「東条は?電車通学?」

入学式の朝。まだぎこちない笑顔で、ついさっき自己紹介を交わしたばかりの友人が尋ねてくる。

「あ、俺寮なんだ。」
「え?ってことは…」
「うん、野球部。」

へぇ…、と物珍しい目で俺見る3人の男子たち。

「じゃあ毎日友達と遊べるじゃん。」
「いいな〜」
「はは…。」

練習でそれどころじゃないけど…。というか、遊ぶよりも野球がしたくてたまらない。今まではそれが当たり前だったのに、高校に入って早くも自分はかなり特殊な人間なのだと自覚する。早く放課後にならないかな…信二や、ほかの野球部の皆に会いたい。

「…えっ、おい!」
「ん?…えっ。」

急に、皆が小突き合って目配せをした。俺も肘で小突かれて、教室の入り口を顎で指される。

「東条、あの子。あの子。」
「え?」

振り向くと、ぱっと目に入ってきたのはひとりの女子生徒。一瞬で目を引くほど、そしてびっくりするほど…可愛い。ものすごい美人。一瞬頭が真っ白になって、俺はその子を見つめてしまった。
おおぉ、と友達が頬を緩めて歓声を上げた。女子生徒はこっちをちらりと見て、居心地悪そうに肩を竦め、俯いてしまった。それから黒板に貼り出されている座席表を見に教壇に上がる。

「めちゃくちゃ可愛くね?」
「どこ中だろ?」

ニヤニヤと言葉を交わす男子たち。女子生徒は自分の席を見つけたらしく、教室を振り返る。
おお〜、とまた歓声が上がる。男子たちにニヤニヤと見つめられて、その子は自分が注目を浴びていることに気付いているようだった。唇を噛みしめて、泣きそうな顔で足早に席に着く。

「お前行けよ。」
「なんでだよ。お前こそ…」

そうひそひそと囁き合う男子たちから逃れるように、顔を背ける女子生徒。だめだ、もう見ていられない。

「やめろよ。」

思わず口をついて出た言葉は、思っていたよりもはっきりと響いてしまった。呆気に取られている友人たちの顔を見て、一瞬しまった、と思う。だけど…間違ったことを言ったとは思えない。

「…もう、チャイム鳴るしさ。」

はぐらかすようにそう言って、俺も自分の席へ…その女子生徒の前の席に向かった。椅子を引いて、ちょっと振り返ると、女子生徒はちょっと潤んだ目で俺を見上げていた。

「東条秀明です。」

できるだけ軽い調子でそう言って、その子の目が潤んでいることには気付かないふりをした。

「席、前後だな。よろしく。」
「…よろしく…」
「名前なんていうの?」

彼女の唇が少しほころんで、綺麗な微笑が浮かんだ。

「…玉城光。」



***


「はい、じゃあ男女でペア作って〜」

教師の声で、男子たちが一斉に立ち上がり、ざっ、と彼女を見る。けれど彼らよりも先に、彼女は俺の腕を掴んだ。

「東条、一緒にやろ!」
「う…うん。」

一気に意気消沈して戻っていく男子たち。…玉城になつかれてしまった。いや、嬉しいけど…。…嬉しいけど!けど、ちょっと、気恥ずかしい。だって玉城、すぐに腕につかまってきたり…いつもいつも、東条東条って…。まるで雛鳥のよう。おかげで先輩たちから目を付けられるし…いや、でも、やっぱりうれしい。

「ちょっと男子、誰でもいいから早くペア組んでよ〜」
「あからさまにやる気失くすな!」
「…うーっす」

女子たちがブーイングして、男子たちはのろのろと立ち上がった。

「つーか、玉城さんが東条君以外とペア組むわけないじゃん。」
「ほんとほんと。いい加減諦めなよ。バカだなぁ」

入学式の日の一件を知っている女子たちは口をそろえてそう言う。そのたびに男子たちは、バツが悪そうに黙り込むのだった。

「東条、これどうすればいいの?」

玉城が教師から受け取った鉢巻を俺に差し出す。

「足を縛るんだよ。」
「え…?」
「どっちでもいいけど…俺が右側だったら、俺の左足と玉城の右足を縛って…、で、一緒に走るんだよ。」
「…あぁ!だからににんさんきゃくって言うんだ。」
「そうそう。」

ににんさんきゃく、のたどたどしい言い方が可愛くて、ちょっと口元が緩んでしまう。玉城は英国育ちで先月日本に来たばかりのため、両親は日本人だから日本語は上手いけれども、日本の文化は知らないことが多いのだ。

「じゃあ縛って。」
「…う、うん。」

無邪気にくっつけられる足。うわ、玉城の足首…ほっそいな。緊張しながら鉢巻で足を縛り、立ち上がる。

「痛くない?」
「うん。大丈夫。ねぇ、歩いてみようよ。」

玉城は楽しそうに俺の背中に掴まった。み…密着。

「うん、じゃあ…あそこの棒まで行ってみようか」
「うん。…どっちから?」
「じゃあ、繋いでない方から」
「うん。」

なんか、息合ってるかも。せーの、と声を揃えて一緒に足を踏み出す。いち、に、いち、に、と順調に進んで、すぐに示した棒の傍までやって来た。

「ににんさんきゃく、楽しい!」

ころころと笑う玉城の顔が近くて、俺はどきりとした。なんか…いいにおいするし…。玉城、柔らかいし、細いし、可愛いし…。…だめだ、こんなこと考えてたら…玉城に嫌われる。玉城は男に変な目で見られるのが嫌いなんだから。

「…ににん、って言い辛い。」
「そう?」
「きゃく、も言い辛いけど…ににんさんきゃく。言えてる?」
「言えてる言えてる。二人三脚。」
「…ににんさんきゃく。」
「二人三脚。」
「ににんさん、…ににんさんきゃ…舌噛みそう!」

…可愛すぎるから!こんな子に何の下心も抱かないとか…無理。

「東条、もう一回!あっちまで歩いてみようよ。」
「あ、う、うん。」

けど…ついつい何でもないように振舞ってしまう。玉城が笑ってくれたら、もうなんでもいいや、って思ってしまうから…。


***


教室に入ると、玉城が分厚い本を読んでいた。…辞書並みに分厚い本だ。俺な自分の席に横向きに座り、玉城を振り返る。

「何読んでんの?」

黒い革の表紙には、金の小さな文字が彫られている。玉城はそれを見せてきた。

「聖書。」
「…せ、聖書?」

なんでまたそんなものを…。

「玉城、キリスト教徒なの?」
「ううん、特には。これは漢字の勉強で読んでるの」
「…漢字の勉強で聖書??」

そんなの聞いたことないけど…。

「知ってる内容の本の方が、漢字の意味を理解しやすいから。」
「…へぇー」

真面目…というかなんというか。わからなくもないけど、発想が変わってるな。

「普段読んでるの?」
「どっちかっていうと…読まされてたって感じかな。イギリスでは毎日礼拝に行ってたの。学校の決まりで」
「へぇ〜…」

「ねぇ、玉城さん聖書読んでるらしいよ。」
「やっぱり天使なんじゃ…」
「きっと正体を隠して人間界に来てるのよ」

ひそひそと女子生徒たちがうわさ話を始める。また面白い話を…。まぁ、その気持ちはわかるけど。
玉城はその美貌で、どうしてもクラスで浮いてしまっていた。表立ってはぶかれているわけじゃないけど、いんなどうしてもしり込みしてしまって、遠巻きに玉城を眺めているのだった。彼女はまさに高嶺の花。けれど近づきがたく思うのは、その容姿だけが原因ではなかった。


...

「では、ハムレットの名セリフ…"To be, or not to be..."この訳はどう訳す?」

ハムレット…!?そんなのわかるわけない。この先生、時々教科書の範疇を超えて難問を出してくるんだよな。俺、指されませんように…!

「ん〜?なんだなんだ、皆下向いちゃって。ははは。」

…わかんないからだよ!ほんと、良い性格してる…この先生。

「この使い方自体はもうとっくに習ってるだろ〜?ここのor notがどこを指しているかがわかれば簡単だぞ。勘でもいいから訳してみろ〜。じゃあ…」

…うわ!先生と目が合った…!?

「…玉城!」

…な、なんだ。俺じゃなくて、俺の後ろの玉城か…。玉城可哀そうに…あ、でも玉城はイギリスにいたんだし…答えわかるんじゃ?

「はい。」

カタン、と椅子が鳴って、玉城が立ち上がったのがわかった。

「…生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ」

…え?

「素晴らしい!よく知ってたな。一番有名な訳だ。座っていいぞ。」

カタン、とまた椅子が鳴る。

「このセリフは直訳すると、するべきか、しないべきか。という文になる。だが、物語上の意味を汲んで様々な訳がされていて――」

す…すごいな。玉城、ハムレットなんて知ってるんだ。ただたんに英語ができるだけじゃ、この答えはわからなかったはず。さすが…。

「よーし、玉城は内申アップしちゃおう」
「先生えこひいきー」

教師は上機嫌に、ははは、と笑った。


...


「じゃあ次の問いを…玉城!」
「…x(6ax-3yc)です」
「よし、正解。」


「玉城!日本で最初の発掘調査が行われたのは?」
「大森貝塚です。」
「はい!正解。」


「じゃあ…玉城さん。この部分はなんて言う?」
「…腎静脈です」
「うん!正解!」


す、すごすぎる。どの教科もいつ当てられても正解。しかも…

「玉城さん!あの件考えてくれた?」
「え…、や、やめときます」
「そんなこと言わずに、体験でもいいから!」

「…あれ、何?」

教室にやって来た体育の顧問の先生が玉城に熱心に声をかけているのを見て、男子が呟く。すると女子生徒が、ああ、と口を開いた。

「玉城さん、体力テストの結果がすごく良くて、先生が陸上部に勧誘してるの。」
「へぇー。運動神経もいいんだ、玉城さん…」
「陸上部には入ってほしくないなぁ〜。せっかくの色白が…」
「あ、わかる〜。」

文武両道、容姿端麗。こんなに完璧な子、いるのか?ってくらい、玉城は周りと比べて抜きんでて秀でていて、クラスメイトはなかなか気軽に声をかけることができないでいるのだった。



***



「なー東条、頼むよ!」
「……。」

目の前で土下座せんばかりに深々と頭を下げ、手を合わせる友人たち…。俺は気まずく頬をかいた。

「玉城さんのメアド、知ってるんだろ!?」
「…知ってるけど…」
「教えて!頼む!お願い!ジュースおごるから!」
「いや、でも…本人に聞かないと…」
「それじゃ断られるかもしれないだろ!」

…じゃあ、勝手に教えるのはもっとダメじゃん…。と、心の中で呟く。

「いいじゃん、付き合ってるわけじゃないんだろ?」
「だ、だからって勝手には…」
「もしかしてお前も玉城さんのこと好きなの?」
「…っ…」

好きか嫌いかと言われれば…もちろん好きだけど…。可愛いと思うし、東条東条、って寄ってきてくれて、嬉しい…けど…。

「そ、そういうわけじゃないけど!」
「じゃあいいじゃん。」
「ダメだって…玉城がいいって言ったら、いいよ。」
「それなら最初からお前に聞いてないって!」

あーもー…、と友人は項垂れて、チャイムと共に席に戻って行った。ほとんど同時に玉城が教室に戻って来る。玉城は最近、休み時間になるとふらりとどこかに姿をくらませるのだ。廊下に集まってくる野次馬が嫌なんだとか。
これだけ美人だと、毎日のように野次馬が来るし…俺には縁のない話だけど、気持ちはわかる。美人でもいいことばかりじゃないんだな…。

つんつん、と背中がつつかれて、振り返ると、玉城が悪戯っぽくはにかんだ。

「…何?」
「なんでもない。」

…これだから玉城は…!!
勘違いしてしまいそうだから、やめてほしい…。男嫌いで、ほかの男は完全無視なのに、俺にばかりこうして悪戯して楽しそうにして…。期待してしまいそうになる。



***


「玉城さーん。」

授業が終わってすぐ、教室にいた男子たちのうちの一人が玉城を呼んだ。いつものように席を立ってどこかへ行こうとしていた玉城が振り向くと、呼び止めた男子が友人たちをニヤニヤと振り返りながら言った。

「村田がメアド知りたいって〜。」
「はぁ!?お前だろ!」
「ははははは。」

玉城は黙ったまま戸惑ったように立ち竦んでいる。

「じゃあ俺でいいよ。玉城さんメアド交換してくれる?」
「はぁ?じゃあ俺も…」
「俺も俺も〜」

集まってきた男子たちに、玉城はうつ向いたまま声を絞り出した。

「…け…」

「え?」
「何?」

「…携帯……壊れてるから…」

ぽかん、と言葉を失った男子たちを置いて、玉城は教室を出て行ってしまった。携帯壊れてるって…そんな見え透いた嘘。男子たちは顔を見合わせて不満気に席に戻る。

「メアドくらいよくね?別に」
「モテるからな〜。」
「イケメン以外お断りなんだろ、どーせ」

これは…まずい。ますます玉城が孤立してしまう…。けど、男子に愛想よくしろなんて、俺にはとても言えない。玉城が嫌だと思う気持ちも、わかるから…。

「ダサッ」

その時教室に、よく通る声が響いた。

「玉城さんとあいつらじゃ釣り合ってないわよね。断られて当然でしょ。」
「ほんとほんと。フラれて負け惜しみとかダサ〜」

「はぁ…!?」

声の主は、クラス委員長で女子のリーダー格の鷹野司と、副委員長で鷹野と仲がいい卯月真だった。クラスでも目立つ存在のふたりにはっきりと言われて、男子たちは口ごもる。

「つーかあいつらのせいでクラスの雰囲気最悪なのよね〜」
「そーそー玉城さんも居辛くて出て行っちゃうくらいだし。」
「休み時間のたびに野次馬に囲まれてさ。クラスメイトとして守ってあげようとか思わないのかな〜」
「そういう発想がないからフラれるんだよね〜」

「……。」
「……。」
「……。」

どんどん小さくなっていく男子たち。女子たちは皆普段からこういう話をしていたのか、目配せしてくすくすと笑っている。

「いつもニヤニヤして玉城さんのこといやらしい目で見てさ〜。そういうのって結構本人もわかるもんなのにね〜」
「一人じゃ話しかけられないくせに、集団でヒューヒュー言ってからかったり、ほんとダサいよね〜」

「な…なんだよ!お前ら…自分がちやほやされないからって、負け惜しみかよ!」
「ブスは黙ってろよ!」

チラッ、と男子に視線をやる鷹野と卯月。

「べつにあんたたちのことだなんて一言も言ってないけど?」
「身に覚えがあるの?」

しまった、と男子たちの顔が歪んだ。

「っていうか、ウチらブスじゃないし〜」
「モテない男は暴言もダサいわね」

確かに、鷹野は中性的な長身の美人で、卯月はくりっとした目が印象的なベビーフェイス。ブス、と言われたところでいたくもかゆくもないようだった。

「あんたたちこそ鏡見ろって感じ!キャハハ」
「真、やめなよ〜。かわいそうじゃ〜ん」

「…っんだよ!」
「なんだよはこっちのセリフよ!」

キレた男子に負けない怒声を放った鷹野。教室は一瞬で静まり返った。

「クラス委員長としても一人の人間としても、今のクラスの雰囲気はおかしいと思う。クラスメイトが休み時間過ごせない教室って何よ!?いつも好奇の目に晒されて、一挙一動をニヤニヤクスクス観察されて、可哀そうだと思わないの!?それとも全く同じ条件で全く同じ目に遭わないと、他人の気持ちもわからないほどあんたたちはバカなわけ!?」

「……。」
「……。」
「……。」

男子たちは皆気まずく口を噤んだ。すると鷹野は少し声のトーンを落とし、落ち着いて言った。

「…私たちはまだであって1か月も経ってない。だから、まだ挽回のチャンスはあるんだよ。」
「……。」
「だから…今度から、皆で玉城さんのこと、守ってあげようよ。私はA組を、誰にとっても楽しいクラスにしたいの。」
「……。」
「いい!?」

追い打ちのような怒声に、こくこく、と頷く男子たち。女子たちは安堵のような、けれどしてやったりのような笑顔を浮かべて頷き合っている。
するとちょうどチャイムが鳴って、玉城が滑り込むように教室に戻ってきた。いつも通り静かに準備を始める玉城を見て、さっきこの教室で起こっていたことなど想像もついていないだろうな、と思うと、次の休み時間が何だか楽しみになった。


***


チャイムが鳴った。なんだか緊張する。
カタン、と玉城が立ち上がった音がして、俺が引き留めるべきかどうか迷っているうちに、あのよく通る声が響いた。

「玉城さん!」

鷹野だ。玉城は驚いたように固まって、立ち竦んだ。

「お昼、私たちと食べようよ!」

そう言って、壁際の席から鷹野と卯月が手招きする。

「…でも私…」
「ここの席なら廊下から見えないよ!大丈夫!」
「男子〜!前のドア閉めて!」
「うぃーす」

いつもと違う教室の様子に気付いたように、玉城は不思議そうに目を瞬いた。

「玉城さん!早く食べよ〜」
「お腹すいた〜」
「あ…。う、うん…。」

遠慮がちに二人の元に向かう玉城を見て安堵した。あの二人がいてよかった…。
けれどほどなくして、廊下にはいつものように人が溢れ始めた。

「玉城光いる?」
「玉城光どこー?」
「おい、見えねーよ」

玉城が居心地悪そうに肩を竦め、俯いた。すかさず鷹野と卯月が声を上げた。

「見せもんじゃないわよ!!様をつけろ様を!」
「A組の人以外立ち入り禁止で〜す」
「男子、絶対ドア開けるんじゃないわよ!」
「ドアの前に座ってて!」

「…はいはい」

ドアに寄りかかって食事を始める男子。こっそり鍵をかける女子。

「玉城さん、教室の外は気にしなくていいから!」
「絶対誰も入れないからね!」
「クラスの皆、味方だから!」
「あいつらもさっきシメといたから!」

あいつら、と差された男子たちがバツが悪そうに顔を顰めた。玉城はぽかんと鷹野と卯月を見つめ、急に俯いた。

「玉城さん?」
「どうし…、えぇ〜玉城さん泣かないで!」

な…泣いた!?
クラス中が騒然とした。鷹野と卯月が玉城を抱きしめ、背中を宥めるように撫でる。

「…ありがとう…。」

辛うじて聞こえた小さな声。その一言だけで、クラス中が誇らしげに笑顔を浮かべた。

「なんだ感動して泣いちゃったの〜!?」
「びっくりした〜!ほらもう涙拭きな!」
「っていうか泣いても可愛い〜…あっコラ男子見るな!」

その日、クラスの結束力が上がった気がして、俺はすごくうれしかった。


***


「東条〜、部活行こうぜ」
「うん!今行く」

放課後、信二が俺のクラスの前にやってきて俺を呼ぶ。そしてちょっとそわそわしながら教室の中を見ていた。…まあ、玉城だろうなぁ。1Aにめちゃくちゃ綺麗な子がいるって、もう学校中で有名だし…。

「信二、行こう!」
「あ…、おう」

俺が教室から出てくると、信二はちょっと名残惜し気に教室を振り返りながら踵を返した。けど、さすがに他のたちの悪いやじ馬たちのように、無遠慮に見たりひやかしたりしないところは、信二だなあと思う。

「東条〜」

ふと、後ろから綺麗な声がかかった。

「ばいばーい」

振り向くと、きらきら光っているかのような眩しい笑顔で、鷹野と卯月と並んで歩いている玉城が、俺に手を振っているのだった。

「おー、また明日〜」

手を振り返すと、3人の女子たちはきゃっきゃと楽しそうに俺たちを追い抜いて昇降口へ向かっていく。玉城はあの一件以来、すっかりあの二人と仲良くなって、今では仲良し3人組だ。

「…ちょっと待て東条!!」
「えっ、な、何…?」

急に信二が羽交い絞めにするように肩を組んできて、俺は苦笑した。

「なんでお前玉城さんとあんな仲良いんだよ!!いつの間に!!」
「えっ…、いや…、仲良いって言うか…」
「誤魔化すな!玉城さんと言えばお前…、大の男嫌いで男とは目も合わせねーって有名じゃん!!」
「あ…そうなんだ、あはは…」
「そうなんだ!?…お前〜…」

苦しいよ、と腕をぺちぺち叩くと、信二は不満気に解放した。

「まあ、席前後だし…」
「だから何!?」
「や、俺もよくわかんないけど…、まぁ…」
「……。」
「なんか…気に入られちゃった?のかな?ははは。」
「…東条〜〜!!!」

クソッ、羨ましい…、と信二はぼやいてため息をついた。

「多分、信二も仲良くなれると思うよ。」
「あぁ!?…慰めはいいっつーの…」
「慰めとかじゃなくて。玉城は、なんていうか…からかってくる男が嫌なんだと思うよ。」
「…どういう意味?」
「面白半分に見に来たりとか…、普通に考えて誰だって嫌だろ、そういうのは。」
「……。」
「だから信二はそういうことしないし、大丈夫だよ。」
「…そりゃどーも」

ぶつぶつとぼやいた信二が、それでもまんざらではない顔をしていて、もし本当に玉城が信二のことも気に入ったらと思ったら――俺は少し、胸がチクリとした。

 


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