017
「降谷、立ち上がりいいな」
「ああ 調子良さそうだ」
1回表をスリーアウトで締め、青道の攻撃。
そのとき、視界の横を白い光がふわりと横切った。
つい気を取られてその光を見ると、白いレースを羽織った女性が、まるでそこに舞い降りたかのようにふわりと髪をなびかせて、通路の階段を下りていった。
「あれ玉城さんじゃん」
門田が呟く。
「呼ぶ?」
見たところひとりだ。この間のようなことがあるかもしれない、と門田の顔には浮かんでいた。
「…そうだな…」
どこかそれを免罪符にして、俺は席を立ちあがった。
彼女の背中に歩み寄り、その肩口に声をかけた。
「ひとりか?」
彼女は驚いた顔で振り向いて、俺の顔を見て表情をやわらげた。
「俺たちはあそこで見てるんだが、一緒にどうだ?」
「…いいんですか?」
「もちろんだ。」
一人にさせておくのは心配だし…。しかし彼女がふわりと微笑むと、胸の奥が暖かくなった。
席に戻り、門田に詰めてもらって、俺は彼女と並んで座った。
「倉持スリーベース!」
「あいつも出塁率上がったな」
試合に来るたび、後輩たちの成長を知る。それは嬉しくもあり、もどかしくもある。できることなら自分も、あの場に立っていたかった――。そう思うけれどそれは後悔ではなく、きっと何年続けてもこの思いは抱き続けるものなんだと思う。
「次は白州か。いきなり得点あるかもな」
「――よし!」
堅実に白州が打ち、倉持はホームに帰還する。あっという間に先制だ。
今日は調子が良さそうだ――まだ1回なのに、そんな期待が胸をよぎる。
「よし!小湊も1塁」
「亮介の弟、やっぱセンスいいよな」
『ランナーを1塁に置き、打席には4番 御幸一也君』
「……。」
隣に座る彼女がどこか息を飲んで前を見つめた。まるで御幸の登場を待ちかねていたような――。
彼女は今日、一体誰を見に来たのだろう、と考える。御幸か…東条か。それを知る者はおそらくひとりもいない。
『ラン&ヒット成功ーー!!一塁走者小湊 一気に三塁へ――』
打線がつながり、青道はそのまま2点先取で1回が終わった。
***
2回も2点を上げ、4−0。3回表になり、成孔は投手交代。1年投手の小川がマウンドに上がってきた。
「来たな…」
「でけぇな」
にわかにスタンドがざわつく。
小川が振りかぶり――ボールを放った。うなりを上げるようなボールが重たくミットにねじ込まれる。
「ボール重そうだな」
「角度もありそうだしな…」
「でも荒れてる。いけるぞ!」
フォアボールで小湊が出塁し満塁。ここで御幸を迎え、青道ベンチは盛り上がる。
「打てよ御幸ーー!!」
「ここで打たなきゃ4番じゃねえ!」
4番で主将…多くのものを御幸に引き継いだが、あいつならやってくれる。そう信じている。
「あ…!」
ドン、と御幸の肩が揺れ、体勢を崩した。彼女が小さく息を飲んだのがわかった。
「デッドボール!!押し出しーーー!!」
1塁へ歩いていく御幸を不安げな顔で見つめる彼女。やはり…彼女は御幸のことを…
「そんなに心配しなくても平気だよ、野球じゃよくあることだ。」
「そうそう、ほら大丈夫そうだろ?」
門田たちがそう声をかけると、彼女はちょっと愛想笑いを浮かべて頷いた。
***
5回裏。やはり御幸の番が回ってくると、彼女の視線に熱がこもる。
今日は御幸を見に来たらしいな――。御幸は知っているんだろうか。あの、なかなか本心を見せない、飄々とした後輩は…。
『ランナーを一塁に置き 打席には4番 御幸君』
――ぱぁん!!
容赦のない投球。デッドボールの後なのに、あれだけインコースを攻められるとは…1年ながら肝が据わった選手だ。
「…あぶねぇな」
「さっきデッドボール出した相手に…」
「……。」
見ると、彼女は怖い顔をして前を睨んでいた。まるで御幸に厳しく投げ込むあの投手に怒っているかのように。俺は少し口元が緩む。御幸…今スタンドにこんなにお前のことを想っている子がいること――お前は知らないだろうな。
『ボールフォア!!』
「なんだ、結局フォアボールか」
「よほど御幸を警戒してるのかもな」
その後降谷の打球からゲッツー、攻守交替――なのだが。
「…何かあったらしいな」
門田が不穏な表情で呟いた。青道バッテリーがなかなか出てこないのだ。
『青道高校選手 治療の為一時中断しております』
アナウンスが流れ、門田や丹波の顔に緊張が走る。
「治療?」
「降谷か…?」
「前 足を痛めてたよな…癖になったんじゃ…」
「あ、出てきた」
ベンチから御幸、そして降谷が出てきた。
「降谷か…大丈夫なのか?」
「監督がゴーサインを出したなら大丈夫だろ…」
願いにも似たその呟きを聞きながら、試合の再開を待つ。点差は4点…まだ油断はできない。
6回表を1失点で防ぎ、6回裏、青道は得点ならず…点差が縮まっていく。
そして7回表――。
『2点を追いかけ7回表ツーアウトランナー二塁。打順は1番に戻り、桝 伸一郎』
降谷が振りかぶる。がむしゃらだが、しっかり落ち着いて投げられているように見える…。
――キイン、とバットにボールが打たれた。そのボールが、息を飲む間に――降谷に直撃した。
「!!!」
門田や丹波が息を飲む。俺の隣に先ほどから静かに座っていた玉城も、言葉を失ったように口を開けたまま固まった。
場所は頭部に近いが、腕で庇ったように見える。それでも降谷はすぐにボールを拾い、サードの前園に投げ込んだ。
『止めたぁーーー!!センターに抜けるかという強烈な当たり まさに身を挺して止めましたーー!!』
「やべぇ…アイツ…」
「…あぁ…」
門田と丹波の顔に笑みが滲んだ。確かに…燃え上がるような闘争本能がここまで伝わってきた――。
***
同点に追いつかれ9回表――。
『9回表 2アウト ランナー二塁』
「アイツしぶといな…」
「ああ…捕手で1番を任されてるだけはある」
「おお!ここでチェンジアップ」
しぶとい打者を相手にペースを崩さず投げられている。沢村も成長しているな。
『カウント2−2 勝負の8球目』
「沢村ーー!」
「踏ん張れ沢村!」
沢村がボールを放ち――バットが振られる。打球は三遊間へ――
「二塁ランナーサードを回ったーー!!」
「麻生バックホーム!!」
「おっしゃああストライク返…」
御幸がホームで捕球した――しかし三塁から闘牛のように猛進していく巨体の小川は、その勢いを緩めることなくホームへと突っ込んでいく。
「――!!!」
小川が御幸に激突し、ふたりはもろとも倒れ込んだ。
「……!!」
玉城が身を乗り出して唇を震わせた。メットを吹っ飛ばされた折れ込んだ御幸は――ゆっくりと起き上がり、ミットを高く掲げた。その中にはしっかりとボールが収まっている。
『アウト―――!!』
『ラフプレーともとれる小川の本塁突入を、キャプテン御幸身を挺してブロック!』
『成孔学園に得点を許しませんでしたーー!!』
「大丈夫なのか…今の…」
「今のプレーやばくね?」
スタンドがざわつく。それもそうだ。今のはラフプレーともとれる…。
「……。」
その後試合が続く中、玉城はずっと神妙な顔で唇を引き結び、思いつめるように黙り込んでいた。
***
その後延長戦――御幸が放ったサヨナラで青道の勝利となった。
「次は決勝か…早いな」
羨むように丹波が言い、門田が微笑む。
本当に羨ましい。そして――誇らしい。
「さてと…あいつらに声かけていこうぜ」
「ああ」
「玉城さんも行くだろ?」
「え…」
ちょっと戸惑ったように俺たちを見上げる玉城。
「御幸…待ってると思うぞ」
「……。」
「え?御幸?」
「…東条じゃないのか?」
俺の言葉に玉城は息を飲み、門田たちは不思議そうに呟く。
「行こう。」
後押しのようにそう声をかけると、玉城は、はい、と頷いた。
スタンドを降り、通路をぐるりと回って歩いていくと、成孔のチームの傍を通りかかった。
「……。」
玉城が少し歩みを緩めて彼らを見る。すると小川と桝が気づいて、玉城の方を見た。
「……。」
玉城は黙ったまま、彼らを――いや、小川を睨みつけた。
「あれ…あの子俺のこと見つめてないっスか?」
「ああ?…睨んでんじゃね?」
「絶対見つめてるっス。言い辛かったけど、俺結構モテるんスよね…」
「いや睨んでんだよアレは。ほら青道の制服の連れいるし…お前のクロスプレーにキレてんだよ。もしかしたらあっちの主将の彼女かもな」
「桝さん…さすがに鈍感すぎっス。それじゃモテませんよ」
「本当に幸せもんだなテメーは!」
「……。」
玉城は目を逸らし、また前を向いて歩きだした。
「ああほら…行っちゃった」
「いいから片付けろ常!行くぞ」
さっきのクロスプレー、相当頭に来たみたいだな。試合はずっと静かに見守っていたのに、御幸に危害が及ぶと本当に心配そうだった。そして御幸がサヨナラを打った時は…本当に嬉しそうだった。いい試合だったが、彼女の心を動かしたのは――御幸だけだったように見えた。
「お、薬師だ」
「次は薬師と市大三高だったな…」
門田が言う通り、通路の先にゾロゾロと歩いていく薬師の選手の集団がいた。
「…あ!!」
その中の一人、エースナンバーを背負った男が振り向いて、目を丸くした。
「玉城さん!玉城さんじゃん!」
「……?」
「あいつ…薬師の真田だな」
門田が耳打ちし、丹波が頷く。しかし当の本人――玉城はきょとんと真田を見上げていた。
「え!?俺のこと忘れちゃった?」
「……。…さ…」
「…!うん!」
「さ…さな…」
「そう!さな…」
「……?」
「…あぁ!惜しい!」
首を傾げた玉城に、ずっこける真似をする真田。こんなに面白い奴だったのか。
「真田だよ!真田俊平!」
「……。」
「なぁやっぱ連絡先教えてよ…俺のこと覚えてもらいたいし。」
「おい…ナンパし始めたぞ」
「でも一応知り合いっぽくないか?」
門田と丹波が様子を窺う中、真田は必死に玉城に食い下がる。
「な!電話番号教えて!」
「今急いでるので…」
「いやいや次いつ会えるかわかんねーしさ!な、お願い!」
「いやです」
「え…。」
いや…か…。と真田は項垂れた。そういえば御幸も、彼女の連絡先を知るのに苦労したらしいな。
「じゃ…失礼します」
「…あ!待って玉城さん!」
「…?」
「ニュース見たぜ。グランプリおめでとう。」
「…ありがとうございます。」
「俺、玉城さんに釣り合う男になるから!次の試合勝つし…その次も勝つ。」
「その次って…」
「青道じゃん…」
「そしたら連絡先教えてくれよ!」
「…え…。」
積極的な真田に対し、玉城は静かに考えた後、口を開いた。
「…いやです」
「え"……」
硬直した真田を置いて、失礼します、と歩き出す玉城。門田と丹波はちょっと笑いを堪えつつその後に続く。
「ちょっ…待って玉城さん!」
「真田〜置いてくぞ〜〜」
「やっぱめちゃくちゃモテるな…あの子」
門田が耳打ちし、ああ、と丹波が頷く。
思えば、今こうして歩いているだけでも、すれ違う人たちが皆玉城を振り返る。声をかけようとして、俺たちに気付いてやめる者もいる。
こんな子に想われて、御幸はどんな気持ちなのか…。それを考えると、少し可笑しくなった。
「ああ 調子良さそうだ」
1回表をスリーアウトで締め、青道の攻撃。
そのとき、視界の横を白い光がふわりと横切った。
つい気を取られてその光を見ると、白いレースを羽織った女性が、まるでそこに舞い降りたかのようにふわりと髪をなびかせて、通路の階段を下りていった。
「あれ玉城さんじゃん」
門田が呟く。
「呼ぶ?」
見たところひとりだ。この間のようなことがあるかもしれない、と門田の顔には浮かんでいた。
「…そうだな…」
どこかそれを免罪符にして、俺は席を立ちあがった。
彼女の背中に歩み寄り、その肩口に声をかけた。
「ひとりか?」
彼女は驚いた顔で振り向いて、俺の顔を見て表情をやわらげた。
「俺たちはあそこで見てるんだが、一緒にどうだ?」
「…いいんですか?」
「もちろんだ。」
一人にさせておくのは心配だし…。しかし彼女がふわりと微笑むと、胸の奥が暖かくなった。
席に戻り、門田に詰めてもらって、俺は彼女と並んで座った。
「倉持スリーベース!」
「あいつも出塁率上がったな」
試合に来るたび、後輩たちの成長を知る。それは嬉しくもあり、もどかしくもある。できることなら自分も、あの場に立っていたかった――。そう思うけれどそれは後悔ではなく、きっと何年続けてもこの思いは抱き続けるものなんだと思う。
「次は白州か。いきなり得点あるかもな」
「――よし!」
堅実に白州が打ち、倉持はホームに帰還する。あっという間に先制だ。
今日は調子が良さそうだ――まだ1回なのに、そんな期待が胸をよぎる。
「よし!小湊も1塁」
「亮介の弟、やっぱセンスいいよな」
『ランナーを1塁に置き、打席には4番 御幸一也君』
「……。」
隣に座る彼女がどこか息を飲んで前を見つめた。まるで御幸の登場を待ちかねていたような――。
彼女は今日、一体誰を見に来たのだろう、と考える。御幸か…東条か。それを知る者はおそらくひとりもいない。
『ラン&ヒット成功ーー!!一塁走者小湊 一気に三塁へ――』
打線がつながり、青道はそのまま2点先取で1回が終わった。
***
2回も2点を上げ、4−0。3回表になり、成孔は投手交代。1年投手の小川がマウンドに上がってきた。
「来たな…」
「でけぇな」
にわかにスタンドがざわつく。
小川が振りかぶり――ボールを放った。うなりを上げるようなボールが重たくミットにねじ込まれる。
「ボール重そうだな」
「角度もありそうだしな…」
「でも荒れてる。いけるぞ!」
フォアボールで小湊が出塁し満塁。ここで御幸を迎え、青道ベンチは盛り上がる。
「打てよ御幸ーー!!」
「ここで打たなきゃ4番じゃねえ!」
4番で主将…多くのものを御幸に引き継いだが、あいつならやってくれる。そう信じている。
「あ…!」
ドン、と御幸の肩が揺れ、体勢を崩した。彼女が小さく息を飲んだのがわかった。
「デッドボール!!押し出しーーー!!」
1塁へ歩いていく御幸を不安げな顔で見つめる彼女。やはり…彼女は御幸のことを…
「そんなに心配しなくても平気だよ、野球じゃよくあることだ。」
「そうそう、ほら大丈夫そうだろ?」
門田たちがそう声をかけると、彼女はちょっと愛想笑いを浮かべて頷いた。
***
5回裏。やはり御幸の番が回ってくると、彼女の視線に熱がこもる。
今日は御幸を見に来たらしいな――。御幸は知っているんだろうか。あの、なかなか本心を見せない、飄々とした後輩は…。
『ランナーを一塁に置き 打席には4番 御幸君』
――ぱぁん!!
容赦のない投球。デッドボールの後なのに、あれだけインコースを攻められるとは…1年ながら肝が据わった選手だ。
「…あぶねぇな」
「さっきデッドボール出した相手に…」
「……。」
見ると、彼女は怖い顔をして前を睨んでいた。まるで御幸に厳しく投げ込むあの投手に怒っているかのように。俺は少し口元が緩む。御幸…今スタンドにこんなにお前のことを想っている子がいること――お前は知らないだろうな。
『ボールフォア!!』
「なんだ、結局フォアボールか」
「よほど御幸を警戒してるのかもな」
その後降谷の打球からゲッツー、攻守交替――なのだが。
「…何かあったらしいな」
門田が不穏な表情で呟いた。青道バッテリーがなかなか出てこないのだ。
『青道高校選手 治療の為一時中断しております』
アナウンスが流れ、門田や丹波の顔に緊張が走る。
「治療?」
「降谷か…?」
「前 足を痛めてたよな…癖になったんじゃ…」
「あ、出てきた」
ベンチから御幸、そして降谷が出てきた。
「降谷か…大丈夫なのか?」
「監督がゴーサインを出したなら大丈夫だろ…」
願いにも似たその呟きを聞きながら、試合の再開を待つ。点差は4点…まだ油断はできない。
6回表を1失点で防ぎ、6回裏、青道は得点ならず…点差が縮まっていく。
そして7回表――。
『2点を追いかけ7回表ツーアウトランナー二塁。打順は1番に戻り、桝 伸一郎』
降谷が振りかぶる。がむしゃらだが、しっかり落ち着いて投げられているように見える…。
――キイン、とバットにボールが打たれた。そのボールが、息を飲む間に――降谷に直撃した。
「!!!」
門田や丹波が息を飲む。俺の隣に先ほどから静かに座っていた玉城も、言葉を失ったように口を開けたまま固まった。
場所は頭部に近いが、腕で庇ったように見える。それでも降谷はすぐにボールを拾い、サードの前園に投げ込んだ。
『止めたぁーーー!!センターに抜けるかという強烈な当たり まさに身を挺して止めましたーー!!』
「やべぇ…アイツ…」
「…あぁ…」
門田と丹波の顔に笑みが滲んだ。確かに…燃え上がるような闘争本能がここまで伝わってきた――。
***
同点に追いつかれ9回表――。
『9回表 2アウト ランナー二塁』
「アイツしぶといな…」
「ああ…捕手で1番を任されてるだけはある」
「おお!ここでチェンジアップ」
しぶとい打者を相手にペースを崩さず投げられている。沢村も成長しているな。
『カウント2−2 勝負の8球目』
「沢村ーー!」
「踏ん張れ沢村!」
沢村がボールを放ち――バットが振られる。打球は三遊間へ――
「二塁ランナーサードを回ったーー!!」
「麻生バックホーム!!」
「おっしゃああストライク返…」
御幸がホームで捕球した――しかし三塁から闘牛のように猛進していく巨体の小川は、その勢いを緩めることなくホームへと突っ込んでいく。
「――!!!」
小川が御幸に激突し、ふたりはもろとも倒れ込んだ。
「……!!」
玉城が身を乗り出して唇を震わせた。メットを吹っ飛ばされた折れ込んだ御幸は――ゆっくりと起き上がり、ミットを高く掲げた。その中にはしっかりとボールが収まっている。
『アウト―――!!』
『ラフプレーともとれる小川の本塁突入を、キャプテン御幸身を挺してブロック!』
『成孔学園に得点を許しませんでしたーー!!』
「大丈夫なのか…今の…」
「今のプレーやばくね?」
スタンドがざわつく。それもそうだ。今のはラフプレーともとれる…。
「……。」
その後試合が続く中、玉城はずっと神妙な顔で唇を引き結び、思いつめるように黙り込んでいた。
***
その後延長戦――御幸が放ったサヨナラで青道の勝利となった。
「次は決勝か…早いな」
羨むように丹波が言い、門田が微笑む。
本当に羨ましい。そして――誇らしい。
「さてと…あいつらに声かけていこうぜ」
「ああ」
「玉城さんも行くだろ?」
「え…」
ちょっと戸惑ったように俺たちを見上げる玉城。
「御幸…待ってると思うぞ」
「……。」
「え?御幸?」
「…東条じゃないのか?」
俺の言葉に玉城は息を飲み、門田たちは不思議そうに呟く。
「行こう。」
後押しのようにそう声をかけると、玉城は、はい、と頷いた。
スタンドを降り、通路をぐるりと回って歩いていくと、成孔のチームの傍を通りかかった。
「……。」
玉城が少し歩みを緩めて彼らを見る。すると小川と桝が気づいて、玉城の方を見た。
「……。」
玉城は黙ったまま、彼らを――いや、小川を睨みつけた。
「あれ…あの子俺のこと見つめてないっスか?」
「ああ?…睨んでんじゃね?」
「絶対見つめてるっス。言い辛かったけど、俺結構モテるんスよね…」
「いや睨んでんだよアレは。ほら青道の制服の連れいるし…お前のクロスプレーにキレてんだよ。もしかしたらあっちの主将の彼女かもな」
「桝さん…さすがに鈍感すぎっス。それじゃモテませんよ」
「本当に幸せもんだなテメーは!」
「……。」
玉城は目を逸らし、また前を向いて歩きだした。
「ああほら…行っちゃった」
「いいから片付けろ常!行くぞ」
さっきのクロスプレー、相当頭に来たみたいだな。試合はずっと静かに見守っていたのに、御幸に危害が及ぶと本当に心配そうだった。そして御幸がサヨナラを打った時は…本当に嬉しそうだった。いい試合だったが、彼女の心を動かしたのは――御幸だけだったように見えた。
「お、薬師だ」
「次は薬師と市大三高だったな…」
門田が言う通り、通路の先にゾロゾロと歩いていく薬師の選手の集団がいた。
「…あ!!」
その中の一人、エースナンバーを背負った男が振り向いて、目を丸くした。
「玉城さん!玉城さんじゃん!」
「……?」
「あいつ…薬師の真田だな」
門田が耳打ちし、丹波が頷く。しかし当の本人――玉城はきょとんと真田を見上げていた。
「え!?俺のこと忘れちゃった?」
「……。…さ…」
「…!うん!」
「さ…さな…」
「そう!さな…」
「……?」
「…あぁ!惜しい!」
首を傾げた玉城に、ずっこける真似をする真田。こんなに面白い奴だったのか。
「真田だよ!真田俊平!」
「……。」
「なぁやっぱ連絡先教えてよ…俺のこと覚えてもらいたいし。」
「おい…ナンパし始めたぞ」
「でも一応知り合いっぽくないか?」
門田と丹波が様子を窺う中、真田は必死に玉城に食い下がる。
「な!電話番号教えて!」
「今急いでるので…」
「いやいや次いつ会えるかわかんねーしさ!な、お願い!」
「いやです」
「え…。」
いや…か…。と真田は項垂れた。そういえば御幸も、彼女の連絡先を知るのに苦労したらしいな。
「じゃ…失礼します」
「…あ!待って玉城さん!」
「…?」
「ニュース見たぜ。グランプリおめでとう。」
「…ありがとうございます。」
「俺、玉城さんに釣り合う男になるから!次の試合勝つし…その次も勝つ。」
「その次って…」
「青道じゃん…」
「そしたら連絡先教えてくれよ!」
「…え…。」
積極的な真田に対し、玉城は静かに考えた後、口を開いた。
「…いやです」
「え"……」
硬直した真田を置いて、失礼します、と歩き出す玉城。門田と丹波はちょっと笑いを堪えつつその後に続く。
「ちょっ…待って玉城さん!」
「真田〜置いてくぞ〜〜」
「やっぱめちゃくちゃモテるな…あの子」
門田が耳打ちし、ああ、と丹波が頷く。
思えば、今こうして歩いているだけでも、すれ違う人たちが皆玉城を振り返る。声をかけようとして、俺たちに気付いてやめる者もいる。
こんな子に想われて、御幸はどんな気持ちなのか…。それを考えると、少し可笑しくなった。