082
正直驚いて、その場から動けなかった。
倉持が、俺も見たことの無いような優しい顔をして――光の額にキスをした。ただただショックで、腹も立ったし、胸ぐら掴んで殴りかかってやろうかとも思った――けど、倉持はその後何をするでもなく、今にも泣きそうな顔で…光を見つめていた。
その時、俺は昔の自分を思い出した。光の気持ちがわからなくて…嫌われているかもとすら思って…東条との仲を疑ったり、哲さんとの仲を疑ったりして。苦しくて、もどかしくて、だけどどうすることもできなくて。
だってどうしても、光はどうしようもなくまぶしくて、愛おしくて、失う事なんて考えられなかった。だから…同情、と言えばそうなんだと思う。光自身、倉持を信頼していることもわかっていたし…もし、これまでの何かが少し違っていたら、もしかしたら、今光の隣にいるのは、俺じゃなく倉持だったかもしれない、とさえ思った。
光の気持ちを疑っているわけじゃない。むしろ信じてるからこそ、倉持を許せた。
それに…俺自身、倉持に救われたこともあるし、必要だと思う。本人には絶対言わないけど。
俺たちが光の病室に戻ってくると、光は目覚めていて、ベッドの上で枕を背もたれに上半身を起こしていた。その傍らには牧瀬が追いすがるように光に泣きついている。
「光〜〜!!昨日は本当に、本当にごめん…っ私、光が辛いのわかってるのに…責めたりして…自分のことしか、考えてなくてぇぇぇ」
「司、もうわかったから…私の方が悪かったんだし…」
「うううぅぅぅぅ」
「おい牧瀬…病み上がり相手にあんま騒ぐなよ」
倉持が声をかけると、光は窺うように倉持を見上げた。二人は一瞬何かを思ったように見つめ合い、倉持が笑みを浮かべると、光も安堵したように微笑んだ。その表情は二人とも清々しくて、安堵したような穏やかさだった。
「光、これ。着替え持って来たから。」
朝持ってきていたボストンバッグを指すと、光はありがとう、と微笑む。
「じゃ、話し合いましょうか。」
牧瀬がベッドを囲むように椅子を3脚並べ、そのうちの一つに座ると、俺と倉持にも座るよう促した。
「…何の話?」
俺も倉持も光もきょとんとして牧瀬を見る。
「何って、森田桃の話に決まってるじゃないですか!」
怒鳴り返された俺は口をつぐんだ。
「ここまでされて黙ってられませんよ!光、もう止めても無駄だからね!私、あいつのこともう許せない!!」
「…と、止めないよ」
圧され気味の光に代わり、倉持が口を開く。
「でもどうするんだよ?」
「そりゃ、もう光や御幸さんに近づかないように痛い目みせてやるんですよ。」
「……。」
何か言いかけたように黙り込んだ倉持に、牧瀬は目ざとく気が付いた。
「倉持さん、そういえばこの間森田に呼び出されたとき、何言われたんですか?」
「え?」
目を丸くした光。焦る俺。
「おいお前…牧瀬に話したのかよ?」
「一也さん、何の話ですか?」
「あ、いや…」
まずい。この状況最悪じゃないか?けど、やましいことなんてねーし…クソッ、やっぱり正直に話しておくんだった。
「…あー、御幸も誤解してるから、最初から説明させてくれ」
「え?」
手を上げて流れを断ち切る倉持。…俺も誤解?なんのことだ?
全員が注目する中、倉持は話し始めた。
「まず…玉城さんは知らないけど、森田は初めて御幸に会った時…あの番組の企画の時な。御幸に目をつけて、御幸のバッグに自分のスマホを仕込んだんだよ。」
「え…」
「それで落としたと装って、御幸を呼び出した。俺は御幸に頼まれてその時同行したけど、必要以上の会話もしてないし、何も起きなかった。」
「……。」
何もないと聞いて、ひとまず口をつぐんだ光。俺も胸をなでおろした。
ナイス倉持。やっぱり持つべきは倉持だぜ。
「そんでそのあと…その日の夜。今度は俺の鞄からあいつのスマホが出てきた。多分…つーか当たり前だけど、御幸に同行したときに仕込まれたんだと思う。ここまでは牧瀬も知ってるよな?」
「は、はい。」
「司、知ってたの?」
「その日の夜、倉持さんちで飲んでた時に、森田のスマホが鳴ったの。…それで倉持さんも仕込まれたことに気付いたの。」
「そんでその時の呼び出しが、今牧瀬が言った話。…だよな、牧瀬?」
「はい。」
話が整理されたところで、倉持は仕切りなおすように息を吐いた。
「結果から言うと…別に何も言われてない。」
「え?…そんなわけないじゃないですか。じゃあなんでわざわざ呼び出したんですか?」
「……。」
倉持は口ごもり、目を泳がせた後、やっぱり首を横に振った。
「…マジでなんもねーって。スマホ返して、もう面見せんなっつって、逃げてきた」
「えー?ほんとにぃ?」
「ほんとだよ」
倉持は言い切ったが、牧瀬同様、俺もどこか腑に落ちないのだった。
「…光、近いうちにまた森田と会う事ある?」
「えっと…」
光は少し考えて、頭を横に振った。
「…ないよ。」
「じゃあ、とりあえずは安心か…。」
「普段はよく顔合わせんの?」
何気なく聞くと、光と牧瀬は顔を見合わせ、同時に首を傾げた。
「最近は撮影で会うことも多かったけど…」
「今まではあんまり会わなかったよね。」
「光、これから映画の撮影も始まるし、また暫く顔見ることもないんじゃない?」
「そうかも。来月からロケだし…」
「じゃあひとまず平気なんじゃねーの。物理的に距離が空いて会うこともなくなれば、向こうもそのうち執着しなくなるだろ。」
倉持が拍子抜けしたように――そしてどこか安堵したように言った。そうかもしれませんね、と牧瀬も微笑んだ。
「でも!!油断は禁物!!ですからね!!」
「わかったわかった…」
牧瀬の迫力に圧されながら、久々に光の笑顔をたくさん見れたような気がして、俺も嬉しくなるのだった。
倉持が、俺も見たことの無いような優しい顔をして――光の額にキスをした。ただただショックで、腹も立ったし、胸ぐら掴んで殴りかかってやろうかとも思った――けど、倉持はその後何をするでもなく、今にも泣きそうな顔で…光を見つめていた。
その時、俺は昔の自分を思い出した。光の気持ちがわからなくて…嫌われているかもとすら思って…東条との仲を疑ったり、哲さんとの仲を疑ったりして。苦しくて、もどかしくて、だけどどうすることもできなくて。
だってどうしても、光はどうしようもなくまぶしくて、愛おしくて、失う事なんて考えられなかった。だから…同情、と言えばそうなんだと思う。光自身、倉持を信頼していることもわかっていたし…もし、これまでの何かが少し違っていたら、もしかしたら、今光の隣にいるのは、俺じゃなく倉持だったかもしれない、とさえ思った。
光の気持ちを疑っているわけじゃない。むしろ信じてるからこそ、倉持を許せた。
それに…俺自身、倉持に救われたこともあるし、必要だと思う。本人には絶対言わないけど。
俺たちが光の病室に戻ってくると、光は目覚めていて、ベッドの上で枕を背もたれに上半身を起こしていた。その傍らには牧瀬が追いすがるように光に泣きついている。
「光〜〜!!昨日は本当に、本当にごめん…っ私、光が辛いのわかってるのに…責めたりして…自分のことしか、考えてなくてぇぇぇ」
「司、もうわかったから…私の方が悪かったんだし…」
「うううぅぅぅぅ」
「おい牧瀬…病み上がり相手にあんま騒ぐなよ」
倉持が声をかけると、光は窺うように倉持を見上げた。二人は一瞬何かを思ったように見つめ合い、倉持が笑みを浮かべると、光も安堵したように微笑んだ。その表情は二人とも清々しくて、安堵したような穏やかさだった。
「光、これ。着替え持って来たから。」
朝持ってきていたボストンバッグを指すと、光はありがとう、と微笑む。
「じゃ、話し合いましょうか。」
牧瀬がベッドを囲むように椅子を3脚並べ、そのうちの一つに座ると、俺と倉持にも座るよう促した。
「…何の話?」
俺も倉持も光もきょとんとして牧瀬を見る。
「何って、森田桃の話に決まってるじゃないですか!」
怒鳴り返された俺は口をつぐんだ。
「ここまでされて黙ってられませんよ!光、もう止めても無駄だからね!私、あいつのこともう許せない!!」
「…と、止めないよ」
圧され気味の光に代わり、倉持が口を開く。
「でもどうするんだよ?」
「そりゃ、もう光や御幸さんに近づかないように痛い目みせてやるんですよ。」
「……。」
何か言いかけたように黙り込んだ倉持に、牧瀬は目ざとく気が付いた。
「倉持さん、そういえばこの間森田に呼び出されたとき、何言われたんですか?」
「え?」
目を丸くした光。焦る俺。
「おいお前…牧瀬に話したのかよ?」
「一也さん、何の話ですか?」
「あ、いや…」
まずい。この状況最悪じゃないか?けど、やましいことなんてねーし…クソッ、やっぱり正直に話しておくんだった。
「…あー、御幸も誤解してるから、最初から説明させてくれ」
「え?」
手を上げて流れを断ち切る倉持。…俺も誤解?なんのことだ?
全員が注目する中、倉持は話し始めた。
「まず…玉城さんは知らないけど、森田は初めて御幸に会った時…あの番組の企画の時な。御幸に目をつけて、御幸のバッグに自分のスマホを仕込んだんだよ。」
「え…」
「それで落としたと装って、御幸を呼び出した。俺は御幸に頼まれてその時同行したけど、必要以上の会話もしてないし、何も起きなかった。」
「……。」
何もないと聞いて、ひとまず口をつぐんだ光。俺も胸をなでおろした。
ナイス倉持。やっぱり持つべきは倉持だぜ。
「そんでそのあと…その日の夜。今度は俺の鞄からあいつのスマホが出てきた。多分…つーか当たり前だけど、御幸に同行したときに仕込まれたんだと思う。ここまでは牧瀬も知ってるよな?」
「は、はい。」
「司、知ってたの?」
「その日の夜、倉持さんちで飲んでた時に、森田のスマホが鳴ったの。…それで倉持さんも仕込まれたことに気付いたの。」
「そんでその時の呼び出しが、今牧瀬が言った話。…だよな、牧瀬?」
「はい。」
話が整理されたところで、倉持は仕切りなおすように息を吐いた。
「結果から言うと…別に何も言われてない。」
「え?…そんなわけないじゃないですか。じゃあなんでわざわざ呼び出したんですか?」
「……。」
倉持は口ごもり、目を泳がせた後、やっぱり首を横に振った。
「…マジでなんもねーって。スマホ返して、もう面見せんなっつって、逃げてきた」
「えー?ほんとにぃ?」
「ほんとだよ」
倉持は言い切ったが、牧瀬同様、俺もどこか腑に落ちないのだった。
「…光、近いうちにまた森田と会う事ある?」
「えっと…」
光は少し考えて、頭を横に振った。
「…ないよ。」
「じゃあ、とりあえずは安心か…。」
「普段はよく顔合わせんの?」
何気なく聞くと、光と牧瀬は顔を見合わせ、同時に首を傾げた。
「最近は撮影で会うことも多かったけど…」
「今まではあんまり会わなかったよね。」
「光、これから映画の撮影も始まるし、また暫く顔見ることもないんじゃない?」
「そうかも。来月からロケだし…」
「じゃあひとまず平気なんじゃねーの。物理的に距離が空いて会うこともなくなれば、向こうもそのうち執着しなくなるだろ。」
倉持が拍子抜けしたように――そしてどこか安堵したように言った。そうかもしれませんね、と牧瀬も微笑んだ。
「でも!!油断は禁物!!ですからね!!」
「わかったわかった…」
牧瀬の迫力に圧されながら、久々に光の笑顔をたくさん見れたような気がして、俺も嬉しくなるのだった。