064
「一也。」
耳元で声がする。俺はまだ眠いふりをして、顔を背ける。
「かーずーや。」
それを追いかけるように、可愛らしい声と吐息が頬にかかる。思わず口元が緩んで、少し笑いがこぼれた。
「あー。やっぱり起きてるじゃないですか。」
わざと怒ってみせたような声がして、ずしりと腹の上に何かが乗った。目を開くと、光が俺にまたがって笑っている。
最近、時々ふざけて、俺のことを呼び捨てにする光。どんどん気を許してくれているような気がして、嬉しい。
光は思わせぶりに笑みを浮かべ、俺を見つめると、スッと身をかがめて顔を寄せ、俺の首筋にかぶりついた。
「…汗の味がする」
「暑いんだよ」
もう10月も終わるというのに、残暑が厳しい。それなのに町はすっかり秋一色で、ハロウィンの飾りが街道に並んでいる。倉持は今年も海に行けなかったとぼやいていたが、野球選手ならいい加減諦めろ、と返した。
「…じゃあ、脱いでください」
目を細め、挑発的に俺を見て、光は言う。…朝から刺激が強い。
俺のTシャツを捲り上げる光にされるがままになって、あっという間に脱がされる。それならこちらもと光のキャミソールの裾に手を滑り込ませ、腰を撫でようとすると、光はあっけなくベッドを降りてしまった。
「…え、どこ行くの?」
「洗濯ですよ。私今日朝から打ち合わせなので、もう出ますから。」
「……えっ」
「洗濯物干すの、お願いしますね。あ、朝ごはんも向こうで食べるので」
…最近ますます、弄ばれてる気がする。萎れた気分でベッドを出た。
「あ、それと。」
部屋を出て行きかけていた光が戻ってきて、顔をのぞかせる。
「一也さん、来週の予定空いてますか?」
「来週?いつ?」
「一週間丸々なんですけど…」
そんなに長期の予定を聞かれるなんて、なんだろう。
「シーズン終わったばっかだし、特にないけど…」
「じゃあこれ、考えてくれませんか?」
これ、と光が差し出した紙の束を受け取る。そこには太字の明朝体で、『まだまだ夏は終わらない!〜南の島で過ごすイケメン&美女最後の夏休みSP〜(案)』と書かれている。
「…何これ?」
「バラエティ番組のオファーです。社長が、私と一也さんに出てほしいって」
「え?俺?」
「今のところ、私と司の出演が決まってるんですけど…一也さんと、あと誰か有名な若い野球選手で出てくれる人いないか聞いてほしいって言ってました。」
「…もし断ったら?」
「私と司はもう決定してるので…適当に男性タレントとか芸人さんと行くことになるんじゃないですかね?」
「……。」
俺はページをめくり、番組内容に目を通す。
・1日目 くじ引きペアで海岸ドライブ・ビーチバレー対決
・2日目 花畑でロマンチックデート・現地まじない師による占い
・3日目 恋がかなうパワースポット・熱帯雨林森林浴
・4日目 プール付き超豪華コテージを満喫・ナイトカヌー
・5日目 シークレットスペシャルゲスト登場・告白タイム
「……何人か予定訊いてみるわ」
「ほんとですか?よかった!じゃ、今日社長に伝えておきます。」
光は身支度を整えると、行ってきまーすと軽快に出かけて行った。
…何なんだよこの企画!こんなの、他の男とやってるとこ見るなんて、耐えられねえ。つーか…俺のいないところで俺以外の奴と1週間過ごすってだけでも、相当我慢ならねえのに。
あいつは平気なのか?それとも仕事だから割り切ってる?あいつ、変なとこまじめだからな…。
ため息をついてスマホを取り出す。リダイヤルから倉持を選ぶ。
数回のコールの後、電話は繋がった。
『なに?』
倉持は少し息切れしている。
「今電話大丈夫?」
『ああ。ちょっと走ってた。で、何?』
俺は番組企画の話をする。
「で、お前来週暇?」
『え?ああ、暇だけど…』
「じゃあお前も来い。」
『……別にいいけど』
なにが別にいいけど、だ。あんなに海に行きたがってたくせに。
「他に暇な奴知らない?」
『さあ。沢村に電話してみるわ』
「沢村かあ…」
あいつが来るとうるさそうだな。
『なんだよ、他に誰かいるか?』
「有名な若い野球選手、って言われたからな…。不本意だけど沢村にも声かけるか」
『ヒャハハ。あいつ最近お前に会えてなくて寂しがってたからちょうどいいぜ』
「勘弁しろよ」
他には誰がいるか、と倉持と考える。
『有名っつーと…亮さんと春市なんかいいんじゃねーか?』
「ああ、兄弟でプロ入りして話題になってたな」
『あとはやっぱ怪物降谷だろ。』
「沢村世代多すぎねぇ?」
『とりあえず片っ端から声かけて、行ける奴誘えばいいだろ。何人くらい集めんの?』
「えーと…4人以上偶数人、って書いてある。」
『じゃあ俺と御幸ですでに二人だから…とりあえずそいつらに声かけてみるわ』
「おー、よろしく。」
電話を切り、伸びをひとつ。…海か。
光、水着着るのかな…。
ほんのすこし期待も芽生えて、俺はまんざらでもない気分になりながら、コーヒーメーカーの電源を入れた。
耳元で声がする。俺はまだ眠いふりをして、顔を背ける。
「かーずーや。」
それを追いかけるように、可愛らしい声と吐息が頬にかかる。思わず口元が緩んで、少し笑いがこぼれた。
「あー。やっぱり起きてるじゃないですか。」
わざと怒ってみせたような声がして、ずしりと腹の上に何かが乗った。目を開くと、光が俺にまたがって笑っている。
最近、時々ふざけて、俺のことを呼び捨てにする光。どんどん気を許してくれているような気がして、嬉しい。
光は思わせぶりに笑みを浮かべ、俺を見つめると、スッと身をかがめて顔を寄せ、俺の首筋にかぶりついた。
「…汗の味がする」
「暑いんだよ」
もう10月も終わるというのに、残暑が厳しい。それなのに町はすっかり秋一色で、ハロウィンの飾りが街道に並んでいる。倉持は今年も海に行けなかったとぼやいていたが、野球選手ならいい加減諦めろ、と返した。
「…じゃあ、脱いでください」
目を細め、挑発的に俺を見て、光は言う。…朝から刺激が強い。
俺のTシャツを捲り上げる光にされるがままになって、あっという間に脱がされる。それならこちらもと光のキャミソールの裾に手を滑り込ませ、腰を撫でようとすると、光はあっけなくベッドを降りてしまった。
「…え、どこ行くの?」
「洗濯ですよ。私今日朝から打ち合わせなので、もう出ますから。」
「……えっ」
「洗濯物干すの、お願いしますね。あ、朝ごはんも向こうで食べるので」
…最近ますます、弄ばれてる気がする。萎れた気分でベッドを出た。
「あ、それと。」
部屋を出て行きかけていた光が戻ってきて、顔をのぞかせる。
「一也さん、来週の予定空いてますか?」
「来週?いつ?」
「一週間丸々なんですけど…」
そんなに長期の予定を聞かれるなんて、なんだろう。
「シーズン終わったばっかだし、特にないけど…」
「じゃあこれ、考えてくれませんか?」
これ、と光が差し出した紙の束を受け取る。そこには太字の明朝体で、『まだまだ夏は終わらない!〜南の島で過ごすイケメン&美女最後の夏休みSP〜(案)』と書かれている。
「…何これ?」
「バラエティ番組のオファーです。社長が、私と一也さんに出てほしいって」
「え?俺?」
「今のところ、私と司の出演が決まってるんですけど…一也さんと、あと誰か有名な若い野球選手で出てくれる人いないか聞いてほしいって言ってました。」
「…もし断ったら?」
「私と司はもう決定してるので…適当に男性タレントとか芸人さんと行くことになるんじゃないですかね?」
「……。」
俺はページをめくり、番組内容に目を通す。
・1日目 くじ引きペアで海岸ドライブ・ビーチバレー対決
・2日目 花畑でロマンチックデート・現地まじない師による占い
・3日目 恋がかなうパワースポット・熱帯雨林森林浴
・4日目 プール付き超豪華コテージを満喫・ナイトカヌー
・5日目 シークレットスペシャルゲスト登場・告白タイム
「……何人か予定訊いてみるわ」
「ほんとですか?よかった!じゃ、今日社長に伝えておきます。」
光は身支度を整えると、行ってきまーすと軽快に出かけて行った。
…何なんだよこの企画!こんなの、他の男とやってるとこ見るなんて、耐えられねえ。つーか…俺のいないところで俺以外の奴と1週間過ごすってだけでも、相当我慢ならねえのに。
あいつは平気なのか?それとも仕事だから割り切ってる?あいつ、変なとこまじめだからな…。
ため息をついてスマホを取り出す。リダイヤルから倉持を選ぶ。
数回のコールの後、電話は繋がった。
『なに?』
倉持は少し息切れしている。
「今電話大丈夫?」
『ああ。ちょっと走ってた。で、何?』
俺は番組企画の話をする。
「で、お前来週暇?」
『え?ああ、暇だけど…』
「じゃあお前も来い。」
『……別にいいけど』
なにが別にいいけど、だ。あんなに海に行きたがってたくせに。
「他に暇な奴知らない?」
『さあ。沢村に電話してみるわ』
「沢村かあ…」
あいつが来るとうるさそうだな。
『なんだよ、他に誰かいるか?』
「有名な若い野球選手、って言われたからな…。不本意だけど沢村にも声かけるか」
『ヒャハハ。あいつ最近お前に会えてなくて寂しがってたからちょうどいいぜ』
「勘弁しろよ」
他には誰がいるか、と倉持と考える。
『有名っつーと…亮さんと春市なんかいいんじゃねーか?』
「ああ、兄弟でプロ入りして話題になってたな」
『あとはやっぱ怪物降谷だろ。』
「沢村世代多すぎねぇ?」
『とりあえず片っ端から声かけて、行ける奴誘えばいいだろ。何人くらい集めんの?』
「えーと…4人以上偶数人、って書いてある。」
『じゃあ俺と御幸ですでに二人だから…とりあえずそいつらに声かけてみるわ』
「おー、よろしく。」
電話を切り、伸びをひとつ。…海か。
光、水着着るのかな…。
ほんのすこし期待も芽生えて、俺はまんざらでもない気分になりながら、コーヒーメーカーの電源を入れた。