006
教室に玉城が駆け込んできて、昼休みの賑やかな教室は、一気に静まり返った。
その玉城が、何やら真剣な顔をして、ジャージの短パンを持って来たかと思うと、そのまま……男子も他のクラスの奴らもいる中で、着替え始めたからだ。
「ちょっ…、玉城、何してんの!?」
スカートの下に短パンを履いて、それからスカートを脱いだから、何かが見えたわけではないけど…!
玉城は周りの動揺を余所に、ブラウスの裾のボタンをはずして邪魔にならないように縛り、制服のリボンも外すと、綺麗な髪を高い位置で1つに縛り始めた。うなじが露わになり、男共が息をのむ。
玉城は室内用体育シューズをひっつかみ、教室を出ていこうとする。
「おい、玉城…、どこ行くの?」
「体育館。」
いや、それはわかるけど…。って俺が聞いたのか。混乱しすぎて頭が回らない。
玉城が出ていくと、しばらく呆然としていたクラスメイト達が我を取り戻し始めた。
「体育館……。」
「…あ、あたしたちも、行く?」
静まり返る教室。それから突然全員目が覚めたように、行こう!と駆け出すのだった。
***
俺たちクラスメイトが一斉に体育館を目指すと、途中で何事かと加わった野次馬がどんどん増えて、体育館につく頃には1年の3分の1ほどが集まっていた。よく見ると、2年生や3年生もちらほらいる。
体育館には玉城と、バスケットボールを持った2年生5人が相対するように立っていた。
「東条!」
不意におれの肩を叩いたのは信二だった。
「信二!来たんだ?」
「沢村が野次馬でよ〜…、うるせーからこっち来た。」
信二の指す方には、言う通り、おしおしと声を上げる沢村と、おそらく連れてこられたのであろう小湊と降谷がいた。
「…結局一人なんだ?牧瀬にも見捨てられたの?」
「司は来ます。」
「…あっそ。まぁ、休み時間内で点取れなかったら、そっちの負けだから。」
「必死ですね。そんなに不安ですか?」
「言ってろ、ブス!」
「………。……ふふっ」
「何笑ってんだよテメェ!」
2年の中心的な女子と玉城が、敵意をぶつけ合うような会話を交わしている。
「なんか不穏だな…玉城さんどうしたんだよ?」
「さあ…、俺も今来たとこで、わからなくて…」
「こんなふうに裏でこそこそ後輩虐める図太い神経があるなら、堂々と御幸先輩にアプローチすればいいんですよ。」
ざわついた体育館に、わざとらしいほど大きい玉城の声が響いた。普段の話し声よりも大きい、絶対にわざと周りに聞かせるために大きい声だった。やっぱ、ときどき怖いな、あいつ。
「…え?じゃあ真壁先輩たち、御幸先輩のことで玉城さんに勝負挑んだってこと…?」
「え!エリカ、御幸君のこと好きなの!?」
「でもなんで玉城さん?御幸君と付き合ってるの?」
ざわつく野次馬、赤くなっていく真壁先輩と呼ばれた人。気の強そうな美人の、背の高い先輩だ。
「うわー…、なんか、こんなマンガみたいなこと、実際にあるんだな…。」
「ね…。」
信二の呟きに頷く。だとしたら玉城、厄介なことに巻き込まれてるなあ。
「東条、どいて!」
「え?うわ!」
俺を押しのけて、スッとミントの香りが駆け抜ける。背の高いすらりとした後姿。牧瀬だ。
「光!おそくなってごめん!」
「司。」
牧瀬は3人の女子を連れて玉城の隣に立った。3人とも1年の運動部の女子だ。
「ソフト部の中川と、バレー部の木田、陸上部の猪岡だな。」
「信二、詳しいね…」
「ぜ、全員同じクラスなんだよ!」
それから、可愛いって噂だもんな…。俺も名前だけは聞いたことがある。
それにしても、この土壇場でこれだけ運動神経の良い奴ばかり集めてきたのか。牧瀬は本当に顔が広いな、と感心する。
「審判は…ま、いいか、これだけ人が見てれば。」
牧瀬は辺りを見渡して呟くと、先輩に向き直った。
「ルールの確認、しますね。昼休みが終わるまでに、こっちのチームが10点取れれば私たちの勝ち。そっちが20点先に取るか、私たちが10点取る前に昼休みが終われば先輩たちの勝ち。先輩たちが負けたら、もう光に突っかからない。これでいいですね?」
「待って、司。」
玉城が口を開いた。
「私たちは試合にも勝負にも勝つ。…先に10点取った方が勝ち。私のチームが勝ったら、先輩には私の言う事をなんでもひとつ、聞いてもらいます。」
「ちょ…、光、本気!?真壁先輩は女バスのレギュラーなんだよ?」
慌てる牧瀬。当然だろう。しかし玉城は余裕の表情で牧瀬を見上げた。
「でもこっちは、私と司がいる。」
あ…、牧瀬の顔が緩んだ。あいつ、玉城に弱いからなぁ…。
他の3人は楽しそうにお喋りしてるし。呑気な1年チームを前に、真壁先輩はイライラした様子で口を開いた。
「こっちはそれでいいわよ。でも、負けたときの言い訳にしないでよね。あと、そっちが負けたら、さっきの…約束守ってもらうからね!」
「さっきの約束?…あぁ、御幸先輩に近づくなってやつですか?」
「こ…こらこら光、煽らないの。」
「……ッぶちのめしてやる!」
うわあ、女ってこええ…。
ボールが投げられ、試合が始まった。シューズが床と擦れる音と、ボールが弾む低い音。合図。歓声。翻る肢体、黄金色の髪――。
ボールが矢のように放たれた。
その玉城が、何やら真剣な顔をして、ジャージの短パンを持って来たかと思うと、そのまま……男子も他のクラスの奴らもいる中で、着替え始めたからだ。
「ちょっ…、玉城、何してんの!?」
スカートの下に短パンを履いて、それからスカートを脱いだから、何かが見えたわけではないけど…!
玉城は周りの動揺を余所に、ブラウスの裾のボタンをはずして邪魔にならないように縛り、制服のリボンも外すと、綺麗な髪を高い位置で1つに縛り始めた。うなじが露わになり、男共が息をのむ。
玉城は室内用体育シューズをひっつかみ、教室を出ていこうとする。
「おい、玉城…、どこ行くの?」
「体育館。」
いや、それはわかるけど…。って俺が聞いたのか。混乱しすぎて頭が回らない。
玉城が出ていくと、しばらく呆然としていたクラスメイト達が我を取り戻し始めた。
「体育館……。」
「…あ、あたしたちも、行く?」
静まり返る教室。それから突然全員目が覚めたように、行こう!と駆け出すのだった。
***
俺たちクラスメイトが一斉に体育館を目指すと、途中で何事かと加わった野次馬がどんどん増えて、体育館につく頃には1年の3分の1ほどが集まっていた。よく見ると、2年生や3年生もちらほらいる。
体育館には玉城と、バスケットボールを持った2年生5人が相対するように立っていた。
「東条!」
不意におれの肩を叩いたのは信二だった。
「信二!来たんだ?」
「沢村が野次馬でよ〜…、うるせーからこっち来た。」
信二の指す方には、言う通り、おしおしと声を上げる沢村と、おそらく連れてこられたのであろう小湊と降谷がいた。
「…結局一人なんだ?牧瀬にも見捨てられたの?」
「司は来ます。」
「…あっそ。まぁ、休み時間内で点取れなかったら、そっちの負けだから。」
「必死ですね。そんなに不安ですか?」
「言ってろ、ブス!」
「………。……ふふっ」
「何笑ってんだよテメェ!」
2年の中心的な女子と玉城が、敵意をぶつけ合うような会話を交わしている。
「なんか不穏だな…玉城さんどうしたんだよ?」
「さあ…、俺も今来たとこで、わからなくて…」
「こんなふうに裏でこそこそ後輩虐める図太い神経があるなら、堂々と御幸先輩にアプローチすればいいんですよ。」
ざわついた体育館に、わざとらしいほど大きい玉城の声が響いた。普段の話し声よりも大きい、絶対にわざと周りに聞かせるために大きい声だった。やっぱ、ときどき怖いな、あいつ。
「…え?じゃあ真壁先輩たち、御幸先輩のことで玉城さんに勝負挑んだってこと…?」
「え!エリカ、御幸君のこと好きなの!?」
「でもなんで玉城さん?御幸君と付き合ってるの?」
ざわつく野次馬、赤くなっていく真壁先輩と呼ばれた人。気の強そうな美人の、背の高い先輩だ。
「うわー…、なんか、こんなマンガみたいなこと、実際にあるんだな…。」
「ね…。」
信二の呟きに頷く。だとしたら玉城、厄介なことに巻き込まれてるなあ。
「東条、どいて!」
「え?うわ!」
俺を押しのけて、スッとミントの香りが駆け抜ける。背の高いすらりとした後姿。牧瀬だ。
「光!おそくなってごめん!」
「司。」
牧瀬は3人の女子を連れて玉城の隣に立った。3人とも1年の運動部の女子だ。
「ソフト部の中川と、バレー部の木田、陸上部の猪岡だな。」
「信二、詳しいね…」
「ぜ、全員同じクラスなんだよ!」
それから、可愛いって噂だもんな…。俺も名前だけは聞いたことがある。
それにしても、この土壇場でこれだけ運動神経の良い奴ばかり集めてきたのか。牧瀬は本当に顔が広いな、と感心する。
「審判は…ま、いいか、これだけ人が見てれば。」
牧瀬は辺りを見渡して呟くと、先輩に向き直った。
「ルールの確認、しますね。昼休みが終わるまでに、こっちのチームが10点取れれば私たちの勝ち。そっちが20点先に取るか、私たちが10点取る前に昼休みが終われば先輩たちの勝ち。先輩たちが負けたら、もう光に突っかからない。これでいいですね?」
「待って、司。」
玉城が口を開いた。
「私たちは試合にも勝負にも勝つ。…先に10点取った方が勝ち。私のチームが勝ったら、先輩には私の言う事をなんでもひとつ、聞いてもらいます。」
「ちょ…、光、本気!?真壁先輩は女バスのレギュラーなんだよ?」
慌てる牧瀬。当然だろう。しかし玉城は余裕の表情で牧瀬を見上げた。
「でもこっちは、私と司がいる。」
あ…、牧瀬の顔が緩んだ。あいつ、玉城に弱いからなぁ…。
他の3人は楽しそうにお喋りしてるし。呑気な1年チームを前に、真壁先輩はイライラした様子で口を開いた。
「こっちはそれでいいわよ。でも、負けたときの言い訳にしないでよね。あと、そっちが負けたら、さっきの…約束守ってもらうからね!」
「さっきの約束?…あぁ、御幸先輩に近づくなってやつですか?」
「こ…こらこら光、煽らないの。」
「……ッぶちのめしてやる!」
うわあ、女ってこええ…。
ボールが投げられ、試合が始まった。シューズが床と擦れる音と、ボールが弾む低い音。合図。歓声。翻る肢体、黄金色の髪――。
ボールが矢のように放たれた。