏡に映り、手のひらに柔らかな肌の感触が触れる。弧を描く細い腰をそのまま指先でなぞると、わき腹のあたりにざらりとした感触を覚えた。ちらり、と鏡を見る。そこにあった薄紅色のひきつった痕を見つけて、俺は手を止めた。
「…やめて!!」
玉城光は震える声で服を引っ張り、後ずさった。青ざめた顔で俺を睨みつける。俺は口元が緩むのを感じた。
「…なーんだ、なるほどね。」
「……。」
「水着の撮影を拒んだのはそのせい?お前、モデルのくせに体に傷があんの?」
「……。」
「しかもそんな大きい、汚い傷。何?自殺未遂でもした?」
「…あんたに関係ない。」
部屋を出ていこうとする玉城光の前に立ちはだかる。せっかく見つけた弱みだ。とことん利用させてもらう。
「御幸一也を選んだのも納得がいったよ。あいつ、その傷につけこんでお前を口説いたんだろ。そんな傷がある女、誰だって嫌だもんな。でも、誰にも言わなければバレない。綺麗な彼女を自慢できるってわけだ。なんだ、あいつもいい性格してんじゃん」
「あんたと一緒にしないでよ!!」
玉城光は目を赤くして俺を睨みつけた。それでも涙は堪えている。意地の強い女だ。
「じゃあ俺を選べよ。」
「はぁ…?」
「その傷…誰にも見せたくないんだよな?」
玉城光は唇を震わせた。
「あんた…最低」
「傷モノで、自殺未遂のメンヘラで、性格も悪い、非処女。…お前、価値なくなるよ。」
これで済んだ。俺は鼻で笑って、部屋を後にした。
これで俺を選ばなきゃ、あいつは終わりだ。
久しぶりに心から楽しくて、俺はにやける顔で控室に戻った。
品のない大文字が並ぶ週刊誌のページを眺める。添えられた2枚のモノクロ写真には、マンションから出てくる玉城光と御幸一也の微笑み合う姿が写っている。
「先方も乗り気だったんじゃなかったんですか!?」
スタッフたちは声を荒げ、もう何度も開いてよれよれになった週刊誌のページを指した。
「あの映画だって、高校の夏に出会った二人が悲しくも別れ、大人になって再会して再び結ばれる、っていう清純系ラブストーリーなんですよ!?」
「今回の報道と似すぎてるよなぁ…」
「完全に御幸一也とのイメージに塗り替えられちゃってますよ!」
「こっちはフィクション、あっちはリアルの話だから…ファンはより刺激のある方に傾くからな。」
「だから噂があった時点で、こっちが先手を打って熱愛報道を出す予定だったのに…」
「向こうの事務所はなんて言ってんだ!?」
「何も。向こうは大手だし、今回のことでさらに影響力が増しましたからね。偉そうなもんですよ。」
…要するに。
俺は利用されて、すっかり影が薄くなってしまったという事だ。
「…あの歌、」
俺が口を開くと、スタッフはシンと口をつぐんだ。
「御幸一也へのメッセージのつもりだった、っていうのは本当なの?」
スタッフたちは苦い顔を見合わせ合う。図星か。
「ふーん…」
俺が立ち上がると、マネージャーが顔に緊張をにじませる。
「蒼井さん…、どこへ?」
「別にいいだろ、どこだって。時間までには戻るし。」
そう言い捨てて、俺は控室を出た。
廊下ではスタッフたちがあわただしく今日の収録の準備をしている。今日は、映画のヒットを祝うトーク番組で主演二人へのインタビューを特集するらしく、そのための収録がある。
…玉城光。
初めて会う前、俺は、どうせただの高校生だろうと思っていた。町で見つけた一般人美女、だなんて、視聴者の食いつきそうなテーマだし。正直言って期待なんて全くなかった。でも、古い商店街をひとり歩いていく彼女の後姿を見た時――声をかけて、彼女が振り向いた瞬間――特別だ、と思った。キラキラ光って見えた。美しく整った顔と、吸い込まれそうなほどの透明感。ブラウスから伸びる、細く華奢な腕。芸能界には他にも美人なんて山ほどいるのに、どうして――彼女は普通に高校に通い、誰の目にも触れず、こんなところで生きているんだろう、と不満さえ覚えるほどの美しさを、彼女は持っていた。
まるで刺すような。それでいて甘く、柔らかく、どこまでも優しい。
俺を見ても動じない強い瞳。甘いセリフを言われても赤面ひとつしない表情。まるでベール越しに話しかけているような、手の届かない感覚。初めてだった。俺に話しかけられて、微笑まない女なんていなかったのに。
だから…この子だ、と思った。俺を理解できる女。俺と同じ人間。きっと今までたくさんの男に言い寄られて、あしらってきたんだろう。俺が女にそうしてきたように。
玉城光様と書かれたプレートが入ったドアを見つける。ノックをすると、少しして扉が開き、隙間から玉城光が顔をのぞかせ、ゆっくりと俺を見上げた。
「こんにちは。」
にっこりと笑ってそう言うと、玉城光は一瞬引きつった微笑みを浮かべ、会釈をし、ドアを引く。しかし俺が滑り込ませた足にドアは阻まれ、ゴン、と鈍い音を響かせて止まった。
玉城光は冷たい表情になって俺を見上げた。
「…何か用ですか?…あっ、ちょっと!」
ドアを力づくでこじ開け、中に押し入る。玉城光は後ずさって、メイク台を背に俺を睨みつけた。煽情的な赤いオフショルダーのブラウス。背中の大きく開いたリボンのレースアップのデザインが鏡に映っている。
「…今マネージャーさんいないんです。大声を出されたくないなら出て行ってくれませんか。」
「何その冗談、キツすぎ。熱愛の噂も出た共演者なのに、どうして大声出すわけ?」
「そんな噂、そっちが勝手に流しただけでしょ。」
「まあね。それで映画が売れたんだからいいじゃん。それともなにか困ることでもあった?」
「……。」
玉城光は俺を睨んだままメイク台から離れ、ソファの裏に回る。大きな皮のソファを挟んで俺たちは向かい合った。
「…私、あなたのこと嫌い。」
「傷つくなー。俺は君のこと好きだけど。でも映画でもキスシーンは拒むわ、水着撮影は拒むわ、正直女優としての自覚が足りないよね。本気で女優やる気があるなら、嫌いな奴が相手でも真剣にやるべきじゃない?」
「私がオファーを受けた時、そんなシーンはなかった。あとからあなたがねじこもうとしたんでしょ。あなたこそ真剣に…」
「あのさあ、自分の立場わかってる?」
ぐっと口をつぐむ玉城光を見て、俺は気分が高揚するのを感じた。
「お前みたいに顔で売ってる女は、熱愛報道が出たら終わりなんだよ。しかも同棲までしてさ…」
俺はわざと乱暴に足音を立てて距離を詰め、ソファに上って、逃げようとした玉城光の腕をつかんだ。
「お前もう処女じゃないんだろ」
耳元でささやくと、頬に鋭い衝撃が走った。玉城光に平手で打たれたらしかった。
「…あーあ、顔殴っちゃって。これから収録なのに」
「…離して」
玉城光は腕に力を入れて振り払おうとする。俺はそれを力ずくで引っ張り、大きなガラス玉みたいな瞳を睨みつけ、無理やり唇を近づけた。玉城光は唇を引き結んで顔を背け、精一杯抵抗する。あー楽しい。俺に翻弄されちゃって。
「何もったいぶってんの?処女でもねーのに」
「離さないと…大声出す」
「出せば?そうやって純情ぶって、いろんな男をたぶらかしてきたんだろ。」
「…はぁ?」
「知らないふりしてんじゃねーよ。本当はわかってるくせに」
「……。」
「自分に気のある奴の必死な姿って、見てて愉快だよな。ちょっと色目使えばすぐ浮かれちゃってさ。」
「…馬鹿じゃないの?」
「馬鹿だよ。お前もな。」
「…一緒にしないで。」
「一緒だろ。お前は自分に気のある男を弄んで、相手が本気になったら捨てて、悲劇のヒロインに酔って…周りの女も見下してるんだろ?あの牧瀬司だって、親友とか言ってるけど、結局お前の腰巾着じゃん。お前の名前がなければあいつ、今みたいに有名になれてた?なあ。本当は見下してるくせに。いい子ぶってんじゃねーよ。」
「…満足した?もう離して。」
「やだね。なあ、ファンももう気付いてるよ、お前の本性。性悪で、尻軽で、高慢。でも…」
「……?」
「俺を選べば、それも隠せる。だって…ファンが望んでるカップルなんだから。」
腰に手を滑らせ、服を捲り上げる。白い腰が鏡に映り、手のひらに柔らかな肌の感触が触れる。弧を描く細い腰をそのまま指先でなぞると、わき腹のあたりにざらりとした感触を覚えた。ちらり、と鏡を見る。そこにあった薄紅色のひきつった痕を見つけて、俺は手を止めた。
「…やめて!!」
玉城光は震える声で服を引っ張り、後ずさった。青ざめた顔で俺を睨みつける。俺は口元が緩むのを感じた。
「…なーんだ、なるほどね。」
「……。」
「水着の撮影を拒んだのはそのせい?お前、モデルのくせに体に傷があんの?」
「……。」
「しかもそんな大きい、汚い傷。何?自殺未遂でもした?」
「…あんたに関係ない。」
部屋を出ていこうとする玉城光の前に立ちはだかる。せっかく見つけた弱みだ。とことん利用させてもらう。
「御幸一也を選んだのも納得がいったよ。あいつ、その傷につけこんでお前を口説いたんだろ。そんな傷がある女、誰だって嫌だもんな。でも、誰にも言わなければバレない。綺麗な彼女を自慢できるってわけだ。なんだ、あいつもいい性格してんじゃん」
「あんたと一緒にしないでよ!!」
玉城光は目を赤くして俺を睨みつけた。それでも涙は堪えている。意地の強い女だ。
「じゃあ俺を選べよ。」
「はぁ…?」
「その傷…誰にも見せたくないんだよな?」
玉城光は唇を震わせた。
「あんた…最低」
「傷モノで、自殺未遂のメンヘラで、性格も悪い、非処女。…お前、価値なくなるよ。」
これで済んだ。俺は鼻で笑って、部屋を後にした。
これで俺を選ばなきゃ、あいつは終わりだ。
久しぶりに心から楽しくて、俺はにやける顔で控室に戻った。