あ〜…イライラする。

なんだよドッキリって。人のことおもちゃにしやがって。あの女…なーんか変だと思ったんだよな。やたら露出多くて、厚化粧で…べたべたしてくるし。…うわ、ちょっと香水うつってるかも。最悪…
…今日は光、夜は家にいるって言ってたっけ。早く帰って光に癒されよっと。

マンションに着き、エレベーターに乗って、部屋にたどり着く。ドアを開けると、その先のリビングのドアが開いていて、キッチンの方から光がパタパタ走ってきてこちらを覗いた。

「あ、おかえりなさい。」

夕食でも作っていたんだろうか、エプロン姿の光に思わず頬が緩む。あー可愛い。幸せ。

「早かったですね…」

そう笑顔を浮かべる光に駆け寄って、両手を伸ばす。

「ただいま〜」
「きゃっ…!?」

胸に触れて軽く揉むと、光は顔を赤くして小さく悲鳴を上げた。あ〜、柔らけぇ〜癒される…
緩み切った顔でこのままソファに押し倒しちゃおっかな…なんて考えていた俺の視線の先に、倉持が引きつった顔を赤くして立ち尽くしていた。その横のソファには、マグカップを片手に持った牧瀬もいる。

「あれ…なんでお前らいるの?」
「んなことより帰るなり何してんだよテメーは!!」
「いや〜誰かいるとは思わなくて…はっはっは」

「御幸さんっていつもこんな感じなの?」
「うーん…胸はよく触ってくるかな…」
「わーお、御幸さんっておっぱい星人だったのかぁ」

「ちょっと光、あんま牧瀬に変なこと言わないで」
「テメーがその変なことをしてるのがわりーんだろが!」

倉持にキレられながら部屋を見渡す。

「で…何してんの?」

エプロン姿で調理中の光、食卓に食器を並べている倉持、ソファでDVDを吟味している牧瀬…。聞かなくても大体わかるけど。

「今日御幸さんが夜飲みに行くから光が夕食一人だって聞いたんで、遊びに来てたんですよ。」
「ふーん。それ何のDVD?」
「倉持さんが持ってきた、厳選ホラー映画です。」
「俺んちに亮さんが置いてったやつな」
「ふーん…」
「御幸さん、ずいぶん帰り早かったですね?」

牧瀬の言う通り、時刻はまだ20時前。だって、結局俺を呼び出した奴は来なかったし。

「向こうの都合が悪くてなしになったんだよ。」
「そうなんですか。じゃあ一也さんもごはん食べますか?」
「うん、何かある?」
「今日はビーフシチューなので、人数増えても大丈夫ですよ。」

光は鍋を開けてみせる。いい匂いが広がった。光は料理も上手い。

「ラッキー。早く帰ってきてよかった〜」

ニヤける俺を、倉持はウザそうに睨む。こいつもなんだかんだうちの飯をたかりに来てるくせに。
ふと、光は思いついたように俺を見つめた。…なんだ?真面目な顔で、何かを考えながら…肩口に顔を近づけて、

「…香水つけてます?」

と、呟いた。…あ、ま、まさか。

「えっ!?まさか御幸さん…!?」
「御幸テメェ…!」
「おい悪ノリすんな、落ち着け。」

食事の支度を進めながら、俺は先ほどの出来事を話した。

「ふーん、ドッキリねぇ」

倉持はシチューをほおばりながら相槌を打つ。もうどうでもよくなってきたようだ。というか、目の前の食事に夢中だ。

「…で、仕掛け人の女が森田桃?」
「あー、うん、確かそんな名前」
「……。」

訊いてきた牧瀬は急に顔を顰める。

「…どうかした?」
「…その人、光と同じ事務所のモデルで…やな奴なんですよ。」

牧瀬がそんなに人に対して嫌悪感をあらわにするのは珍しくて、俺は思わず倉持を見る。しかし倉持は特に驚いた様子もなく肩をすくめると、またシチューを口に運んだ。

「まぁ御幸さんがひっかからなくてよかったですけど…」
「ひっかかんねーよ…」
「だってあいつ、絶対それ本気で口説いてましたよ。」
「いや…仕事だろ、撮影してるんだし…」
「甘い!!」

牧瀬が俺を睨みつけてきて、俺も倉持も、光までも目を丸くして食事の手を止めた。

「あの女、手が早くて男好きで有名なんですよ。油断してたらやられちゃいますよ!」
「油断も何も、もう会うこともねーし…」
「いいから、覚えといてください!あの女に近づいちゃだめですよ!これは御幸さんを信用してないとかじゃなくて、心配してるんですからね!ああいう女は何するかわかったもんじゃないんだから!」
「お…、おう」

俺が頷くと、牧瀬は一応納得した様子で食事を再開した。

「…そんなコワイ奴なの?」

こっそりと、前に座る光に訊く。光はシチューの牛肉をスプーンで転がしながら、うーんと相槌を打った。

「それほど親しくないからよく知らないけど…」

なんだ、光はとくに何とも思ってないみたいじゃないか。牧瀬が大袈裟なんじゃ…

「極力顔は見たくないですね。」

カツン、と軽い音を立てて、光のスプーンが柔らかな牛肉を割った。
俺が思わず倉持を横目で見ると、倉持も息をのんで俺を見ていた。



***


倉持と牧瀬が帰り、光は風呂へ、俺はキッチンの片づけを終えてソファに深く腰を下ろす。テレビでも見ようかとリモコンを手に伸ばした時だった。聞きなれない着信音が部屋に響いた。
なんだ?光の電話か?自分のではないことは確かだ。…結構長く鳴ってるな。
俺は立ち上がり、音の正体を探した。音が聞こえる方へ歩いていくと、自分のバッグにたどり着く。
…え?俺?いやでも、こんな着信音は知らない。
半信半疑でバッグを開けると、まぶしく点灯する液晶画面が目に入った。…知らないスマホだ。誰のだ?ピンク色。…全く心当たりがない。
発信者の番号は登録されたものではなく、知らない番号。まだ鳴っている。もしかしたらこのスマホの持ち主かもしれない。誰かのスマホが何かの拍子で俺のバッグに入ったのか?それとも間違えて入れたとか。まさかなぁ。
少し迷って、俺は通話ボタンに触れた。

『あっ…もしもし?』

電話の相手は女だった。

「すみません俺、このスマホの持ち主じゃなくて…」

どう説明すべきか迷いながら話し始めると、それを遮るように女が嬉しそうな声で言った。

『あれ?その声もしかして…御幸さん?』

え?俺を知ってる奴…?

「そうですけど…どちら様?」
『私ですよぉ!今日お会いした、森田桃ですぅ!』

ゲッ…。え、でもなんで…?

『よかったぁ〜。私のスマホ、御幸さんが拾ってくれてたんだ〜!』
「いや、拾ったっつーか…」
『あの〜、ほんっとうに申し訳ないんですけど、私、そのスマホがないとすっごく困っちゃうんですよ〜!なので明日のお昼ごろとかお会いできませんか?』

…まさか。まさかな。

「…わかりました。じゃあ1時に今日の店の前にいます」
『ほんとうですか〜!?わ〜、よかった!ほんとうにすみません〜!』

女のわざとらしい猫なで声が耳の中に響いて、俺は顔を顰めてスマホを少し離した。

『じゃあまた明日…待ってますね!』

通話が切られ、どっと疲労感が押し寄せた。まさか、とは思うけど…。


『いや、わざとだろそれは』

すぐに倉持に電話して事の次第を話すと、きっぱりとそう告げられた。

「…やっぱり?」
『牧瀬の言う通りだったな〜。お前結構馬鹿だな』
「だってまさかバッグにスマホ仕込まれてるなんて思わねーじゃん」
『玉城さんには言ったの?』
「…言えるかよ。機嫌悪くなりそう」
『あ〜…』

納得するのかよ。

「だからさ倉持…お願い!」
『は?…何。』
「明日、一緒に着いてきて。」
『……。』

電話の向こうから深いため息が聞こえる。

『…しょうがねーな。』
「さすが倉持クン。助かるぜ〜」
『ひとつ貸しな。』
「わかってるって!」

仰々しく感謝を伝えてウザがられながら電話を切った。
さてと…。
…風呂行ったら光怒るかなー?怒るよなー…。…やめとくか。…はぁ。

 


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