緊張を胸にキャリーケースを引き、空港の出口へと急ぐ。
まさかこんなに早く機会が訪れるなんて。…玉城と、3年ぶりの再会だ。

事前に聞いた話によると、まずは各々現地集合。俺は今、ハワイのホノルル空港にいる。
生ぬるい爽やかな風に迎えられて外に出ると、雲一つない快晴が広がっていた。伝えられていた目印を探し、空港前を歩く。目印はすぐに見つかった。近くに、人影も見える。

「おはようございます!」

急いで駆け寄ると、その人たちは振り返った。沢村、降谷、倉持先輩、そして…御幸先輩。御幸先輩は俺を見て、表情の読めない微笑みを浮かべた。…俺、どう思われてるんだろう。といっても、割と最近青道メンバーの飲み会で会ったけど…。

「東条です、初めまして。」

番組のカメラマン兼ナレーターらしい男性スタッフに会釈をする。人のよさそうな人だ。

「男性陣はあと一人で揃いますね。」

スタッフが言うと、御幸選手が倉持先輩を見た。

「あと一人?亮さんたちだめだったの?」
「家族旅行つってた。」
「ふーん、亮さんちほんと仲いいな。じゃああと誰誘ったの?」
「知らん。沢村に任せた」
「ふっふっふ…皆さん驚くと思いやすよ!!」

自信満々の沢村に、全員が首をかしげる。そのとき…

「すまない、遅くなったか?」

声がして、全員が振り返り、驚愕した。

「くっ…クリス先輩!?」

声を上げたのは御幸先輩だ。

「沢村お前、なんつー大物を呼び出してんだよ…」
「そりゃあ俺の敬愛する人生の師匠ですから!!お声がけしないわけにはまいりやせん!!」
「皆、久しぶりだな。」

…クリス先輩、ちゃんと今回の番組の趣旨を説明されてきたのだろうか。不安がよぎったが、スタッフに促され、俺たちは横一列に並んだ。

「女性陣はすでに待機していますので、これより撮影を始めます。まず番組コールを編集で流しますので、拍手で始めてください。男性陣の紹介の後、女性陣と合流して全員が集合する図を撮り、くじ引きをしてペアを決め、レンタカーに乗り込みます。撮影はそこで車内映像に切り替わりますので、運転手の方はスタッフの指示に従ってビーチまで走行してください。」

はーい、とパラパラ返事があり、スタッフはカメラを構えた。番組コールが出るそぶりをして見せ、俺たちに拍手を促す。

「はーい皆さん本日はお集まりいただきありがとうございます!」

先ほどまでの真面目な態度はどこへやら、スタッフは軽快なトークを始めた。さすがプロだな。俺は少し圧倒される。

「まずはこちら、今をときめくイケメンプロ野球選手の皆さんにお集まりいただきました〜!!いや〜今回は超豪華メンバーですよ〜!!まずはクセ玉サウスポー沢村栄純選手!そして超剛速球、怪物降谷暁選手!続いて最近投手としての活躍も見せる美形外野手、東条秀明選手!更に守備の要、俊足スイッチヒッター倉持洋一選手!そしてイケメン天才キャッチャー、御幸一也選手!更になんと!現在メジャーリーグで活躍する注目のキャッチャー、滝川・クリス・優選手です!!いや〜まさかメジャーリーガーにお越しいただけるとは…後でサインお願いしてもいいですか?」

クリス先輩は穏やかに笑い、快く承諾する。

「ちなみに皆さんはお知合いなんですか?」

スタッフのトークに、沢村はいつもの調子でのっかった。

「はい!!同じ釜の飯を食った仲っす!!」
「馬鹿村。…俺たち皆、青道高校野球部出身なんすよ。」

倉持先輩が補足をし、スタッフは色めき立った。

「そうなんですか!じゃあ今日はちょっとした同窓会ですね?」
「まあ今でもよく会うメンツなんで、懐かしさはあまりないですけどね。」
「なるほど、では今回の旅も盛り上がっていただけますね!…降谷選手、大丈夫ですか?」

カメラが寄り、全員が降谷に注目する。降谷は…ものすごく眠そうに目を細めていた。

「ヒャハハこいつ時差ボケだ」
「ガキだな〜〜…」
「おい降谷起きろ!撮影始まってんだぞ!!」
「……起きてるし……」

御幸先輩の言う通り、今でも時々顔を合わせるなじみのメンバーだけど…こういう雰囲気は高校時代に戻ったみたいで、懐かしくて、嬉しい。

「それではそろそろ、女性陣の元へ向かいましょう!今回の旅に参加する女性メンバーはお二人いらっしゃいます。お二人には皆さんとは別の場所を集合場所として伝えてありますので、今からそこへ向かいます。」

カメラに続き、俺たちはゾロゾロと歩き出す。

「着きました、女性陣はこちらのお店で皆さんをお待ちかねです!」

スタッフが手で指したのは、開放的な雰囲気のオープンテラスカフェ。カウンターを取り囲むように、パラソルのついたテーブルと椅子がいくつか並んでいる。そのうちの一つ、日当たりのいい白いパラソルの席に、遠目から見ても目を惹かれる女の子がいた。

「あちらにおりますね、では参りましょう!」

スタッフに続き、俺たちは女の子たちに近づいていく。…緊張する。玉城、俺が来ること知ってんのかな。…どんな顔、するかな。思えば高校の時、勢いで告白して玉砕して以来、話してないんだよな…。ああ、今さら怖くなってきた。

「おはようございま〜す!!」

スタッフの声で、女の子たちが振り向く。一人はショートカットの元気そうな印象の女性。牧瀬だ。そしてもう一人、柔らかな金色の髪をひとつにまとめ、日の光を受けて白く光る背中が映える、鮮やかなターコイズブルーのワンピースを着た女の子。ゆっくりと振り向き、サングラスを外した…。空色の透き通るような大きな瞳が、俺たちを見て、微笑む。

「おはようございまーす!」
「おはようございます。」

牧瀬と玉城は立ち上がって会釈をする。
玉城…綺麗になった。本当に。直視、できないくらいに。

「玉城ひっさしぶりだなー!!元気だったか!?」
「う、うん」
「写真集見たぞ!!すごかっ…」
「アホ」

沢村を御幸先輩がどつき、言葉を遮る。

「いってえな!!何すんだよ…ですか!!」
「お前にはデリカシーがねーのか?」
「なんだよそれ?褒めてんのに…」
「ちょっと黙ってろバカ村」

倉持先輩にも絞られ、しゅんと黙る沢村。玉城ははにかんでいる。

「お知合いなんですか?」

またもやスタッフが目を丸くする。

「…全員青道高校出身です。」

俺が苦笑いで答えると、さらに目を丸くして笑い出した。

「ちなみに学年は?」
「俺と沢村と降谷と…玉城さんと牧瀬が同級生で、御幸先輩と倉持先輩が一つ上、クリス先輩がそのまたひとつ上です。」
「ではみなさん、同時期に高校生活を送っていたんですね!当時から仲は良かったんですか?」

牧瀬と沢村が何やら目配せをする。

「まあ!」
「そこそこっすね!」

「だからお前ら仲良すぎだって。」

思わず突っ込んで、笑いが起きた。

「ははは、大変仲がいい皆さんですが、ここで4組の二人ペアに分かれていただきます!」

…き、きた。
俺は玉城をちらりと見る。ここでペアになれば、ビーチまでの20分間…ふたりっきりになれる。

「それではみなさん、くじを引いてください!」

スタッフが差し出した紙の束から、俺は念を込めて一枚引っこ抜く。…オレンジ色のライン。

「引きましたか?それでは、同じ色同士のペアに分かれてください。」

玉城は…何色だ?

「光、何色?赤?赤だよね?」
「落ち着け」

すかさず玉城に歩み寄ったのは御幸先輩。…その背中に倉持先輩の拳がぶつかる。
玉城は苦笑しながら引いた紙を見せる。

「青です。」

「…あー俺のも青だったわ。これ青だわ」
「あきらめろ。お前のそれは俺と同じ赤だ」

倉持先輩に引きずられていく御幸先輩。玉城…青なのか。そうだよな、そんなにうまく…いくわけないよな。でも…じゃあ…青は誰が引いたんだ?

「…俺も青だ。」

小さく手を上げて、進み出たのはクリス先輩だった。

「よろしくお願いします。」
「ああ。」

ふたりは和やかに微笑みあって、車に向かって歩いていく。
く…クリス先輩か。あの二人、面識があるのかどうかも謎だけど…二人の時の会話がまるで想像できない。複雑だな…。

クリス先輩は車に近づくと、少し駆け足になって先に車にたどり着き、助手席のドアを開けて玉城をエスコートした。その自然な振る舞いに、周りからは思わず感嘆の声が上がる。

「さすが師匠!紳士!男の中の男!」
「お…俺だってそのくらいするし」
「御幸、早く乗れよ」

クリス先輩・玉城ペアが出発し、倉持先輩・御幸先輩ペアも出発する。

「ねえむらさき色誰ー?」
「あっ、むらさき俺だ!」

いえーい、と盛り上がってハイタッチを交わしたのは牧瀬と沢村。二人はすでに会話を弾ませながら車に向かう。

「沢村君運転は?」
「俺ペーパーだぜ!」
「それ威張ること?しょうがない、私の腕前を見てなさい!」
「いよっ!!姐さん!!F1レーサー!!」

あの二人、なんかちょっと似てるよな。
…というか、つまり俺は…

「降谷とペアか。」

こくり、と降谷は頷いて、オレンジ色のラインが入った紙を見せる。

「じゃあ行こうか。降谷運転は?」
「できるよ。」

お、意外。

「じゃあ…俺は免許取り立ての初心者だし、降谷に運転してもらおうかな。」

そう言うと、降谷は心なしかうれしそうにして運転席に乗り込んだ。

 


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