029
卒業式を終え、春の甲子園もあっという間に過ぎ去り、新学期…。
「小湊!」
「東条君。」
「同じクラスだな、よろしく!」
「うん!よろしく。」
「お〜い東条!小湊!」
「あ、狩場!」
小湊と狩場と同じクラスになって、ひとまず安堵した。信二とまた違うクラスなのはちょっと残念だけど…。
でも、それ以上に…
「あ!」
その一言だけでも綺麗な、人の気を引く声で、俺は顔を上げた。
「やったー!また東条と同じクラスだ!」
「た、玉城…」
嬉しそうに駆け寄ってくる玉城に、クラスの皆が注目している…。
「光〜、私と一緒ってわかった時より喜んでない?」
「そんなことない〜。」
えへへへ、と頬を緩める玉城を、鷹野がちょっと呆れたように見つめる。
「鷹野も同じなんだ!よろしく。」
「よろしくー。残念ながら真は離れちゃったんだけどね。」
「そっか、卯月寂しいだろうな。何組?」
「Bだよ、隣だからすぐ会えるよ。」
「そうだな。」
「ねぇねぇ。」
くいくい、と玉城が俺の腕を引いて、身を乗り出してくる。
「ん、何?」
「久しぶりだね東条。」
「…?そ、そう…だな。」
「…んふふふふ」
「デレデレか!」
鷹野が突っ込んで、玉城は無邪気に笑う。こんな姿は珍しいからか…元1Aの人以外、皆目を点にしている。小湊と狩場まで…。
「あ!ほらほら、チャイム鳴るよ!光!」
「え〜東条と席近くない〜…」
「我慢しなさい!」
「う…噂以上だな…」
「玉城さんが東条に異常に懐いてるって噂な…」
1年の時他クラスだった人たちが噂し始め、俺はちょっと肩身が狭くなった。
「本当に仲良いんだね。ちょっとびっくりしたよ…。」
小湊までもがそう言うので、ちょっと顔が赤くなる。
「…俺もなんでなのかよくわからないくらいだから。」
「でも羨ましいぜ。」
「付き合わないの?」
「こ…小湊まで。そういうのじゃないんだ、本当に。」
きっぱりと否定すると、小湊と狩場は腑に落ちない顔を見合わせた。
***
「玉城光先輩はいますか。」
入学式の翌日。モデルの玉城光が2年C組にいる、という噂を聞きつけ、先輩の教室まで野次馬に来る勇気ある新入生は少なくはなかったけど、正面切って呼び出す者が現れたのはこれが最初だった。
「いねえよ。」
「こら覗くな。」
しかし既に鷹野によって新生玉城親衛隊が築かれたこのクラスでは、すぐに男子が立ち上がり、入口をブロックする。
「あれ…あいつ新入部員の…」
その様子を見ていた狩場が呟いて、小湊も、あ、と声を上げた。
「大京シニアの奥村君だよね。木村君と御幸先輩と同室の…」
「見た目によらず意外とミーハーなんだな。」
「お、おい、こら!」
「勝手に入るな!」
奥村は先輩たちを押しのけて教室に入ってきた。ご、強引…。
俺たちには見向きもせず、窓際で友達と話している玉城に一直線に向かっていく。
「玉城さん逃げて!」
「そいつ勝手に…!」
「え…?」
男子が慌てて奥村を追いかけていき、玉城はやっと騒ぎに気付いた様子で振り向いた。
「…光舟…」
玉城は奥村を見上げて呟く。え…知り合い?
「やっと会えた…」
奥村は思いつめたような顔で呟いた。
意味深な言葉に、周りの女子がざわつく。
「え…何何!?」
「運命の恋?」
「生き別れの姉弟の再会?」
…確かにちょっと日本人離れした雰囲気は似てる…。
「どうして日本にいるの?」
「……。」
「…いつまで…いられる?」
え…?
「…光舟、あとで…」
「またそうやってはぐらかすつもり?」
「……。」
「あの後…光のこと探したんだ。後で話そうって…言われたから」
玉城の腕を掴み、詰め寄る奥村。ど…どういう関係!?
「…後で電話するから」
「後でっていつ?」
「…じゃあ…今日」
「……。…わかった」
奥村はようやく、ひとまず納得して、玉城を離した。
「電話しなかったらまた明日来る。」
「はいはい…」
そう宣言し、ぽかんとする先輩たちの中を物おじせず退室する奥村。
「光、今のって…前野球部の試合を見に行った時に会った…?」
「うん…」
「やっぱり、そうだよね。親戚なんだっけ?」
「うん…」
鷹野の言葉にうなずく玉城。周りの女子たちは興味津々に、へ〜、と相槌を打っている。
「親戚なんだ…。」
「確かに雰囲気似てるよな。」
「名前もふたりとも『光』が入ってるし」
親戚…か。
それだけじゃなくて、何か…問題がありそうだったけど…。
御幸先輩は知ってるのかな…?
***
「なぁなぁ生の玉城光見た!?」
「見てない!何組?」
「2Cだよ!でもあんま教室にいないんだよな〜。」
「俺今日1階の廊下で見たぜ玉城光!本物めちゃくちゃ可愛かっ…」
「コラ!!」
玉城の話題で盛り上がっている1年生たちに、沢村が割り込んでいった。
「なんだ君たちは!!玉城『先輩』でしょーーが!!有名人といえど同じ青道に来たからにはお前らも縦社会の一員なんだぞ!目上の人を呼び捨てにするんじゃぁない!」
「めちゃくちゃお前が言うなって感じだけど、まぁ正論だな。」
「っ!!!」
はっはっは、と笑う御幸先輩に、ぎくりと肩を竦ませる沢村。だけど1年生たちは、慌ててすいませんと謝った。
その様子を奥村も見ていたが、何も言わず食事を口に運び続けている。
「でも栄純君にしてはいいこと言ってたよ!」
「春っちまで…!!髪切ってますますお兄さん化して…」
「何か言った?」
「なにも!!!」
***
「東条先輩!金丸先輩!こんにちは!」
教室の前で信二と話していると、そこを通りかかった洋平、由井、結城に会った。挨拶してきた3人に手をあげ、しばし話をする。
「洋平。移動教室か?」
「オリエンテーションです!1年合同で、体育館で!」
「あ〜、オリエンテーションか。懐かしいな」
「ところで…」
洋平はなんだか落ち着かない様子で廊下を見渡した。
「東条先輩、玉城先輩と同じクラスってマジですか!?」
「あ…、うんまぁ、一応…」
「何が一応だよ。1年から同じクラスじゃん」
「え!?そうなんですか!?」
いいなぁ〜!!と歓声を上げる洋平と、モデルの人だよね、と呟く由井。頷く結城。
「毎日あんな美女と同じ教室に…!」
「洋平、それだけじゃねぇぞ。こいつはな…」
信二が言いかけた時、急に廊下がざわついた。このどよめきには心当たりがある…。
「あ〜、東条が先輩してる。」
教室から出てきた玉城が、鷹野と一緒に歩いて来て、俺を見て微笑んだ。
えっ、と洋平が目を丸くして俺を振り返る。
「はは、一応ね。」
「東条先輩、ネクタイ曲がってるよ。」
「え?あ、さんきゅ…」
くい、と俺のネクタイを少し引っ張って直し、顔が熱くなる俺をニコニコと見つめ、玉城は鷹野と歩いて行った。
東条先輩…か。
ちょっと余韻に浸っていると、洋平が目を丸くして俺を見ていることに気付いた。
「…え!?東条先輩!もしかして、つ…付き合ってるんですか!?」
「違う違う!」
「まだ、だよな?東条」
「だから違うって!」
必死で否定しているのに、いいなぁ〜!と目を輝かせる洋平に、顔を見合わせる由井と結城。ほんとは御幸先輩と付き合ってる…何て知ったら、きっと驚くだろうな。
「でも本当に綺麗な人ですね…さすがモデル…」
由井が感心するように呟いて、洋平もだよな!と同意する。
「東条先輩がんばってください!」
「え…、あはは…」
なぜか激励をもらって、俺はただ苦笑するしかなかった。
***
筋トレを切り上げた御幸先輩が、汗を拭いながらベンチに置いていた携帯を取り、その画面を見るなりこっそりと練習場を出て行った。その背中を黙って見ていた倉持先輩たちは、御幸先輩の姿が見えなくなると、示し合せたように集合した。
「あいつ絶対彼女いるだろ。」
倉持先輩が不満げに切り出すと、他の先輩たちも苦渋の表情で頷いた。
「一番の決定打はバレンタインだよな。」
「あんな時間にわざわざ渡しに来るって絶対本命だもんな。」
「しかも御幸、他は全部断ってたんだぜ。泣かせてまで」
「ホワイトデーも午後消えたしな」
「それだけじゃないぜ。あいつ去年の冬頃から、時々昼休みいなくなるんだよ。どこ行ってるか聞いてもはぐらかすし。」
「それは怪しい。」
「でも誰と…」
「……。」
「……。」
「……。」
急に沈黙する先輩たち。1年生たちは不思議そうな顔で見守っている。
「…玉城さんじゃないよな?」
ぽつり、と倉持先輩が言って、他の先輩たちは思いあぐねるように唸った。
「いやまさか…」
「いつも無視されてるじゃん」
「でもあれだけしつこい御幸が…」
「何?」
いつの間にか御幸先輩が戻ってきていて、先輩たちはギクリと肩を揺らした。
「悪口か〜?楽しそうだな。」
いつもの軽口をたたきながら、御幸先輩はベンチに置いていた自分の荷物に歩み寄り、スポーツドリンクを飲んだ。
すると意を決したように、倉持先輩が進み出た。
「御幸、お前…玉城さんと付き合ってる?」
御幸先輩はペットボトルのふたを閉めると、荷物を拾い上げながら笑った。
「またそれ?そんなに仲良く見える??」
「茶化すなや!真面目に答えんかい!」
ゾノ先輩が詰め寄ると、落ち着けよ、と苦笑する御幸先輩。
「付き合ってないって言ってんじゃん。もしそうならお前らに自慢しまくってるっつーの!」
まだ隠し通す気なんだ…。まぁ…確かに広まったら学校だけじゃなく、テレビでも騒ぎになると思うけど…。
「あ!つーか変な話広めんなよ!?変な噂が立ったら俺嫌われちゃうじゃん。」
「……。」
「せっかく最近無視されなくなってきたんだから。俺の苦労を踏みにじるな!」
「……。」
いいな!と冗談めいた口調で言い残して、御幸先輩は練習場を去っていく。
「…どう思う?」
「さあ…でも確かに、玉城さんと付き合ってたら隠し通すなんて無理でしょ」
だよなぁ、と腑に落ちないながらも話を切り上げる先輩たちに、俺は言葉をのみこんだ。
「東条、どうした?」
不思議そうに俺を見る信二に、なんでもないよ、と笑いながら。
「小湊!」
「東条君。」
「同じクラスだな、よろしく!」
「うん!よろしく。」
「お〜い東条!小湊!」
「あ、狩場!」
小湊と狩場と同じクラスになって、ひとまず安堵した。信二とまた違うクラスなのはちょっと残念だけど…。
でも、それ以上に…
「あ!」
その一言だけでも綺麗な、人の気を引く声で、俺は顔を上げた。
「やったー!また東条と同じクラスだ!」
「た、玉城…」
嬉しそうに駆け寄ってくる玉城に、クラスの皆が注目している…。
「光〜、私と一緒ってわかった時より喜んでない?」
「そんなことない〜。」
えへへへ、と頬を緩める玉城を、鷹野がちょっと呆れたように見つめる。
「鷹野も同じなんだ!よろしく。」
「よろしくー。残念ながら真は離れちゃったんだけどね。」
「そっか、卯月寂しいだろうな。何組?」
「Bだよ、隣だからすぐ会えるよ。」
「そうだな。」
「ねぇねぇ。」
くいくい、と玉城が俺の腕を引いて、身を乗り出してくる。
「ん、何?」
「久しぶりだね東条。」
「…?そ、そう…だな。」
「…んふふふふ」
「デレデレか!」
鷹野が突っ込んで、玉城は無邪気に笑う。こんな姿は珍しいからか…元1Aの人以外、皆目を点にしている。小湊と狩場まで…。
「あ!ほらほら、チャイム鳴るよ!光!」
「え〜東条と席近くない〜…」
「我慢しなさい!」
「う…噂以上だな…」
「玉城さんが東条に異常に懐いてるって噂な…」
1年の時他クラスだった人たちが噂し始め、俺はちょっと肩身が狭くなった。
「本当に仲良いんだね。ちょっとびっくりしたよ…。」
小湊までもがそう言うので、ちょっと顔が赤くなる。
「…俺もなんでなのかよくわからないくらいだから。」
「でも羨ましいぜ。」
「付き合わないの?」
「こ…小湊まで。そういうのじゃないんだ、本当に。」
きっぱりと否定すると、小湊と狩場は腑に落ちない顔を見合わせた。
***
「玉城光先輩はいますか。」
入学式の翌日。モデルの玉城光が2年C組にいる、という噂を聞きつけ、先輩の教室まで野次馬に来る勇気ある新入生は少なくはなかったけど、正面切って呼び出す者が現れたのはこれが最初だった。
「いねえよ。」
「こら覗くな。」
しかし既に鷹野によって新生玉城親衛隊が築かれたこのクラスでは、すぐに男子が立ち上がり、入口をブロックする。
「あれ…あいつ新入部員の…」
その様子を見ていた狩場が呟いて、小湊も、あ、と声を上げた。
「大京シニアの奥村君だよね。木村君と御幸先輩と同室の…」
「見た目によらず意外とミーハーなんだな。」
「お、おい、こら!」
「勝手に入るな!」
奥村は先輩たちを押しのけて教室に入ってきた。ご、強引…。
俺たちには見向きもせず、窓際で友達と話している玉城に一直線に向かっていく。
「玉城さん逃げて!」
「そいつ勝手に…!」
「え…?」
男子が慌てて奥村を追いかけていき、玉城はやっと騒ぎに気付いた様子で振り向いた。
「…光舟…」
玉城は奥村を見上げて呟く。え…知り合い?
「やっと会えた…」
奥村は思いつめたような顔で呟いた。
意味深な言葉に、周りの女子がざわつく。
「え…何何!?」
「運命の恋?」
「生き別れの姉弟の再会?」
…確かにちょっと日本人離れした雰囲気は似てる…。
「どうして日本にいるの?」
「……。」
「…いつまで…いられる?」
え…?
「…光舟、あとで…」
「またそうやってはぐらかすつもり?」
「……。」
「あの後…光のこと探したんだ。後で話そうって…言われたから」
玉城の腕を掴み、詰め寄る奥村。ど…どういう関係!?
「…後で電話するから」
「後でっていつ?」
「…じゃあ…今日」
「……。…わかった」
奥村はようやく、ひとまず納得して、玉城を離した。
「電話しなかったらまた明日来る。」
「はいはい…」
そう宣言し、ぽかんとする先輩たちの中を物おじせず退室する奥村。
「光、今のって…前野球部の試合を見に行った時に会った…?」
「うん…」
「やっぱり、そうだよね。親戚なんだっけ?」
「うん…」
鷹野の言葉にうなずく玉城。周りの女子たちは興味津々に、へ〜、と相槌を打っている。
「親戚なんだ…。」
「確かに雰囲気似てるよな。」
「名前もふたりとも『光』が入ってるし」
親戚…か。
それだけじゃなくて、何か…問題がありそうだったけど…。
御幸先輩は知ってるのかな…?
***
「なぁなぁ生の玉城光見た!?」
「見てない!何組?」
「2Cだよ!でもあんま教室にいないんだよな〜。」
「俺今日1階の廊下で見たぜ玉城光!本物めちゃくちゃ可愛かっ…」
「コラ!!」
玉城の話題で盛り上がっている1年生たちに、沢村が割り込んでいった。
「なんだ君たちは!!玉城『先輩』でしょーーが!!有名人といえど同じ青道に来たからにはお前らも縦社会の一員なんだぞ!目上の人を呼び捨てにするんじゃぁない!」
「めちゃくちゃお前が言うなって感じだけど、まぁ正論だな。」
「っ!!!」
はっはっは、と笑う御幸先輩に、ぎくりと肩を竦ませる沢村。だけど1年生たちは、慌ててすいませんと謝った。
その様子を奥村も見ていたが、何も言わず食事を口に運び続けている。
「でも栄純君にしてはいいこと言ってたよ!」
「春っちまで…!!髪切ってますますお兄さん化して…」
「何か言った?」
「なにも!!!」
***
「東条先輩!金丸先輩!こんにちは!」
教室の前で信二と話していると、そこを通りかかった洋平、由井、結城に会った。挨拶してきた3人に手をあげ、しばし話をする。
「洋平。移動教室か?」
「オリエンテーションです!1年合同で、体育館で!」
「あ〜、オリエンテーションか。懐かしいな」
「ところで…」
洋平はなんだか落ち着かない様子で廊下を見渡した。
「東条先輩、玉城先輩と同じクラスってマジですか!?」
「あ…、うんまぁ、一応…」
「何が一応だよ。1年から同じクラスじゃん」
「え!?そうなんですか!?」
いいなぁ〜!!と歓声を上げる洋平と、モデルの人だよね、と呟く由井。頷く結城。
「毎日あんな美女と同じ教室に…!」
「洋平、それだけじゃねぇぞ。こいつはな…」
信二が言いかけた時、急に廊下がざわついた。このどよめきには心当たりがある…。
「あ〜、東条が先輩してる。」
教室から出てきた玉城が、鷹野と一緒に歩いて来て、俺を見て微笑んだ。
えっ、と洋平が目を丸くして俺を振り返る。
「はは、一応ね。」
「東条先輩、ネクタイ曲がってるよ。」
「え?あ、さんきゅ…」
くい、と俺のネクタイを少し引っ張って直し、顔が熱くなる俺をニコニコと見つめ、玉城は鷹野と歩いて行った。
東条先輩…か。
ちょっと余韻に浸っていると、洋平が目を丸くして俺を見ていることに気付いた。
「…え!?東条先輩!もしかして、つ…付き合ってるんですか!?」
「違う違う!」
「まだ、だよな?東条」
「だから違うって!」
必死で否定しているのに、いいなぁ〜!と目を輝かせる洋平に、顔を見合わせる由井と結城。ほんとは御幸先輩と付き合ってる…何て知ったら、きっと驚くだろうな。
「でも本当に綺麗な人ですね…さすがモデル…」
由井が感心するように呟いて、洋平もだよな!と同意する。
「東条先輩がんばってください!」
「え…、あはは…」
なぜか激励をもらって、俺はただ苦笑するしかなかった。
***
筋トレを切り上げた御幸先輩が、汗を拭いながらベンチに置いていた携帯を取り、その画面を見るなりこっそりと練習場を出て行った。その背中を黙って見ていた倉持先輩たちは、御幸先輩の姿が見えなくなると、示し合せたように集合した。
「あいつ絶対彼女いるだろ。」
倉持先輩が不満げに切り出すと、他の先輩たちも苦渋の表情で頷いた。
「一番の決定打はバレンタインだよな。」
「あんな時間にわざわざ渡しに来るって絶対本命だもんな。」
「しかも御幸、他は全部断ってたんだぜ。泣かせてまで」
「ホワイトデーも午後消えたしな」
「それだけじゃないぜ。あいつ去年の冬頃から、時々昼休みいなくなるんだよ。どこ行ってるか聞いてもはぐらかすし。」
「それは怪しい。」
「でも誰と…」
「……。」
「……。」
「……。」
急に沈黙する先輩たち。1年生たちは不思議そうな顔で見守っている。
「…玉城さんじゃないよな?」
ぽつり、と倉持先輩が言って、他の先輩たちは思いあぐねるように唸った。
「いやまさか…」
「いつも無視されてるじゃん」
「でもあれだけしつこい御幸が…」
「何?」
いつの間にか御幸先輩が戻ってきていて、先輩たちはギクリと肩を揺らした。
「悪口か〜?楽しそうだな。」
いつもの軽口をたたきながら、御幸先輩はベンチに置いていた自分の荷物に歩み寄り、スポーツドリンクを飲んだ。
すると意を決したように、倉持先輩が進み出た。
「御幸、お前…玉城さんと付き合ってる?」
御幸先輩はペットボトルのふたを閉めると、荷物を拾い上げながら笑った。
「またそれ?そんなに仲良く見える??」
「茶化すなや!真面目に答えんかい!」
ゾノ先輩が詰め寄ると、落ち着けよ、と苦笑する御幸先輩。
「付き合ってないって言ってんじゃん。もしそうならお前らに自慢しまくってるっつーの!」
まだ隠し通す気なんだ…。まぁ…確かに広まったら学校だけじゃなく、テレビでも騒ぎになると思うけど…。
「あ!つーか変な話広めんなよ!?変な噂が立ったら俺嫌われちゃうじゃん。」
「……。」
「せっかく最近無視されなくなってきたんだから。俺の苦労を踏みにじるな!」
「……。」
いいな!と冗談めいた口調で言い残して、御幸先輩は練習場を去っていく。
「…どう思う?」
「さあ…でも確かに、玉城さんと付き合ってたら隠し通すなんて無理でしょ」
だよなぁ、と腑に落ちないながらも話を切り上げる先輩たちに、俺は言葉をのみこんだ。
「東条、どうした?」
不思議そうに俺を見る信二に、なんでもないよ、と笑いながら。