059
『超人気清純派女優の、衝撃のスキャンダルが報じられました。こちら、今週の週刊満月に掲載された記事によりますと、大ヒット上映中の映画で主演も務めた超人気女優の玉城光さんが、下着姿で眠っている様子を写した写真が、元交際相手を名乗る男性によって流出させられたとのことです。記事では玉城光さんのわき腹に見える傷痕についても波紋を呼んでいます…』
俺は投げつけるようにリモコンの電源ボタンを押し、テレビを切る。もうこんなに騒ぎになってるのかよ…ふざけやがって。蒼井颯斗…殺してやりたい。
グラスを握りつぶしそうなほど手に力が篭り、震える。水を一気に飲み干してグラスをテーブルに叩き付け、俺はため息を吐いた。
どうすればいいのかわからない。あの日以来、玉城さんとも連絡がとれねえし。あの日……どうして玉城さんは、俺にキスをしたんだろう。
「……クソッ」
やり場のないモヤモヤを吐き出すように呟く。頭の中は混乱しっぱなしだ。
時刻は昼過ぎだが、食欲もない。ただため息を繰り返して部屋の中で怒りを持て余していると、インターフォンが鳴った。
のぞき穴も確認せずにドアを開ける。土砂降りの雑音の中、立っていたのは御幸だった。
「……入れよ。」
表情に怒りをにじませていたのはお互い様だと思う。いや、俺の方はバツの悪さも混じっていた。
よりによって御幸に任された間に、こんなことになるなんて。
御幸は不愛想に部屋に入り、ずぶ濡れのウインドブレーカーを脱いで丸めて脇に置くと、床にドカッと座った。お茶を出す気にもなれず、俺も向かい側に座る。
「…光に何があったんだよ。」
いら立ちを隠さず問う御幸に、俺は蒼井颯斗の話をした。
***
「…それで本当に流出させたのか、そいつ?」
御幸の声は冷静だったが、その顔は怒りで震えていた。
「ああ。」
「……なんで…お前が」
「ごめん。」
お前が付いていながら。そう言われるのはわかっていて、だけど聞くのは耐えられなくて、俺は卑怯にも遮った。
「…ごめん。」
深く頭を下げる。殴られてもいいと思った。…いや、いっそ殴られたいと思った。だけど御幸は舌打ちをして、怒りを堪えるように深く息を吐いただけだった。
「…玉城さんの…様子は?」
怖かったけど、聞いた。御幸は手元を見つめながら呟いた。
「…わからない。」
「…わからない?」
「昨日俺が帰った時にはもう、家にいなかった。…しばらく牧瀬のところにいるって、書置きがあった。」
「…電話は?」
「出ない」
御幸は頭を抱え、俯いた。その痛々しい姿を見て、自分に苛立つ。
どうしてもっと…なにか…できなかったんだ。俺…マジで役立たずだ。
「…なあ御幸、ニュースの元交際相手って」
…気にしてないのか?まさかとは思わないのか?3年も離れていたんだから、その間に恋人がいたとしても全く不思議ではねーだろ。
「ありえねーよ。光が俺以外の男に、体を触らせるわけない」
「……。」
右頬の熱が蘇る。玉城さんが軽い女だとは全く思っていない、けど、もしかしたら…俺にほんの少しでも、気持ちが傾いてるんじゃ…ないかって。そんな夢みたいなことを考える。頬へのキスは、夢を見ていたんじゃないかと思うほど一瞬で、頭が真っ白だったのに。
「…あの傷は」
「……。」
「…自分でやった…わけ、ねーよな」
俺の言葉を聞きながら御幸の顔が歪んでいって、俺は言い直す。
「んなわけねーだろ。あれは…」
御幸は少し考えて、言う。
「…事故みたいなもんだ」
みたいなもん、って。それじゃ事故じゃねーって言ってるようなもんじゃねえか。
「…お前はいつ…あの傷のこと知ったんだよ?」
暫くの沈黙。答えてもいいものかどうか、迷ってるようだった。
「…高校ん時」
「付き合う前?」
御幸は不愉快そうに俺を睨む。あまり聞くな、というように。
「…後だよ」
ぽつりと答え、そっぽを向いた。これ以上は言いたくないという態度だ。
もしかしたらその時…御幸が傷のことを知った時が、玉城さんを初めて抱いたとき…なのかもしれないと、思った。だってそういうことでもなきゃ、あんな場所にある傷を目にするはずがない。
我ながら下種な想像だけど、どうしても考えちまう。考えたって、嫌な気分になるだけなのに…。
突然御幸が立ち上がり、俺は見上げた。
「…どした?」
「牧瀬の所に行く」
決意したようにそう言うが、俺は尋ねる。
「…家知ってんの?」
「知らねえけど、探すしかねーだろ!!」
俺はまた驚いた。こいつがこんなことを言うなんて。いつもムカつくほど冷静で、合理的で、人の血が流れてんのかも怪しい性悪ヤローのくせに。
「…落ち着けよ。そんなの無理に決まってるだろ。」
「……っ」
「お前がビビっててどうすんだよ。…玉城さんは、蒼井の前では絶対、泣かなかったぞ」
御幸が静かに俺を見て、冷静になった様子で座りなおした。
「…玉城さんは…大丈夫だよ。お前がいるから」
「……は?そんなの…」
「何があっても…傷のことよりも、仕事のことよりも、人前に出れねーほど恥をかかされても…お前の方が、ずっと大切なんだとよ」
「……。」
…なんで俺がこんなこと言わなきゃならねーんだよ。
「だから家で待っててやれよ。玉城さんは絶対…」
クソ眼鏡。
「お前のところに帰ってくる。」
俺は投げつけるようにリモコンの電源ボタンを押し、テレビを切る。もうこんなに騒ぎになってるのかよ…ふざけやがって。蒼井颯斗…殺してやりたい。
グラスを握りつぶしそうなほど手に力が篭り、震える。水を一気に飲み干してグラスをテーブルに叩き付け、俺はため息を吐いた。
どうすればいいのかわからない。あの日以来、玉城さんとも連絡がとれねえし。あの日……どうして玉城さんは、俺にキスをしたんだろう。
「……クソッ」
やり場のないモヤモヤを吐き出すように呟く。頭の中は混乱しっぱなしだ。
時刻は昼過ぎだが、食欲もない。ただため息を繰り返して部屋の中で怒りを持て余していると、インターフォンが鳴った。
のぞき穴も確認せずにドアを開ける。土砂降りの雑音の中、立っていたのは御幸だった。
「……入れよ。」
表情に怒りをにじませていたのはお互い様だと思う。いや、俺の方はバツの悪さも混じっていた。
よりによって御幸に任された間に、こんなことになるなんて。
御幸は不愛想に部屋に入り、ずぶ濡れのウインドブレーカーを脱いで丸めて脇に置くと、床にドカッと座った。お茶を出す気にもなれず、俺も向かい側に座る。
「…光に何があったんだよ。」
いら立ちを隠さず問う御幸に、俺は蒼井颯斗の話をした。
***
「…それで本当に流出させたのか、そいつ?」
御幸の声は冷静だったが、その顔は怒りで震えていた。
「ああ。」
「……なんで…お前が」
「ごめん。」
お前が付いていながら。そう言われるのはわかっていて、だけど聞くのは耐えられなくて、俺は卑怯にも遮った。
「…ごめん。」
深く頭を下げる。殴られてもいいと思った。…いや、いっそ殴られたいと思った。だけど御幸は舌打ちをして、怒りを堪えるように深く息を吐いただけだった。
「…玉城さんの…様子は?」
怖かったけど、聞いた。御幸は手元を見つめながら呟いた。
「…わからない。」
「…わからない?」
「昨日俺が帰った時にはもう、家にいなかった。…しばらく牧瀬のところにいるって、書置きがあった。」
「…電話は?」
「出ない」
御幸は頭を抱え、俯いた。その痛々しい姿を見て、自分に苛立つ。
どうしてもっと…なにか…できなかったんだ。俺…マジで役立たずだ。
「…なあ御幸、ニュースの元交際相手って」
…気にしてないのか?まさかとは思わないのか?3年も離れていたんだから、その間に恋人がいたとしても全く不思議ではねーだろ。
「ありえねーよ。光が俺以外の男に、体を触らせるわけない」
「……。」
右頬の熱が蘇る。玉城さんが軽い女だとは全く思っていない、けど、もしかしたら…俺にほんの少しでも、気持ちが傾いてるんじゃ…ないかって。そんな夢みたいなことを考える。頬へのキスは、夢を見ていたんじゃないかと思うほど一瞬で、頭が真っ白だったのに。
「…あの傷は」
「……。」
「…自分でやった…わけ、ねーよな」
俺の言葉を聞きながら御幸の顔が歪んでいって、俺は言い直す。
「んなわけねーだろ。あれは…」
御幸は少し考えて、言う。
「…事故みたいなもんだ」
みたいなもん、って。それじゃ事故じゃねーって言ってるようなもんじゃねえか。
「…お前はいつ…あの傷のこと知ったんだよ?」
暫くの沈黙。答えてもいいものかどうか、迷ってるようだった。
「…高校ん時」
「付き合う前?」
御幸は不愉快そうに俺を睨む。あまり聞くな、というように。
「…後だよ」
ぽつりと答え、そっぽを向いた。これ以上は言いたくないという態度だ。
もしかしたらその時…御幸が傷のことを知った時が、玉城さんを初めて抱いたとき…なのかもしれないと、思った。だってそういうことでもなきゃ、あんな場所にある傷を目にするはずがない。
我ながら下種な想像だけど、どうしても考えちまう。考えたって、嫌な気分になるだけなのに…。
突然御幸が立ち上がり、俺は見上げた。
「…どした?」
「牧瀬の所に行く」
決意したようにそう言うが、俺は尋ねる。
「…家知ってんの?」
「知らねえけど、探すしかねーだろ!!」
俺はまた驚いた。こいつがこんなことを言うなんて。いつもムカつくほど冷静で、合理的で、人の血が流れてんのかも怪しい性悪ヤローのくせに。
「…落ち着けよ。そんなの無理に決まってるだろ。」
「……っ」
「お前がビビっててどうすんだよ。…玉城さんは、蒼井の前では絶対、泣かなかったぞ」
御幸が静かに俺を見て、冷静になった様子で座りなおした。
「…玉城さんは…大丈夫だよ。お前がいるから」
「……は?そんなの…」
「何があっても…傷のことよりも、仕事のことよりも、人前に出れねーほど恥をかかされても…お前の方が、ずっと大切なんだとよ」
「……。」
…なんで俺がこんなこと言わなきゃならねーんだよ。
「だから家で待っててやれよ。玉城さんは絶対…」
クソ眼鏡。
「お前のところに帰ってくる。」