068
「本日皆さんにご宿泊いただくのは、こちらのホテルになります。」
スタッフの案内でホテルのロビーへ入った俺たちは、各々笑顔を浮かべた。
「きれーなとこじゃん。」
「ツインを4部屋取ってありますので、玉城さんと牧瀬さんは同部屋で決定として…男性陣は部屋割りを決めておいてください。」
言い残して、スタッフはチェックインのためフロントに向かう。
「どーする?」
「クジで決めりゃいいんじゃね?さっき使ったのあったろ」
俺が言うと、御幸は頷いて番組用の紙のくじを取り出した。2枚除いて6枚のくじを御幸が配る。
その結果、俺と沢村、御幸と東条、クリス先輩と降谷という組み合わせになった。
「うわー沢村かよ絶対うるせえ…おい誰か部屋代わってくれ」
「ひどっ!!2年間同部屋で過ごした仲じゃないっすか!!」
「寝言うるさかったらタイキックな」
「冷たい!!」
ふざけ合う俺たちを見ていたクリス先輩がふっと笑みを浮かべる。
「寮にいた頃を思い出すな。」
その言葉で降谷は嬉しそうにふわふわしている。
「ねえ見て光!ルームサービスのロミロミだって!」
「へぇー」
「しかもこのホテル、プライベートビーチ直通だって!あとで行こうよ、さっき海入れなかったし!」
「うん、行こ行こ」
女子は女子で盛り上がっている。…海か。
さっきの玉城さんの水着…やばかったなー…。男共、全員静まり返ってたし…。御幸のヤロー、あんな子と毎日同じ部屋で寝起きしてるとか…どんな生活なんだか想像できねぇ。マジで。
スタッフが戻ってきて、俺たちに部屋の鍵を配った。
「本日の撮影はひとまず終わりですので、あとはごゆっくりお楽しみください。明日の撮影は朝食のあと、10時にロビーに集合していただきますので、よろしくお願いします。」
スタッフは別の宿泊施設を取っているらしい。シルバーのレンタカーで去っていく。
「とりあえず部屋に荷物置きに行こうぜ」
俺が提案すると、全員動き始めた。
***
煙草を吸ってくる、と沢村に嘘を吐いて、俺はホテルを出る。
ホテルの宿泊客だけが入れるプライベートビーチに向かうと、ほんの少し期待していた通り、玉城さんがいた。また水着姿で、牧瀬と海に入ってはしゃいでいる。
…キスのことがあってから、気まずくて、なんとなく会うのを避けていた。あのキスがどういうつもりだったのか、俺には全く分からなくて。御幸よりも俺を選んだ、なんて、あり得ないことはわかっている。彼女の一番特別な人は、昔からずっと御幸だ。…きっと、これからもずっと。それが揺らぐことはないと思う。そして俺は、馬鹿なことに、そんな彼女が好きなんだ。
あの日、あの一瞬だけ、俺は彼女の中で特別な存在になれたのかもしれない。そんな奇跡の瞬間だったのかもしれない。一瞬の夢。彼女の中でどういう変化があったのか――俺はきっと、一生わからない。
だけど――だから――このまま距離が離れるのは嫌だし、かといって、あれをなかったこととしてふるまうのも無理だ。彼女のことが今もたまらなく好きだけど、まだ自分の中で整理がつかないけど――はっきりしていることは、俺は御幸達の邪魔はしたくないし、彼女には幸せでいてほしい。
だから――ああ――クソ、ここまでのこのこ来たくせに、どうしたらいいかわからない。声もかけられねえのか、俺は。
俺がうじうじと彼女たちを眺めていると、牧瀬がこちらに気付いて、つられるように玉城さんもこっちを見た。牧瀬は玉城さんに何か声をかけて、ひとりでこっちに歩いてくる。
「――あ、あのよ…」
言い訳を考える俺に、牧瀬はにこりと笑みを向け、歩を緩めず歩いてくる。
「飲み物買ってくるので、光、お願いしますね。」
ぽん、と俺の肩を軽く叩き、牧瀬はホテルの方向に去っていく。…あいつ、ほんと…嫌なくらい気が利くやつだ。
浜辺で一人立ち、玉城さんを見る。腰まで海に浸かっている彼女は、潮風になびく髪を耳にかけ、こっちを見た。俺が歩き出すと、彼女もこちらへ向かって歩き出した。
波の音が絶えず響く。俺が立ち止まると、玉城さんは俺の隣に来て、砂浜に座った。
「……。」
俺も無言のまま、海の方を向いて隣に座る。向かい合って立つよりは、自分の顔色を悟られない分、この方がいいと思った。
「…あのこと…ですよね。」
玉城さんが呟いて、ぎくりとした。さっそく核心に触れてきた彼女に戸惑う。
「……。」
「……。」
ごめんなさい、とでも言われるかと思ったけど、玉城さんはしばらく黙っていた。何かを考えるように。
「…私、まだ、わからなくて。」
「…え?」
わからない?何がわからないんだ?…俺か、御幸か…ってことなのか?
期待してしまう。早く続きを言ってくれ、と願う。
「あの…なんて言ったらいいか…。…うまく言えないんですけど、」
「……?」
「あのときは…キス、したいと思ったから、しました。」
ぎゅっ、と心臓が苦しくなった。驚いて、玉城さんの横顔を盗み見た。玉城さんは海の色を写したような瞳で、じっと手元を見つめていた。
「倉持さん…私のこと、好きなんですよね。」
「……。」
今さら否定したって、もうバレている。
「……そうだな。」
「…高校生の頃から?」
「…そうかもな。」
「…私が…一也さんと、付き合う前から…ですか?」
「……。」
確かに、その頃から存在を気にはしていた。でも――
「…わからない。」
多分、自覚したのは、御幸と付き合いだしてから。
「…そうですか。」
玉城さんは呟いて、小さく息を吐き出した。
「…私、昔からずっと、付き合うつもりがない人から告白されたら…、距離を置いてたんです。」
「……。」
「そうしたら、皆…諦めて、そのうち忘れて、離れていくから。」
「……。」
「でも…倉持さんには、そうしたくない。」
「…え…」
「だってそうしたら…もう二度と、話すこともできなくなる。」
「……。」
「私…倉持さんに…傍にいてほしいと思ってます。」
どういうつもり、なんだ?だって…でも…一番は、御幸なんだろ?
「…私たちの傍に。」
そう言った玉城さんと、目が合った。…納得している自分がいた。
彼女の一番にはなれない。でも、それなら何か、別の形で――まだ、傍にいたいと思う。
「…私…ずるいですよね。」
玉城さんは苦笑して俯く。そうなのかもしれない。でも――俺はそれでも、嬉しいんだよ。
「…いるよ。お前らの傍に」
「え…」
「今まで通り。」
そうつぶやくと、玉城さんは俺を見つめて、泣きそうな笑顔で、笑った。
「あーーっ!!なんだよ、倉持先輩も海来てんじゃん!!」
騒がしい声が響き、びくり、と肩が跳ねる。
「…沢村。」
「煙草吸うフリして抜け駆けするなんてずるいっすよ!!つーか考えてみたら倉持先輩とっくに煙草辞めてるじゃん!!だまされた!!」
「声でけーよ!他の客もいるんだから大人しくしろ!」
俺が立ち上がり、玉城さんも立ち上がる。沢村は降谷と東条を誘ってきたらしく、三人共水着に着替えて来ていた。
沢村は俺の後に続いてきた玉城さんをじっと見てハッとし、東条の前に両腕を広げて隠すように立ちはだかった。
「えーと…何してるの、沢村?」
東条が困惑したように言うと、沢村は大まじめな顔をして言う。
「いや…東条には刺激が強すぎるかと思って…」
「…えっ、…は??な、何言ってんだよ」
東条はにわかに顔を赤くし、沢村を退かす。
「だってお前、この間玉城の写真集見て…」
「わーーっ!!わーー!!ちょ、ちょっと沢村黙って!!!」
顔を真っ赤にする東条。…こいつ、もしかして…玉城さんのこと…?
動揺している東条に、玉城さんは少しはにかんだ。
「…見てくれたんだ、写真集…」
「えっ、う…うん、まあ…」
ぎこちない空気が二人の間に流れる。…こいつら、昔何かあったのかもしれねえな。仲良かったし、よく一緒にいたし。
「…あのさ、玉城…」
東条は不意に、決意したように玉城さんを見た。
「ちょっと…話したいんだけど……、」
玉城さんは息をのむ。俺は踵を返し、沢村と降谷の肩を確保して連行した。
「ちょっ!何すんだよ!」
「牧瀬が飲み物買いに行ったまま戻らねぇんだよ、お前ら探すの手伝え。沢村はため口聞いたから俺にジュースおごれ。」
「なっ!!」
諦めたように連行される沢村と、ふわふわと嬉しそうに従う降谷。二人を連れて、俺はホテルへ向かって砂浜を歩いた。
スタッフの案内でホテルのロビーへ入った俺たちは、各々笑顔を浮かべた。
「きれーなとこじゃん。」
「ツインを4部屋取ってありますので、玉城さんと牧瀬さんは同部屋で決定として…男性陣は部屋割りを決めておいてください。」
言い残して、スタッフはチェックインのためフロントに向かう。
「どーする?」
「クジで決めりゃいいんじゃね?さっき使ったのあったろ」
俺が言うと、御幸は頷いて番組用の紙のくじを取り出した。2枚除いて6枚のくじを御幸が配る。
その結果、俺と沢村、御幸と東条、クリス先輩と降谷という組み合わせになった。
「うわー沢村かよ絶対うるせえ…おい誰か部屋代わってくれ」
「ひどっ!!2年間同部屋で過ごした仲じゃないっすか!!」
「寝言うるさかったらタイキックな」
「冷たい!!」
ふざけ合う俺たちを見ていたクリス先輩がふっと笑みを浮かべる。
「寮にいた頃を思い出すな。」
その言葉で降谷は嬉しそうにふわふわしている。
「ねえ見て光!ルームサービスのロミロミだって!」
「へぇー」
「しかもこのホテル、プライベートビーチ直通だって!あとで行こうよ、さっき海入れなかったし!」
「うん、行こ行こ」
女子は女子で盛り上がっている。…海か。
さっきの玉城さんの水着…やばかったなー…。男共、全員静まり返ってたし…。御幸のヤロー、あんな子と毎日同じ部屋で寝起きしてるとか…どんな生活なんだか想像できねぇ。マジで。
スタッフが戻ってきて、俺たちに部屋の鍵を配った。
「本日の撮影はひとまず終わりですので、あとはごゆっくりお楽しみください。明日の撮影は朝食のあと、10時にロビーに集合していただきますので、よろしくお願いします。」
スタッフは別の宿泊施設を取っているらしい。シルバーのレンタカーで去っていく。
「とりあえず部屋に荷物置きに行こうぜ」
俺が提案すると、全員動き始めた。
***
煙草を吸ってくる、と沢村に嘘を吐いて、俺はホテルを出る。
ホテルの宿泊客だけが入れるプライベートビーチに向かうと、ほんの少し期待していた通り、玉城さんがいた。また水着姿で、牧瀬と海に入ってはしゃいでいる。
…キスのことがあってから、気まずくて、なんとなく会うのを避けていた。あのキスがどういうつもりだったのか、俺には全く分からなくて。御幸よりも俺を選んだ、なんて、あり得ないことはわかっている。彼女の一番特別な人は、昔からずっと御幸だ。…きっと、これからもずっと。それが揺らぐことはないと思う。そして俺は、馬鹿なことに、そんな彼女が好きなんだ。
あの日、あの一瞬だけ、俺は彼女の中で特別な存在になれたのかもしれない。そんな奇跡の瞬間だったのかもしれない。一瞬の夢。彼女の中でどういう変化があったのか――俺はきっと、一生わからない。
だけど――だから――このまま距離が離れるのは嫌だし、かといって、あれをなかったこととしてふるまうのも無理だ。彼女のことが今もたまらなく好きだけど、まだ自分の中で整理がつかないけど――はっきりしていることは、俺は御幸達の邪魔はしたくないし、彼女には幸せでいてほしい。
だから――ああ――クソ、ここまでのこのこ来たくせに、どうしたらいいかわからない。声もかけられねえのか、俺は。
俺がうじうじと彼女たちを眺めていると、牧瀬がこちらに気付いて、つられるように玉城さんもこっちを見た。牧瀬は玉城さんに何か声をかけて、ひとりでこっちに歩いてくる。
「――あ、あのよ…」
言い訳を考える俺に、牧瀬はにこりと笑みを向け、歩を緩めず歩いてくる。
「飲み物買ってくるので、光、お願いしますね。」
ぽん、と俺の肩を軽く叩き、牧瀬はホテルの方向に去っていく。…あいつ、ほんと…嫌なくらい気が利くやつだ。
浜辺で一人立ち、玉城さんを見る。腰まで海に浸かっている彼女は、潮風になびく髪を耳にかけ、こっちを見た。俺が歩き出すと、彼女もこちらへ向かって歩き出した。
波の音が絶えず響く。俺が立ち止まると、玉城さんは俺の隣に来て、砂浜に座った。
「……。」
俺も無言のまま、海の方を向いて隣に座る。向かい合って立つよりは、自分の顔色を悟られない分、この方がいいと思った。
「…あのこと…ですよね。」
玉城さんが呟いて、ぎくりとした。さっそく核心に触れてきた彼女に戸惑う。
「……。」
「……。」
ごめんなさい、とでも言われるかと思ったけど、玉城さんはしばらく黙っていた。何かを考えるように。
「…私、まだ、わからなくて。」
「…え?」
わからない?何がわからないんだ?…俺か、御幸か…ってことなのか?
期待してしまう。早く続きを言ってくれ、と願う。
「あの…なんて言ったらいいか…。…うまく言えないんですけど、」
「……?」
「あのときは…キス、したいと思ったから、しました。」
ぎゅっ、と心臓が苦しくなった。驚いて、玉城さんの横顔を盗み見た。玉城さんは海の色を写したような瞳で、じっと手元を見つめていた。
「倉持さん…私のこと、好きなんですよね。」
「……。」
今さら否定したって、もうバレている。
「……そうだな。」
「…高校生の頃から?」
「…そうかもな。」
「…私が…一也さんと、付き合う前から…ですか?」
「……。」
確かに、その頃から存在を気にはしていた。でも――
「…わからない。」
多分、自覚したのは、御幸と付き合いだしてから。
「…そうですか。」
玉城さんは呟いて、小さく息を吐き出した。
「…私、昔からずっと、付き合うつもりがない人から告白されたら…、距離を置いてたんです。」
「……。」
「そうしたら、皆…諦めて、そのうち忘れて、離れていくから。」
「……。」
「でも…倉持さんには、そうしたくない。」
「…え…」
「だってそうしたら…もう二度と、話すこともできなくなる。」
「……。」
「私…倉持さんに…傍にいてほしいと思ってます。」
どういうつもり、なんだ?だって…でも…一番は、御幸なんだろ?
「…私たちの傍に。」
そう言った玉城さんと、目が合った。…納得している自分がいた。
彼女の一番にはなれない。でも、それなら何か、別の形で――まだ、傍にいたいと思う。
「…私…ずるいですよね。」
玉城さんは苦笑して俯く。そうなのかもしれない。でも――俺はそれでも、嬉しいんだよ。
「…いるよ。お前らの傍に」
「え…」
「今まで通り。」
そうつぶやくと、玉城さんは俺を見つめて、泣きそうな笑顔で、笑った。
「あーーっ!!なんだよ、倉持先輩も海来てんじゃん!!」
騒がしい声が響き、びくり、と肩が跳ねる。
「…沢村。」
「煙草吸うフリして抜け駆けするなんてずるいっすよ!!つーか考えてみたら倉持先輩とっくに煙草辞めてるじゃん!!だまされた!!」
「声でけーよ!他の客もいるんだから大人しくしろ!」
俺が立ち上がり、玉城さんも立ち上がる。沢村は降谷と東条を誘ってきたらしく、三人共水着に着替えて来ていた。
沢村は俺の後に続いてきた玉城さんをじっと見てハッとし、東条の前に両腕を広げて隠すように立ちはだかった。
「えーと…何してるの、沢村?」
東条が困惑したように言うと、沢村は大まじめな顔をして言う。
「いや…東条には刺激が強すぎるかと思って…」
「…えっ、…は??な、何言ってんだよ」
東条はにわかに顔を赤くし、沢村を退かす。
「だってお前、この間玉城の写真集見て…」
「わーーっ!!わーー!!ちょ、ちょっと沢村黙って!!!」
顔を真っ赤にする東条。…こいつ、もしかして…玉城さんのこと…?
動揺している東条に、玉城さんは少しはにかんだ。
「…見てくれたんだ、写真集…」
「えっ、う…うん、まあ…」
ぎこちない空気が二人の間に流れる。…こいつら、昔何かあったのかもしれねえな。仲良かったし、よく一緒にいたし。
「…あのさ、玉城…」
東条は不意に、決意したように玉城さんを見た。
「ちょっと…話したいんだけど……、」
玉城さんは息をのむ。俺は踵を返し、沢村と降谷の肩を確保して連行した。
「ちょっ!何すんだよ!」
「牧瀬が飲み物買いに行ったまま戻らねぇんだよ、お前ら探すの手伝え。沢村はため口聞いたから俺にジュースおごれ。」
「なっ!!」
諦めたように連行される沢村と、ふわふわと嬉しそうに従う降谷。二人を連れて、俺はホテルへ向かって砂浜を歩いた。