「沢村!お前んちまともに調味料もねーじゃねーか!」

台所に立って愕然とする。沢村はテーブルにビールを並べて暢気にご満悦だ。

「あれ?まじで?」
「お前…自分の家のことだろ!しっかりしろよ、どーすんだよ鍋」
「金丸何か買ってきてくれよ」
「なんで俺がお前にパシられなきゃなんねんだよ!…そうだ牧瀬!今こっちに向かってるんだろ、スーパー寄って何か買ってきてもらえよ」
「あっ、そっか!」

電話をかけ始める沢村を横目に、東条と狭い台所に並んで野菜を切る。

「なんか高校時代を思い出すね」
「あー、確かに」

いつでもマイペースな東条に脱力に似た癒しを感じていると、沢村の様子がおかしいことに気付いた。

「えっ何?あぁ、そんなの全然いいよ!別にヘーキだろ!なんとかなるなる!」

「おい何の話してんのあいつ…なんかこえーんだけど」
「沢村が言ってると確かにちょっと不安がよぎるね」

沢村は電話を切り、台所の俺たち、こたつに埋まる降谷、テーブルの上を片付けている小湊を見渡した。

「なぁ、玉城も来るって!いいよな?」

「え!?」
「は!?」

俺と東条が同時に驚嘆の声を上げる。

「何?」

きょとんとしてビールを開ける沢村…なんでこんなに暢気なんだこいつ。

「いや…いいのかよ玉城さんがこんなとこ来て」
「こんな所とはなんだ!俺の家に向かって!」
「お前の家だから言ってんだよ!バカ!」
「別に平気だろ、牧瀬も来るしー」

暢気な沢村がビールを置いた、そのすぐ横に置いてある本…。それに気づくなり、俺は光速のごとき速さで本を手に取る。

「つかそれならこれ隠せよ!!本人来るんだぞ!!」
「あっ、確かにそれはヤベーな!あ〜、どこ隠すかな…」

沢村は玉城さんの写真集を持ってウロウロし始める。

「小湊、わりーけどこの辺ももうちょい片付けといて」
「うん、そうだね…女子たちが来るのにこれはね…」
「わるい、俺も台所終わったら手伝うから。…おい沢村!お前も少しは働けよ、お前の部屋だぞ!降谷も起きて手伝え!!」

突然の思いがけない来訪者に、俺たちは慌てふためくのだった。


***


インターホンが鳴り、部屋ににわかに緊張が走る。

「牧瀬かー?開いてるぞ!」

…沢村除く。
沢村の声の後、玄関が開く音がした。

「来たよ〜!おじゃましまーす」
「お邪魔します…」

た…玉城さんの声。マジで来たよ…なんかまだ現実味がない。
けど、部屋に入ってきた牧瀬の後ろから、白いダッフルコート姿の玉城さんがあらわれて…俺は気が動転して立ち尽くした。今やテレビや雑誌でしか見ない有名人…。やっぱめちゃくちゃキレーだな。沢村の部屋にいることに違和感すらあるぜ。だけどどことなくやっぱり、高校時代の面影もある。2年の時同じクラスだったとはいえ…俺のこと覚えてんのかな。
…そ、それより東条!あいつ、大丈夫なのか?失恋して以来、めちゃくちゃ気まずそうだったけど――

「玉城ひさしぶり〜」
「あっ、東条も来てたんだ」

ひらりと手を振る東条、笑顔を向ける玉城さん。
え…ええー!ふ、普通ー!!超普通!!なんで!?こいつらになにがあったんだ!?

「お…おい東条!」
「ん?」

台所に戻り、こっそり東条に耳打ちする。

「お前大丈夫なのかよ?」
「何が?」
「た…玉城さんだよ。お前高校の時…」
「あー、振られたね。」

あっけらかんと言う東条に俺は硬直する。

「でも…夏の終わりごろにさ、テレビの企画で久々に会って…ロケの合間にいろいろ話せてさ。なんかもう、ふっきれたよ。」
「そ…そうか」

な…なんだ。心配して損した気分だぜ…。

「あ、エロ本みーっけ」
「!!?」

牧瀬がソファの裏から雑誌を拾い上げる。隣で玉城さんは動じた様子もなく呆れ顔だが…。
沢村あいつ…あーいうモンは隠せって言ったのに!

「司〜、勝手に見たら悪いよ」
「沢村!なんだよアレ!早く片付けろよ」
「知るかよ俺のじゃねーし!アレ倉持先輩のだし!」
「えっ、これ倉持さんのなの??ちょっと光、来て来て」

倉持先輩の物だと聞いた途端、興味津々にのぞき込む女子二人…な、なんだこの状況!?

「あーあ…倉持先輩が見たら卒倒するね、この状況」
「つーか沢村殺されそう」
「…!!!は、春っち助けてくれぇぇ!!」
「無理だよ…ちゃんと片付けておかない栄純君が悪い」

「わ〜倉持さんって意外と可愛い系が好きなんだ〜」
「そうなんだ…」
「あははは見てこれちょっと光に似てる」
「え!?そうかな…」

ああ…倉持先輩の性癖が筒抜けに…。

「…って、倉持さんの趣味は別にどうでもいいのよ」

突然牧瀬はグラビア誌を閉じて真顔になった。どうでもいいのかよ…あんだけ弄んだくせに…

「沢村君!御幸さんの好みってどういうのか知らない?」
「はぁ?御幸先輩の好み?」

沢村の視線はちらりと玉城さんに移る。

「そりゃ玉城に決まってるだろ。」
「だからあ、そんなことわかってるんだってば。そうじゃなくて、可愛い系とかセクシー系とかさ〜」
「それで電話したのかよ?なんでいきなりそんなこと…」
「いーじゃんべつに。ちょっと気になったの!」

わいわい言い合う二人の隣で赤くなっている玉城さん。あんな玉城さんはレアだ…。

「御幸先輩の好みね〜〜…あ〜〜……あ!そういや、長澤まなみが好きだっつってたな」
「長澤まなみ!?」
「聞いたのかなり昔だけど。ビデオとか持ってたし…」
「うわー有力情報!!ありがとう!!そっかあ、じゃあ御幸さんはセクシー系が好きなのかな〜」
「ああ、見てたグラビアも巨乳のヤツばっかだし、高校の時も高島先生のこといいっつってたし…最近だとほら、アレとかモロ好みなんじゃね?森田桃とか!」
「えっ?…森田桃?」
「おう。セクシー系だし、巨乳だし、ちょっと長澤まなみに似てるし!」
「……。」

無言で顔を見合わせる牧瀬と玉城さん。…な、なんだこの空気。

「…沢村君、よく森田桃なんて知ってるね?」
「?おう牧瀬も知ってんの?俺はこの間テレビで御幸先輩のドッキリで見て知ったんだけどよ」
「あぁ、あれか…」
「御幸先輩ああいう色っぽい感じ好きじゃん!胸なんかこんな…」

自分の胸にジェスチャーで山を作る沢村に詰め寄って後頭部をひっぱたく。

「いって…いきなり何すんだよ金丸!!」
「何すんだはオメーだよ!!オラ鍋とガスコンロの準備でもしてろ!!」

土鍋を沢村に押し付け、降谷も叩き起こし、その場をはぐらかす。ったく女子に向かってなにしてんだアイツは!

「…光?」
「……。」

う…うわ!玉城さん、何かスゲーオーラ出てる…!お、怒ってる…のか?
狼狽える俺に、東条はこっそり耳打ちする。

「やっぱああいうとこ、奥村とちょっと似てるよね。」
「え!?お…奥村?」
「うん。親戚なんだって。あれ…知らなかった?」

し、知らなかった。そう言われてみれば確かにちょっと似てる…か?

「そ…そんなに気にすることないよ光!誰が見ても御幸さんは光にべた惚れだし、それに…森田なんてFカップでしょ?光の方が勝ってるじゃん!」
「えっ」
「えっ…」
「え…」
「……。」

俺、東条、沢村、小湊は言葉に詰まり、俯いた。さりげなく爆弾投下すんじゃねーよ、牧瀬…!F以上ってことかよ…!?い、いくつなんだろ…。

「そうだよね……」

玉城さんはゆらりと立ち上がる。心なしか背中に背負っているオーラが増した気がする。

「司、アレ買いに行くよ。」
「オッケー!」

「え…どこ行くの?」
「アレって…?」

疑問符を浮かべる男たちをよそに、女子二人は荷物をまとめ始める。

「ごめん私たち帰るね!お鍋は置いていくから使って!」
「お邪魔しました。」

止める間もなく女子は部屋を出て行った。静かになった部屋に、鍋の湯が煮立つ音が響く。

「…この部屋こんなにむさくるしかったっけ?」
「一気に花がなくなったな…」
「まあいいじゃん鍋は来たし!蟹食おーぜ蟹!」
「……。」
「降谷君はいいかげんに起きたら?」

 


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