088
「行ってきます。」
翌朝早く、光は事務所の迎えの車に乗り、マンションを出て行った。これから1か月は離れ離れ。なんとなく一人の部屋に戻るのは気が進まなくて、マンション前の自販機でコーヒーを買い、暇をつぶすように飲んだ。
街路樹や民家にはイルミネーションが飾られている。もう12月。クリスマスに向けて、町は色づいていく。
今日の昼飯は何にしようか。一人分の食事は久々だ。
ふと、食卓の向かい側で、嬉しそうに食事をする光が思い浮かぶ。
「早く帰ってこねーかな…」
心の中で思ったつもりが、その言葉は声となって零れ落ちた。思わず周りを見渡して、他に人がいないことを確認して、一人苦笑を浮かべてマンションへと戻るのだった。
***
「…はぁー」
昼前、俺はキッチンに立ち、結局2人分の食事を作っていた。
「ひとりぼっちで寂しいと思って遊びに来てやったんじゃねーか。感謝しろよ、ヒャハハ」
「飯たかりに来ただけのくせに」
ため息をついて、できた料理をさらに盛り付ける。
「まーな。で、昼飯なに?」
「焼きそば」
「焼きそばぁ?随分手抜きじゃねーの」
「誰にでも愛情込めて料理すると思ったら大間違いだ。お前はこれで十分」
「このクソ眼鏡…美味いからいいけど」
食卓で倉持を顔を突き合せ、焼きそばを食べる。
「なんか…高校の時の昼休みを思い出すな」
「あ、やっぱそれ思った?」
「お前と二人で、焼きそばっつーチョイスが」
「購買の焼きそばパン美味かったよなー」
ふと会話が途切れ、俺はため息を零す。
「んだよ、シケたツラして」
「…いや…」
「はっきり言えよ」
おざなりに言った倉持があまりにも清々しく焼きそばを大口で食べるから、俺はモヤモヤを吐き出すつもりで言った。
「…クリスマス会えないんだなぁと思って」
「ヒャハッお前そんな女々しい奴だったか?可愛い彼女がいるだけありがたいと思え」
「1か月は長ぇよ…」
「お前も1か月留守だったことあるじゃん」
「それはだって…忙しかったから何とかなったけど」
「クソ自己中かよ。つーかお前がこれから1か月禁欲生活を送るかと思うと気分がいいぜ」
「別に禁欲ではねーよ…一人ではするよ」
「ほぉ〜久々の右子ちゃんにお世話になるのか」
「つか昼間から下ネタかよ。なんか会話のレベルも退行してんだけど」
嫌そうに顔を歪めると、倉持は無邪気に腹の底から笑う。そこに制服姿の倉持が重なって、やっぱり高校時代みたいだ、と思った。
「いーじゃんたまには。女がいたらできねーような下ネタで盛り上がっても」
「盛り上がるかな〜。経験の差がな〜。」
「テメッ…男同士拳で語り合うか?あ?経験の差見せてやるよ」
「じゃあ言うけど…」
カチャリ、と橋を皿の上に置き、俺は仕切りなおす。
「知ってるか倉持」
「…んだよ改まって」
「女は…生理前、胸がデカくなる」
「なっ……」
倉持は大袈裟に驚いて見せた後、同じように箸をおいた。
「…つっても誤差レベルだろ?なんかそれ聞いたことあるけど、気のせいじゃねーの?」
「いや、ほんとに。見た目もそうだけど触るとすぐわかる」
「ほんとかよ…お前が揉んでデカくなったんじゃねーの?」
「それもあるかもしれないけどそれだけじゃねーんだって。生理前の2〜3日は谷間が全然いつもと違う」
「ふーん…」
顔を背けて相槌を打つ倉持。
「お前今想像した?」
「…あ?」
「光ではすんなよ」
「無茶ゆーな!お前の下ネタは生々しいんだよ」
「……。」
「……。」
沈黙がおり、空の食器を片づけて、コーヒーを並べる。部屋には一気にコーヒーの香りが充満した。そのせいか、倉持は少し落ち着いてコーヒーを飲み始めた。
「お前さー」
「ん?」
「玉城さんのこと、いつから好きだったんだよ」
「……。」
倉持を見る。真剣な顔だ。
「なに、下ネタの次は恋バナ?」
「そういや聞いたことねーと思って。いいから答えろよ」
「え〜どーしよっかな〜」
「少しは俺にも弱味握らせろ。お前のことだからどうせ本人にも言ってねーんだろ。」
「……言っても笑わない?」
「おーたぶんな」
はあ、と誤魔化すように溜息を一つ吐き、澄ましたようにそっぽを向く。
「…一目惚れ」
「……。」
倉持はぽかんとして俺を見て、ヒャハ、と小さく笑い声をもらした。
「ヒャハハハハまじで!?意外〜」
「絶対言うなよ」
「わかってるって!いや〜まじうけるわ」
「うけるな。ほんとに言うなよな…」
一抹の不安を感じながらコーヒーを啜った。
「つーか玉城さん、高校の時マジでモテモテだったよな。学校中で噂になっててさ。漫画かドラマかっつーくらい」
「そうみたいだな」
「うわ余裕顔、腹立つわ〜。俺が聞いた噂だと、毎週2~3人には告られてたらしいぜ。靴箱は毎日ラブレターだらけだったってよ」
「あっそ」
「お前相当恨まれたと思うぜ〜。殺害予告とか届かなかったのか?」
「さすがにねーよ…」
身の危険を感じたことはあるけど…。
「…すげー綺麗だもんなー…」
物憂げに、遠い目をして倉持がそう呟くものだから、俺はしばし言葉を失った。
「なに…お前、まさかまだ引き摺って」
「ちっげえよバカ。皆普通に思ってることだろーが」
「……。」
「……まあでも」
「?」
「もし何かあった時には…いつでも力になってやりたいとは思ってるよ」
「……え。」
お前…それを俺に言うのか。
「残念ながら出番はねーよ。俺がいる。」
少し苛立って言い返すと、倉持はにやにやして俺を見た。
「言ってろよ。…そういえば最近成宮からよくメールがくるんだけどよ」
「あ?」
「玉城さんの連絡先教えろって、しつこくて。あれは本気だな」
「……。」
「ヒャハハ。モテる彼女だと大変だな。まぁせいぜい横からかっさらわれねーように頑張れよ。」
そんなこと…言われなくたって、とっくに必死だよ。
「…ブラックも飲めねー奴が調子に乗るな」
「アァ?それとこれとは関係ねーだろうがよ!」
翌朝早く、光は事務所の迎えの車に乗り、マンションを出て行った。これから1か月は離れ離れ。なんとなく一人の部屋に戻るのは気が進まなくて、マンション前の自販機でコーヒーを買い、暇をつぶすように飲んだ。
街路樹や民家にはイルミネーションが飾られている。もう12月。クリスマスに向けて、町は色づいていく。
今日の昼飯は何にしようか。一人分の食事は久々だ。
ふと、食卓の向かい側で、嬉しそうに食事をする光が思い浮かぶ。
「早く帰ってこねーかな…」
心の中で思ったつもりが、その言葉は声となって零れ落ちた。思わず周りを見渡して、他に人がいないことを確認して、一人苦笑を浮かべてマンションへと戻るのだった。
***
「…はぁー」
昼前、俺はキッチンに立ち、結局2人分の食事を作っていた。
「ひとりぼっちで寂しいと思って遊びに来てやったんじゃねーか。感謝しろよ、ヒャハハ」
「飯たかりに来ただけのくせに」
ため息をついて、できた料理をさらに盛り付ける。
「まーな。で、昼飯なに?」
「焼きそば」
「焼きそばぁ?随分手抜きじゃねーの」
「誰にでも愛情込めて料理すると思ったら大間違いだ。お前はこれで十分」
「このクソ眼鏡…美味いからいいけど」
食卓で倉持を顔を突き合せ、焼きそばを食べる。
「なんか…高校の時の昼休みを思い出すな」
「あ、やっぱそれ思った?」
「お前と二人で、焼きそばっつーチョイスが」
「購買の焼きそばパン美味かったよなー」
ふと会話が途切れ、俺はため息を零す。
「んだよ、シケたツラして」
「…いや…」
「はっきり言えよ」
おざなりに言った倉持があまりにも清々しく焼きそばを大口で食べるから、俺はモヤモヤを吐き出すつもりで言った。
「…クリスマス会えないんだなぁと思って」
「ヒャハッお前そんな女々しい奴だったか?可愛い彼女がいるだけありがたいと思え」
「1か月は長ぇよ…」
「お前も1か月留守だったことあるじゃん」
「それはだって…忙しかったから何とかなったけど」
「クソ自己中かよ。つーかお前がこれから1か月禁欲生活を送るかと思うと気分がいいぜ」
「別に禁欲ではねーよ…一人ではするよ」
「ほぉ〜久々の右子ちゃんにお世話になるのか」
「つか昼間から下ネタかよ。なんか会話のレベルも退行してんだけど」
嫌そうに顔を歪めると、倉持は無邪気に腹の底から笑う。そこに制服姿の倉持が重なって、やっぱり高校時代みたいだ、と思った。
「いーじゃんたまには。女がいたらできねーような下ネタで盛り上がっても」
「盛り上がるかな〜。経験の差がな〜。」
「テメッ…男同士拳で語り合うか?あ?経験の差見せてやるよ」
「じゃあ言うけど…」
カチャリ、と橋を皿の上に置き、俺は仕切りなおす。
「知ってるか倉持」
「…んだよ改まって」
「女は…生理前、胸がデカくなる」
「なっ……」
倉持は大袈裟に驚いて見せた後、同じように箸をおいた。
「…つっても誤差レベルだろ?なんかそれ聞いたことあるけど、気のせいじゃねーの?」
「いや、ほんとに。見た目もそうだけど触るとすぐわかる」
「ほんとかよ…お前が揉んでデカくなったんじゃねーの?」
「それもあるかもしれないけどそれだけじゃねーんだって。生理前の2〜3日は谷間が全然いつもと違う」
「ふーん…」
顔を背けて相槌を打つ倉持。
「お前今想像した?」
「…あ?」
「光ではすんなよ」
「無茶ゆーな!お前の下ネタは生々しいんだよ」
「……。」
「……。」
沈黙がおり、空の食器を片づけて、コーヒーを並べる。部屋には一気にコーヒーの香りが充満した。そのせいか、倉持は少し落ち着いてコーヒーを飲み始めた。
「お前さー」
「ん?」
「玉城さんのこと、いつから好きだったんだよ」
「……。」
倉持を見る。真剣な顔だ。
「なに、下ネタの次は恋バナ?」
「そういや聞いたことねーと思って。いいから答えろよ」
「え〜どーしよっかな〜」
「少しは俺にも弱味握らせろ。お前のことだからどうせ本人にも言ってねーんだろ。」
「……言っても笑わない?」
「おーたぶんな」
はあ、と誤魔化すように溜息を一つ吐き、澄ましたようにそっぽを向く。
「…一目惚れ」
「……。」
倉持はぽかんとして俺を見て、ヒャハ、と小さく笑い声をもらした。
「ヒャハハハハまじで!?意外〜」
「絶対言うなよ」
「わかってるって!いや〜まじうけるわ」
「うけるな。ほんとに言うなよな…」
一抹の不安を感じながらコーヒーを啜った。
「つーか玉城さん、高校の時マジでモテモテだったよな。学校中で噂になっててさ。漫画かドラマかっつーくらい」
「そうみたいだな」
「うわ余裕顔、腹立つわ〜。俺が聞いた噂だと、毎週2~3人には告られてたらしいぜ。靴箱は毎日ラブレターだらけだったってよ」
「あっそ」
「お前相当恨まれたと思うぜ〜。殺害予告とか届かなかったのか?」
「さすがにねーよ…」
身の危険を感じたことはあるけど…。
「…すげー綺麗だもんなー…」
物憂げに、遠い目をして倉持がそう呟くものだから、俺はしばし言葉を失った。
「なに…お前、まさかまだ引き摺って」
「ちっげえよバカ。皆普通に思ってることだろーが」
「……。」
「……まあでも」
「?」
「もし何かあった時には…いつでも力になってやりたいとは思ってるよ」
「……え。」
お前…それを俺に言うのか。
「残念ながら出番はねーよ。俺がいる。」
少し苛立って言い返すと、倉持はにやにやして俺を見た。
「言ってろよ。…そういえば最近成宮からよくメールがくるんだけどよ」
「あ?」
「玉城さんの連絡先教えろって、しつこくて。あれは本気だな」
「……。」
「ヒャハハ。モテる彼女だと大変だな。まぁせいぜい横からかっさらわれねーように頑張れよ。」
そんなこと…言われなくたって、とっくに必死だよ。
「…ブラックも飲めねー奴が調子に乗るな」
「アァ?それとこれとは関係ねーだろうがよ!」