053
腕時計を見る。打ち合わせの時間まで余裕がある。
「蒼井さん、お疲れ様です。到着しました。」
マネージャーが車のドアを開ける。車を降りるなり、マスコミの姿が目に入る。しかし誰もこちらに興味はなさそうだ。必死に取り囲んでいるのは――玉城光。警備員に庇われるようにしてビルの入口へ向かっている。
「玉城さん、御幸選手との交際は順調ですかー?」
「同棲していることについて一言お願いしますー!」
「今日から御幸選手は遠征に行かれますが、しばらく遠距離になることについてはどうですか?やっぱり寂しいですか?」
「御幸選手のどこに惹かれたんですか?」
「玉城さん!何か一言お願いしますー!」
「真剣に交際しておりますので、どうか温かい目で見守ってください!」
スタッフの一人が玉城を庇うようにして声を上げる。
玉城は愛想笑いを振りまきながらビルへ入って行った。散っていくマスコミの横を通り抜け、俺もビルに入った。
エレベーターに乗り込む玉城に続いて、閉まりかけのドアに滑り込む。振り向いた玉城が俺を見てぎょっとし、咄嗟に降りようとするのを、ボタンを押すふりをして腕を伸ばし、阻む。『閉』ボタンを押されたエレベーターは無機質な鉄扉を閉ざし、上昇していく。
玉城は壁に背をつけて、じっと階数が表示されるモニターを見上げている。その首筋に、小さな赤い痕を見つけて笑いが込み上げた。ふうん、別れる気はない、ってことかよ。
チン、と冷たい音が鳴って、エレベーターの扉が開くなり、玉城は俺を押しのけるようにしてエレベーターを降りた。生意気な態度につい笑みをこぼしながらのんびりと後に続く。するとそこに玉城のマネージャーが来て、俺たちを見つけた。地味で冴えない、どこにでもいるような女。俺がほほ笑みかけると、すぐに顔を赤くして笑みを浮かべた。
「おふたりとも、一緒に来られたんですか?仲がよろしいんですね。」
「ははは。偶然下で会っただけですよ。」
俺が答える間に、玉城は無視して足早に去って行った。不機嫌な主人に戸惑う犬のように、玉城のマネージャーはその背中を見つめる。
「君、光ちゃんのマネージャーさんですよね?もう結構長いんですか?」
思いがけず自分の話題を振られたその女は、にわかに赤面して頷いた。
「え、ええ、はい。デビューからずっと担当してますから…」
「へえ。それじゃ、信頼してるんですね。」
「だと、嬉しいですけど…。」
はにかんで俯く女の耳元に、ふっと口を寄せる。
「…この間、光ちゃんとふたりきりにしてくれて、ありがとうございました。」
女は耳元を押さえて顔を真っ赤にし、俺を見上げた。
「いえ…。そんな…。」
「おかげで少し仲良くなれた気がします。…でも、彼女にはもう、恋人がいるんですよね。本当は諦めるべきだって、わかってるんだけど…。」
少し悲しげにして見せれば、女は簡単に同情してくる。
「す、好きになる事は、悪い事じゃないと思います。」
必死なその顔に、俺は痛々しい笑顔を作って見せる。
「優しいですね。…どうして俺のこと、助けてくれるんですか?」
見つめた女の顔を見て、勝ちを確信した。簡単すぎて退屈だ。
「蒼井さんは…優しくて素敵な方ですから…。私にできることだったら…してあげたいと…。」
「…ありがとうございます。すげー嬉しい。…あ、すみません。つい言葉が…。」
不意に見せる素顔。女ってこういうのに弱いんだよな。
案の定女は滑稽なほど嬉しそうにして、俺を上目づかいで見た。
「じゃあ早速、ちょっと頼みがあるんですけど…。」
そう切り出すと、女は身を乗り出して、俺の声に耳を傾けるのだった。
***
退屈な打ち合わせが終わり、玉城の控室に向かう。このあとはスタッフも交えて撮影の打ち上げだ。ノックをして返事を待たずに扉を開けると、そこにいたのは玉城ではなく、実際に会うのは初めてである牧瀬司がいた。
アスリートのように引き締まった長身のスタイル、玉城とは対照的な、クールで中性的だが明るい印象もある容姿。見かけはまあまあいいけど、お喋りで色気のない、俺の嫌いなタイプの女。
牧瀬は突然部屋に入ってきた俺を訝しむように見ている。ミスったな。第一印象が大切なのに。ったく、あのマネージャー、人払いひとつ満足にできないのかよ、使えない。
「あれ?すみません。ここって光ちゃんの控室ですよね?」
至って冷静に、当たり前のように尋ねる。牧瀬はまだ俺を不審そうに眺めて頷いた。
「…そうですけど。」
「あの…もしかして君、牧瀬司さん?」
「はい。」
「ああ、やっぱり。はじめまして、蒼井颯斗です。」
「はじめまして。」
悪手を求めるように手を差し出すと、牧瀬は愛想笑いで応じる。
「この間のファッションショー、素敵でした。牧瀬さんスタイルが良いから目立ってましたね。美人だし。」
「ああいえ、ありがとうございます。あ、映画、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
社交辞令の会話を交わし、とりあえず警戒は解くことができたか。そう思った矢先、牧瀬がはっきりとした声で言った。
「あの。いつも勝手に控室に入るんですか?」
普通なら言いにくいことをズバズバと言う女。品が無い。鬱陶しい。
「ああ…すみません。驚きましたよね。」
俺が苦笑いをしても、牧瀬はつられて笑うことなく真顔で耳を傾ける。
「光ちゃんとは、映画で共演してからすごく仲良くなって。お互い、こんな感じの距離感なんです。」
「……へぇ。」
牧瀬は口角を上げたが、笑っていない目で俺を見た。
「光、人見知りだから。蒼井さんと仲が良いのも初めて知ったし、驚きました。」
敵意すら感じる言葉をぶつけられ、少しイラつく。こいつ、俺のこと怪しんでんのか?
「…そうですか?…あ、もしかしたら、話し辛かったのかな。この間ちょっと、悪いことしちゃったから。」
「…え?」
牧瀬の目が揺れる。食い付いてきたな。
「実は…僕、光ちゃんのこと、かなり本気で気になってるんです。」
「…光に相手がいるの、知ってますよね?」
「もちろん。傷つけるつもりはなかったけど…僕、つい勢いで、気持ちを伝えてしまって。今日はそれを謝りたかったんだけど…」
「…それは光を困らせるだけだと思います。」
「はい、わかってます。光ちゃんの親友の牧瀬さんにだから話しちゃうけど…。彼女、僕を信頼して、弱味を見せてくれたから、どうしても気持ちが抑えられなかったんです。本当に…後悔してます。せっかくの信頼を裏切るような真似をして…」
牧瀬の顔がこわばった。
「…弱味って?」
「親友の牧瀬さんなら知ってるかな。…光ちゃんの、あの傷のことです。」
「……。」
「すごくコンプレックスで、絶対に誰にも見られたくないって言ってました。だから、少しでも力になってあげたかったんだけど…。」
牧瀬はじっと俺を見ている。あの傷のこと、知らないのか?それとも知ってて、俺を試してるのか?
クソ、テレビで喋ってるときは騒がしいだけの女なのに、今は表情が読めない。こいつを撒きこむのは早まったかな。
「…光ちゃん、遅いですね。どこ行ったのかな。」
「衣装の件でデザイナーさんと話してます。もう戻ると思いますけど。何か伝えることがあるなら、私聞きますよ。」
俺を追い出そうとしてるのか?警戒心を抱かれたままここで別れるのはまずいな。玉城に何かを吹き込まれるかもしれないし、玉城がこいつに何か言うかもしれない。
「いえ、伝えたいことと言うか…やっぱり、直接会ってちゃんと謝りたくて…これから共演も増えるだろうし、玉城さんとはいい関係でいたいので。だから、協力してもらえませんか?」
「協力って?」
「打ち上げの時…さりげなくふたりきりにしてほしいんです。光ちゃんも…あまり人に見られたくないだろうし。」
牧瀬が何か言う前に、控室のドアが開いた。俺も牧瀬も同時にドアを見る。そこには玉城が、部屋に入ろうとしたところで踏みとどまっていた。こわばった顔で俺を見る玉城。ああ、やばい。つい顔が緩む。
「…司、行こう」
「うん」
玉城に素早く返事をした牧瀬は、自分の荷物と玉城の荷物を引っ掴んでドアに向かう。
「光ちゃん、お疲れ。」
俺は声をかけながら咄嗟に二人を追いかける。廊下をつかつかと歩いて行く玉城と牧瀬。玉城光、お前、弱味を握られてる自覚がないみたいだな。
俺は牧瀬に微笑みかける。こいつは俺を信用してはいないけど、まだ本性は知らない。こいつの協力さえあれば、簡単に玉城と二人きりになれる。そしたら、熱愛報道なんてすぐに広まる。
牧瀬は俺を見上げ、何かを思いついたようにスマホを開いた。…やっと協力する気になったか。
少し離れた所に、玉城のマネージャーを見つけて、俺はさりげなく歩み寄る。目配せをすると、女はすぐに後をついてきた。
「蒼井さん…?」
人気のない廊下で、女は期待のこもった声をわざと不安そうに揺らす。
「…さっきの話。牧瀬さんも、僕に協力してくれることになったんです。」
「牧瀬さんも?」
女は嬉しそうに頬を緩める。
「はい。この後の打ち上げのとき、僕と玉城さんを二人きりにしてくれるって。」
「そうなんですか。」
「だから、あなたにもうひとつお願いしたいんですけど…」
女の目が輝く。こいつは簡単に操れる。
「この後の打ち上げ、僕と玉城さんの席を隣にしてほしいんです。」
「なんだ、そのくらい。もちろんですよ。」
「ありがとうございます。…あ、あと、牧瀬さんと玉城さんは離れた席がいいそうです。」
「え?そうなんですか?いつも一緒なのに…」
「牧瀬さん、僕に気を使ってくれてるんだと思います。玉城さんと、ゆっくり話せるようにって。」
「ああ、そうなんですね。」
わかりました、とほほ笑む女。俺は微笑みを返して、踵を返した。
「蒼井さん、お疲れ様です。到着しました。」
マネージャーが車のドアを開ける。車を降りるなり、マスコミの姿が目に入る。しかし誰もこちらに興味はなさそうだ。必死に取り囲んでいるのは――玉城光。警備員に庇われるようにしてビルの入口へ向かっている。
「玉城さん、御幸選手との交際は順調ですかー?」
「同棲していることについて一言お願いしますー!」
「今日から御幸選手は遠征に行かれますが、しばらく遠距離になることについてはどうですか?やっぱり寂しいですか?」
「御幸選手のどこに惹かれたんですか?」
「玉城さん!何か一言お願いしますー!」
「真剣に交際しておりますので、どうか温かい目で見守ってください!」
スタッフの一人が玉城を庇うようにして声を上げる。
玉城は愛想笑いを振りまきながらビルへ入って行った。散っていくマスコミの横を通り抜け、俺もビルに入った。
エレベーターに乗り込む玉城に続いて、閉まりかけのドアに滑り込む。振り向いた玉城が俺を見てぎょっとし、咄嗟に降りようとするのを、ボタンを押すふりをして腕を伸ばし、阻む。『閉』ボタンを押されたエレベーターは無機質な鉄扉を閉ざし、上昇していく。
玉城は壁に背をつけて、じっと階数が表示されるモニターを見上げている。その首筋に、小さな赤い痕を見つけて笑いが込み上げた。ふうん、別れる気はない、ってことかよ。
チン、と冷たい音が鳴って、エレベーターの扉が開くなり、玉城は俺を押しのけるようにしてエレベーターを降りた。生意気な態度につい笑みをこぼしながらのんびりと後に続く。するとそこに玉城のマネージャーが来て、俺たちを見つけた。地味で冴えない、どこにでもいるような女。俺がほほ笑みかけると、すぐに顔を赤くして笑みを浮かべた。
「おふたりとも、一緒に来られたんですか?仲がよろしいんですね。」
「ははは。偶然下で会っただけですよ。」
俺が答える間に、玉城は無視して足早に去って行った。不機嫌な主人に戸惑う犬のように、玉城のマネージャーはその背中を見つめる。
「君、光ちゃんのマネージャーさんですよね?もう結構長いんですか?」
思いがけず自分の話題を振られたその女は、にわかに赤面して頷いた。
「え、ええ、はい。デビューからずっと担当してますから…」
「へえ。それじゃ、信頼してるんですね。」
「だと、嬉しいですけど…。」
はにかんで俯く女の耳元に、ふっと口を寄せる。
「…この間、光ちゃんとふたりきりにしてくれて、ありがとうございました。」
女は耳元を押さえて顔を真っ赤にし、俺を見上げた。
「いえ…。そんな…。」
「おかげで少し仲良くなれた気がします。…でも、彼女にはもう、恋人がいるんですよね。本当は諦めるべきだって、わかってるんだけど…。」
少し悲しげにして見せれば、女は簡単に同情してくる。
「す、好きになる事は、悪い事じゃないと思います。」
必死なその顔に、俺は痛々しい笑顔を作って見せる。
「優しいですね。…どうして俺のこと、助けてくれるんですか?」
見つめた女の顔を見て、勝ちを確信した。簡単すぎて退屈だ。
「蒼井さんは…優しくて素敵な方ですから…。私にできることだったら…してあげたいと…。」
「…ありがとうございます。すげー嬉しい。…あ、すみません。つい言葉が…。」
不意に見せる素顔。女ってこういうのに弱いんだよな。
案の定女は滑稽なほど嬉しそうにして、俺を上目づかいで見た。
「じゃあ早速、ちょっと頼みがあるんですけど…。」
そう切り出すと、女は身を乗り出して、俺の声に耳を傾けるのだった。
***
退屈な打ち合わせが終わり、玉城の控室に向かう。このあとはスタッフも交えて撮影の打ち上げだ。ノックをして返事を待たずに扉を開けると、そこにいたのは玉城ではなく、実際に会うのは初めてである牧瀬司がいた。
アスリートのように引き締まった長身のスタイル、玉城とは対照的な、クールで中性的だが明るい印象もある容姿。見かけはまあまあいいけど、お喋りで色気のない、俺の嫌いなタイプの女。
牧瀬は突然部屋に入ってきた俺を訝しむように見ている。ミスったな。第一印象が大切なのに。ったく、あのマネージャー、人払いひとつ満足にできないのかよ、使えない。
「あれ?すみません。ここって光ちゃんの控室ですよね?」
至って冷静に、当たり前のように尋ねる。牧瀬はまだ俺を不審そうに眺めて頷いた。
「…そうですけど。」
「あの…もしかして君、牧瀬司さん?」
「はい。」
「ああ、やっぱり。はじめまして、蒼井颯斗です。」
「はじめまして。」
悪手を求めるように手を差し出すと、牧瀬は愛想笑いで応じる。
「この間のファッションショー、素敵でした。牧瀬さんスタイルが良いから目立ってましたね。美人だし。」
「ああいえ、ありがとうございます。あ、映画、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
社交辞令の会話を交わし、とりあえず警戒は解くことができたか。そう思った矢先、牧瀬がはっきりとした声で言った。
「あの。いつも勝手に控室に入るんですか?」
普通なら言いにくいことをズバズバと言う女。品が無い。鬱陶しい。
「ああ…すみません。驚きましたよね。」
俺が苦笑いをしても、牧瀬はつられて笑うことなく真顔で耳を傾ける。
「光ちゃんとは、映画で共演してからすごく仲良くなって。お互い、こんな感じの距離感なんです。」
「……へぇ。」
牧瀬は口角を上げたが、笑っていない目で俺を見た。
「光、人見知りだから。蒼井さんと仲が良いのも初めて知ったし、驚きました。」
敵意すら感じる言葉をぶつけられ、少しイラつく。こいつ、俺のこと怪しんでんのか?
「…そうですか?…あ、もしかしたら、話し辛かったのかな。この間ちょっと、悪いことしちゃったから。」
「…え?」
牧瀬の目が揺れる。食い付いてきたな。
「実は…僕、光ちゃんのこと、かなり本気で気になってるんです。」
「…光に相手がいるの、知ってますよね?」
「もちろん。傷つけるつもりはなかったけど…僕、つい勢いで、気持ちを伝えてしまって。今日はそれを謝りたかったんだけど…」
「…それは光を困らせるだけだと思います。」
「はい、わかってます。光ちゃんの親友の牧瀬さんにだから話しちゃうけど…。彼女、僕を信頼して、弱味を見せてくれたから、どうしても気持ちが抑えられなかったんです。本当に…後悔してます。せっかくの信頼を裏切るような真似をして…」
牧瀬の顔がこわばった。
「…弱味って?」
「親友の牧瀬さんなら知ってるかな。…光ちゃんの、あの傷のことです。」
「……。」
「すごくコンプレックスで、絶対に誰にも見られたくないって言ってました。だから、少しでも力になってあげたかったんだけど…。」
牧瀬はじっと俺を見ている。あの傷のこと、知らないのか?それとも知ってて、俺を試してるのか?
クソ、テレビで喋ってるときは騒がしいだけの女なのに、今は表情が読めない。こいつを撒きこむのは早まったかな。
「…光ちゃん、遅いですね。どこ行ったのかな。」
「衣装の件でデザイナーさんと話してます。もう戻ると思いますけど。何か伝えることがあるなら、私聞きますよ。」
俺を追い出そうとしてるのか?警戒心を抱かれたままここで別れるのはまずいな。玉城に何かを吹き込まれるかもしれないし、玉城がこいつに何か言うかもしれない。
「いえ、伝えたいことと言うか…やっぱり、直接会ってちゃんと謝りたくて…これから共演も増えるだろうし、玉城さんとはいい関係でいたいので。だから、協力してもらえませんか?」
「協力って?」
「打ち上げの時…さりげなくふたりきりにしてほしいんです。光ちゃんも…あまり人に見られたくないだろうし。」
牧瀬が何か言う前に、控室のドアが開いた。俺も牧瀬も同時にドアを見る。そこには玉城が、部屋に入ろうとしたところで踏みとどまっていた。こわばった顔で俺を見る玉城。ああ、やばい。つい顔が緩む。
「…司、行こう」
「うん」
玉城に素早く返事をした牧瀬は、自分の荷物と玉城の荷物を引っ掴んでドアに向かう。
「光ちゃん、お疲れ。」
俺は声をかけながら咄嗟に二人を追いかける。廊下をつかつかと歩いて行く玉城と牧瀬。玉城光、お前、弱味を握られてる自覚がないみたいだな。
俺は牧瀬に微笑みかける。こいつは俺を信用してはいないけど、まだ本性は知らない。こいつの協力さえあれば、簡単に玉城と二人きりになれる。そしたら、熱愛報道なんてすぐに広まる。
牧瀬は俺を見上げ、何かを思いついたようにスマホを開いた。…やっと協力する気になったか。
少し離れた所に、玉城のマネージャーを見つけて、俺はさりげなく歩み寄る。目配せをすると、女はすぐに後をついてきた。
「蒼井さん…?」
人気のない廊下で、女は期待のこもった声をわざと不安そうに揺らす。
「…さっきの話。牧瀬さんも、僕に協力してくれることになったんです。」
「牧瀬さんも?」
女は嬉しそうに頬を緩める。
「はい。この後の打ち上げのとき、僕と玉城さんを二人きりにしてくれるって。」
「そうなんですか。」
「だから、あなたにもうひとつお願いしたいんですけど…」
女の目が輝く。こいつは簡単に操れる。
「この後の打ち上げ、僕と玉城さんの席を隣にしてほしいんです。」
「なんだ、そのくらい。もちろんですよ。」
「ありがとうございます。…あ、あと、牧瀬さんと玉城さんは離れた席がいいそうです。」
「え?そうなんですか?いつも一緒なのに…」
「牧瀬さん、僕に気を使ってくれてるんだと思います。玉城さんと、ゆっくり話せるようにって。」
「ああ、そうなんですね。」
わかりました、とほほ笑む女。俺は微笑みを返して、踵を返した。