「玉城ちゃ〜ん!」
「……。」
「聞こえてるくせに〜!おーい!た・ま・し・ろ・ちゃーん!!」
「…その呼び方やめてって言ったでしょ!」

渡り廊下の向こうから手を振って来る先輩に、光は耐えかねた様に言い返した。

「わははは!やっぱり聞こえてるじゃん!」
「変な呼び方しないでください!」
「え?じゃあ光ちゃーん!」
「違う!!」

仲睦まじげな二人の様子を、私も真もぽかんと見つめる。
その先輩…2年の御幸一也先輩は、ニコニコ上機嫌で渡り廊下を走ってきた。

「なぁなぁ明日の試合、応援に来てよ!」
「し…試合?」
「そ!春の都大会!俺も出るし♪東条は出ねーけど」
「……。」
「はっはっはっ嫌そーな顔!けど…その方が燃えるな」
「…え?」
「なーんちゃって…じゃ、明日来てね♪」
「い、行かないってば!」
「はっはっはっは!待ってるよ〜」

手を振って去っていく御幸先輩。光は小さくため息をついた。

「ちょ…ちょちょちょ、光!御幸先輩と仲良いの!?」

真が興奮気味に光に詰め寄った。

「え…、べ、別に…」
「っていうか御幸先輩、光のこと好きなのかな!?」
「え!?…あ、ありえないよ」
「ええ〜〜!!今のって絶対そうじゃん!!そんなぁ〜〜私、御幸先輩を追いかけて青道に来たのに…。」
「えっ?そうなの?」

真のつぶやきに思わず目を丸くすると、そうだよ、と真は項垂れるように頷く。

「私のおとうさん、高校野球が好きで…御幸先輩の話もよくしてたの。それで、雑誌で紹介されてる記事を見て…一目惚れしたの!」
「へ、へぇ…」
「だってイケメンじゃない!?しかも天才キャッチャーって言われてるらしいよ。将来有望だよ!!」
「ふ、ふうん…」
「ああんもう〜本物もイケメンだったぁ〜!でも私のことなんて眼中にない感じだったなぁ…」
「そ、そんなこと…」
「決めた!!」

がしっ、と真が光の手を掴んだ。

「明日の試合、応援に行こう!」
「えっ!?わ、私はいいよ…」
「光が居なきゃ気付いてもらえないじゃん!ねっ、お願い!」
「えぇ…?」
「ハイ決まり!いい?駅前に集合ね!じゃ!」

真はそう言うと、上機嫌で部活に行ってしまった。

「まあ、行ってみれば案外楽しいかもよ?」
「え〜…」
「じゃね、私も部活行かなきゃ!」
「うん…」

ばいばい、と手を振る光に手を振り返し、私も部活へと急いだ。


***


土曜日の朝。
駅前に集まった私たちは、さっそく球場へと向かう。

「っていうか、試合ってどことやるのかな〜〜」
「私お父さんに聞いてきたよ!市大三高だって!結構強いらしいよ」
「へぇ〜」
「あっ、バスきた!」

3人でバスに乗り込む。バスは20分ほどで終点の球場に着いた。

「私ここ来るの初めて〜…どっから入るの?」
「私も野球観戦なんて初めて…。とりあえず人について行こうか」

観戦に来たらしいおじさんたちについていって球場に入ると、すでに中は賑やかだった。

「えっ、もう始まってる!」
「ど…どこ座ればいいのかな?」
「あっ、見てあそこ!」

真が指さした方に、見覚えのある青い帽子のユニフォームを着た団体が見えた。

「あれ、青道の野球部じゃない?」
「こんなに部員居るんだ〜…。あの辺に座ろうか?」
「う、うん。」

そうは言ったものの、声援に圧されるようにして、私たちは少し離れたところに座った。それでも青道のベンチのすぐそばだ。

「御幸先輩どこかな?」
「あっ!あそこ!」

真が声を上げる。ベンチ前の円が描かれた中に、バットを片手に立っている御幸先輩がいた。

「あそこで何してるの?」
「あれはね、えっと…ネクストバッターサークル!次、御幸先輩が打つんだよ!」
「真詳しいね〜」
「お父さんから何時も聞かされてるから!」

えっへん、と胸を張る真。すると、ふと青道の野球部員たちがちらちらとこっちを見ていることに気付く。

「えっ…!?おい!あそこ…!」
「玉城さん来てるじゃん…!」

おぉ、こんなときでも注目浴びちゃうのね…。でも光は目立つのが苦手だし…。

「光、大丈夫?移動…」

移動する?と聞こうとしたのに、光はなぜか嬉しそうに選手たちの方を見ていた。

「あっ、あそこに東条いる。」
「え?」

…それで嬉しそうだったのね。光は東条君のことを親鳥のように信頼しきっている。多分、東条君は光のことが好きだけど…光の気持ちはちょっとずれているような気がする。
東条〜、と小声で言って光が手を振ると、何人かの男子が振り返してきて、私と真は噴出した。東条君はそれに気づいたように苦笑しながらちょっと手を挙げた。
気を取り直してグラウンドに視線を戻すと、御幸先輩がこっちを見上げていて、光に向かってバットを掲げた。きゃー、と真がひとりで盛り上がる。

「ねっ、ねっ、光のためにホームラン打っちゃうんじゃない!?」
「え…?」
「まさかあ、そんなアニメみたいなこと…」

カィーーーーン…

気持ちのいい音が空に抜けた。
一瞬の沈黙のあと、球場内に完成が轟く。う…うそだぁ〜…ホントに打っちゃったよ。

「うおぉ〜〜いったぁ〜〜!!」
「初回いきなりの満塁ホームラン!!」

ベンチも観客席もどっと沸き、御幸先輩は軽い足取りでホームに戻ってきて、こっちを指さした。

「ほら光!御幸先輩が…」
「……。」

真に小突かれながら、戸惑ったようにスカートを握りしめる光。
応援の声も盛り上がり、青道がどんどん点を取っていく。

「うわ、すごい!もう8点も取っちゃった」
「これ勝てるんじゃない!?」

選手たちがぞろぞろとベンチに下がっていく。それを見て、光は目を瞬いた。

「あれ…もうおしまい?」
「ちがうよ〜今度は攻守交替!青道が守る番!野球の試合は長いんだから」
「ふうん…」

興味津々にグラウンドを見つめる光。青銅のメンバーがグラウンドの位置に着くと、光は熱心に選手たちを見つめた。

「……。」
「光?随分夢中だね…」
「……。」
「…もしかして、御幸先輩探してる?」
「…っ!!」

にわかに顔を赤くする光に、真はにやにやとキャッチャーを指さした。

「御幸先輩はキャッチャー。ほら、あそこの…ゴツイやつ着てマスク被ってるのがそうだよ。」
「…どうしてあんなの着てるの?」
「そりゃ、ボールを受けるときに危ないからでしょ?」
「危ないの?」

急に心配そうに誠を見つめる光。あまりに真剣な目で見られるものだから、真はちょっと慌ててはぐらかした。

「いやまあ…硬球はまじで硬いからね。それにピッチャーは強い球投げるし、万が一体に当たったらまずいでしょ。」
「…そんなに危ないんだ…」
「まぁ、スポーツはどれも危険と隣り合わせだよ。」
「……。」

光はまた真剣に試合を見守り始めた。行く前は渋ってたのに…私や真よりよっぽど真剣だ。

「ランナー走ったぁ!!」

「うわっ、やばっ!」

真が声を上げて、急に走り出した相手チームの選手を指さす。

「えっ、なになに!?」
「盗塁盗塁!」

そう言っていた直後、その選手が真ん中の白いベースを踏む直前――まるで光の矢のように飛んできた球を、青道の選手が捕らえ、走って来たものの狼狽えてたたらを踏んだ相手選手をグローブで小突いた。

「きゃーっ!すごい!!」
「な、何!?何が起こったの!?」
「御幸先輩だよ!!」

「な…なんつー肩してんだあのキャッチャー!」
「盗塁したランナーにスライディングすらさせなかったぞ〜!」

青道!青道!と歓声が湧き、地響きのように感じるほどだった。す…すごい。野球ってこんなにドキドキするんだ…。

「……。」
「光?」

光は小さく口を開けたまま試合に見入っている。

「おやおやこれは…光、御幸先輩に惚れちゃった?」
「えっ…!?ち、違うから!!」
「顔真っ赤だよ〜」
「……!!」

まあ…あんなことされたら、誰だって…ドキドキしちゃうよね。

「御幸せんぱ〜〜い!!がんばって〜〜!!」
「わっ!?ま…真、すごいね…」

真が声を張り上げて手を振ると、キャッチャーボックスの御幸先輩が一瞬こっちを見た。

「きゃーこっち見た!!」
「ミーハーだなぁ…」

やれやれと光に目配せしようとしたけど、光は真の声も耳に入っていないみたいに、じっとグラウンドを――御幸先輩を見つめていた。



***


「あっ!きた!きたよ!」
「わ…わかったから、ちょっと待って〜」

真が駆けだした先には、試合を終えてバスに向かう青道の選手たち。私たち以外にも出待ちをしていたらしいファンや青道生たちが集まっている。

「御幸せんぱ〜〜い!!御幸先輩!!こっちですこっち〜〜〜!!」

「おい…呼ばれてるぞミユキセンパイ」
「はっはっは…」

隣の目つきが悪い先輩に小突かれて困ったようにこっちを見た御幸先輩が、光を見た瞬間ぱっと目を丸くした。

「え〜〜玉城ちゃんじゃーん!!何何、俺のこと待ってたの!?」
「……!!?」

光は顔を引きつらせて後ずさりをした。その隣で真が御幸先輩にぶんぶん手を振る。

「御幸せんぱ〜い!超カッコよかったでーーす!!」
「はっはっは…どーもー」

真にはそう返しておいて、御幸先輩は光に親指を立ててニカリと笑った。

「えーん、やっぱり光以外は眼中にない感じ…。」

バスに乗りこんでしまった御幸先輩を名残惜し気に見つめて、真が呟く。

「…からかってるだけだよ…あの人性格悪いもん」
「それでも羨ましい〜〜」

光が呟くと、真は縋るように光に抱き着いて駄々をこねた。


***


「うえぇ〜〜…おこられるう…」

初夏の日差しを感じるようになってきた今日この頃。1学期の期末試験が返却された。真は返されたばかりの回答用紙をぐしゃぐしゃにして項垂れている。

「真、そんなヤバかったの?」
「…ギリ赤点」
「あちゃ〜」
「司は!?」
「私はどれも平均点くらい。」
「えぇ〜!!裏切者〜!!」

真はそうわめいて、ちらりと光を見た。

「…ずるい」
「え?」

ぽつりとつぶやいた真に目を丸くする光。

「顔もスタイルもよくて頭もいいとかズルい!」
「え…?」
「光、全教科クラストップだもんね…。」
「数学以外は学年でもトップでしょ!すごすぎるよ!」

えへへ…、と苦笑する光。褒められることに慣れてないみたいだ。変なの。

「でもいいもん!テストは終わったし、これでやっと…」
「……?」
「……?」
「御幸先輩の試合を見に行ける!!」
「おーい…全員応援してあげなよ」

もうすぐ夏の選手権大会が始まる。この大会に勝ち抜けば、夏は甲子園だ。

「大会来てくれるの?」

爽やかな笑顔で東条君がやって来た。隣にはC組の金丸君もいる。

「おっ、東条君!東条君も出るの?」
「はは…、出ない出ない。1年で出るのは降谷と小湊と沢村だよ。」
「降谷と小湊はいいとして…沢村は不安だけどな」

ふ〜ん、と真は相槌を打って、急に照れ臭そうに両頬を手で包んだ。

「でも私は御幸先輩推しだから!」
「そ、そう…」

東条君はちょっと苦笑して、光に視線を移した。

「なぁ、玉城…都大会の時さ…、」
「…?」

ねえちょっと、と真が小声で私の腕を引っ張った。空気を察して少し離れようということらしい。

「御幸先輩を見に来てたの?」
「え……。ち、ちが…。真が、行きたいって言うから…」

あ〜…私のせいにした。と、真がニヤニヤ呟いた。

「そ、そっか…」
「……。」
「俺はまだ…レギュラーじゃないけど…」
「…え?」
「俺の応援に来てって言えるように、頑張るから。」

ええぇぇ!?と、真が小声で歓声を上げた。と、東条君…思い切ったことを…!隣の金丸君まで顔赤くしてるし…!けど当の本人…光は、大きな瞳でまっすぐに東条君を見上げて、無垢な笑顔で頷いた。

「? うん!東条の応援行きたい!頑張って!」
「……。」

ああ、伝わってない…。という思いが東条君の苦笑いに浮かぶ。光、鈍感だからなぁ〜…。

「おっ!玉城ちゃんだ〜〜!!」

廊下に突然声が響いた。光はうっと肩を竦める。

「玉城ちゃ〜ん!また俺の応援に来てねー!」
「み…、御幸先輩のために行ったわけじゃないですから!」
「はっはっはっは!ツンデレだなぁ〜〜」
「うるさい!」

手を振って歩いていく御幸先輩。隣の目つきの悪い先輩にちょっと蹴飛ばされながら、廊下の角に消える。

「もう、本当うるさいんだから…」

そう言いながらも、光は少し顔を赤くしてまんざらでもなさそうで…。それを見ている東条君が不憫で、私は真と顔を見合わせた。



***



いよいよ夏の選手権大会。
開会式を終えた球場前はたくさんの人たちであふれかえっている。

「きゃー!御幸先輩いた!!」
「さ…さすが、見つけるのが早い…。」

真が先陣を切って人混みの中を進んでいく。ほどなくして、ユニフォーム姿の青道生たちを見つけた。

「御幸せんぱ〜〜い!!」

真が大声で呼ぶと、御幸先輩はそそくさと逃げようとしたところを目つきの悪い先輩に襟首掴まれ捕獲され、振り向いた。そしてやっぱり光を見て、嬉しそうに頬を綻ばせるのだった。

「玉城ちゃん!来てくれたんだ?」
「いや…だから…」
「御幸先輩!私1Aの卯月真って言います!!試合頑張ってください!」
「お…おう、さんきゅ…」

真の勢いに圧されつつ、御幸先輩は光に向き直る。

「まー見ててよ玉城ちゃん、初戦は負ける気しねーから…」
「…そ…そうですか…。」

光は戸惑ったように目を逸らす。もう、素直じゃないんだから〜…。

「あ〜〜!!」

突然、すぐそばで大声がして、私たちも御幸先輩たちも振り返った。

「稲実の白アタマ!またウチの情報を探りにきたのか〜〜!!」

「ねえあれ、C組の沢村君じゃない?」

私がそう言うと、真がほんとだ、と頷いた。

「しゃべったのはお前だろ…」

そう呆れたように返す他校の男子は、ユニフォームの胸にINASHIROと書いてある。おぉ、結構イケメンだ。

「あ!あの人…稲実のエースの人だよ!」

真が小声で言った。

「雑誌で見たことある!サウスポーの王子様。稲実の不動のエース!」
「へぇ〜すごい人なんだ…。」

「お前はもう喋んな。余計なこと言うから…」

御幸先輩が沢村君の背中に咎めると、沢村君はぎくりとして黙り込んだ。

「お前らウチと当たるまでコケんなよ!」
「それはこっちのセリフだ!」
「決勝でな」

両者にらみ合う。なんか…こっちまで緊張してくる――。

「……えぇーっ!!?ちょっと君!待って!!ねぇ君だよ君!!」
「えっ…?」

突然、稲実のエースの人に腕を掴まれ引き留められた光。すれ違いかけた稲実の人たちや青道の皆も足を止め、振り返る。

「その制服青道だよね!?まさかマネ!?」
「ち、違います…」
「えっじゃあまさか…誰かの彼女!?」
「い、いえ…」
「ほんとに?じゃあ今彼氏いる?」
「え…?な、何…?」
「コラ。」

ぐいー、と御幸先輩が割り込むように二人を引きはがした。

「いきなりうちの生徒に何してんだお前は…」
「ちょっと一也邪魔しないでよ。」
「邪魔って何がだよ。」
「俺はこの子に用があんの!ねぇ君名前は!?何年!?」
「え…、た…」
「答えなくていーから」

御幸先輩が光の言葉を遮ると、稲実のエースの人はムッと御幸先輩を睨んだ。

「あーわかった!!一也もこの子のこと狙ってるんでしょ!」
「はぁ…?」
「けど彼氏でもねー奴に口出す権利はないね。ねぇ君!名前教えてよ名前!俺は成宮鳴!2年!」
「この子は玉城光、1年生でーす!」
「ちょっ…真…!」

真が出て行って光の背中を押すと、成宮さんは目を輝かせ、御幸先輩は顔をひきつらせた。

「へぇーっ玉城光ちゃんっていうの!?名前もキレーだね!」
「……はぁ」
「1年生か〜!いいねいいね!」
「何がいいんだよ」
「うっさい一也は黙ってて!ねぇ光ちゃん!ケー番教えてケー番!俺今荷物ないからさあ、手にメモるから!おい誰かペン持ってなーい!?」
「は〜い持ってま〜す」
「おっいいね君!」
「書いちゃいましょーか?」
「うん!お願い!」

真が楽しそうに成宮さんの手に光の電話番号を書いた。御幸先輩は頭を抱え、光は小さなため息を吐く。

「さんきゅー!じゃあね光ちゃん!今度連絡するから!!あっ、大会応援に来てね〜!!」
「なんで稲実の応援にいかなきゃならねーんだよ」
「一也に言ってない!それに稲実じゃなくて、俺のおーえん!!」
「おい…エースの発言か?それ…」

やっと帰って行った稲実の皆が見えなくなると、御幸先輩はやれやれと疲れた様子で光を振り返り、ぐっと息を飲んで光を見つめた。

「…あいつの電話なんて無視しろよ!」
「え…。」

びっくりしたように御幸先輩を見つめる光。だってその御幸先輩は、いつになく余裕がなくて、顔も少し赤くて、真剣な表情だったから。や…ヤキモチだ〜!!やっぱ御幸先輩、光のことが好きなんだ…。
おい御幸!と、急かすようにチームメイトに遠くから呼ばれて、御幸先輩はやべ、と呟いた。

「…じゃーな!」
「……。」

余裕がないまま走って帰っていく御幸先輩。

「…御幸先輩って…。」

ぽつり、と光が呟く。おぉ…さすがの光も御幸先輩の気持ちに気付いたかな…!?

「…よっぽどあの人のこと嫌いなのかな?」
「…えぇ!?な、何言ってんの?なんでそうなるの?」
「え、だって…電話無視しろなんて、嫌な人じゃなきゃ言わないでしょ…」
「…ああぁ〜…」

だめだ…光、超鈍感。御幸先輩、ちょっとかわいそうだな〜…。

「むっふっふ。」
「…楽しそうだね真?」

ただ一人ニマニマと笑っている真。

「そりゃーそうだよ。だって成宮さんと光が上手くいけば…私にも御幸先輩をゲットできるチャンスが巡ってくるもーん!」
「…それであんなことしたわけね。」

ミーハーに見えて、意外と本気なんだ…真。
私たちは球場を出て、歩き出した。

「あ〜今日も御幸先輩に会えて幸せ!さー帰ろ帰ろ!」
「はいはい。」
「あっ、帰りにアイス食べよ〜!」



***


「光!光!!成宮さんから電話来た!?」

翌日、早速光に詰め寄る真。光は目を瞬いて、口を開いた。

「来てないよ。」
「えぇ〜!?なんで!?」
「忙しいんじゃない?大会中だし。」

私がそう言うと、あぁそっかぁ〜、と真はつまらなそうに口を尖らせる。

「SMSは来たけど…。」
「えっ!?」

しかし光がそう呟くと、真は勢いを取り戻して光に詰め寄った。

「どんな!?どんな!?」
「成宮さんの番号とメアド、登録してねって…」
「返事した!?」
「してない。」
「なんでー!?」
「御幸先輩に無視しろって言われたし…どうしようかなって思って。」
「いいじゃあん〜!!登録したよ♪って返しちゃいなよ!」

「どうしたの?」

東条君がやって来た。朝練上がりだから、いつもHRギリギリのこの時間に教室にやって来る。

「あっ東条君!なんとね!光が、稲実の成宮さんにナンパされたんだよ〜!」
「…えっ?」

顔を引きつらせて光を見る東条君。

「このあいだの開会式でね!ねー光!」
「……。」
「成宮さんって超〜〜肉食だね!やっぱ投手ってそうなのかな?光の手まで握っちゃってさぁ!こうやって…」

私の手を握って実演してみせる真。東条君の顔にみるみる焦りが滲んできた。

「そんで私が光の電話番号教えてあげたの!」
「……。」
「ごめんね〜東条君、ライバル増やしちゃって!!」
「え、な、何言ってるんだよ」

東条君はそうはぐらかして、荷物を机の横に置いて席に着いた。

 


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