「…話すの…久しぶり、だな。」

俺は情けなくもそんな話の切り出し方をする。少し先を歩いていた玉城は、立ち止まって俺を振り返り、ぎこちなく微笑んだ。

「…そうだね、東条君。」

――東条『君』。
昔は…東条、って呼んでいたのに。俺と距離を置こうとしているのか、もう、無関係だと言いたいのか。俺だって、今さらチャンスがあるとは思っていない。だけど、こうして目の前にすると、玉城はやっぱりきれいだし…胸は熱くなるし、切なくなる。

「……あのさ、」

俺…玉城に何を話したかったんだっけ。
付き合いたい、だなんて思っていない。告白する前の、ただ楽しかった頃に戻れるとも思っていない。
ずっと本当の気持ちを隠して、玉城の傍にいた。友達だという顔をして。だけど、俺のしたことで玉城が笑ってくれると、本当に――嬉しかったんだ。

「…元気だったか?」

顔を上げると、夕焼けに染まり始めた金色の光の中で、キラキラ光ってるみたいに綺麗な玉城がいた。…光の天使、か。本当に…そうなのかもしれない。

「…うん。」

玉城は微笑みを浮かべた。
朝、教室に駆け込み玉城の席に駆けよって、おはようと声をかけると、玉城は俺を見上げて――そうやって笑った。

「…写真集さ、めちゃくちゃかっこよかったよ。」
「…え?」

玉城は目を丸くして、小さく噴出した。

「あはは…かっこいいなんて初めて言われた。」
「えっ?あっ、いや!もちろん写真はすげー綺麗だったけどさ、そうじゃなくて!…記者会見で、言ってただろ。」

玉城は笑うのをやめ、俺を見上げる。

「…すげえかっこいいと思った。」
「……。」
「相変わらず負けず嫌いだな!」

おりゃ、と足元の波を蹴って、玉城の足にしぶきが飛ぶ。玉城はおかえしとばかりに足元の水を掬って、俺の方へ放り投げた。

「うわっ!ちょっ!手は反則だろ!」
「あははは!いいじゃん水着なんだから。」
「言ったな?じゃあそっちも覚悟しろよ…!」

俺は目いっぱい波を掬って、玉城にかぶせた。きゃあ、と楽しげな悲鳴が響く。

「…東条!!」

満面の笑顔で怒ったように俺を呼ぶ玉城。このとんでもなく幸せな時間を、俺はきっと、ずっと忘れない。

「おーい、お前ら!」

遠くから声が響く。砂浜の方を振り向いた玉城の顔が、一瞬――信じられないくらい綺麗な笑顔になった。

「夕飯行くぞ〜、着替えて来い」

そう言ってこちらに手を振っているのは、御幸先輩。

「はーい」

玉城は軽い駆け足で御幸先輩の方へ走って行って、二人は並んで歩きだす。その後姿を見ても、俺はもう…悲しくはなかった。


***


夕食を済ませ、各々部屋に戻る。

「おやすみ〜」
「寝坊すんなよ」

ホテルの廊下を歩き、声を掛け合う。
牧瀬と部屋に入ろうとする玉城を、御幸先輩はじっと見つめる。玉城はわかっていたように振り向いて、御幸先輩に微笑んだ。

「…おやすみ。」
「おやすみなさい。」

ふたりはなんだか特別な空気を残して、玉城たちの部屋のドアが閉まる。…なんか…妙な気持ちで見てしまうから、やめてほしいな…。
御幸先輩とふたりで部屋に入ると、途端に静かになった。御幸先輩はずんずん部屋の奥に入っていく。

「俺こっちで寝ていい?」
「えっ?あっ!ど、どうぞ」

御幸先輩は断りを入れて窓際のベッドをとり、疲れたように横たわって深く息を吐いた。
…き、気まずい…!

部屋に備え付けられたペットボトルの水を、俺は意味もなく開けて一口飲む。…ぬるい。冷蔵庫に入れておこう。
御幸先輩はスマホを弄り始めた。…静かだな。落ち着かない。

「あ…あの。」
「ん?」

俺がおずおずと声をかけると、御幸先輩はちらりと俺を見た。

「お風呂、先にどうぞ」
「あぁ、うん」

御幸先輩は返事をした後、しばらくスマホを弄ってから、立ち上がって脱衣所へ入って行った。少ししてシャワーの音が聞こえてきて、俺は脱力したようにベッドに座る。…沢村か降谷の部屋にでも遊びに行こうかな。

ピコン、と軽快な音が響いた。御幸先輩のスマホにメッセージが届いたらしい音だった。
思わず画面がさらされたままのスマホを見たけど、それはメッセージではなくただのシステム関係の、なにかの通知だった。
それよりも、目に入ったのは――通知の後ろの、ホーム画像。これ…玉城じゃん。しかもわりと昔の…まだ高校生だった頃。1年…いや、2年の頃かな?まだ髪が長くて、制服姿で、寒そうにマフラーに埋まって、きらきらした瞳をカメラに向けて、はにかんでいる。…付き合い始めた頃かな。こんなふうに…普通に高校生カップルしてたんだな。全然、知らなかった。
…っていうか御幸先輩、こういうことするんだ。意外だな…。
だけど、なんとなく納得した。
俺は玉城のことを特別だとか、夢みたいな存在のように感じていたけど、御幸先輩にとっては…いや、2人にとっては、お互いがいて当たり前で、すごく近い存在なんだ。
なんか…やっぱり、羨ましくて、少し悔しい。

シャワーの音が止まり、俺は慌てて自分のベッドに戻る。しばらくして、部屋着に着替えた御幸先輩が、濡れた髪を無造作に拭きながら、脱衣所から出てきた。
…この人やっぱり格好良いな。男の俺から見てもイケメンだと思う。

「風呂空いたぞ。」
「あ…は、はい!」

不意に御幸先輩が俺を見てそう声をかけてきて、俺は慌てて立ち上がり、風呂場に向かうのだった。

 


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