俺と倉持がビーチに乗り付けると、堤防に並んで座るクリス先輩と光が、楽しそうに和やかに、笑い声を響かせていた。

「えっ、本当にそんなことがあったんですか!?」
「ああ。あの時はみんな驚いてな…」

「何話してるんですか?」

盛り上がっている二人の元へ、意を決して割り込む。俺を振り向いた二人は――クリス先輩は穏やかな笑みを浮かべ、光は少し顔を赤くした。な…なんだ?

「御幸。今、お前の話をしてたんだ。」
「……え?」

ざわりと胸が焦る。

「俺の話…って、何を?」
「シニアの頃の話とか…野球部でのこととかな。」
「一也さん、中学生の頃は背がちっちゃかったってほんとですか?」

ゲッ…な、何話してんだよ。

「く…クリス先輩!!変なこと教えないでくださいよ!」
「変なこと?」
「あとで絶対からかわれるじゃないですか…!」
「クリスさん、あとでシニア時代の一也さんの写真ください!」
「もー、ほら!!」

俺と光を見ていたクリス先輩は急に笑い出す。

「お前たち、似てきたな。」

その一言で、俺たちは顔を赤くして見合わせた。

「あ…、沢村たちも着いたかな。」

クリス先輩はそう言って、車の方へ歩いていく。
俺はため息をついて光の隣に座った。

「…どうしたんですか?」
「いや…クリス先輩とすげー仲良くなったんだな。」
「え?…えっと…」

光は少し戸惑ったように目を瞬く。

「正直…結構妬いてる」

やつあたりのようにそう畳みかけると、光は顔を赤くして、困ったように口元に手を当てて、俺を見上げた。

「…あの…」

躊躇いながら口を開く光の目を見つめる。

「カメラ回ってるの…忘れてませんよね?」
「え」

光に言われて、指された先を見ると、少し離れたところからスタッフがカメラをこちらに向けていた。くそっ忘れてた…!!そういやマイクも入ったままだし…最悪だ。

「今の…編集でカットお願いします」
「いや…どうでしょう、それは」

確かにこんな格好のネタシーン、テレビ局がカットするわけない。クソ…もう帰りたい。

沢村と牧瀬が到着したようで、二人が車から降りるととたんに笑い声が響く。かなり盛り上がってるみたいだ。あのふたり、馬が合うんだろうな。
続いてその隣に滑り込んできて停車した車からは、降谷と東条が降りてきた。運転席から降谷が降りてきたのを見て、倉持が絡みに行く。

「ヒャハハお前ら降谷の運転で来たのかよ!大丈夫かぁ?」
「…免許持ってますし」
「降谷、運転上手いですよ。降谷は運転する機会も多いもんな。」
「あー、そういや北海道出身かこいつ」

「はい!では皆さん到着されましたので、これから水着に着替えていただきます!」

スタッフの一声で、男どもの間に緊張が走ったのが分かった。もやり、と空気が変わったのを感じる。スタッフに促されて更衣室へ向かう光と牧瀬を見送って、俺たちも別室で着替え、ビーチに集合した。
…光の水着姿、プライベートじゃ見たことねえし、仕事でだって…高校卒業直後の一枚のグラビアしか出回ってないから、ファンの間では『伝説の水着写真』って言われてんだよな。…ど、どんな水着着てくるんだろう?

「おおっ!いらっしゃいました!」
「!!」

俺たちはいっせいにスタッフが指した方を見る。そこには…

上下がつながったスポーツタイプの水着を颯爽と着こなした牧瀬がいた。

「……。」
「……。」
「ちょっと、あからさまにがっかりしないでくださいよ!」

牧瀬は俺と倉持に怒ってみせ、俺たちの横に並んだ。

「光は?」
「女性陣は一人ずつ登場していただきます。」

微笑むスタッフに相槌を打つ俺の後頭部に、牧瀬のチョップが落ちる。

「それでは牧瀬司さん、本日の水着を選んだポイントは?」
「それはもちろん、この後のビーチバレーに全力で臨むことです!」
「なるほど!牧瀬さんはその抜群の運動神経でも活躍されていますよね。何かスポーツをしていたんですか?」
「呼ばれればなんでも顔を出してました!でも、ちゃんとやっていたのは中学の部活のバレーボールが最後ですね。高校では演劇部を第一優先にしていたので。」
「そうなんですか!では女優・牧瀬司はその演劇部から始まったという事ですね?」
「あはは、そうなりますね。」

確かに牧瀬は、アスリートのように引き締まったスタイルをしている。最近はその運動神経を買われてドラマでアクションをしたりしているらしいし、まあ、こいつらしいっちゃこいつらしいな。

「それではお待ちかね!玉城光さんにも登場していただきましょう!」
「…!」

俺たちは今度こそ息をのんで振り返った。
こちらに歩いてくる、華奢な…しかし女性らしいラインを描く人影。真っ白な肌を包む、少し変わったデザインの黒いビキニ。ごくり、と誰かの喉が鳴った。…お、おい。待て待て。

「さすがモデル出身!素晴らしいスタイルですね。」

スタッフの言う通り、すらりと伸びる長い美脚、小ぶりだがハリのある尻、キュッと引き締まったウエスト、そして、華奢な体にその圧倒的な存在感を放つ、見事なお椀型の膨らみ。くっきりと影を落とす谷間は、胸を覆う水着の布を縫い合わせるように編み込まれたリボンの隙間から、はっきりと覗き見える。

「ありがとうございます。」

光がはにかんで歩いてきて、牧瀬の隣に並ぶと、その振動で揺れる張り裂けそうな胸。

…デカい。柔らかそう。揉みしだきてぇ。
そんな男どもの声が聞こえる気がする…。

「……。」
「……。」

男どもの視線が一点にくぎ付けになり、沈黙が流れる。

「玉城さんは、何をポイントにしてこの水着を選ばれたんですか?」
「これは…司が選んでくれたんです。このロケの前に、一緒に水着を買いに行って。」
「えっ!それではこれ、私物、ということですか?」
「そうですね。」

はにかむ光。一瞬の間が空いた後、スタッフは冗談めいた声で言った。

「…ちなみに何カップですか?」
「ちょっ…セクハラですよ!」

思わず腕を伸ばして光の前に庇うように立つ。光は恥ずかしそうに愛想笑いしてはぐらかした。男どもは曖昧に笑っているけど、こいつらも絶対考えてんだろ…。
ったく…この水着、色気ありすぎだろ!もっとこう…牧瀬みたいなので良かったのに!

「えーそれでは早速、ビーチバレーに移りたいと思います!こちらの特設コートに移動してください。」

番組が貸し切ったプライベートビーチには、簡素な網が張ってあり、ビーチバレー用のゴムボールが用意されていた。

「先ほどのくじの、暖色と寒色のチームで別れていただきたいと思います。」
「だんしょくとかんしょくって何だ?」
「簡単に言えば、あったかい色と冷たい色だよ!私と沢村君は紫だから、寒色。」

牧瀬と沢村は右側のコートに入る。

「私たちも青だから寒色ですね。」
「そうだな。」

光もクリス先輩に声をかけ、牧瀬たちのコートに入る。

「やった!光と同じチーム!頑張ろうね!」
「うん。」
「光と共闘かあ、昔を思い出すなぁ」

牧瀬の言う通り、俺も高校時代のことをふと思い出した。…そして考える。向こうのチーム、結構な強敵じゃねーか?牧瀬はあらゆる運動部からスカウトされるほどの運動神経だし、光も運動神経はかなりいい。牧瀬との呼吸もぴったりだ。沢村はいわずもがなこういうの得意そうだし、クリス先輩は…あの人が苦手なモンなんて思いつかねえ…。
対してこちらのチームは、倉持と東条はまあいいとして、俺は野球以外からきしだし、あとはまだ少し眠そうな降谷。…勝負が見えたな。

「ちなみに、このビーチバレーで負けた方のチームには、罰ゲームを用意しております!」
「えっ!?」
「ハァ!?」

声を上げたのは俺と倉持。次の瞬間、倉持の眼光が俺に突き刺さる。

「おい御幸、本気で行くぞ。」
「…善処する。」
「やらかしたら許さねえからな。」
「やだなあ倉持クン、チームメイトには優しくしようよ…」
「降谷、まだ眠いの?」
「…眠くない」

「よーーし!!何が何でも勝つぞぉ!!俺と師匠の最強バッテリーと美女軍団の力を合わせれば不可能はなーーい!!」
「いえーーい!!」
「頑張りましょう。」
「ははは、頑張ろう。」

…チームワーク的にも勝負が見えている。

「それではみなさん、用意はいいですか?」

スタッフが笛を口元にもっていき、俺たちの顔を見回した。

「レディー……ファイッ!!」

ピィィッ、と細く響く笛の音。ボールが放たれ、俺たちは空を見上げた。

 


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