今日から2学期が始まった。朝校門のところで光と真に会うと、真がさっそく薬師との練習試合の話を教えてくれた。私は部活で見に行けなかったからだ。けど…青道が負けたなんて、驚いたな。

「それでね!真田さんって人が…」
「あ…」

ふと、光が前を向く。私たちもつられて見ると、御幸先輩が急ぐように教室に入って行くのが見えた。

「御幸先輩だ〜!…光に気付かなかったのかな?珍しいね。」
「ね。いつもなら、玉城ちゃ〜んって寄って来るのに…」
「……。」

光はどこか言葉を飲み込むように口を噤んで、また歩き出した。そして俯いて2年生の教室の前を通り過ぎる。私は真と顔を見合わせた。…なにか…あったのかな?

「…あ!そういえば光、スカウトの話どうなったの?」

真がいきなり切り出したことで、私も思い出した。そういえば光のこと、モデルにスカウトしてきた人がいたっけ…。名前は確か、夏目さん。

「…その話はやめて」
「…?」
「え?」

私と真はまた顔を見合わせた。だけど、その言葉の意味は、その日の放課後早速理解できたのだった。


「光ちゃん!」

「……。」

放課後、光がどうしても裏門から帰りたいと言うから、とんでもなく遠回りなのに仕方なく付き合うと、そこには夏目さんがいた。

「やっと会えたよ〜!正門で待ってたけど、なかなか会えないから…他の所から帰ってるのかと思って!」
「……。」
「あっ!ちょっと待ってよ!」

この人がいるから裏門から帰りたかったのね…。すっかり付き纏われてるじゃん…。

「何度来ても私…やりませんから」
「そう言わずに!一度スタジオに来てみてよ!君なら絶対に良いモデルに…」
「興味ありません」
「そんな!モデルになるために生まれてきたような美人なのに…」

さっさと歩いていく光に食い下がって追いかけていく夏目さん。私と真はその少し後ろを歩きながら、その様子を見守る。

「もしお父さんのことが心配なら、僕が一度挨拶に行くから!」
「死にますよ。」
「え?大袈裟だな…けど、殴られるくらいは覚悟してるから!なんとしても君にモデルになってほしいんだよ!」
「絶対に嫌です。」
「絶対?じゃあ…代わりに僕何でもするから!」
「…何でも?」
「うん!あ…死ぬようなこととかは勘弁してほしいけど…多少の痛い目を見るのは覚悟するし…お、お金だって少しなら…!」
「……じゃあ」

ぴたり、と光が立ち止まり、夏目さんを振り返った。

「全裸で町内一周してきてください。」
「…!?」

「え!?」
「マジ?」

ひ…光、一ミリもモデル引き受ける気ない…。

「……。」

「おじさ〜ん、やめときなよ〜…通報されちゃうよー。」
「もうあきらめた方が…。」

真と私がそう説得したとき。夏目さんは意を決したように、ネクタイを解いて足元に投げ捨てた。

「わ…わかった!それで君がうちのモデルになってくれるなら…!」
「えっ…ちょ、ちょっと…」

戸惑う光の目の前で、どんどんワイシャツを脱ぎ、ベルトに手をかける夏目さん。

「や…やめて!!」
「ぐっ!!」

光のスクールバッグが夏目さんのわき腹に直撃し、夏目さんは倒れ込んだ。

「な…何考えてるんですか!」
「だって…君が…」
「ホントにやるなんて…バカじゃないの!?」
「……。」

夏目さんは起き上がり、光を見上げてほほ笑んだ。

「馬鹿でも…変質者でもいい。君がモデルになってくれるなら…」
「……。」
「僕はなんだってするよ。」


「なんか…すごいね」
「ドラマみた〜い…」

私は真とひそひそ囁き合った。

「……。」

光は口を噤んで手を握りしめ、俯いた。

「…でも…無理です。お父さんが…許すわけない」

光のお父さんって…どんな人なんだろう。光が言う限りだと、すごく厳しそうなイメージだけど…きっとイケメンなんだろうな。

「もちろん君は未成年だし…君一人の意思でどうにかなるとは思ってないよ。だけど…君がその気にならなきゃ話は始まらないだろ?」
「……。」
「僕は君の人生を変えようとしてるんだから…何よりもまず、君を説得しないとと思ってね。」
「……。」
「どうかな…君がいいなら、君のお父さんに、僕からお願いさせてほしいんだ。」
「……。」

光は夏目さんを見つめ、ため息をついた。

「…まず…服着てください」
「あ…うん」

夏目さんは急いでワイシャツを着て、ネクタイを結びなおした。

「……。」

光はまた俯いて、黙り込む。まるで何か、言うのを我慢するみたいに唇を噛んで。

「…司…真、先…帰って」
「え…」
「でも…」
「いいから…」

私と真はまた顔を見合わせた。光の様子はおかしくて…だけど、従うことにした。

「わ…わかった」
「また明日〜…」

そこに光と夏目さんを残して、私たちは帰途に就いた。



***



次の日教室に行くと、光は涼しい顔をして席についていた。

「光!」
「あ…おはよう」

まるで何事もなかったようにそう言うものだから、私たちは一瞬面食らってしまった。

「おはようじゃないよ!昨日どうなったの?大丈夫だった?」
「ああ…」

光は相槌を打って、頬杖をつく。

「…もう、諦めたと思う…」
「え?」

…あんなに食い下がってたのに?

「何があったのー?」
「別に…」
「……。」
「……。」
「……ジュース買ってくる」
「あ!逃げた!」

席を立って廊下に出た光の後を真と一緒に追った。

「ね〜ってば〜。光、大丈夫〜?なんか元気なくない?」
「大丈夫だよ」
「夏目さん、光のお父さんに会ったの?」
「ううん…」
「じゃあなんで諦めたの?ストーカーかってくらい付き纏ってたのに」
「私はモデルなんかできないから」
「ええ?」
「意味わかんな〜い」

「……。」

自動販売機が見えてきたとき、光がだいぶ手前で急に立ち止まった。どうしたの、と言いかけて、自動販売機の前にいる人たちに気付く。あれは御幸先輩と倉持先輩だ。

「ああっ!御幸せんぱ〜〜い!!」

真がはしゃいで呼びかけると、御幸先輩がギクリとして一瞬振り向いて、すぐに目を背けた。

「御幸先輩!!おはようございま〜す!今日もカッコいいですね!」
「はっはっは…どーも…」

しかし真はめげない。御幸先輩の元まで駆け寄って行ってそう言うと、御幸先輩はちょっと引きつった笑顔で頭を掻いた。それから逃げるように踵を返し、階段を駆け上がっていく。光には声もかけずに…。倉持先輩はちょっと微笑んで光に会釈して、御幸先輩を追いかけていった。

「御幸先輩どうしちゃったの?なんか変じゃない?」
「うーん…」

ほんと…玉城ちゃ〜ん、って光にくっつきまわってたのに…。昨日も様子がおかしかったし。

「光、御幸先輩と何かあったの?」
「……。…別に…何も」

光はそう呟いて、いつものお茶を買う。

「いつもならさぁ、玉城ちゃ〜んってちょっかい出してくるのにね〜。」
「うんうん。成宮と電話するくらいなら俺としろ!だっけ?」
「光にぞっこんだもんねぇ。光が男子に狙われてるとすぐ飛んできてさぁ」
「光もほんとは御幸先輩のこと好きでしょ?」
「ね〜。素直になっちゃえばいいのに」

「……。」

光は開けかけたペットボトルの蓋をきつく閉め、呟いた。

「…大っ嫌い」

「えっ…」
「え……」

光はなんだか怒った様子でそう呟くと、さっさと教室に戻ってしまうのだった。


***


「光ちゃん!!」

その日の放課後、校門の前で夏目さんが待ち構えていた。光は驚いたように立ち尽くしている。

「よかった…会えた…」
「……。」

夏目さんが駆け寄ってきて、光は戸惑いをにじませる。

「昨日はごめん…僕、なんて言ったらいいか…言葉が浮かばなくて…」
「……。」

やっぱり昨日…何かあったんだ。光を見ると、急に泣きそうな顔になったように見えて、私は息を飲んだ。

「…わかったでしょ…私にモデルなんか無理だって」

光が呟くと、夏目さんは飛び出してきて光の両肩を掴んだ。

「違うよ!」
「…!?」
「僕…何も言えなかったんだ…」
「だ…だから…」
「君があまりに綺麗で!言葉が何も…頭が真っ白になって…!」
「……え?」

「な…なにがあったの〜…!?」
「真…シー!」

「とにかくびっくりして…!君はすぐ帰っちゃうし…」
「……。」
「だ…、だけど、改めて確信した!君しかいないよ!」
「……。」
「どうか…チャンスをください!」

光は言葉を失ったように夏目さんを見つめた。下校中の生徒たちが不思議そうに振り返る中、光は泣きそうな表情を飲み込んで、口を開いた。

「お父さんに会えば…」
「え?」
「…そんな考え…なくなりますよ」

夏目さんはまっすぐに光を見つめ返す。

「絶対に君を諦めない!」
「……。」
「お父さんに会わせてください!お願いします!」

「なんかプロポーズみた〜い」
「真!」

「……。…勝手に…すれば」

光がそう呟くと、夏目さんはその顔に満面の笑みを浮かべた。

「本当に!?」
「…!?…無駄だと思いますけど」
「いや!絶対に説得してみせる!」
「……。」

はあ、とため息をつき、携帯を取り出す光。

「……。…明日なら…夜八時には帰ってきます」
「わ…わかった!じゃあまた明日…!ここで待ってるから!」
「……。」

夏目さんは嬉しそうに帰っていく。光は携帯を仕舞い、歩き出した。

「いーのぉ?光〜…」
「…どうせ…無理だから」

それって…答えになってないよ。光がどうしたいのか…。



***



それから2週間…光は変わらず学校に来て、涼しい顔をして過ごしている。

「ね〜光、夏目さんはどうなったの〜?」
「…毎日うちに来る」
「え〜!頑張るねー。」
「無駄なのに…。」

ふう、とため息をつき、本のページをめくる光。…英語の本だから、何の本かはわからない。

「玉城!鷹野、卯月!おはよう!」

すると今日も爽やかな笑顔で東条君がやって来た。朝練でひと汗流してきたからだろうか、笑顔が輝いている。

「東条!おはよう!」

「光…あからさまに元気になるねぇ」
「相変わらず東条君大好きか!」
「はは…。」

東条君は照れたように、だけどちょっと困ったような笑顔で頭を掻く。東条君もなかなか不憫だよなぁ。好きな子から好意と信頼を曝け出されてるのに、それは恋愛対象とは違うだなんて…。

「光〜。御幸先輩最近来ないじゃん。やっぱ何かあったんでしょ?」
「……。」

真が尋ねると、東条君も気になる様子で光を見た。

「何もないよ、ほんとに」
「ほんと〜?」
「…もともと…別に、なにもないし」
「なにもないってこたぁないでしょ!あんなに玉城ちゃん玉城ちゃんってさぁ…」
「さあ…知らないけど」

光はその表情に怒りを滲ませた。

「あの人の話はやめない?」

「……。」
「……。」
「……。」

あ…あの人って…。名前も言いたくないほど怒ってる…。

「…あ…、じゃ、じゃあさ!成宮さんは!?あれから連絡あった?」
「甲子園で負けてからは電話来なくなった。」
「……。」

は…はっきり言うなぁ…!それって落ち込んでてそれどころではないってことなのでは…。

「てゆーか…成宮さんなんてどうでもいいし…」
「……。」
「御幸先輩だって……」
「……。」
「……。」
「……。」

……めちゃくちゃ気にしてるじゃん!まぁ…あれだけ好意丸出しだった二人からぱったり接触が途絶えたら、そりゃ気になるだろうけどさ…。

「ま…まあ、今はふたりとも秋大の準備で忙しいだろうし…御幸先輩は主将にも選ばれて、今は課題が山積みだから…」

東条君が言うと、光は頬杖をついて拗ねたようにそっぽを向いた。

「別に…あの人たちなんて、どうでもいいもん…」

「……。」
「……。」
「……。」

拗ねてるなぁ〜…。御幸先輩…ほんとにどうしちゃったの〜〜…?

「て…ていうかさ!今週末文化祭じゃん!今日から残れる人は放課後残って準備進めようと思うんだけど…」

気を取り直すつもりでそういうと、東条君が申し訳なさそうに眉を下げた。

「あ、ゴメン俺部活で…」
「わかってるって!野球部はしょうがないよ。」
「みんな〜残れる人は今日から残ってね〜!」

真が教室内に呼びかけると、は〜い、と間延びした返事が返ってきた。

「光は今日残れそう?」
「大丈夫。」

頷いた光が笑顔に戻っていて、私はひとまず安堵した。


***


「カラーテープ足りないよ〜」
「こっちも絵具の青足りない!」
「はいはーい!他に足りないものある?」

メモ帳を開いて立ち上がり、教室内を見渡して聞くと、ちらほらと声が上がる。私はそれを全てメモし、担任から預かっていたクラス費と携帯をバッグから出した。

「じゃあちょっと買い出し行ってくる!」
「あ、司〜、私も行く!」

真が立ち上がってやってきて、光を振り返った。

「光も行こうよ!」
「うん」

光は作業を中断してやって来た。
廊下は暗く、窓の外はもっと暗い。いつの間にか日が暮れていたようだ。

「わ〜、もうすぐ8時!」
「買い出し終わったら今日は解散にしようか。」
「でもさ〜こんな時間まで学校に残ってる事ってないし…なんか楽しいよね!」

はしゃぐ真にそうだねと頷いて、昇降口へ向かった。まだほかのクラスも残って作業をしているようで、いくつかの教室は電気がついていて賑やかだった。

「ホームセンターってどこだっけ」
「駅の上の方だから…西門から出たほうが早くない?」
「そうだね〜」

西門は野球部のグラウンドや寮がある方の出口だ。
野球部…。まだ走ってるのか、掛け声が聞こえてくる。…御幸先輩はどうしちゃったんだろう。あんなに光のこと構ってたのに…最近は避けてるような…。

ホームセンターにつき、買い物を済ませて学校に戻ってくると、薄い暗闇の中ぞろぞろと歩いてくる白いユニフォームの軍団が見えた。

「あっ、あれ野球部じゃない〜?」

真が言って、光も見上げる。

「あ…ほんとだ」
「こんな時間まで練習だったんだね〜」

しみじみとそう言って、十字路を彼らと同じ方に曲がり、その流れと同じ方向を歩きはじめる。

「あれ…」

ふと、光が呟いた。

「東条?」

その光の声で、少し前を歩いていた男子が振り返る。

「あ!玉城…と、鷹野に卯月も。」

東条君は金丸君と一緒に立ち止り、私たちが追いつくのを待った。

「どこ行って来たの?」
「買い出しでホームセンター!いろいろ足りなくてさ〜」
「まだ皆残ってたんだ、俺着替えてからちょっと顔出そうかな…」
「いいよいいよ!疲れたでしょ。私たちもこれ置いたら帰ろうと思ってたし」

そっか、ごめん…、と汗と泥まみれの顔を拭って苦笑する、人のいい東条君。

「東条、手…」
「え?」

その東条君の左手を、急に光が包んだ。

「怪我してるよ?」
「え、あー…マメがつぶれたんだ」
「痛そう…」
「平気だって、このくらい。」
「ちょっと待って。私絆創膏持ってる」

光はそう言ってポケットから絆創膏を出し、東条君に差し出した。

「はい」
「わ、ありがと。」
「あ、だめだよ、洗ってから!」
「あ、そっか。」

ははは、と照れくさそうに笑う東条君に微笑む光。光は東条君のこと、男子として意識してないと思ってたけど…案外この二人、結構うまくいくのかも?

「…あ〜〜!!御幸先輩だ!!」

今度は真が突然声を上げた。ちょっと後ろから歩いてきた御幸先輩は、ちらりとこっちを見て、まるで気づいていないとでも言うように視線を前に戻した。

「御幸せんぱ〜〜い!おつかれさまでーーす!!」
「あ…おう」
「きゃーーーかっこいい!!」


しかし真をスルーしきれず軽く手をあげて応えると、御幸先輩はちらりと光を見て、逃げるように足を速めた。やっぱり…何かあったのかな…。

「…御幸先輩!」
「…ん?」

真が御幸先輩を呼び止めて、御幸先輩とそのすぐ隣を歩いていた倉持先輩が反射的に振り向いた。その瞬間…

「…きゃ!?」

「…!?」
「…!!?」

真が光の背後から手を回し、胸を鷲掴みにした。

「ちょ…真!!」
「キャハハハ!や〜らか〜い」

御幸先輩と倉持先輩は硬直して立ち尽くし、東条君と金丸君も居たたまれない様子で顔を背けて立ち尽くす。
光は真の手から逃れて怒り、真は悪びれず笑い出した。

「だって、御幸先輩が光のこと避けてるから〜」
「…え?いや俺は別に…」

御幸先輩はぎくりと光を見て、目を逸らした。

「避けてなんか…」
「あ〜ほら!そーいうとこですよ〜!」
「……。」
「前は玉城ちゃ〜んって言ってたのに〜」

いや…、と口ごもる御幸先輩。

「御幸先輩が急に素っ気なくなっちゃったから、光も寂しがってるんですよぉ〜?」
「へ…?」
「は…!?ち、違うから!」

真の発言に虚を突かれて赤面する御幸先輩と、慌てて否定しながらやっぱり赤面する光。

「…そーなの?」
「そ…そんなわけないでしょ!」

むきになると逆に怪しいよ、光〜…。

「寂しい思いさせてゴメンな〜。」
「……。」
「はっはっはっは…」
「……バカじゃないの」
「え」
「むしろ…ウザいんですけど」
「……。」

御幸先輩は引きつった笑顔のまま凍り付いた。
光は東条君の腕に掴まり、御幸先輩を睨む。

「私…男なんて大っ嫌いですから」
「……。」

御幸先輩はため息をつき、光を睨み返した。

「…じゃー東条はどうなんだよ。男じゃん」
「東条は別です。」
「何が別?」
「そんなこともわからないんですか?」
「わかんねーから聞いてんだよ。男嫌いつって、いつもベタベタしやがって」
「…東条は優しいもん!そんなこと御幸先輩には関係ないでしょ!」
「じゃーもうお前ら付き合えよ!」
「はぁ!?」
「東条以外の男は嫌なんだろ?お似合いじゃん」
「……。」

御幸先輩を睨む光の目が、だんだんと…初めは気のせいだと思ったけど、でも確かにキラキラ光り始めて、その一粒が頬にこぼれた時、それが涙だと気づいた。御幸先輩もぎょっとして口を噤む。おい…、と倉持先輩がその背中をつつき、東条君と金丸君は驚いて動揺した様子で光を見つめていた。

「…あぁぁ〜〜〜!!御幸先輩が玉城泣かしっ…」
「バカ村黙ってろ!!」

金丸君のげんこつで口を噤む通りすがりの沢村君。

「た…玉城、大丈夫?」

東条君が自分のバッグからタオルを引っ張り出し、光の顔の前に差し出した。

「あ、ごめん、一応使ってないやつだけど、ちょっと汗臭いかも…」
「……。」

光はタオルに手を伸ばし、タオル…ではなく、東条君の手を掴んだ。

「え、玉城…?」
「…うう〜〜〜」

そしてそのまま、東条君に抱き着いて泣き出してしまった。

「え、ちょ、玉城…」
「う…うぅぅ…」

「……。」
「……。」
「……。」

御幸先輩、倉持先輩、金丸君が言葉を失って二人を凝視する。沢村君だけはちょっとぎょっとして、興味津々な顔で言った。

「え…東条と玉城って付き合ってんの??」
「バカッ!!お前はちょっと黙ってろ…!!」
「いってぇな!!なにすん…!」
「いーから黙れ…!!」

力づくで金丸君に黙らされ、沢村君は不服気に口を噤んだ。

「…確かにほんとに付き合っちゃえばいい気がしてきた〜…」
「真…しずかに。」

でも…私が見ている限り、光がちゃんと男の人として意識して好きなのは、御幸先輩だと思うんだよねぇ…。

「うっ…う…」
「……。」

東条君もどうしたものか硬直したまま立ち尽くす。うつむく顔は耳まで真っ赤で、やっぱりちょっと…いやかなり不憫…。光はしばらく東条君の胸で泣いてから、ゆっくりと顔を上げた。

「…ひっく」
「…玉城」

ほら、と東条君がタオルで光の頬を撫でた。光は今度こそタオルを受け取って、目元をおさえてから、まだ潤む瞳で御幸先輩を睨む。

「…ご…ごめん」
「……。」
「…って、よくわかんねぇけど…」

本音を呟いた御幸先輩を、倉持先輩が「一言多いんだよ!」とどついた。

「…バカ…」

光が呟いて、御幸先輩が光の泣き顔に見惚れた様に息を飲んだ直後――

「…大っ嫌い!!バカ!!」

光が叫んで、走り出してしまった。

「あ…光〜!!」
「光ーー!」

私と真は慌てて後を追う。
まったくもう…素直じゃないなぁ…。光も…御幸先輩も。

 


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