003 古代樹の森にて
鬱蒼と生い茂る木々を見上げる。壮大で豊かな自然。雄大な大地を踏みしめ、悠々と歩いて行くアプトノス達…。
「さ、まずは土地勘を慣らさないとっすね!」
大男は馴れ馴れしくマリーに着いていく。マリーはそれを気にもしていない様子で、マイペースに木の様子や進めそうな道を地図に記入しながら進んでいく。
「この辺りの植物は……なるほど…。」
眼鏡の男も興味津々に辺りを調べ、メモを取っている。
ふと。先に進んでいたマリーが足を止めてしゃがみ、地面の木の葉を軽く払った。
「マリーさん、どうしたんすか?」
大男がやってくるのを、片手を挙げて留め、マリーは腰から小瓶を取り出す。そして何かを摘み上げてそれを小瓶に入れると、ようやく立ち上がった。
「何かの毛…?」
小瓶を翳して言うと、大男と眼鏡の男が興味津々に小瓶に注目する。
「黒い毛…。帯電してますね。この付近で目撃されているモンスターには、そんな特徴のあるやつはいないはずですが…。」
眼鏡の男はハンターノートを開き、モンスター図鑑を捲りながら呟いた。
「帯電する体毛を持つモンスターで、新大陸で目撃されているものとしては、トビカガチとキリンがいますが…どちらも体毛は白いはず。それに、キリンはこの古代樹の森ではまだ目撃されたことはありません。」
「本当か?」
「あの伝説の5期団が調べ上げた資料ですよ。間違いありません。」
「伝説の5期団?」
マリーが疑問を口にする。5期団と言えば、ゲームにおけるプレイヤーのことだ。
「…え!?まさか、5期団を知らないんですか?」
そのマリーの様子に、男二人は目を丸くした。マリーはちょっと視線を動かし、アリスを見る。すると、アリスも自分と同じように当惑を顔ににじませている。同じ疑問を抱いたようだった。
「…知りません。」
「まさか、新大陸へ派遣されるハンターで、5期団を知らない方がいるなんて…。多くのハンターの憧れで、5期団に憧れて試験を受ける者も多いというのに。何を隠そう俺たちもそうなんですがね。」
「…何なんですか?その、伝説って」
「それはもちろん…」
眼鏡の男は持っていたハンターノートを翳して見せた。
「この新大陸における生態系の頂点に立ったハンターのことですよ。」
「え…?」
「この新大陸の生態系を形成するモンスターを全て発見し、調査し、古龍渡りの謎を解明しただけでなく、恐るべき狩猟能力で、どんなモンスターも狩ってしまう…。この新大陸が今も形を残しているのは、彼らが生態系を支配し、コントロールしていたおかげなのです。しかし…5年前のある日、突然…その5期団の中で最も優れていた…いや、5期団の狩猟の功績はほとんど全てその者が残したと言っていい。その伝説のハンターは、こつ然と姿を消してしまったのです。」
「…どうして?」
「それは何もわかっていません。わかっているのは…最後に目撃されたのは、竜結晶の地のさらに奥、王の谷でのクエストに向かった日の朝…。その王の谷は、選ばれた者しか足を踏み入れることができず、キャンプを貼ることもできず、そのハンターは竜結晶の地から徒歩で王の谷へ向かったそうです。そして…そのまま戻ることはなかった。」
「その谷に…何をしに行ったの?」
「わかりません。ただ…新しい地を見つけたから、調査に行く。そう、言い残したそうです。」
風が吹いて、木々がざわめいた。まだわからないことだらけだが…どうやら、この世界は、ただゲームの中というだけではないらしい。自分たちが6期団としてここに現れたことに、その行方不明のハンターがどう関係しているのか。そのハンターを見つけることが、元の世界に戻る足がかりになるのだろうか…。
「とにかく、貴重な痕跡を得られましたね。早速拠点に戻ったら、調査班に渡しましょう。」
「はい…」
マリーは頷いて、小瓶を仕舞った。
「俺も、興味深いものを見つけました。あれを見てください。」
眼鏡の男が指差した先には、黄色い大きなカエルが喉を膨らましていた。
「シビレガスガエルですね。ここ古代樹の森では今まで目撃情報がありません。」
「シビレガスガエルって…水辺にいるものじゃなかったですか?ここは森の中だし…変ですね」
「そのとおりです、マリーさん。よく御存じですね。まあたまたまここまで来てしまったという説も考えられなくはないですが…そもそもこの森にはシビレガスガエルは生息報告がありませんでしたし、それに…」
眼鏡の男はカエルに近寄り、慎重な手つきで持ち上げた。
「この、腹の部分がうっすらと緑色になっているのも気になります。ほら、腹の部分を見てみると、図鑑に載っているものと随分違いますよね。」
「本当だ…」
「てっとり早く調べるにはモンスターで試すのが一番ですが、貴重な個体かもしれませんし…持ち帰って調べてみましょうか。」
「そうですね。」
「では、この辺りはほとんどわかりましたし、先に進んでみましょう。」
「はい。」
「……。」
「……。」
ふたりは馬が合うのか、スムーズに会話を進めると、さっさと調査に乗り出して行ってしまった。なんとなく取り残された気持ちになった大男とアリスは、ちょっと目を見合わせ、渋々と二人の後を追うのだった。
***
「ちょっと待って。」
かなり森の深くまで来た頃。辺りはのどかで、4人が油断し始めたときだった。
マリーが立ち止り、地面にしゃがんで何かを見つめる。
「どうしました?」
眼鏡の男が歩み寄り、その地面を覗き込む。
「この足跡は…。」
マリーが落ち葉を手で払った地面には、直径1メートル近くもある巨大な足跡が刻まれていた。眼鏡の男はすぐさまノートを開く。
「これは…おそらく、アンジャナフの足跡ですね。かなり古いもののようです。」
「ということは…近くにいるわけではないんですね。」
「ええ。周りのモンスターたちも落ち着いていますし…他に痕跡も見当たりませんし。ひとまず、調査レポートを出しておきましょうか。」
レポートをまとめ始める男を見上げ、マリーは立ち上がる。そして周りを見渡して、息をのんだ。
「ねえ…そういえば…急に静かになってない?」
「え?」
言われてみれば、いつのまにか、周りを歩いていたアプトノスや虫たち、さえずっていた鳥たちの気配が消えていた。
「さ、まずは土地勘を慣らさないとっすね!」
大男は馴れ馴れしくマリーに着いていく。マリーはそれを気にもしていない様子で、マイペースに木の様子や進めそうな道を地図に記入しながら進んでいく。
「この辺りの植物は……なるほど…。」
眼鏡の男も興味津々に辺りを調べ、メモを取っている。
ふと。先に進んでいたマリーが足を止めてしゃがみ、地面の木の葉を軽く払った。
「マリーさん、どうしたんすか?」
大男がやってくるのを、片手を挙げて留め、マリーは腰から小瓶を取り出す。そして何かを摘み上げてそれを小瓶に入れると、ようやく立ち上がった。
「何かの毛…?」
小瓶を翳して言うと、大男と眼鏡の男が興味津々に小瓶に注目する。
「黒い毛…。帯電してますね。この付近で目撃されているモンスターには、そんな特徴のあるやつはいないはずですが…。」
眼鏡の男はハンターノートを開き、モンスター図鑑を捲りながら呟いた。
「帯電する体毛を持つモンスターで、新大陸で目撃されているものとしては、トビカガチとキリンがいますが…どちらも体毛は白いはず。それに、キリンはこの古代樹の森ではまだ目撃されたことはありません。」
「本当か?」
「あの伝説の5期団が調べ上げた資料ですよ。間違いありません。」
「伝説の5期団?」
マリーが疑問を口にする。5期団と言えば、ゲームにおけるプレイヤーのことだ。
「…え!?まさか、5期団を知らないんですか?」
そのマリーの様子に、男二人は目を丸くした。マリーはちょっと視線を動かし、アリスを見る。すると、アリスも自分と同じように当惑を顔ににじませている。同じ疑問を抱いたようだった。
「…知りません。」
「まさか、新大陸へ派遣されるハンターで、5期団を知らない方がいるなんて…。多くのハンターの憧れで、5期団に憧れて試験を受ける者も多いというのに。何を隠そう俺たちもそうなんですがね。」
「…何なんですか?その、伝説って」
「それはもちろん…」
眼鏡の男は持っていたハンターノートを翳して見せた。
「この新大陸における生態系の頂点に立ったハンターのことですよ。」
「え…?」
「この新大陸の生態系を形成するモンスターを全て発見し、調査し、古龍渡りの謎を解明しただけでなく、恐るべき狩猟能力で、どんなモンスターも狩ってしまう…。この新大陸が今も形を残しているのは、彼らが生態系を支配し、コントロールしていたおかげなのです。しかし…5年前のある日、突然…その5期団の中で最も優れていた…いや、5期団の狩猟の功績はほとんど全てその者が残したと言っていい。その伝説のハンターは、こつ然と姿を消してしまったのです。」
「…どうして?」
「それは何もわかっていません。わかっているのは…最後に目撃されたのは、竜結晶の地のさらに奥、王の谷でのクエストに向かった日の朝…。その王の谷は、選ばれた者しか足を踏み入れることができず、キャンプを貼ることもできず、そのハンターは竜結晶の地から徒歩で王の谷へ向かったそうです。そして…そのまま戻ることはなかった。」
「その谷に…何をしに行ったの?」
「わかりません。ただ…新しい地を見つけたから、調査に行く。そう、言い残したそうです。」
風が吹いて、木々がざわめいた。まだわからないことだらけだが…どうやら、この世界は、ただゲームの中というだけではないらしい。自分たちが6期団としてここに現れたことに、その行方不明のハンターがどう関係しているのか。そのハンターを見つけることが、元の世界に戻る足がかりになるのだろうか…。
「とにかく、貴重な痕跡を得られましたね。早速拠点に戻ったら、調査班に渡しましょう。」
「はい…」
マリーは頷いて、小瓶を仕舞った。
「俺も、興味深いものを見つけました。あれを見てください。」
眼鏡の男が指差した先には、黄色い大きなカエルが喉を膨らましていた。
「シビレガスガエルですね。ここ古代樹の森では今まで目撃情報がありません。」
「シビレガスガエルって…水辺にいるものじゃなかったですか?ここは森の中だし…変ですね」
「そのとおりです、マリーさん。よく御存じですね。まあたまたまここまで来てしまったという説も考えられなくはないですが…そもそもこの森にはシビレガスガエルは生息報告がありませんでしたし、それに…」
眼鏡の男はカエルに近寄り、慎重な手つきで持ち上げた。
「この、腹の部分がうっすらと緑色になっているのも気になります。ほら、腹の部分を見てみると、図鑑に載っているものと随分違いますよね。」
「本当だ…」
「てっとり早く調べるにはモンスターで試すのが一番ですが、貴重な個体かもしれませんし…持ち帰って調べてみましょうか。」
「そうですね。」
「では、この辺りはほとんどわかりましたし、先に進んでみましょう。」
「はい。」
「……。」
「……。」
ふたりは馬が合うのか、スムーズに会話を進めると、さっさと調査に乗り出して行ってしまった。なんとなく取り残された気持ちになった大男とアリスは、ちょっと目を見合わせ、渋々と二人の後を追うのだった。
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「ちょっと待って。」
かなり森の深くまで来た頃。辺りはのどかで、4人が油断し始めたときだった。
マリーが立ち止り、地面にしゃがんで何かを見つめる。
「どうしました?」
眼鏡の男が歩み寄り、その地面を覗き込む。
「この足跡は…。」
マリーが落ち葉を手で払った地面には、直径1メートル近くもある巨大な足跡が刻まれていた。眼鏡の男はすぐさまノートを開く。
「これは…おそらく、アンジャナフの足跡ですね。かなり古いもののようです。」
「ということは…近くにいるわけではないんですね。」
「ええ。周りのモンスターたちも落ち着いていますし…他に痕跡も見当たりませんし。ひとまず、調査レポートを出しておきましょうか。」
レポートをまとめ始める男を見上げ、マリーは立ち上がる。そして周りを見渡して、息をのんだ。
「ねえ…そういえば…急に静かになってない?」
「え?」
言われてみれば、いつのまにか、周りを歩いていたアプトノスや虫たち、さえずっていた鳥たちの気配が消えていた。