071
すっかり冷え込んできた冬の初め。
事務所に立ち寄った帰り、入り口で光とばったり会った。
「光!仕事終わったの?」
「ううん。今戻ってきて…また別の撮影にこれから行くところ。」
「そっか〜〜。大忙しだね。」
「おかげさまで。」
ふたりで談笑していると、光の後ろから一人、女の子が入ってくる。この事務所に所属している光の先輩モデルで、名前は…森田桃。自慢のFカップバストを武器に、主にグラビアで売出し中の、まだまだ無名のモデルだ。容姿は結構美人だし、スタイルもいいけど…他のモデルへの当たりがきついんだよね。
私も何度も嫌味言われたけど…最近一番の標的になってるのは、
「いたっ!…ちょっと、邪魔なんだけど。」
「…すみません。」
自分からぶつかっておいて、森田桃は光を強く睨みつけて、ヒールを鳴らし去っていく。
「…相変わらず嫌な女〜〜!」
「ほっとこうよ。」
文句の一つでもつけてやろうと一歩踏み出した私の腕を、光はそっと掴んで止める。
「光、あんなことされてムカつかないの?」
「別に。いちいちムカついても疲れるだけだし。」
光はどうでもよさそうに呟いて、スマホで時刻を確認する。
「あ、ごめんもう行くね。」
「う、うん…気を付けて」
去っていく光の背中を、私は複雑な思いで見送った。
***
「それで光、ちっとも怒らないんですよ〜〜!」
「ふーん」
例のごとく倉持さんの家に上がり込み、ビールをいただきながら愚痴る。倉持さんはダンベルを持ち上げながら相槌を打つ。
「きっと同じ時期に出した自分のグラビアの売れ行きがボロ負けだったから、僻んでるんですよ。」
「ふーん」
「ちょっと、真面目に聞いてます!?」
「聞いてる聞いてる」
倉持さんはダンベルを左手に持ち替え、また筋トレを始める。…あんまり聞いてないな。
「…まあでも一番の原因はやっぱりあれかなー。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「…なんだよ、さっさと言えよ。」
渋い顔をして催促した倉持さんを、私はにんまりと見つめる。
「なあんだ、やっぱり気になるんじゃないですか〜」
「はぁ!?そこまで言っておいて止めるのはなんか気持ちわりいだろうが!」
「素直に光が心配だって言えば良いのに〜」
「いいからさっさと言えよ!」
全く素直じゃないんだから、とつぶやいて、私はじっと倉持さんを見た。
「森田桃って、蒼井颯斗の元カノなんですよ。」
「……マジ?」
「といっても、蒼井颯斗が売れる前ですけどね。有名になった途端、ポイですよ。酷いですよね〜」
「ふーん…」
「でもまあ蒼井颯斗はいろんなモデルや女優をとっかえひっかえしてて、裏では共演者キラーって呼ばれてましたし…森田桃も、面食いの男好きで、周りのイケメンにはすぐ手を付けてましたから、あのふたりはお互いたいして好きじゃないんです。ただのプライドで目をつけられて、光からしたらいい迷惑ですよ。」
「芸能界はこえーなー」
倉持さんは他人事のように呟いて、筋トレを再開する。
「…大体、森田桃ってまぁまぁ美人だし、スタイルもいいけど。光に勝ってるとこなんて、ひとつもないし…」
なんだか気が済まなくてそう呟くと、倉持さんは目を丸くしてダンベルを置き、私を見た。
「…なんですか?」
「いや、お前がそんな風に人のこと言うなんて、珍しいと思って」
「…悪口言いたくもなりますよ。光が心配だし…」
「お前、ほんと玉城さん好きだよな〜。惚れてんの?」
「…あいにく私の恋愛対象は男性だけど…もし私が男だったら絶対、惚れてますね。」
「…あっそ」
「あー私男じゃなくてよかった!男だったら光への叶わない恋に翻弄される倉持さんみたいになるところだったぁ〜」
「おい。」
倉持さんの機嫌を損ねてしまったので、はぐらかすために私はスマホを取り出す。
「森田桃の写真見ます?」
倉持さんは一瞬鬱陶しそうに顔を顰めたけど、興味には勝てないようで私の隣へやって来た。
「これが一番最近出したグラビア写真です。」
そう言って見せたのは、ヤシの木を背景に立つ、ショッキングピンクの水着を着て全身に水を滴らせている森田桃。ばっちりメイクで胸とお尻を突き出し、挑発的なポーズをとっている。光が写真集で見せた、自然で神秘的で耽美な雰囲気とは、まるで真逆のタイプだ。
「ふーん、美人じゃん」
「性格きっついですよぉ?」
「まぁ、グラビアに性格は関係ねーし」
「なんでさっきからちょっと森田のこと擁護してるんですか!」
「別に擁護なんてしてねーよ。お前がディスるからそうなっちまうんだよ。」
むう…納得いかない。倉持さんだって、光のことが好きなくせに。
「なんなんですかそれ!じゃあ森田と光、どっちのほうが可愛いと思います!?」
「はぁっ!?なっ…い、意味わかんねーっつーの!!」
「いいから言ってください!正直に!!」
「……っ」
倉持先輩はにわかに赤くした顔で、小さな声で、呟いた。
「…た……玉城さん」
私はにんまりと笑い、立ち上がった。
「ですよね!!じゃ、満足したので帰りまーす。おやすみなさーい!」
「……マジで何しに来たんだお前…」
事務所に立ち寄った帰り、入り口で光とばったり会った。
「光!仕事終わったの?」
「ううん。今戻ってきて…また別の撮影にこれから行くところ。」
「そっか〜〜。大忙しだね。」
「おかげさまで。」
ふたりで談笑していると、光の後ろから一人、女の子が入ってくる。この事務所に所属している光の先輩モデルで、名前は…森田桃。自慢のFカップバストを武器に、主にグラビアで売出し中の、まだまだ無名のモデルだ。容姿は結構美人だし、スタイルもいいけど…他のモデルへの当たりがきついんだよね。
私も何度も嫌味言われたけど…最近一番の標的になってるのは、
「いたっ!…ちょっと、邪魔なんだけど。」
「…すみません。」
自分からぶつかっておいて、森田桃は光を強く睨みつけて、ヒールを鳴らし去っていく。
「…相変わらず嫌な女〜〜!」
「ほっとこうよ。」
文句の一つでもつけてやろうと一歩踏み出した私の腕を、光はそっと掴んで止める。
「光、あんなことされてムカつかないの?」
「別に。いちいちムカついても疲れるだけだし。」
光はどうでもよさそうに呟いて、スマホで時刻を確認する。
「あ、ごめんもう行くね。」
「う、うん…気を付けて」
去っていく光の背中を、私は複雑な思いで見送った。
***
「それで光、ちっとも怒らないんですよ〜〜!」
「ふーん」
例のごとく倉持さんの家に上がり込み、ビールをいただきながら愚痴る。倉持さんはダンベルを持ち上げながら相槌を打つ。
「きっと同じ時期に出した自分のグラビアの売れ行きがボロ負けだったから、僻んでるんですよ。」
「ふーん」
「ちょっと、真面目に聞いてます!?」
「聞いてる聞いてる」
倉持さんはダンベルを左手に持ち替え、また筋トレを始める。…あんまり聞いてないな。
「…まあでも一番の原因はやっぱりあれかなー。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「…なんだよ、さっさと言えよ。」
渋い顔をして催促した倉持さんを、私はにんまりと見つめる。
「なあんだ、やっぱり気になるんじゃないですか〜」
「はぁ!?そこまで言っておいて止めるのはなんか気持ちわりいだろうが!」
「素直に光が心配だって言えば良いのに〜」
「いいからさっさと言えよ!」
全く素直じゃないんだから、とつぶやいて、私はじっと倉持さんを見た。
「森田桃って、蒼井颯斗の元カノなんですよ。」
「……マジ?」
「といっても、蒼井颯斗が売れる前ですけどね。有名になった途端、ポイですよ。酷いですよね〜」
「ふーん…」
「でもまあ蒼井颯斗はいろんなモデルや女優をとっかえひっかえしてて、裏では共演者キラーって呼ばれてましたし…森田桃も、面食いの男好きで、周りのイケメンにはすぐ手を付けてましたから、あのふたりはお互いたいして好きじゃないんです。ただのプライドで目をつけられて、光からしたらいい迷惑ですよ。」
「芸能界はこえーなー」
倉持さんは他人事のように呟いて、筋トレを再開する。
「…大体、森田桃ってまぁまぁ美人だし、スタイルもいいけど。光に勝ってるとこなんて、ひとつもないし…」
なんだか気が済まなくてそう呟くと、倉持さんは目を丸くしてダンベルを置き、私を見た。
「…なんですか?」
「いや、お前がそんな風に人のこと言うなんて、珍しいと思って」
「…悪口言いたくもなりますよ。光が心配だし…」
「お前、ほんと玉城さん好きだよな〜。惚れてんの?」
「…あいにく私の恋愛対象は男性だけど…もし私が男だったら絶対、惚れてますね。」
「…あっそ」
「あー私男じゃなくてよかった!男だったら光への叶わない恋に翻弄される倉持さんみたいになるところだったぁ〜」
「おい。」
倉持さんの機嫌を損ねてしまったので、はぐらかすために私はスマホを取り出す。
「森田桃の写真見ます?」
倉持さんは一瞬鬱陶しそうに顔を顰めたけど、興味には勝てないようで私の隣へやって来た。
「これが一番最近出したグラビア写真です。」
そう言って見せたのは、ヤシの木を背景に立つ、ショッキングピンクの水着を着て全身に水を滴らせている森田桃。ばっちりメイクで胸とお尻を突き出し、挑発的なポーズをとっている。光が写真集で見せた、自然で神秘的で耽美な雰囲気とは、まるで真逆のタイプだ。
「ふーん、美人じゃん」
「性格きっついですよぉ?」
「まぁ、グラビアに性格は関係ねーし」
「なんでさっきからちょっと森田のこと擁護してるんですか!」
「別に擁護なんてしてねーよ。お前がディスるからそうなっちまうんだよ。」
むう…納得いかない。倉持さんだって、光のことが好きなくせに。
「なんなんですかそれ!じゃあ森田と光、どっちのほうが可愛いと思います!?」
「はぁっ!?なっ…い、意味わかんねーっつーの!!」
「いいから言ってください!正直に!!」
「……っ」
倉持先輩はにわかに赤くした顔で、小さな声で、呟いた。
「…た……玉城さん」
私はにんまりと笑い、立ち上がった。
「ですよね!!じゃ、満足したので帰りまーす。おやすみなさーい!」
「……マジで何しに来たんだお前…」